静かな日曜日の夜
人生初めての作品です。
お手柔らかに、厳しくお願いいたします。
いつも、彼との待ち合わせというのは決まって夜だった。どちらかが指定したわけでもなく、気づいたら自然と夜に会うと言う形になっていた。
今日はまだ彼は来ていないみたいだった。いつもと同じドアを潜って、ドアベルが鳴って、人がいない席に座っておく。基本的にはいつもと同じカウンターだ。店員さんもわかっていて、彼が来るまではお水するもってこない。それはどうかとも思うけど。何回も往復するよりこのあと確実に来る相手が来た時に注文を取るのもお冷も済ませてしまうのもいいのだろう。
ふと、カウンターに馬の置物が飾られていることに気づく。それをほんの少しだけずらした。何かを考えたわけでもない。ただ、肘が当たりそうだったからだ。
「ああ、競走馬か。よくできて置物だな。」
隣に座った彼が言った。さぞ寒かったのだろう。顔は赤く、手袋を外しながらそう言った。
「よくわかるね。知ってるの?」
意外だった。彼に公営ギャンブルの趣味があったとは。というか私は馬を見ても見分けがつかない。模型だと尚更だ。
「名前くらいは。俺とは違って相当速かったやつだろ。約束に遅れることなんてなかったんじゃないか。」
「へぇ」
特に、何かを思ったわけでもなくそう口をつき、そのまま手袋をポケットに入れる彼を見ていた。
決まっていたように店員さんがお水を持ってきた。そのまま二人で注文を頼んだ。私は特に考えもなくいつも通りのコーヒーを頼んだが、彼はそうではないようで何度も見ているはずのおしゃれなメニュー表を繰り返し見て、あーでもないこーでもないとしながら、一つに絞れたようで難しい名前のコーヒーを注文していた。
コーヒーが来るまでの少しの間、軽い近況報告をしていた。大学の授業がどうだの。サークルがどうだの。しきりに連絡を取る間柄でもなく、気まぐれに会ってコーヒーを飲むだけの関係だ。届いたコーヒーからたちのぼる香りを嗅ぎ、自然とカップに口をつける。彼はドボドボと砂糖を入れていた。
「あ、あつい。」
「そりゃホットだからな。」
「人って共感する生き物なんじゃなかったけ…。」
コーヒーがカウンターテーブルについてからは特に話はしなかった。カップに口をつけて、離し、時折息を吐くようにふと思ったことを話す。そんな人から見ると気まずそうな時間が、二人の時間なのだ。コーヒーは香りを楽しむフェイズを終えたように煙を吐くのをやめていく。徐々に冷めて、熱さで舌先が混乱する段階からぬるく、舌に残るようになり味がよりわかるようになる。コーヒーの深さが増したところで彼は言った。
競走馬の置物をどこか慈しむような目をしながら。
「人間は…考える葦であるって言うじゃん」
私は押し黙っていた。続きがあるのを知っていたから。
「じゃあさ、」
彼の視線と私の視線は交差しない。私は話している彼を見てるのに、彼は聞いてる私を見ない。
「考えることができない人は人じゃないのかな。」
私は少し押し黙った。考えることを問われているのにすぐに返答するのはなんとなくだけど、誠実さに欠けるような気がした。
考えてみると思い浮かべたのはいろんな人だった。考えるのが得意じゃない人でも、笑顔が素敵な人、忘れっぽくても優しい人、目の前のことから逃げない人、上手なことがある人、足が速い人、
なんとなくカップに口をつけたくなってコーヒーを口に注ぐ。ぬるくなったコーヒーの味が口に広がり香りで、温度で、全身に巡る。
「仕様なんじゃない?」
「仕様?」
コーヒーの表面に揺らぐ私を眺める。湯気はないのにどこか朧げだ。
「うまくはいえないけど…できるから人、できないから人じゃないとか条件じゃなくて人間についてる仕様とかなんじゃないかな…。」
彼がコーヒーに口をつける音がした。かちゃりと受け皿が鳴る。この人は今コーヒーを飲んでいると教えてくれる。
彼が飲んでいるコーヒーは多分私のものとは違うんだろう。煎られている豆も違えば、砂糖がドボドボ入っていて味も違う。苦ければコーヒー足りうるの?カフェインが入ってたらコーヒーなの?どれが条件かなんて決めるのは不毛だ。コーヒーという枠組みで生まれたのならコーヒーに他ならないと私は思った。
「じゃあ…どーでもいいことを考え続けて寝れなくなるのも人の機能の一部?」
ようやく視線が交差した。彼の顔は少し上手いことを言っただろっていう自慢気な笑顔だった。
「そーなんじゃない?」
だから私の方がうまいこと言ってやったぞって笑った。ふと、彼をの方に体を傾けると少し遠くにやった馬の模型が近く感じた。遠くにやったままでは悪いかなと思い、来た時と同じように近づけた。
お店を出て、冷えた空気を取り込む。カフェの中の空気は暖かった分外は別世界。体の中の空気が換気されてるのがわかる。特に考えなしに吐いた息が白く、私の空気が世界に溶けていく。特に会話をすることもなく、二人で並んで駅まで歩く。彼の最寄駅は私の最寄駅とは反対方向だ。
でもこのカフェに来れば、二人ともカフェの最寄駅まで並んで歩く。
彼は信号を待つ途中に空を見ながら言った。
「なんか尊いことみたいに言う奴もいるけどさ」
「うん。」
「そうでもない夜もあるよな。」
「あるね。」
信号が赤から青に切り替わった。
それと同時に私たちは自然に歩き出す。
数分歩けばもう最寄駅だ。オフィス街の近くでもなければ繁華街の近くでもないこの駅には終電が近いこの時間に人は多くない。閑散とした駅で私たちの分かれ道がいつものように来る。
「じゃ、この辺で」
そう言って彼は軽く手を上げて背を向けた。
「次は遅れないよーに。」
そう言葉を投げかけた。
私とは反対側の地下鉄乗り場に向かって行く彼の姿が見えなくなっていく。私も行かなければと、自分の改札降り場に向かって歩みを進めた。改札を下りながらふと、走らなくていいもの、走るもの、走らずにはいられないもの、走らなければいけないもの、走ってはいけないものの違いを私は考えないようにしていたのに、考えていた。
終わることがないとわかっていたのにその夜は考えることだけはやめられなかった。
あとがきと聞くと、私が読んでいたライトノベルにおいては後書きと言っても謝辞や他愛もない作者の周りの出来事が多く作品に関する造形に関して深く語られなかったためこの考察はどうなのか…?この解釈でいいの…?と右往左往していたことを思い出しました。でもあれって今考えると受け取り手に余地を残してくれていたのだろうなと。なので私も多くは語らないスタイルでいこうか、それとも解釈を伝えるスタイルで行こうかと悩んでいるところです。模索します。




