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妖の館  作者: 秋月蓮
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妖の館3

第3章 悲鳴



 別荘の女性が去った後、一行はホールに戻り、簡単な自己紹介を済ませると、老人の介護について話し合いを始めた。

 その中で、ツインテールで小柄な少女、岩本がおずおずと小さな手を挙げた。

「あの、ところで、皆さんはどうやってあのバスに乗ったんですか?わ、私は、もともと新幹線に乗ってて、スマホをいじってたら眠くなっちゃって……少し寝て、目が覚めたらバスの中だったんです」

「俺もだ。会社で残業してたら、急に眠気に襲われて……」

 人々は次々と口を開き、照らし合わせてみると、なんと全員が全く同じようにしてバスに乗せられていたことが分かった。

 その不気味さに、もともと不安だった彼らの心は、さらに恐怖に駆られた。

「くそっ……マジで祟られてんのか」

 顎鬚の柳が悪態をついた。

 岩本はしばらく黙っていたが、また弱々しく言った。

「もしかして……これって、どこかの番組制作会社がこういうやり方で私たちをリアリティショーに招待してるんじゃないでしょうか?

だって、昔テレビで見たことが……」

 彼女が言い終わらないうちに、柳が冷笑して遮った。

「もうあの太田のことを忘れたのか?

テレビ番組で、人を殺して皮剥ぐなんてことするかよ?」

 岩本は心臓がどきりと跳ねたが、目をむいて反論した。

「もしかしたら……もしかしたら、あれはただの小道具だったのかもしれないじゃないですか!」

「血も小道具だって?」

「そんなの分かりませんよ、ニワトリの血とか、イヌの血とか……」

 岩本はなおも自分を騙そうとしたが、隣にいた清水の唐突な一言が、彼女の心の最後の防衛線を打ち砕いた。

「獣の血じゃない」

 皆が清水を見た。

 彼はすでにすべてを受け入れているかのように、ひときわ冷静に見えた。


「俺は元獣医で、匂いにも特に敏感なんだ。猫、犬、豚、羊、牛、鶏、鴨、魚、ガチョウ、鳩、それぞれの血の匂いは、人間の血の匂いとは明らかに違う。

例えば、羊の血は生臭いが、人間の血にははっきりとした鉄錆びの匂いがある。断言できる。あの時、信号機についていた血は、百パーセント人間の血だ。それも……とびきり新鮮な人間の血だ!」

 清水が言い終えると、岩本はぶるっと震え、膝を抱えて静かにすすり泣き始めた。

「やめて……。

お願い、もう言わないで……」

 その様子を見て、清水は少し口調を和らげた。


 この少女が怯えるのも無理はない。

 普通の生活を送る人間が、先ほどの光景を目にすれば、おそらく長期間にわたって心の傷として残るだろう。

 頻繁に死体と向き合う仕事をしている者でなければ、比較的平静ではいられない。

 何しろ、あの場面はあまりにも血生臭かった。

「まずは、この五日間をどう乗り切るか考えよう」

 平凡な顔立ちで、身長170センチほど、陰のある目つきの男が言った。

 彼の名は雪村規沢。

「俺たちは七人。今回の任務はベッドの老人を五日間介護することだ。どう分担するつもりだ?」


 皆が顔を見合わせる中、清水は誰も口を開かないのを見て言った。

「こうしよう。女性三人が食事と洗濯を担当し、俺たち男四人があの老人を介護する」

 彼が言い終わるやいなや、金のピアスをつけた美女、雨宮が皮肉っぽく言った。

「あら、女はあんたたち臭い男のために洗濯や炊事をするのが当たり前だとでも?

あんたたち、楽することばっかり考えてるのね。あの女があの老人はベッドから動けないって聞いた途端、自分から介護に名乗り出て……私たちを馬鹿にしてるの?

あの老人の介護なんて言って、本当は何もしないでサボるつもりでしょ?」


 柳は雨宮の言葉を聞いて我慢ならず、顎を上げて悠然と言った。

「臭えな……いい女なのに、口から糞の臭いがするぜ」

 雨宮の顔色も曇った。

「てめえ、誰に言ってんだ?」

 柳がさらに何か言おうとしたが、清水に遮られた。

「あんたが洗濯や炊事をしたくないなら、俺と代わってもいい。あんたが老人を介護しろ。朝の九時から夜の十時まで。十時を過ぎれば暗くなるし、俺たちも休む時間だ」


 雨宮は清水を一瞥し、フンと鼻を鳴らした。

「じゃあ……ありがとう」

 彼女はそう言ったが、その口調に感謝の意は全くなかった。

 あるのは、どこか嘲るような笑みだけ。

「そうだ…もう五時過ぎたし、私お腹すいたわ。あんた、ご飯作るんでしょ? 行きなさいよ」

 清水は雨宮をじっと見つめたが、何も言わずに、他の二人の女性に向き直った。

「あんたたちは代わるか?」

 ずっと黙っていた少女、矢野眞子が手を挙げた。

「私……。ごめんなさい、私、本当に料理ができないんです」

 雨宮の鼻持ちならない態度とは対照的に、矢野はとても誠実だった。

 この社会では、甘やかされて育った子供は多く、料理ができない男女はいくらでもいる。珍しいことではない。

「料理ができる男はいるか?」

 残りの三人の男はしばし沈黙し、柳が苛立って言った。

「あー、もういい。俺がお前と飯作って洗濯してやる!本当、役立たずばっかりだな、飯炊きも洗濯もできねえのか!」

 雨宮は冷ややかに言った。

「野蛮人、口を慎みなさいよ!」

 柳は目をむき、雨宮を指さした。

「俺が女を殴らない主義じゃなかったら、今日てめえが生きてると思うなよ!」

 雨宮は冷笑し、ハイヒールをカツカツと鳴らして二階へ上がっていった。

 キッチンは一階、老人は二階。別荘は広く、皆がそれぞれの持ち場で忙しく動き、ばらばらに散って行った。

 柳はぶつぶつと文句を言いながら、清水についてキッチンへ向かった。

 同行したのは、絶えずすすり泣いていた少女、岩本だった。


「もういい、少し黙ってろ」

 キッチンに入ると、清水は柳の文句にうんざりして、彼を遮った。

「いや……兄ちゃんはあれで我慢できるのかよ?」

 柳は目をむいた。

 清水は冷蔵庫を開け、食材を取り出し始めた。

「あんたは本気で、あの老人の介護が……楽な仕事だと思ってるのか?」

 その言葉を聞いて、柳の呼吸がふと止まった。

「兄ちゃん、それ、どういう意味だ?」

 清水はゆっくりと振り返り、柳と隣の岩本を見た。

「黒い別荘にいたスーツ姿の男が俺たちに言ったことを覚えているか?俺たちが血の扉から生きて帰ってきたら、彼らは俺たちの疑問に答える、と。それはつまり、血の扉の向こうの世界には……想像を絶する危険があるということだ!」

 彼が言い終えると、岩本の小さな体がまたぶるっと震えた。

 彼女は震える声で言った。

「な……なんの危険が?」

 清水は首を振った。

「まだはっきりとは分からない……だが、血の扉の任務が老人を介護することである以上、危険の多くはその老人と関係があるはずだ。とにかく……用心しろ」

 清水の忠告を聞き、柳は目をくるくると回し、こっそり指を折って計算すると、先ほどの陰鬱な表情は一掃され、へへと笑った。

「兄ちゃん、あんたの言うこと、一理あると思う。俺、あんたについていくぜ」

 清水は意外そうに柳を一瞥し、首を振ったが、それ以上何も言わなかった。

 彼はまず冷蔵庫から野菜を取り出し、次に冷凍室に目を向けた。

 そこには、別荘の女性が言った通り、たくさんの肉が入っていた。

 その肉はそれぞれ塊に切り分けられ、別々の袋に詰められていた。

 清水は【牛ヒレ】と書かれた袋を取り出し、鍋に入れて弱火で解凍した。

 冷蔵庫を閉める時、彼の視界の端に何かが映り、カチカチに凍った肉塊を冷蔵庫の奥から取り出した。

 肉の入った袋の中には、黒い正体不明の物質がたくさん混じっていた。

 ただ、霜が多すぎて、肉の袋もすべて真空パックされているため、その黒い物質が何なのかはっきりとは見えない。

 この袋には肉のラベルが貼られていない。

 清水がこの肉をしばらく見つめていると、そこへまた、顎鬚のむさくるしい大男、柳が近づいてきた。

「この肉、なんで黒いんだ?」

 彼は興味津々だった。

 清水は首を振り、肉を冷蔵庫に戻した。

「分からない。多分、長く冷凍しすぎて、悪くなったんだろう」

 三人はキッチンで忙しく立ち働いた。清水が驚いたことに、柳という、一見チンピラ風のむさくるしい男が、なんと見事な料理の腕を持っていた。

 彼の野菜の洗い方、切り方、炒め方は、明らかに手慣れたものだった。

「飯だぞ!」

 柳は炒めた肉と野菜をテーブルに並べ、二階に向かって大声で叫んだ。

 そして、二階の人間が来るか来ないかに関わらず、熱々のご飯を手に取り、がつがつと食べ始めた。

 岩本は、柳のむさぼるような食べっぷりを見て、思わず尋ねた。

「彼らを待たないんですか?」

 柳は不機嫌に言った。

「待ってられるか!食え!」

 そう言うと、彼はまた一心不乱に食べ始めた。


 タッタッタッ——。

 二階から足音が聞こえてきた。雨宮はまだ階段の途中で、一心不乱に食べる柳を見て、思わず嘲笑した。

「あんたのその食べ方、飢え死にした亡霊が生まれ変わったみたいね。」

 以前なら、柳は間違いなく激しく反撃しただろう。

 だが、彼は食事中は格別に集中しているようで、雨宮の嘲笑を全く意に介さなかった。

 雨宮は彼が怖気づいたのだと思い、自分も黙々と食事を始めた。

 食卓では、皆黙り込んでいた。

 何を話せばいいのか分からない。

 ただ、目の前がどんどん暗くなっていくのを感じ、しまいには茶碗の中の牛肉さえも見えにくくなっていた。

 清水が立ち上がって明かりをつけると、彼らはようやく、日が暮れたことに気づいた。

「くそっ。なんでこんなに早く暗くなるんだ?まだ七時前だぞ!」

 北島太一という男が奇声を上げ、その大げさな様子に、皆はあまりいい気がしなかった。


「何叫んでんだ?」

 もともと顔色が悪かった雪村は、眉を深くひそめた。

「別荘の女性が帰る前に言ってたのを聞いてなかったのか? もうすぐ雨季だって。

暗くなるのは当たり前だ……大げさな」

 彼は北島を叱責したが、その口調は少し過剰に興奮していた。しかし、皆その理由を察しており、黙って口を開かなかった。

 別荘内の雰囲気は、あまりにも息が詰まる。

「おいおい、お前ら、それで老人を介護してるつもりか?

自分たちだけ腹いっぱい食って、寝たきりの老人を二階で飢えさせて、それでいいのかよ?まさか、老人の介護ってのは何もしなくていいと本気で思ってる奴はいないよな?」

 満腹になった柳は箸を置き、爪楊枝を使いながら、向かいに座る雨宮に皮肉を言った。

 雨宮は拳を握りしめ、その眼差しはさらに冷たくなった。

「フン、あんたみたいな大飯食らいと誰もが同じだと思わないでくれる?

本当に、ウジ虫みたいに気色の悪い男」

 彼女はうんざりしたようにハイヒールで床を蹴り、ご飯を一杯よそい、皆が食べ残したおかずを適当に盛り付け、カツカツと二階へ上がっていった。

 皆は彼女の姿が暗い廊下へと消えていくのを見つめ、なぜか、心臓が妙に速く鼓動するのを感じた……。

「あんたたち、さっきは二階にいたのか?」

 清水もこの時、箸を置き、寝たきりの老人を介護する担当の三人に尋ねた。

 雪村は「うん」と応えた。

「二階は全部見て回った。あの寝たきりの老人以外、誰もいなかった。俺たちの部屋は、老人の部屋の向かい側で、同じ廊下にある」

 清水は尋ねた。

「何か異常はなかったか?」

 雪村は首を振り、少し躊躇した後、答えた。

「俺たちの部屋には……何とも言えない、変な匂いがするんだ。何の匂いかは分からないが、とにかくいい匂いじゃない」

「七つの部屋全部か?」

「ああ、全部だ」

 その時、隣にいた矢野という少女が小声で付け加えた。

「もう一つ、奇妙なことがあります……あの女性が用意してくれた部屋は、全部、独立したバスルームがついているんです」

 北島は鼻で笑った。

「それがどうした? 金持ちなんだろ。トイレに行くのにいちいち部屋を出たくないだけだろ……。」

 清水は眉をひそめた。

「いや……確かに奇妙だ。この別荘には、あの女性の家族しか住んでいないはずだ。仮に旦那が家にいたとしても、たった四人。なぜこんなにたくさんの寝室とトイレを用意する必要がある?」

「そ……それが何で奇妙なんだよ。もしかしたら、彼らは客好きなのかもしれないだろ?

しょっちゅう友達を呼んでパーティーを開いてるんだよ。金持ちはそういうのが好きなんだろ?」

 北島の口調は、わずかに慌てていた。

 誰も彼の言葉に答えなかった。

 一行は再び、不気味な沈黙に陥った。

 その時、

 二階から響き渡った甲高い悲鳴が、その恐ろしい静寂を突き破った——。


「きゃああああああ!!!」

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