第四十四話 オルソンとの食事と本題
市場近くの公園は、昼下がりの陽に包まれていた。
露店の呼び声と、人々の話し声が混ざり合っていた。
(……ここなら、確かに話しやすい)
リノは周囲を見渡して、ベンチへと向かった。
「よ、元気か?」
先に腰かけていたのは、オルソンだった。
街道で会った時と変わらない、落ち着いた声。
軽く手を挙げる仕草も、どこか気取らない。
「はい!元気ですよ」
「アイゼルトには、もう慣れたか?」
「おかげさまで」
街道で街まで乗せてもらったこと。
市場で偶然再会したこと。
短い関係ではあるが、完全な他人という距離でもない。
オルソンは紙包みを二つ、ベンチの間に置いた。
「屋台で買ってきた。堅い話の前に、まずは腹を満たそう」
「ありがとうございます」
包の中身は、焼いたパンと、刻んだ野菜と肉を挟んだ簡単な食事だった。
香辛料は控えめだが、素朴な味がする。
二人で少し黙って食べる。
「……それで」
オルソンが口を開いたのは、食事が半分ほど減った頃だった。
「ギルドから話は聞いたな?」
「はい。指名の護衛依頼だと」
リノの言葉に、オルソンは小さく頷く。
「市場で話した時に言っただろ?護衛が欲しいって。あれ、落ち着いた動きができる冒険者が良かったんだ」
確かにそんな話をしていた。
「今回の依頼は、派手な仕事じゃない。行き先はルシオン王国だ。一ヶ月ほどを予定している。条件は聞いたな?あれを守ってくれればいい」
「わかりました」
「助かる」
オルソンはホッとしたように息を吐いた。
「合同で動く冒険者もいる。三人のCランクパーティーだ。護衛経験はある。だがな」
オルソンは、ほんの一瞬だけ視線を伏せた。
「全員が前に出るタイプだ。悪くはないが……それだけじゃ困る場面もある」
それ以上は、あえて言わない。
だが、リノには十分だった。
「だから指名した」
気さくな口調のまま。しかし、その判断は軽くない。
オルソンが条件を伝え終え、一息ついたあとに。
リノは少しだけ、姿勢を正した。
「……一つ、確認してもいいですか?」
「どうした?」
「護衛中、従魔のスライムを同行させても問題ありませんか?」
オルソンは一瞬だけ目を瞬かせたが、すぐに落ち着いた表情に戻る。
「従魔、か」
否定でも肯定でもない、慎重な声だった。
「制御出来ていて、周囲に害がないなら問題ない」
少し考え、条件を付け加える。
「ただし、俺の商売相手や街中では、相手が不安に感じないように配慮すること」
「はい。大丈夫です」
即答だった。
「ならいい」
オルソンは小さく笑う。
「それで、引き受けてくれるか?」
「はい。条件も理解しました」
「よし!じゃあ、正式に頼む」
食事も終わり、紙包みを片付けながら、オルソンは言った。
「明日の明け方、南門集合だ。今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます」
別れ際、オルソンは軽く手を振る。
「また明日な」
「はい」
リノは一礼し、公園を後にした。
(……指名依頼、か)
責任は重い。だが、条件は明確で、依頼主も信頼出来る。
カバンの中で、小さく水音がした。
(大丈夫。ちゃんと頑張ろう)
リノはそう心の中で呟き、こもれび亭へ向かって歩き出した。




