第四十二話 指名依頼と従魔登録
スライムを従魔にして、一夜明けた翌日。
リノは、スライムと一緒に、討伐依頼を探すために冒険者ギルドを訪れていた。
掲示板の前は、朝の依頼を探す冒険者でそこそこ混みあっている。
(今日は軽めの討伐を一つ受けておこうかな)
そう思い、掲示板へ向かおうとした、その時。
「リノくん」
聞き慣れた声に呼び止められる。
振り返ると、雑談好きの受付嬢が、少しだけ"仕事の顔"で立っていた。
「ちょっといいですか?」
「はい」
受付カウンターの横に促され、書類を一枚差し出される。
「リノくん宛の護衛依頼があります」
「……護衛、ですか?」
「はい。しかも--指名です」
その言葉に、リノは一瞬だけ目を見開いた。
指名依頼。
まだCランクに上がったばかりの自分に来るとは思っていなかった。
依頼主の名前を見て、納得する。
「オルソンさん……」
街道で出会い、アイゼルトまで荷馬車に乗せてもらった。その後も、市場で再開し、短いながらも会話を交わしている。
「オルソンさん、ギルドに来て話していた時にね、"前に街道で出会った冒険者がいる"って言ってたんです」
「それが……私?」
「はい。その場で"護衛を頼むなら、あの子に同行してほしい"って」
胸の奥にじんわりしたものが広がる。
「護衛の条件を説明しますね」
受付嬢は、内容を一つずつはっきりと告げた。
・危険回避優先。
・魔物討伐は必要最低限。
・判断は依頼主の指示を優先
「魔物討伐は"道を塞ぐ場合"のみ。それ以外は戦闘は避けるのが基本だそうです」
無理をしない。安全を最優先に考えたものだった。
「出発は明明後日の朝。それまでに、もう一度きちんと話したいって」
「話す……?」
「はい。伝言があります」
受付嬢は、少しだけ口調を和らげた。
「"明後日の昼、市場近くの公園で落ち合って、食事をしながら詳しい話をしよう"だそうです」
(仕事の話を、食事をしながら……)
気さくで、でも要点は外さない。そんな人柄が、言葉の端々から伝わってくる。
「それと、護衛は単独ではありません」
「合同、ですか?」
「はい。三人のCランクパーティーが一組。護衛経験はあるそうですよ」
「……分かりました。お受けします」
リノがそう答えると、受付嬢はホッとしたように頷いた。
「じゃあ正式に受注処理しますね」
書類に署名を終えたあと、リノは思い出したように口を開いた。
「あと……従魔の名前も、今出来ますか?」
「あ、はい!もちろん!」
カバンの中で、ぴちゃ。と小さな動きが伝わる。
「どんな名前にしたんですか?」
リノは一瞬だけ考え、すぐに答えた。
「ライ、でお願いします。スライムなので」
「ライですね。では、ギルドカードをお預かりします」
受付嬢はサラサラと書き込んだ。
《従魔名:ライ》
登録が終わり、ギルドカードが返される。
その瞬間、そっとライに軽く《鑑定》をかける。
《スライム(従魔)》
名前:ライ
主:リノ・クロカワ
ウィンドウを閉じてライに話しかける。
「よろしくね、ライ」
小さく囁くと、カバンの中で、ぴちゃ。と一度だけ揺れた。
ギルドを出て、こもれび亭に帰り、宿泊費を払い、夕食を済ませ部屋に戻る。
ベッドの端に腰を下ろし、カバンをそっとベッドに置く。
「ライ、出てきていいよ」
小さな水音と共に、水色のスライムがゆっくり姿を現す。
「……名前、嫌じゃなかった?」
問いかけても返事はない。代わりに、ライはぴちゃ。と一度だけ体を揺らした。
「……そっか」
それを肯定と受け取って、リノは小さく笑う。
「明日は、情報収集と買い出し。明後日は、人と食事をする」
独り言のように、予定を口にする。
「だから今日は……ゆっくり過ごそうね」
ぴちゃ。
静かな同意。
ランプの灯りが揺れる部屋で、リノはライを見守りながら、ゆっくり息を整えた。
指名護衛。
食事をしながらの打ち合わせ
そして、明明後日の出発。
次の旅への歯車が、回り始めていた。




