第四十一話 スライムとの出会い
体の力を抜いてから、すぐに念の為に《鑑定》をかける。
《スライム Lv1 》
状態:非戦闘・空腹
「……空腹?」
リノは、思わず鍋を見る。
(……料理の匂いにつられて、森から出てきた?)
スライムは近づいてこない。だが、逃げもしない。
しばらく迷ったあと、リノは木製の皿を一枚取り出した。
そこにスープを注ぎ、地面に置く。
「……食べる?」
言葉が通じるとは思っていない。
だが、スライムは--
ぴちゃ、と前に進み、ためらいなく皿ごと包み込んだ。
数秒。
木皿が溶けて消え、スライムの体が、ほんの少しだけ大きく揺れた。
「……お皿まで?」
攻撃は、してこない。
満足したように、ぷるん、と一度震えただけだ。
(……害はなさそう、だけど)
リノは警戒しつつも、自分の分のスープを食べることにした。
温かいスープが体に染みる。
食べ終え、鍋と道具をアイテムボックスにしまう。
火の跡も消し、周囲を確認する。
さて、帰ろう--と立ち上がった、その時
ぴちゃ。
足元に、ついてくる感覚。
「……?」
振り返るとスライムが、少し距離を保ったまま後を追ってきている。
一歩進めば、ぴちゃ。
止まれば、止まる。
「……来るの?」
返事はない。
だが離れようとしない。仕方が無いので、カバンの中にスライムを入れた。
結局、リノはそのまま森を出て、カバンの中にいるスライムを連れたまま、アイゼルトの街へ戻った。
冒険者ギルドの受付。
人目につかないよう、カバンに注意しながら歩くと、雑談好きの受付嬢が気づいて声をかけてきた。
「あれ?リノくん、それ……スライム?」
「……はい。攻撃はしてこないんですけど、ついてくるので連れてきちゃいました」
受付嬢は少し驚いた顔をして、興味深そうに屈み込む。
「ふーん……それ、もしかしたら--」
声を潜めて、耳打ちされる。
「従魔になってる可能性、ありますよ」
「……え?」
「たまにあるんです。害意のない魔物が、食べ物や魔力に惹かれて、勝手に契約状態になること」
リノは、そっとスライムを軽く鑑定した。
《スライム(従魔)》
主:リノ
状態:安定
「……なるほど」
「やっぱり!」
受付嬢はにっこり笑った。
「じゃあ、正式に従魔登録しましょう。街を歩けるようにしないと!」
手続きは簡単だった。
名前欄は空白のまま、特徴だけを記入する。
「名前はあとで決めればいいですよ」
登録証が渡され、ギルドカードにも刻み込まれた。
こうして--
リノは、正式に従魔持ちの冒険者になった。
夕方。
こもれび亭に戻り、宿泊費を支払う。
「もう一泊ですね」
「はい、お願いします」
夕食の時はスライムにお皿の中身だけ食べるように言うと、中身だけ残さず食べていた。
部屋に戻ると、スライムは部屋の隅で静かに丸まった。
「……とりあえず、今日は休もうか」
スライムをベッドに連れていき、息をつく。
Cランク昇格。
思いがけない従魔。
静かに広がる、次の一歩。
リノは、小さく笑って、灯りを落とした。




