第三十六話 Cランク推薦試験~戦闘テスト~
魔力操作テストを終え、息を整えるリノ。
訓練場の中央には、今度は木製の的ではなく--
試験官のグレイ本人が立っていた。
腰には短い木剣。
魔法を使うわけでもなく、ただ受験者の動きを見るだけの装備だ。
「では、始めようか。今回は"実践を想定した流れ"を見る。勝敗は関係ない。私を倒す必要もない」
「はい!」
リノは距離を取り、中距離用の魔法を使える位置に立つ。
開始の合図はない。
ゆっくりとグレイが歩き、間合いを詰めてくる。
(前に出すぎたら危ないし、下がりすぎても魔法の狙いがズレる……)
リノは歩幅を調整しながら、教官との距離を一定に保つ。
「……悪くない。間合いをよく見てる」
とグレイがつぶやく。
「まずは小規模な魔法で牽制してみろ」
言われた瞬間、リノは魔力を練った。
「ストーンバレット!」
拳大の石弾が飛ぶ。
グレイは軽く身をそらし、石弾は背後の壁に当たったが--
狙った場所はしっかりと教官の肩。
「狙いは正確だな。次、連射してみろ」
「はい!ストーンバレット!」
二発目、三発目も安定して繰り出された。
「うむ、十分だ。次は《ウォーターボール》を私の足元へ。威力は最弱、転ばせない程度に抑えろ」
(威力を抑える……)
リノは、水球を小さく生成した。
「ウォーターボール!」
水が丸く弾け、地面を濡らし、頷いた。
「……よし。力加減が上手い。では--今度はこっちから行くぞ」
フッと教官の気配が変わった。
次の瞬間、木剣がリノの肩を狙って振られる。
「っ!」
リノは身体強化を短く発動。
「身体強化!」
反応速度が跳ね上がり、後ろへ飛んで間合いを取る。
木剣は僅かに空を切った。
「悪くない。無理に受けず、逃げたのは正解だ」
グレイは連続で動く。
しかし本気ではなく、あくまで"反応を見る"柔らかい攻撃。
リノは避けつつ、隙を見て魔法を撃つ。
「っウィンドカッター!」
「いい流れだ。攻撃と回避の切り替えがスムーズだな」
短い攻防が数分続いた。
リノは息を切らせつつも、最後まで集中を切らさなかった。
無理に大技を使わない。
隙だらけの攻撃をしない。
教官の動きを見て、撃てる魔法を選ぶ。
その姿勢に、グレイはピタリと動きを止め、木剣を下げた。
「--終了だ。よくやった」
リノは肩で息をしながら、深く頭を下げる。
「ありがとうございました!」
グレイは腕を組み、リノを上から下まで観察するように見た。
「まず、魔法の精度は十分。威力調整もできているし、連射時の暴発もなかった。距離管理も悪くない。Cランク帯でも最低限は戦える」
少し言葉を区切り--
「……正直に言うと、かなり優秀な部類だ」
「え、えっ……!?」
グレイは微笑んだ。
「もちろん課題もある。回避後の体勢が少し崩れやすいところと、近づかれた時の対応がまだ弱い。だが、これは経験で十分に改善できる」
リノは真剣に頷く。
「はい、頑張ります!」
「うむ。--これで試験は以上だ。あとは私がギルドに試験内容を伝える。発表は今日の夕方だ」
リノの胸が高鳴る。
(……Cランクに、なれるかもしれない)
こうして、リノのCランク推薦試験はひとまず終了した。




