第十九話 初心者安全講習~命を守るための必須知識~
教官の表情が少しだけ引き締まった。
それまでの和やかな空気から一変して、新人たちも自然と静かになる。
「ここからは"生き延びるための話"だ。採取よりも重要だと思え」
訓練場の壁際に掛けられていた大きな地図が教官の手元で広げられ、森・丘陵・魔物の出現位置が色分けされている。
〇危険区域の説明
「初心者が入っていいのは"緑色の区域"だ。青色は中級者向け、赤色は熟練者向け、黒色は危険すぎて立ち入り規制がされている。地図はギルドの売店で購入出来る。絶対に持っていけ。迷うのは死に直結する」
リノは内心で(……すでに森で三日迷ってました)と冷や汗をかいた。
〇魔物の回避の基本
「新人に必要なのは、戦うな。逃げろ。戦えないうちはな。これに尽きる。敵の"気配"を感じたら、姿を見る前に退く。魔物の爪跡、糞、生臭い匂い……どれも"ここに居る"というサインだ」
訓練場に置かれた模型を使い、爪跡の大きさで魔物のランクを推測する方法などが教えられた。
〇冒険者の合言葉
教官は指を一本立てた。
「"帰るまでが依頼"。依頼を達成しても、無事帰還できなければ報酬はない。同行者がいる場合は、全員で戻ること」
周囲の新人たちが、うんうんと頷く。
リノは(一人だから……余計気をつけないと)と少し緊張した。
〇野営の基礎
「日が沈む前に必ず移動をやめる。夜道を歩くのは自殺行為だ。野営する時は"風下ではなく風上に"テントを張れ。匂いを嗅ぎつけて魔物が寄ってくる」
リノは買ったばかりの野営セットを思い出しながら聞いていた。
〇緊急時の判断
「怪我をしたら安全な場所で手当て。無理に歩こうとするな。仲間が倒れた時は、ギルドの緊急笛を使え。これは音だけでなく魔力信号も出る。近くの冒険者が居れば気づいて来てくれる。これも、ギルドの売店で売っている」
教官は実物を掲げる。銀色の細い笛だ。
「--以上が初心者が絶対に知っておくべき基礎だ。今日学んだ内容を忘れなければ、少なくとも"初見で死ぬ"ことは低くなる」
説明が終わると、新人たちは緊張しながらも少し誇らしげな顔をしていた。
リノも真剣に聞き、胸の内でそっと息を整えた。
(……よし。明日からもっとちゃんと出来るようにならなきゃ)
教官が手を叩いた。
「ここまでで安全講習は終わりだ。最後は個別コメントに進む。こちらの準備ができたら名前を呼ぶ」
新人訓練はついに終盤へと向かう。




