第十七話 魔力測定と魔法基礎訓練
訓練場の入口近くの壁際に置かれた石台の上には、丸い水晶玉が静かに光を反射していた。
内部は薄く青白く濁り、静かな湖面のように揺らぎもしない。
教官の一人、年配の男性冒険者がリノたち新人の前に立って説明する。
「これは魔導具の《測定水晶》だ。魔力量を測るためにギルドが使っている。手を置けば内部の光が反応する。色と光の大きさでだいたいの魔力量がわかる」
周りの新人たちが次々と測定していく。
手を乗せた者は、
うっすら淡い青→平均以下 青→平均 青が濃い→平均より少し上 紫が混ざれば→才能あり
と、光の色が変わり、ざわつきが起きる。
(……私の順番が来るけど、このままじゃまずいよね……どうしよう)
やがて、教官がリノの名前を呼んだ。
「次。怖がらずそのまま手を置け」
リノは緊張しつつも、水晶にそっと添えた。
その瞬間--水晶がボッ、と音を立てるように内部から強烈な光を放つ。
周囲がどよめいた。
「な、なんだ!?」
「眩しい!」
水晶は青を通り越し深い藍色へ、さらに--紫を帯びた白光まで混じり出す。
水面のようだった内部が激しく揺れ、光の粒が外へ漏れ出す。
「……おい嘘だろ」
「こんなの見た事ねぇ」
周囲がざわめき、教官は目を細めた。
「……こりゃあ、平均どころじゃない。宮廷魔術師級……いや、それ以上のポテンシャルだぞ」
リノは不安そうに手を引っ込める。
「わ、私……何か、壊してませんか?」
「壊れちゃいねぇ。だが驚かされたよ。とんでもない魔力量だ」
教官が苦笑しながらそう言うと、周りの新人たちはポカンとリノを見つめていた。
魔力測定のあと、訓練場の中央に移動する。
そこには焦げ跡のついた丸太や、砂場、安全ネットのようなものが並んでいた。
教官が指示を出す。
「魔法の基礎は"魔力操作"と"放出"だ。魔法を使えるかどうか以前に、この二つが出来てなきゃ話にならない」
新人たちは円を描くように並び、教官の説明を聞く。
「まず、体の中心--へその少し下あたりを意識しろ。そこに魔力が集まってる。目を閉じて感知出来れば、温かいものを感じるはずだ」
新人たちは目を閉じ、静かに集中する。
(血液が身体を巡っているように、魔力も同じようにイメージする感じかな?)
リノも同じように目を閉じると、体内を流れる魔力がはっきりとわかる。
腹の中心あたりから沸き上がるような透明な力。
教官が続けた。
「次に、その魔力を指先に流していくイメージをしろ。まだ魔法を撃つ必要はない。形だけでいい」
新人たちは苦労しているようで、
「む、難し……」
「指先まで届かない……」
と小声が聞こえた。
ところが、リノだけは自然に魔力を動かせてしまう。
指先が淡く光り、周りの空気が少し震える。
「お前……もう指先まで通せてるのか?」
「はい。なんとなく……できました」
「なんとなくで、出来るもんじゃないんだがな……」
教官は少し呆れたような、でもどこか感心した声を漏らした。
「よし、じゃあ次は魔法の形を作る。"魔法陣"なんて難しいものはまだ使わない。初級魔法《魔力弾》を撃つだけだ。魔力を丸く固めて前に押し出す。それだけでいい」
丸太の前で新人たちは恐る恐る両手を前に突き出し、魔力を集中させる。
ポン……と小さな光の球が出る者、プスッと消えてしまう者、全く出せない者
--反応は様々。
リノは丸太の方向に両手を前に出して、小さく息を吸う。
(森で使ったみたいに、魔力を丸めて……前へ!)
淡い白光が両手の前にポッと現れ、
次の瞬間--ドンッ!
丸太を強く揺らすほどの確かな衝撃音を立てて魔力弾が放たれた。
「っ!?」「嘘でしょ……無詠唱だったよね……??」
新人たちが声をあげる。
丸太の表面には、拳大の凹みが出来ている。
教官は頭を抱えた。
「……お前。本当に新人……いや、子供か?」
「す、すみません。つい……」
「謝るこたねぇよ。才能の塊ってやつだ。むしろ俺が驚いている」
リノはキョトンとした顔で教官を見つめていた。
「そろそろ、次の採取説明に移るぞ!長机に集まってくれ」




