第十四話 ギルドを出てから
外へ出ると、昼前の街道には活気が満ちていた。
行商人が声を張り上げ、荷馬車が軋む音。どこかの店先で鳴る金属音、パンの香ばしい匂い……。
リノは胸を高鳴らせながら、石畳の通りを歩き出す。
「……お腹すいた」
朝は森蜜果を齧っただけ。ギルド内では緊張続きで、空腹を誤魔化していた。
ギルドから少し離れると、癖のある字体だが、読めなくはない。
--《モルト食堂》
その店の前で一度立ちどまり、リノは周囲を見渡してから入ることにした。
値段が高そうでもないし、人の出入りもそれなりにある。
扉を開けると、パンの匂いと、ほんのり焦げたような香りが混ざり合っていた。
「いらっしゃいませー。好きな席へどうぞ」
店員の軽い声に導かれ、近くの席に座る。
メニューにはこの世界特有の食材が並ぶが、リノは無難そうなものを選んだ。
・野菜の煮込みスープ
・黒パン
・薄切り肉のソテー
運ばれてきたスープをひと口すすると--。
(……うん。やっぱり微妙)
味が全然深くない。塩気は薄く、香りも弱い。パンも妙に固く、肉には旨味がほとんどない。
(この世界の料理、ほんとに……不味くはないんだけど、おいしくもない……)
森で焼いたキノコや、果実の方がよっぽど美味しかったことを思い出しながら、何とか食べきった。
「お代は銀貨1枚と銅貨2枚です」
会計を済ませて外に出ると、午後の陽射しが石畳を照らし、街はさらに賑やかになっていた。
街を歩きながら宿を探した。石畳の大通りを抜けた先、小さな広場の手前に、木の温かみを感じる建物が見えてくる。小さな緑の看板が目に留まった。
--《こもれび亭》
木製の看板には、木漏れ日を描いた柔らかいタッチの絵が描かれている。
こぢんまりとした建物で、少し古いが嫌な雰囲気はない。
扉を押して中に入ると、木の香りが漂い、暖かい印象を受けた。
カウンターにいた女性が、柔らかく笑う。
「いらっしゃい。宿泊かい?」
「はい。とりあえず一泊できますか?もしかしたらしばらくお世話になるかもしれません」
「もちろん。食事込みで銀貨2枚だよ」
リノは頷き、銀貨2枚を差し出した。
鍵を受け取り、2階の簡素な部屋へ案内される。
部屋は狭いが清潔で、木製のベッドと小さな机がある。
「……落ち着く……」
カバンを降ろし、少し横になりたい気持ちを抑えて階下に戻る。
夕方。宿の食堂に明かりが灯り、客たちがまばらに座っている。
リノも空いている席に腰かけ、提供された夕食を前にした。
・野菜スープ
・硬そうなパン
・香草付きステーキ
(……やっぱり、薄いなぁ……肉も固い)
どの料理も、まずくはないが美味しくもない。
舌が寂しさを覚え、森で拾った森蜜果を食べたくなった。
(日本の料理が恋しい……。自分で料理した方が絶対美味しい……)
そう思いながら、ゆっくり食べ終える。
食事を終えた後、宿の人が水の入った桶を部屋に運んでくれた。
「はい。気をつけて運ぶんだよ」
「ありがとうございます」
扉を閉め、リノは桶の前にしゃがみ込み、濡らした布で汗や汚れを拭き取った。
冷たすぎない水が心地よく、気持ちが緩む。
服を整え、ベッドで横になると、布団の柔らかさがじんわり身体を包んだ。
「明日は午後から新人訓練か……」
冒険者としての第一歩。期待と緊張を胸に抱きながら、リノは静かに目を閉じた。
街のざわめきが遠くなり、すぐに深い眠りが訪れた。




