第十話 道中、商人の荷馬車に出会う
地図を頼りにロワナ村を抜け、道を歩く。
まだ朝日が低く、草の露がキラキラ光っている。
「アイゼルトまでは半日くらい……らしいけど」
緩い坂道を歩いていると、徐々に馬の蹄の音が近づいてきた。
パカッ、パカッ、パカッ……
リノは道の端に寄り、邪魔にならないように避け、帽子を押さえる。
「やあ、坊主じゃねぇか。こんな朝早くから歩いてんのか?」
低く落ち着いた声が頭上から降ってきた。
見上げると、荷馬車の御者台に座る大柄な男--栗色のヒゲに、穏やかな灰色の瞳。
胸元には金属製のバッジがついている。丸い形をしていて、中央に細かい模様--秤のような絵が刻まれている。
リノはそれをちらりと見たが、
(……なんだろう、このバッジ)と首をかしげるのだった。
異世界に来てまだ数日。
世界の仕組みも、一般常識も、まだ知らないことだらけだ。
そんな状態のリノに、男は気さくに声をかけてきた。
昨日村の店の中ですれ違ったが、話すのはこれが初めてだ。
「街まで歩くには、ちと距離があるぞ。乗ってくか?」
「えっ!!いいんですか?」
「もちろんだ。困っている旅人を助けるのは俺の趣味みてぇなもんだ。金は取らねぇよ。荷台の端に座りな」
戸惑いながらも、リノは荷台に上がる。商人は手網を軽く引き、馬が歩き出す。
「俺はオルソン。坊主、名前は?」
「あ、えっと……リノです」
「リノか。いい名前だ。街の"アイゼルト"に行くんだろ?」
「はい。冒険者ギルドに行ってみたくて」
「ほぉ、冒険者志望か。だったら、街に着いたら先にギルドで登録だな。商売をするなら商人ギルドも探すといい。あと、顔立ちが整っているから気をつけな。世間には良くねぇ奴もいる」
その忠告に、リノは胸の奥がひんやりする。
「……はい。気をつけます」
けれど、オルソンは優しい笑みで頷いた。
「大丈夫だ。無茶さえしなきゃ、世界は案外優しい。俺みてぇな人間もいるんだからな」
荷馬車は軽快に街道を進み、遠くに石造りの城壁--アイゼルトの街が徐々に見えてきた。
リノは帽子のつばを握りしめる。
「……ほんとに、街だ」
そうつぶやき、冒険が始まる予感にワクワクした。




