5.5話
「どうですか、『ランダム』さんの様子は?」
「おい、今は『ユキ』様だろ。
あと、ちゃんと『様』をつけて呼べ」
「あ、すみません…」
とあるバーチャル空間にて。
そこには十数人が集まって、パネルを操作していた。
「それにしても、あそこの土地を渡すなんて何を考えてるんですか?」
「しょうがないだろ、今作ってある空間で、しばらく使わない場所はあそこしかなかったんだから」
そう、ここは『GUN KING』や『Adventure KING』の運営の仕事場である。
ゲーム人口がそれほど多くないため、今は大体20人ほどで一応回っている。ときどき睡眠不足で倒れる人も出ることを除けば、完全に回っていると言えるだろうが。
「一応『精霊』って言っといたし、バレないと思うけどなぁ……。
というか、あれって裏クエストのやつだっけ?」
「そうっすよ、ちなみに推奨レベルは100っすね」
パネルを操作していた人のうちの1人が、顔を上げてそう答えた。
「……やっちまったか?」
「だからさっきからそう言ってるんですよ!」
部下らしき人が、上司に詰め寄る。
「湖の森の周りのモンスターのレベルも結構高いですし…私が始めの街までのワープを提案してなかったら、今頃『ユキ』様詰んでますよ!」
「本当にありがとう、すみませんでした!」
大人しく謝った上司。
察しているかもしれないが、運営の面々は『ユキ』のことが大好きである。というか、大ファンだ。
まぁ、好きにならないほうがおかしい。
圧倒的なゲームセンスに加えて、味方を率いるカリスマもあるし、『ランダム』のおかげでスポンサーは相当増えたし、性格が良いし、何より相当な美人なのである。
だからこそ……
「………うぅっ」
「あいつはまだ泣いてんのか…」
泣いているのは、ゲーム内デザイン担当のうちの1人。主に衣装を考えている人である。
原因はただ一つ。
「『ユキ』様が………ツナギを着るなんて……」
そう言ってパネルを見つめる目はハイライトを失っていた。
そう、彼女も『ランダム』のファン。だからこそ、『ランダム』がランカー特典で装備が欲しいと言った時のためにいくつもの衣装を用意していたのだ。その衣装パターンの数は20にものぼる。
なのに。
「なんで農家になっちゃうんですか……!?」
『GUN KING』での『ランダム』は、近接戦闘、遠距離戦闘、味方のサポートなど、色々なことをこなせる万能型のプレイヤーである。
どんな武器でも使いこなし、大会ごとに戦闘スタイルを変えてくる彼女は、まさに『ランダム』という名に相応しかった。
そんな『ランダム』は、多くの人々から戦闘狂だと思われているわけで、それは運営の面々も例外ではない。
よって、運営は『ランダム』が戦闘職に就くと思っていたのだ。
だが結果は農家。
運営の人々が嘆くのも無理はない。
デザイン担当の女性が叫ぶ。
「今からでも遅くないです!
『ユキ』様に連絡をとりましょう!」
「待て待て待て、連絡取って何をするつもりだ?」
「直談判です!
戦闘職に転職しないかって提案します!
泣き落としも使います!」
「馬鹿!『ユキ』様に嫌われたらどうするんだ!」
「それはやだ!」
大騒ぎする部下たちを見て、上司は遠い目をしてつぶやく。
「今日も平和だなぁ……」