5話
聞きたいことは聞けたし、一旦帰るか?
いや、農地をまだどうやって耕すか決まってないしな…。
これに関しては本当に何をすればいいのかわからない。
本当は、プレイヤーの誰かから他の農家はどうやって農業をやっているのか聞ければ良かったんだけど…。
農家がいないならどうしようもないなぁ。
詰んでないよね?
せっかく農地を手に入れたのに、ここで農家を諦めたくないよ?
まだ何か方法があるって信じたい。
…今日はとりあえずこのくらいにしとくか。
あ、待って、武器だけ買っておこうかな?
湖の周りは土の乾燥した荒地だが、一応周りを森で囲まれていた。
なので、そこからモンスターが現れた時のために身を守る術がほしい。
そうと決めたら早速武器屋に行こう。
この街の門をくぐった時にはすでに遠くに武器屋の看板が見えていたので、そこへ向かう。
「ごめんくださーい」
武器屋のドアを開ける。
「おぅ。何が欲しいんだ?」
カウンターに座って剣を布で磨いているのは、ドワーフかな?
私の背は150センチちょっとしかないんだけど、この人は立ったとしても私より背丈が低いと思う。
それにしても、何が欲しいか決めてなかったな。
そもそも農家って何を装備できるのか知らないしな。
聞いてみるか。
「私、農家なんですけど…」
「え?農家?」
私の言葉を聞いて、初めて私の方に視線を向けた。
そしてまじまじと私の服装を観察する。
うん、またこう言うパターンか。もう慣れたよ。
「…いや、ジロジロ見ちまってすまねぇ。
農家が武器屋に来るとは思ってなかったからな」
いや、そりゃあそうだわ。
多分このゲーム世界にはNPCの農家がいるんだろうけど、そんな人たちは武器屋には寄らなさそう。
……ん?NPCの農家?
そうか。彼らなら私の土地が枯れている理由が!
なんか解決できそうな道筋が見えた気がする。
でもそれは一旦後回し。
今は武器を選ばねば。
「農家が装備できる武器、なぁ…」
そう言いながら、ドワーフさんは奥に引っ込んでいった。
おそらく武器を探してくれているのだろう。
それにしても、他のゲームに比べてNPCの受け答えがスラスラしていると言うか、人間そっくりというか…。
NPCとは、ノンプレイヤーコンピュータ、の略称だっけ?
つまりAIってこと。
他のゲームでは定型文しか言わないやつとかたくさんいるのに、武器屋にこんなNPCがいるとは。
このゲーム、思ったよりすごいのかもしれない。
……十分後。
ドワーフさんが戻ってきた。
「農家が装備できるのは主に鍬と鎌だな。
この店には鎌が2振りしかなかったから、確認してくれ」
やっぱりその二つ以外装備できないんですねー…。
でも、「主に」ってことは装備できる武器が他にもあるのかも知れないね。
で、肝心の武器だけど…詳細が見れない!
たしか、自分に所持権があるアイテムやインベントリの中に入っている物の詳細はみれる、って感じだったと思う。ということは、今所持権を持ってるのはこのドワーフだから見れないってことかな?
確か、鑑定があれば他の人の物の情報も見れるんだっけ…でも農家用スキルにはなかった気がするなぁ。
まぁ、他の職業用のスキルも取れるんだけどね。ちょっとスキルポイントが多めに取られるのだ。もったいなく感じてしまう。
でもこの場合、取らざるを得ないかな…。
どっちの鎌が強いかなんて、ぱっと見ではわかんないもん。
スキルポイントを、3消費して取得!
『スキル『鑑定』を取得しました。
新しいスキルがアンロックされます』
よし、無事取得。
早速鑑定してみるか。
『アイテム名:草刈鎌
必要ステータス:STR30
効果:STR+20、AGR+10、草刈り速度アップ
説明:草を刈るための鎌』
いや強くない?完全に戦うための武器じゃん。
説明に『草を刈るための』って書いてあるけど、詐欺じゃない?
草刈るのにSTRは必要ないだろ!
『アイテム名:鉄の鎌
必要ステータス:STR30
効果:STR+10、AGR+10、INT+10、DEX+10
説明:首を刈るための鎌』
草刈鎌に対抗してるの!?
何『首を刈るための鎌』って。これは完全に農業用じゃないわ。戦闘用だわ。
こんな物騒な武器を買うなんてやだよ…。
というか何でこんな武器作るんだよ…平和的に生きようよ…。
「この鎌ください」
だが、結局こっちの鎌を選んだ私が偉そうに言える口ではないね。
『アイテム名:鉄の鎌を獲得しました』
……なにさ。何か言いたいことがあるなら言いなさいよ!
だって、私が欲しかったのは戦うための武器じゃん。だから、草を刈る速度が上がってもそんなに役に立たないし。
そもそも私の農地には刈る必要があるくらい育った草なんて生えてないし。
しかもステータスが4つアップするし。超お得だよ。よく考えたら、いい買い物したわ。
私はテンション高めで店を出るのだった。