17話
受験生に 夏休みは 無い
今の状況を説明すると、おばあさんと庭園っぽい場所でお茶をしております。
おばあさんが綺麗な所作でティーカップを持ち上げ、紅茶を飲む。
でも、私は緊張で動けない。
だって、このおばあさんもすごく、何というか、オーラ?雰囲気?がすごいっていうか…。
何故こうなったのか。
まず、EPが1桁になりました。
おじいさんにワープで大きな家に連れてきてもらいました。
おばあさんがその後にワープしてきました。
で、おばあさんがお茶をセットしてくれました。
そして今に至る。
EP切れそうだし、目の前のケーキがめっちゃ美味しそうだから食べたいんだけど、食べていいのかな?
だって、私今のところこの人たちの農地に入ってきた不審者だよ?
これに睡眠薬とか入ってて、目覚めたら解剖されてた、みたいなこと無いよね?
あ、なんかおばあさんが笑ってる。
「ごめんなさいね、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。
ただ、あなたの職業に縁を感じたから、助けようと思ったのよ」
「……おばあさんも、農家なんですか?」
え、職業バレてるんだ……『鑑定』のレベルが高いのかな?
そう言えば、私『鑑定』のレベルが中級になったけど、人物の鑑定ってできるんだろうか?
でも、それでおばあさんを怒らせる可能性はあるしな……今度プレイヤーに会ったら試そっと。
「違うわ、私たちを助けてくれたのが農家の人だったのよ。今はもう亡くなってるんだけどね」
そうなんだ……残念。
もしこの人たちも農家なら、いろいろ質問できるかと思ったのに……。
「とりあえず食べなさい。
EPあと6しか残って無いみたいだわ」
「いただきます!」
やばい、確かめたけど本当に6しか無い!
フォークとナイフを手に取り、目の前に置かれていたチーズケーキを小さく切り、口に入れる。
……え、これめちゃくちゃおいしい!!!
今まで食べたチーズケーキの中で3位くらいに入るかも!
自然とチーズケーキを口に入れる手が動く。気づいたら全部食べ終わっていた。
……おばあさんがニコニコしながらこっちを見ていることに、今気づいた。恥ずかしい!
あ、お礼言わなきゃ。
「ありがとうございます、美味しかったです」
「ふふ、美味しそうに食べてくれて嬉しいわ。
夫もきっと喜ぶわね」
夫……というと、あのおじいさんか!
あのおじいさんがこのケーキ作ってくれたの?すごい!天才じゃん!
目を輝かせている私に、おばあさんが微笑みながら言った。
「おかわりはいるかしら?」
もちろんです!ありがとうございます!
結局ケーキを3つ食べたところでEPがいっぱいになった。
ただ、ゲームだからお腹いっぱいになった感じはしない。だから、もっと食べようと思えば食べられるが、どうやらこのゲームは食べ過ぎたら『過食』という状態異常になって、それがついてからさらに食べ続けると死ぬらしい。
『GUN KING』ではおいしいものいくらでも食べれたのに……悲しい。
お皿を下げてもらって、落ち着いたところでおばあさんが質問をしてきた。
「あなたは、どうしてあそこにいたのかしら?」
怒られてるのかと一瞬思ったけど、おばあさんの不思議そうな顔を見て違うと感じた。
正直に答えるべきだな。だってケーキ食べさせてもらったし。
「どうしてって、やっぱりあそこは入っちゃいけないところでしたか?」
「いえ、別に好きに入ってもらっていいのだけれど、あの森のあたりには精霊王の呪いがかかってるから、普通の人が入ったら死んでしまうはずなのよね……」
……はい???
精霊王の呪いってそんなにやばいんですか?
いや、字面は確かにやばいけど、植物だけに影響を与えるのかと思ってた。だって、普通にシャインウルフが生息してたし、私も魔力を吸われたくらいで特に何もなかった。
というか、運営はそんなやばい場所に私を送るなよ……まぁ、農地を要求したのは私だし、実害はMP切れでどこにも行けないことくらいだからもう文句は言わないけど。
おばあさんと2人で原因を考えていたら、おじいさんが戻ってきた。
「話は終わったかの?」
「……そうね、原因は分からないしこの話はここまでにしましょうか。
あ、そうだわ、貴女のことをなんて呼べばいいか聞いていなかったわね」
確かに、まだ自己紹介してなかったな。
「ユキです。普通にユキって呼んでください」
「分かったわ。
私の名前は……エリンよ。その……お祖母様、と呼んでくれないかしら?
孫に憧れがあって……」
「ずるいぞ!わしのこともお祖父様と呼んでくれんか?
あ、わしの名前はガレンだ」
「もちろんです!」
嬉しい!
実は私、現実で祖父母に会ったことがないんだよね。
母は捨て子で、児童施設で育ったらしいから母方の祖父母は不明、父にはちゃんと親がいたらしいんだけど、すでに亡くなっている。
どんな人なのかは知らない。祖父母について質問したら、なぜか父が困った顔をするから詳しく聞けないんだよね。
まぁ別に、父に嫌な思いをさせてまで知りたいことでもないから聞かなくていいんだけど。
それにしても、お祖母様はちょっと何か考えてから名前を言ったよね?
もしかして偽名?
食事の時の所作がめちゃくちゃ綺麗だったのにこんな僻地にいるなんて、なんか訳アリだったりするのかな?
まあどうでもいいか。
ーーーこのとき深く追及しなかったことが、後々ある大きなクエストを引き起こすことになるのだった。
『変わり者のボク達による学院生活』書き始めました。
ぜひ読んでくださいお願いします。




