2話
私は引きこもりの少女。
だがその実態は……なんと、大人気ゲームのランカー、プレイヤー名『ランダム』だったのだ!
……まぁ、そういうわけだ。ただただ引きこもってるわけじゃないんだよ?
というか、もう少女って歳でもないか。えへへ。
ちなみに、ランカーはかなり稼げる。
最近の大会だと、3人でチームを組んで戦うルールのときが多い。
で、公式大会だと優勝賞金が10億円、準優勝では5億円。宝くじみたいな値段。
3人で山分けするにしても高すぎる金額である。まぁ、スポンサーがたくさんいるから当然の結果なんだけどね。
さらに小さな大会でも、勝てば高級なブランド品や食べ物などをゲットできることが多い。
ついこの間出場した大会では、たしか日本のブランド牛の食べ比べセットをゲットした記憶がある。
まぁそういうわけなので、一応ゲーマーとして生きていけてるのさ。
……え?プレイヤー名が変、だって?
私もそう思う。
いや、私が考えたわけじゃないんだよ。
『GUN KING』を始めた時、最初はプレイヤー設定があるんだよ。
その時にプレイヤー名を決めるんだけど。
本名をもじる人とか多いけど、もし大会に出るなら全世界に配信されるわけじゃん?本名バレたら大変なことになる。
だから、『プレイヤー名を決定してください』って言ってるAIに私はこう言ったんだよ。
「ランダムにできる?」
自分で決めるのは面倒くさいから、AIにランダムで決めてもらおうとしたの。
そうしたら…
『プレイヤー名は決定後、変更することはできません。ランダムでよろしいですか?』
それを聞いてちょっと躊躇ったものの、「はい」って答えてしまった。
『それではランダム様、初期装備をお選びください』
AIのその言葉で気づいた。
私のプレイヤー名は『ランダム』で固定されてしまったのだと。
…そんなことがあったわけだ。
まぁいいけどね。めっちゃ変な名前ってわけでもないし。もっと変なプレイヤー名の人もいたし。ランダムで決めてたらもっと変な名前になってた可能性もあるし。いいもん。
流石に『adventure KING』ではプレイヤー名『ランダム』にしないよ?
一発で身バレするじゃん。
さっそく始めていこうか。
ちゃんとカセットは買ってきたーーーと言いたいところなんだけど、なんか昨日、家のポストの中に入ってた。
多分だけどランカーの誰かが送ってきたんだろうな…。
でもおかしいよね?
ランカーのなかで、住所教えてるのも、家に来たことがあるのも一人だけなんだよね。
もしそいつがカセット持ってきてくれたなら、直接渡してくるだろうし…。
なんで私の家知ってるの?ほんとに怖い…。
まぁ起きてしまったことはしょうがない。
なんとなく犯人はわかるけどね。
とりあえずカセットを入れて、ゲームを起動する。
だんだんと体の感覚が消えていき、感覚が戻ったと感じた時にはすでにゲームの中。
あ、サポートAIが目の前に出てきた。今回は『GUN KING』の時と似ている女の人の姿だ。
プレイヤー名を決める時のあれこれを思い出して、ちょっとイラッとしてしまった。おさえなきゃ、このAIは別人だ、何の罪もない。
『『GUN KING』のアカウントと紐付けが完了しました』
あ、ロキの言った通り、『GUN KING』と連携できるらしい。さすが同じ会社のゲーム。
紐付けした場合、なんかプレゼントがもらえるらしいんだけど、ランキングが高いほど良いものが貰えるらしいんだよね。
ランカーたちはいろいろオーダーしたらしい。がめつい人達である。
『ランキング第2位『ランダム』様ですね。
このゲームでは、ランキングに応じてさまざまなサポートを受けられます。
他のランキング上位の皆様は武器や防具を望んだ方が多いですね。『ランダム』様はどうなさいますな?』
何もらおう?
みんなは装備とかにしたのか…。じゃあ私も装備にしようかな?
いや、このゲームには職業があって、職業によって装備できるものが変わり、さらに使えるスキルも追加されるらしいけど、まだ何になるか決めてないし。
「保留にできる?」
あとで考えよう。
『かしこまりました、チュートリアルが終わるまでにお申し付けください。
それでは、職業選択に移ります』
AIがそういうと、目の前にパネルが出てきた。
『GUN KING』にはこういうのは地図機能くらいにしか使われてなかったから、なんか新鮮だ。
……思ったより職業が少ないな?
見た感じ、多分20個くらいしかない気がする…。
ゲーム概要に、多種多様な職業があるって書かれてたんだけどなぁ…。
そんな疑問が浮かんだが、顔に出ていたらしく、AIが補足説明をしてくれた。
『職業とは別に、サブジョブというシステムがあります。
サブジョブはプレイヤーのレベルを上げることによって最大三つまで登録することができ、それによって職業が変化するケースが多いです』
あーなるほどね。
「つまり、職業が『剣士』の人がサブジョブを『魔導士』とかに設定したら、『魔導剣士』になる可能性があるってこと?」
『そのような認識であっております』
へぇー、おもしろい。組み合わせによっては自分にしかない職業を作れるってことか。
じゃあ私はどれを選ぼうかなー、とか言ってるけど、実はさっき気になる職業を見つけた。
もともと『GUN KING』を始める前は、FPSとか戦闘系のゲームはほとんどやったことなくて、牧場を経営するゲームとか、育成ゲームとか、そういうほのぼのとしたゲームをやってたんだよね。
最近は『GUN KING』にばかりインしてたから、久しぶりに生産系のゲームをやりたいなーって思ってたんだよね。
だから、今回は…。
「『農家』でおねがいします」
辺境で農業始めようかな。
『………わかりました、『農家』ですね。
変更はできませんが、よろしいでしょうか?』
「うん」
AIがこいつマジか…みたいな目で見てくるけど気にしなーい!
この時の私は知る由もなかった。
職業を『農家』にしてこのゲームを始めたプレイヤーは多少いたものの、すでに全員がアカウントを作り直して違う職業に転職していることを。
そして、多くのプレイヤーの間で「『農家』はクソ」と言われていることを……。
次にやることは…。
『次に、プレイヤー名を設定してください』
ついにプレイヤー名設定が来たぞ!
今回は前と同じ轍は踏まない!
でも、どうしようかな…本名をもじる?
いや、本名使うのは怖いしな…『ランダム』をもじるか。
「ランは?」
『すでに同じ名前が使われています』
「…ダムは?」
『すでに同じ名前が使われています』
「……ラムは?」
『すでに同じ名前が使われています』
なんでだよ!!!
まぁ、ランとラムはまだ設定する人が多そうだからわかるけど。
ダムなんかなかなかいないだろ!?
他の文字の組み合わせも考えたが、ダサいな…。
なんか考えるの面倒くさくなってきた…。
もう本名でいいや。私の名前ありふれてるし。
「ユキで」
『…はい、承認されました。
『ユキ』様ですね』
いやこれ通るのかよ!?
結構ダメ元だったんだけど!?ユキなんて日本にはたくさんいるし!
マジか…本名でやらなきゃいけないのか…。まぁやってしまったことはしょうがないしな…新しい名前考えるのもめんどいし…いいや。このことは忘れよう。
『最後に、装備をお選びください』
え、農家に装備なんてあるの…?と思ったけど、何でいうんだろ…ツナギ?みたいなのしかなかった。
別にこれでいいけど、色変更できるみたいだな…大好きな緑色にしよう。
サポートAIが悲しそうな目で見てくるんだけど何?文句あるの?
ついでにお面は絶対欲しいけど…、あった、よかった。
本名プラス素顔でゲームをやるのは無理。
正直言ってどれでもよかったけど、なるべくオシャレなのにした。というかお面の数多いな。
あ、サポートAIがほっとした顔をしている。
そんなに農家のツナギみたいなの、変ですか…?
『それではチュートリアルは以上なのですが、『GUN KING』との連携特典はどういたしますか?』
あ、忘れてた…。
農家って何使うっけ?鍬とか、あと鎌かな?
ん?でもそもそも農地が無いと無理だな…。
土地ってもらえるもんなの?現実ではめっちゃ高いけど…。
ダメ元で言ってみるか。
「農地ってもらえる…?」
『!?確認してまいります…』
そう言ってサポートAIは消えた。
いやぁ、無理っぽいな。今の反応的にそんなこと言われると思ってなかったみたいだし。めっちゃ『どうしよ…』みたいな顔だった。
いやー、しょうがない、他のもの考えとくかー。
3分後。
『いけるそうです』
うっっっそだろ?
土地もらえるの!?
絶対無理だと思ったわ!!!というか戻ってくるのが早い!
「本当にもらえるの…?」
『えぇ、特例ですが。
『GUN KING』で『ランダム』様にはたくさんの恩恵を受けておりますので……主にスポンサー面で……』
あぁ、そういえば去年の『GUN KING』プレイヤー内でのスポンサー獲得数、私が一位だっけ…。
いやぁ、かなり嬉しい。
だって、ゲーム始めてすぐ農業始めれるんでしょ?
あれ?でも、土地もらえなかった農家の人ってどうやって植物育てるの?
土地とか借りれるのかな?
いや、私には関係ないから考えたってしょうがないし、気にしないでおこう。
『では、スポーン位置は農地の近くに設定しておきます。
農地の範囲は目に見えるようになっております』
「目に見えるように?」
『はい。農地とその他の土地の境界線が金色に光って見えるのです。
農地の範囲は、初めはかなり小さいですが、条件を達成することで拡大することができます』
へー、それは嬉しいな。
レベルを上げれば大農園を作るのも可能になるってことか。
『あと、農地は初めの街からかなり離れたところにありますので、農地から一般プレイヤーの初期位置までワープできるようにしておきました』
至れり尽くせりすぎないか…?
ワープ機能とか…めっちゃええやん。
というか、農地から始めの街までそんなに距離あるの?
もしかして、農地の周りに強い魔物がいたりするかもしれない。怖いなぁ。
『最後に、農地は今の状態だとかなり荒れ果てていますが、精霊が住んでいるので上手くいけば肥沃の土地になります』
え?農地荒れ果ててるの?
始めの街から遠くて荒れ果ててる土地?これ、ハズレの土地を押し付けられてない?大丈夫?
というか上手くいけばってなに?詳しくは教えてくれないんですね…。
『──それでは、ゲームを開始します』
あ、もう始まっちゃう感じなんだ。
最後の一言ですごい不安になったんですけど。
よし、このゲームを楽しむぞー!
そうして私の視界は光に包まれた。
ブックマーク、本当に嬉しい…ありがとうございます……!!!




