16話
はぁ。無駄に疲れた。
こんなこと考えてる場合じゃない。日が暮れちゃう、早く森を出よう。
……この森、本当に広いな。
森に入ってから、なんと1時間ほど走り続けている。
最初は歩いていたけどそれではいつ森の外に出れるか分からないから、さっさと走ることにした。
ちなみにVR空間の中では永遠に走り続けることができる。
理論上の話だよ?だって、実際の肉体を使ってないもん。
ただ、VR空間でも脳が勝手に身体能力を制限しちゃう人がほとんどで、そういう人は現実空間と同じくらいしか走ることができない。なんか、ログアウトしてからと体が実際にしんどく感じるんだって。体動かしてないのにね。
うん?私?
走り続けること、できるよ?
確かにゲーム始めたての頃は出来なかった。
でも、数多の大会に参加し、何度も死の危機に見舞われることで、ずっと走り続けることができるようになったのである。
……まぁ、脳がおかしくなったのかもしれないけど。
でも大丈夫。現実世界では無理だから。何でだろうね?不思議。
基本的にそれができるのはランキング上位勢だけ。
やっぱり、ゲームのやりすぎでこうなったのかな?まぁ、考えても分からないけど。
それで、時速50キロくらいで走り続けてたんだけど、今ようやく森の出口が見えてきたところ。
本当に長かった、頭痛い……脳を酷使しすぎたかも……。
走るスピードを落として、光の方へ歩く。
森は暗いから、出口の方が明るすぎて外がどうなっているのかよく見えない。
そして、森から出て見えた風景は……黄金の、麦畑、かな?
髪が風でなびく。すごい。VR空間なのに本当に風に当たっているように感じる。
そして一面の麦畑も、まるで生き物であるかのように風でなびいていた。
きれいだ。
VR空間でも、こんな壮大な景色はなかなか無い。
あたり一面、麦畑が広がっている。
あれだ、ジ◯リのナ◯シカのラストシーンみたいな景色。
いま、猛烈に感動している。
1時間は全力ダッシュし続けたから、余計に感動。
森の外、こんなに綺麗な植物が育つのか…。
それなら何で、森の中では育たないのか……って、MPが回復したか確認しなくては!
ステータスを開く!
『HP:40/40
MP:2/40
EP:12/100』
おお!ちょっとだけどMPが回復してる!
やっぱり回復しなかったのは森のせいだったんだね。出てみてよかった。
でもさ。
EPが…ない!!!
それはそうだ。
走るとEPの減りは速くなるらしい。
で、私は農地からここまで全力ダッシュしてきた。そりゃあEPが枯渇間際になるわ!
はわわわ、どうしよ…。
目の前の麦を食べる?
いや、麦を生で食べるとか無理でしょ…。
と、とりあえず鑑定してみるか…。
『オブジェクト名:聖麦の畑
状態:聖なる加護
ランク:8
説明:神聖魔法によって加護を授けられた麦。
聖職者によって育てられている』
や、やばい麦だった!
名前と説明からして明らかに高ランクのアイテム!
これ、勝手に食べたらあかんやつや!もともと食べる気はなかったけど!
というか、鑑定結果に『ランク』っていう項目が増えてる。
これはアレか。多分だけど、鑑定のレベルが下級から中級まで上がったからだよね。
この感じからすると、ランク10が最高なのかな?この麦、かなりレアっぽいし。
その時、突然後ろに人が現れた。
うわ、びっくりした。屈んで麦を見ていた私だったけど、急に現れた気配に右に飛んで大きく距離をとり、警戒態勢をとってしまう。
でも、武器は構えないし、警戒態勢もすぐに解いた。こちらへの敵意は感じられないし。
本当に急に現れたな。ワープかな?
目の前の人は……うん、見た感じ農家だ。
本当にどこにでもいそうなおじいちゃんって感じで、ツナギを着て麦わら帽子をかぶっている。
でも、何というか……威圧感?があるというか……なんか強そうに感じるし、迫力がすごい。
え、これ怒られる感じ?
まだ何もしてないけど!?
でも、それは杞憂だったみたいで、
「お嬢さん、どこから来たんだい?」
と優しく声をかけられた。
よかった、怒られなかった。
あ、でも不審者とか人攫いの可能性もあるにはあるし、一応警戒しとかないと。
あ、ステータスパネルを出したままだった。
…って、やばい!EPが残り10になってる!
EPって少なくなったら減りも速くなるって聞いたことがある。
最悪だ。
うーん、どうしよう。
逃げるのは絶対無理。目の前のおじいさんに敵認定されるかもしれないし、そうしたらご近所さん(めっちゃ離れてるけど)とずっと仲良くできないままっていうのもあり得る。
ご近所さんとは仲良くしたいしなぁ。
あと、単純にこのお爺さんから逃げ切れる気がしない。
一つだけ、問題を全て解決できる方法がある。
でも、その方法はこの人が悪人だったら通用しない。いや、悪人じゃなくても相当良い人じゃないと無理だ。
……どうせ死ぬなら一か八か、賭けてみよう。
「お嬢さん?」
黙って考え込んでいた私に、再びおじいさんが気遣わしげに声をかけてくる。
うん、やっぱりこの人は優しそうな気がする。そう感じた自分を信じよう。
「……もうすぐ餓死しそうなので、食料を分けていただけませんか?」
そう言って瞳をうるうるさせる。
って、私仮面してるから見えないじゃん!
そう、私が考えたのは『情に訴えかけて食料をもらおう作戦』である!
この人が悪人だったら貰えないだろうけど、賭けてみる価値はあるでしょ?
え、作戦名がダサい?……うるさいぞ!
おじいさんは少し目を細めると……
「……EPが1桁!?
何でもっと深刻そうに言わないんじゃ!」
なんか怒られた。
いや、この場合心配されたんだね。
どうにかなりそう、かな?
更新遅くてすみません!
ちょっと、『カクヨム甲子園』に出す作品を書いてまして…こちらの更新、遅くなるかもしれないです、すみません……




