12話
農地に戻って、一旦ログアウト。
とりあえず、ベッドから起き上がった。
うわ、なんか体が重い……流石に初日から5時間以上ゲームをやるのはダメだったかな?
だるくて何もしたくない。
窓を開けて外を見る。
現実世界ではもう夕方みたいだ。
うわ、高校生が歩いてるわ……。
慌ててカーテンを閉める。
いや、別に知り合いってわけではないんだけど、つい反射的に閉めちゃった。
高校に入学してから色々あったからなぁ…。
まぁ、そんなことは思い出さなくていいのだ。
疲れたし、楽しいことだけ考えよう。
「ママ、今日のご飯なに?」
私は下の階にいる母親に向かって声を張り上げるのだった。
翌日。
勉強をきちんと済ませて、ゲームを起動する。
先に『GUN KING』から始めよう。
というのも、『Adventure KING』ではステータスが上がるじゃん?
『GUN KING』と体の動かしやすさがだいぶ違うから、『Adventure KING』ばっかりやってると『GUN KING』が下手になりそうなんだよね。
私は『GUN KING』でお金を稼いでるから、下手になったら生きていけなくなっちゃう。
というわけで、『GUN KING』にログイン。
目を開けると、そこはいつもの広場だ。
大勢の人がおり、各々仲のいい人と喋ったり、ウィンドウを開いて何か操作をしていたり、寝ていたり、武器の手入れをしていたり、まぁいろんなことをしている。
この広場は、何と言うか、待機場所?のようなもの。
このゲームにはいくつかゲームルールがあって、例えば個人で戦うやつとか、グループ戦とか、まぁいろいろあるんだけど、結局結構な人数が集まらないとゲームを始められない。
だから、人数が集まるまではこの広場で待機するのだ。
ログインした瞬間、私の方に周りの視線が集まる。
ひゃー、やめてよ一斉にこっちを見ないでよ!
このゲーム、顔イカつい人多いから怖いんですけど!
まぁ毎日こんな感じだからもう慣れたけどね!
居心地が悪いのでプライベートルームに入る。
この部屋はランキング100位以内の人に与えられた特権。
知り合いを招待できる、特別な待機場所ってところかな?
広さは大体学校の体育館くらい?
ちなみに内装はいろんな条件を達成することで変更できるようになる。
とりあえず、フレンドリストを開いてみる。
あ、今日は『ロキ』と『ルキ』しかいないね。
多分だけど、『Adventure KING』の方でみんなでいっぱいなんだろうなぁ…。
次の大会で、みんなが弱くなってないといいけど。大会はだいたいチーム戦だからね、全員弱くなると私も困るのである。
ロキとルキは今個人戦に参加しているみたいだから、終わったら3人戦【スリーマンセルマッチ】に誘ってみようかな?
とりあえずメッセージを送る。
返事が来るまで、ベッド出してちょっとお昼寝するか。
十数分後。
頬をつつかれる感覚で目が覚める。
犯人は分かりきっているので、その指を掴んで関節が曲がる方向とは逆向きに指を折り曲げ……るのはかわいそうなので、お腹に一発拳をお見舞いするくらいで許してあげよう。
「ぐぇっ」
「ちょっかい出すからそういうことになるんだよ……」
私に殴られて呻いたロキと、呆れたようにそれをみるルキがプライベートルームに到着していた。
やっぱこの仮面、デザイン変えとこうかな……物を食べやすいように、目元が隠れるタイプの仮面なんだよね。
だから、こんなふうにほっぺたをつつくやつが出てくるのだ。私は高校生だよ?なんか小学生くらいの扱いをされている気がする。
気を取り直して。
「3人戦やろー」
「いいよ。ちょうど『Adventure KING』がどうだったか聞きたいし」
ロキはまだ殴られたダメージで呻いているままだ。うん、まぁこいつに拒否権はない。ウィンドウを開いて強制的に3人でチームを組み、マッチングスタート。
マッチングするまでに少し時間がかかるため、椅子に座ってその間に雑談をする。
私はインベントリから食べ物を取り出して齧り始める。
今日は海外のスイーツ店とコラボしたジャムクッキー。ついでに紅茶も取り出そう。ストレートでは飲めないから牛乳で割ってミルクティーにする。
ちゃんと3人分出したよ、ロキはまだ床に転がっているけど。まぁ食べないならロキの分は自分が食べればいい話だし。
それで、ルキと雑談。
「『Adventure KING』はどう?楽しい?」
ルキはガンホルダーから、愛銃である『アレクシア053-8A』を取り出して磨き始めた。
私も武器の手入れをしたほうが良いかな…。
「とても、大変……」
私もインベントリから藍色の妖刀である『朧月夜』を取り出して磨く。
「……大変?
初期の頃のレベル上げ、結構簡単だったイメージがあるんだけど……」
『朧月夜』っていつ手に入れたやつだっけ……あ、公式大会の報酬だったかな?
性能的には普通の妖刀とほとんど同じでHPを少し消費して火力アップって感じなんだけど、『朧月夜』は切った相手に3秒だけ『盲目』っていう状態異常をつけてくれる。
え?3秒は短い?
そんなことはないよ。ランカー相手ではそんなに意味はないけど、目が開いてるのに急に目が見えなくなったらビックリするでしょ?
刀を投げて、『盲目』がついて混乱しているところを襲う。初心者相手にはそれで十分なのである。
で、何だっけ?
あ、ルキと話してたんだった。
さっき何かボソッと言ってたような。
「何か言った?」
「いや、別に何でもないよ」
何でもないなら別にいっか。
それにしても、なかなかマッチングしないなー。『朧月夜』を磨き終わってしまった。
ロキはまだ床に転がっているし。
他の武器も磨いとくか。
「そういえば、ランちゃんは何の職業でスタートしたの?」
あ、まだ誰にも職業言ってなかったんだった。
この双子には言ってもいいか。
別に、『ランダム』が『農家』になったって他人に言いふらすとしてもどうせ私の知り合いくらいしかいないだろうし。その人たちには伝えるつもりだし。
「『農家』だけど」
「「………」」
対面に座っているルキはまだしも、ロキはそんな目でこっちを見ないでくれません?
ちょっとだけ農家を選んだのを後悔し始めている。まさか『農家』がそんなに嫌われ者だとは思わなかった。
まぁ、もう選び直せないから後悔してもしょうがないんだけどね。




