周囲がなんと言おうとも
短編→なんか長くなりそうだから分けて中短編くらいにしよ→逆に収集つかなくなってきたな→再度短編に圧 縮 !!
という事で三万文字超えたので真の暇人か時間に余裕がある人だけどうぞ。
リリス・エウリディアは伯爵家に生まれ、いずれはアングレーズ侯爵家に嫁ぐ事が決まっている。
婚約者の名はセドリック。
とはいえ、この婚約は急遽決まったものだった。
本来ならリリスは女官や文官あたりにでもなって、身を立てていくつもりであった。
家には兄と姉がいて、家を継ぐのは兄が、姉はやはりリリスが考えたように将来的に自立していくつもりだったらしく文官試験をサクッと合格し、そして城勤めになってから出会った子爵家の男性と結婚をした。
少しばかり年の離れた兄も姉も優秀で、それは勿論両親もそうだった。
一族の誰もが優秀だとされていたからこそ、リリスもまた自分の事は自分でなんとかしようと考えていたのだ。
家族は別に決まりというわけじゃないのだから、リリスが必ずしも独り立ちしなければならないわけではない、好きにしていいのだと言ってくれたけれど。
だがその言葉に甘えて本当にそうしてしまえば、周囲の声は今よりも酷くなるのだとリリスもわかっていたから、姉のように文官を目指そうと思ったのだ。
一族の誰もが優秀でいずれも何らかの実績がある。そんな中、周囲のリリスへの認識は優秀な一族の出涸らしである。
家族や親戚はリリスの事をそんな風に見ていないけれど、周囲はそう見ていた。だからこそ表立って面とは言わなくとも、コソコソと彼女の事を出涸らし令嬢と言って蔑んでいたのだ。
そしてリリスはそれを知ってしまったからこそ、自分が一族の恥とならないようにとより一層励んでいたのだが……悲しい事に結果は変わらずである。
リリスは自分が優秀だと大声で言える程の自信はないけれど、別に彼女は無能というわけではない。
リリスだって彼女の親族たちと比べさえしなければ、充分に優秀である。
ただ、リリス以上に彼女の一族は皆優秀であったので。
そんな者たちと比べるとどうしても劣るように見えているだけなのだ。
彼女の事を出涸らしと呼び下に見ている者たちとリリスなら、勿論リリスの方が圧倒的に優秀なのだが、比較対象がそんな者たちとではなくあくまでも優秀なリリスの親族たちなので。
そしてまたリリスも兄や姉、両親、それ以外の親戚たちといった誰もが優秀である事を理解していたし、憧れ、尊敬もしていた。
そんな素晴らしい彼らと比べられれば、自分なんて大した事のない存在なのだ、とどこか卑屈な感情があったのも否定はできない。
なんにせよ、比べられる相手が相手だからこそ。
リリスは比べては彼女を見下す連中に反論もしていなかったのである。
文官になるための試験へ向けて、リリスは学園に通っている間に猛勉強をするつもりでいたのだ。
平民は学校に通えない者もいるが、しかしリリスたちのような貴族は身分にかかわらず学舎で学ぶ事が定められている。家で高度な教育を受けられる者は貴族の中でも限られてくるし、貴族の基準での一般的から基準を下回るような教育しか受けられなかった貴族がよそで恥を晒すような事になれば、巡り巡って自国の恥となってしまう。
あの国の貴族は馬鹿しかいない、なんて噂されるようになれば当然侮られるのは言うまでもないし、実際に教養が足りていない相手が外交に行くような事になれば、騙される形で不利な条約を結ばれないとも限らない。
最低限のラインを作り上げておく、というのはそういう意味では重要ではあるのだ。
他国では、女に学は必要ない、などとされ学ぶことすらままならないというところもあるようだが、少なくともこの国では貴族として生まれた以上は性別に関係なく学ぶことは許されている。
――頑張る、つもりではあったのに。
婚約が決まってしまったのだ。
リリスが望んだわけではない。アングレーズ家から望まれた結果だ。断る事だってできた。
しかしリリスはセドリックと顔合わせをした時に、この話を受けようと決めたのだ。
リリスの相手となるセドリックは、アングレーズ家の次男である。
本来ならば彼も跡を継ぐ事はなかった立場だ。
けれど、兄が家を継ぐ事ができなくなってしまった結果、急遽彼が後継ぎとなったのである。
セドリックは――兄のアシュレイもそうだが、アングレーズ家の子息は美男子だと社交界でも評判であった。だがセドリックはいずれ家を出る事が決まっていた。故に、是非ともうちの婿に、という家も多かったのだ。顔だけが整っている、というわけでもなく、相応に優秀であるという話もあったがために。
いずれ家を出る身だから、と彼は婚約者を決めていなかった。
どこかの家の婿に入る事も選択肢の一つとしてあったかもしれないが、結局婚約者をもたなかったという時点で彼は家を出た後の事をそれなりに考えていたのではないだろうか。アングレーズ家にある他の爵位を授かるか、それとも貴族であることを捨て平民として生きるかまでは、リリスも知らない。そういった雰囲気を漂わせていた事はあったけれど、深く踏み込んで聞けなかったのだ。
仮に聞いたとしても、もうその未来は消えてしまうのだから。
セドリックが後継ぎとなる、とはいっても、アシュレイは死んだわけではない。生きてはいる。
ただ、外に出る事はもう無理だろうとされているから、結婚後、アングレーズの屋敷には兄もいて、彼の妻も生活すると聞かされている。
普通に考えれば冗談ではない、と言うところだろう。
跡取りになるはずだった長男とその妻がいる、という時点で、なんともやりにくい空気を感じるのは当然だ。アシュレイとセドリックの両親は結婚後、少し離れた土地の屋敷に移ってそちらで生活すると言われているが、それにしたって考えようによっては姑や小姑のようなものが常時身近にいるようなもの。
普通に考えたなら、この結婚は決して良い話ではない。むしろ事故物件を掴まされるようなものになったっておかしくはなかった。
周囲はその事実を知らないからこそ、リリスの婚約を上手い事やった、なんて僻んでいる者もいる。
そういった相手は普段からリリスを出涸らし令嬢と陰で嗤うような相手なので、親切に真相を教えてやるつもりはない。
本来ならばアングレーズ家の次の当主となるはずだったアシュレイ。その妻になるはずだったディアンナ。
アシュレイが当主となる事ができなくなった時点で、本来ならばディアンナとの婚約は解消されるはずだった。けれど、ディアンナ本人がそれを拒否したのである。
何があっても彼の妻となるのは私で、そのためならば身分だって何もいらないと言い切ったのである。
セドリックとの初顔合わせの時、家の事情を説明された。
ついでにアシュレイとディアンナとも顔を合わせた。
もしあの時、あの二人を敵に回すような態度や言動をとっていたのなら。
間違いなく、リリスはこんな風に学舎に通う事すらできなかっただろう。
当主となるどころか、社交の場にも出る事ができなくなった男の妻になるなど、ディアンナの実家からしても旨味のある話ではない。
だが、それでも二人の結婚が認められたのは……
事情もあるし、周囲の思惑もあった。
身も蓋もなく言ってしまえばただそれだけの話である。
リリスは直接ディアンナと会って話をする機会は今までなかったけれど、それでも噂で幾度となく耳にしていた。美しさもさることながら、才女であると。
家族以外でそういった優秀な人物が話題として出てくる事はリリスの周辺ではあまりなかったから、いつかお会いしてみたい、と思っていたのは確かだ。
そして実際に会って話をしてみれば、リリスは何故あと一年早く生まれてこなかったのだろうと後悔する程度にはディアンナと気が合ってしまったのである。
まぁ一年早く生まれていた場合、セドリックとの婚約の話がこちらにきていたかはわからないが。
後継者としての教育をされていなかったセドリックは、リリスと同じように学舎で学び、家でも学ぶという中々に忙しい生活を余儀なくされている。だが、兄がいるので最悪困った時は彼に話を聞くことができるので、まだマシな方なのかもしれない。
隣国の話になるが、数年前に王太子が失脚、というか自滅した一件では身分の低い娘を正妃にしたいとのたまいだして、本来の婚約者に濡れ衣を着せ追いやろうとしていたが、まぁ成功するわけもなく。
王太子が今までそんな愚かなことを目論んだり挙句実行に移そうとしていたなど思いもしていなかった周囲はとても大変な事になってしまったのだとか。
隣国からの噂なので、正確な事はリリスもわからないが、やらかさなければ王太子はそのまま次の王になっていたはずなのに失脚した結果そういった教育を受けていなかった弟が急遽その座についた事で、第二王子はとても苦労したという話は聞いている。
第一王子のように時間をかけて順を追って学んでいけば第二王子だって困らなかったかもしれないが、そんな時間はなかったのだ。
そのせいで短期間で寝る間も削って詰め込み教育。教師がいたとはいえ、その教師たちも王宮内の勢力図が書き換わった事で色々と右往左往していたらしく、第二王子を中心に様々な人たちが大層苦労したのだとか。
ま、王となって国を導かねばならぬ立場だ。
苦労するのは言うまでもない。
しかもその時点でもう王太子にはついていけぬ、と職を辞し田舎に引っ込んだ優秀な者たちや、甘い汁を啜ろうと目論んでいた連中の一掃、といったものや、王太子が失脚した事で第一王子派であった貴族たちもそのままでは泥船に乗ったまま、となれば。
城も大忙しだが、結果として国中にその忙しさが広まってしまったのは言うまでもない。
本来の後継者がその立場でいられなくなり、急遽スペアであった弟が、という点では同じである。
ただ、隣国の第一王子はその後病死したらしいけれど、アシュレイは生きている。違いはそれくらいだ。
隣国の第二王子が困った時に兄を頼るという事はできずとも、セドリックは兄に助言を求めるくらいはできる。
王族と貴族の差、というわけではないが、やらかした者とそうでない者の差は明確に存在した。
リリスもまた侯爵家の夫人となって夫を支える事になるわけだが、リリスもそういう意味では姉のように慕うディアンナに助言を求める事はできる。
頼もしい味方が近くにいる、と考えているのでリリスにとってはこの婚約はとても良い話であったのだ。
それに――
味方、という意味では王太子――勿論隣国ではなくこの国の――と、その婚約者でもある公爵家のご令嬢もまた味方といってもいい。
今までのリリスだったなら関わる事もないような大物が突然身近な距離にいる、となって恐縮しないはずもなく。けれど、同時にとても頼もしくもあった。
だからといって、そういった人物が自分の背後にいる、なんてわざわざ自分を見下してくる相手に教えてやるつもりはない。
リリスの事を見下してくる人物は、女性は降ってわいた縁談に僻んでいるのがあからさまだし、男性は己の能力よりも優れているリリスに八つ当たりしているだけなのだ。
思う部分がないわけではないが、生憎とやる事が多すぎてリリスはそういった小物に関わっている時間はないのである。ある程度余裕が出てからなら、そういった連中の排除を考えたかもしれないが、今の時点でそれを優先するか、となるとそうではなかった。ただそれだけ。
まぁリリスはまだ暇な方である。自由時間がほとんどなくても。
むしろ大変なのは婚約者でもあるセドリックだ。
彼は元々学舎で学び終え卒業した後はどうするのか、あまり周囲に話したりもしていなかった。是非婿に、と誘われていたところもあるが、それらをうまく躱していたのに、今や跡取りとなってしまった事は社交界であっという間に広まって、今まで婿に、と言っていた家とは別の、是非ともうちの娘を嫁に、なんて家が殺到したのだ。
すぐにリリスとの婚約を発表したので、多少は事態も落ち着いたが。
それでも今でもリリスを排して……なんて考えていない家がないわけではない。
出遅れた、と思った嫁にと売り込んだ令嬢たちの僻むような声も、リリスには時々届いている。
出涸らしのくせに。
その言葉が一日の間に何度も耳に入ってくるのだ。
リリスは確かに一族の者と比べると劣っているのかもしれないが、それでも世間一般と比べれば充分すぎる程に優秀である。実際出涸らしと聞いて侮っていた者たちは、試験でリリスの成績を知ってプライドをずたずたにされたものだ。
出涸らしだと見下していた相手が、自分よりも優秀な成績を修めているのだ。お前は出涸らし以下、と成績で突きつけられたのだから、そりゃあプライドも粉々に砕けよう。
令息たちよりもむしろ令嬢たちの方がまだ悪口のバリエーションは豊富であった。
出涸らし、という言葉は勿論だが、それ以外でも見た目についてコソコソと悪口を言われているのをリリスも知っていた。社交界でよく噂になるような美貌をリリスが持ち得ているか、となると確かにそれは持ち合わせていない。髪や目の色もどちらかと言えば地味な方だ。両親や兄や姉は皆キラキラと輝かんばかりの金色の髪をしているが、リリスだけは少しくすんだ色だった。金色ではあるけれど、光の加減で明るい茶色に見えたりもする。それに目の色だって皆空や海を思い起こさせるような鮮やかな青系統の色をしているのだが、リリスだけは深い森の中のような――暗めの緑色、と言えばいいだろうか。
それもやはり光の加減で黒に見える時もあって、それも、出涸らしと言われる原因の一つなのだろう。
彼女だけ色合いが異なるから、捨て子を拾ったのではないか、なんて噂もリリスが幼い頃に少しだけ出回った事がある。しかし母方の祖母の色と同じであるので、彼女だけが血筋が異なるなどという事はないのだ。外見も兄や姉は確かに母や父の面影があるが、リリスだけは母方の祖母に似ている。
両親はそれを知っているし、また兄も姉もよく理解しているから冗談でも決してうちの子ではないなど言うはずがない。そんなことを口にするのは、心無い外野だけだ。
だがリリスはその噂で傷ついた事はない。
むしろ自分より優秀である両親や兄、姉を敵に回す結果となっているのだ。そんなことを口に出して笑い話にしているような輩は。
全然これっぽっちも傷つかなかったか、と問われると最初の頃は確かにちょっと嫌な気分にもなったけれど、しかしすぐに立ち直ったのは頼りがいのある家族たちがリリスの味方だったから。
そして賢いリリスは誰を敵に回したのかもわからず悪口で盛り上がっている連中の末路をなんとなく察してしまったから。
そんなのに心と時間を費やす必要はないのだな、と幼いながらに悟ってしまったのである。
一時期は少しだけ潜んでいた出涸らし、という言葉はしかしセドリックとの婚約が決まった後、再び耳にする回数が増えた。セドリック様に相応しいと思っているの? なんて言われた事もあるけれど、相応しいから婚約者として選ばれたのだ。
夫を支えるための優秀さを求められた。それ以外でも相応しいかどうか、というポイントがあった。リリスはそれらをクリアしたからこそ、婚約者となったのだ。
リリスの心を折ってその隙に自分たちがその立場に成り代わろうとしている令嬢たちは、何もわかっていない。
汚い囀りに耳を傾ける暇はないので、リリスとしては放置している。
周囲が敵ばかり、みたいに思われがちだがしかしリリスにはマトモな友人たちもいるので。
自ら品位を下げにいくような連中のために、自分がわざわざ何かをしようだなんてこれっぽっちも思っていなかった。他にやらなきゃいけない事はたくさんあるので。
むしろ、と思う。
むしろ、自分を無視して直接セドリックに言い寄っている令嬢たちの方が余程危険なのよね……とも思うのだけれど。
忠告をしてあげようとは思わなかった。
そちらもリリスの事を出涸らしと呼ぶような者たちだ。親切に忠告をしたところで、婚約者を奪われるのが怖くて嘘を言っているだとか、そういう風に思われるのが目に見えていた。あの手の輩は落ちる所まで落ちてからようやく今更のようにどうして言ってくれなかったの!? などと言うのだ。事前にどれだけ忠告したところで。
わざわざリリスが直接関わるよりは、セドリックに自分が敵ですと言っているようなものなので、そちらに任せるべきだろう。
セドリックは紳士とはこうあるべし、みたいな見本のような対応をしているけれど、内心で相当これは苛ついているな、とリリスにもわかるくらいお怒りなので。
まぁそのうちどうにかなるのは間違いない。
跡取りでなかった時は嫁入りなんて何の旨味もない男だった。いくら見た目がよろしくとも、優秀であろうとも、将来性がわからない男に嫁ごうと考える家が多くないのは当然である。せめて少しでも何かしらの旨味がなければ、そう思うのはリリスにだって理解できるのだ。実際かつてはスペア令息なんて呼ばれていた事もあったくらいだ。まぁ、スペア、という言葉は別にセドリックだけではない。次男三男あたりは大体一度は密かに言われている。ただ、実際にそのスペアが必要な事になる事態に滅多にならないからこそ、セドリックはスペアが本当に役に立った、という意味も込められてよりスペア令息と言われているようだが。
大事に大事に育てた娘を、平民になるかもしれない男の嫁に、だなんてその娘が望みでもしない限りはまぁしないだろうなとはリリスでなくたって誰だって理解できるだろうし。
だが、彼が急遽跡取りとなった事で、今まで関わるつもりなど一切ありませんよ、という態度だった者たちまでもが一斉に群がったのだ。
そういう意味ではリリス以上に大変な状況であると言える。
今のところはコソコソしつつも聞えよがしな悪口くらいしかリリスは言われていないけれど、セドリックの方はあわよくばリリスよりも仲が良いのだと周囲に思わせて外堀から埋めようとしている令嬢たちもいる。学び舎で流石に既成事実として媚薬を飲ませてからの肉体関係の偽造とまではやらかさないだろうけれど、しかし学舎の外ではどうなるかわからない。
どこかの家のパーティーに招待されたり、城で行われる催し。そういったものもあるのだ。機会があれば本当に既成事実を……と目論んでいる者はきっとそれらを虎視眈々と狙っているに違いない。
まぁ、そう上手くいくとも思っていないが。
アングレーズ家の次期当主の交代、それに伴う婚約者の選定。
それだけ聞けば確かに旨い話が降ってわいたように思える。
だがセドリックが後継ぎとなって新たな当主となるまで、猶予はあまりない。本来アシュレイが継ぐはずだったのを先延ばしにしたとはいえ、現アングレーズ家当主であるアシュレイとセドリックの父は、アシュレイが当主になれなくなる少し前に落馬したのが原因で足と腰を痛めてしまっている。その結果長時間座っての仕事が難しくなっており、それもあって本来ならもっと早くにアシュレイに当主の座を譲るつもりだったのだ。
だがアシュレイが後継ぎとなるには難しい状況になってしまったので。
現在は騙し騙しどうにかやっているけれど、セドリックが卒業するのと同時に引退する事が決まっている。それ以上先延ばしにすると、身体に更なる負担がかかるとの事で医者からも色々と言われているのだ。
だから、侯爵夫人としてそれまでに使い物にならなければならない。
リリスはセドリックの母やディアンナに詰め込み教育としてギュウギュウなスケジュールで教わっているけれど、今セドリックに群がっている令嬢がそれらを乗り越えられるとはとてもじゃないが思っていなかった。
仮に、それをクリアできるだけの逸材がいたとしても。
それでも彼女らの誰かが選ばれる事はないだろう。
アシュレイが後継者となれなくなったのは、別に本人が何かをして醜聞が、とかそういった話ではない。
アシュレイは王太子でもあるアルフレートと同学年で、所謂学友と呼ばれる立場だった。首席と次席とで成績で競い合う、ライバルと言えるものでもあった。
アシュレイはアルフレートの側近というわけではなかったが、いずれ侯爵となった暁には領地を盛り立て国に貢献していくつもりではあった。アルフレートもアシュレイならばそれができると信じて疑っていなかったし、側近になってほしいという気持ちはあったけれど、しかしそういった少し離れた場所からであっても頼もしく自分を支えてくれる仲間がいる、と思えば大層頼もしく思っていた。
大人たちから見れば、彼らは青春を謳歌しているといっても過言ではなかった。
ところがある日、アルフレートを襲った者が現れた。
授業が終わり、生徒が帰宅し人の少なくなっていく学舎。アルフレートもアシュレイも生徒会に所属していて、普通の生徒より帰りが遅くなってしまっていた。
迎えの馬車に乗り帰るため、歩いている途中。
教室から学舎の門とは異なるルートを移動していたため、人気はほとんどなかったが、そもそも王侯貴族が通う場だ。警備の目は行き届いていたはずだし、不審者が外部から侵入するという事は確かに難しい話であったのだけれど。
アルフレートを襲ったのは、生徒だった。
部外者に対する目は厳しいものだったが、生徒にそこまで厳しいチェックはされていなかった。大体、高位の身分にある者を下手に害せば、いくら身分に関係なく学舎では貴族は皆学ぶ事ができるとはいえ、それ以外にまで身分は関係ないというわけではない。
失礼な事をすれば家に抗議の手紙が届けられる事だってあるし、立場を弁えずにやらかせば最悪家諸共消え失せる、なんて事もあり得るのだ。
学生たちは授業中を公とするならそれ以外が私として、公私の区別をつけていた。
だから、やらかす生徒なんてここ数年いなかった、というのが仇となった。
アルフレートを襲った生徒から咄嗟にアシュレイが身を挺して庇い、結果、彼は。
後継者となるのを断念する結果となったのだ。
生きてはいる。
ただ、アルフレートを襲った生徒はとある薬品をアルフレートに浴びせようとして、それを庇ったアシュレイが代わりにかぶる結果となって。
彼の顔は二目と見れないものへと変化してしまった。
一部の皮膚は溶け、瞼がなくなった片目は眼球がむき出し状態になり、火傷のような痕がついた皮膚は見ているだけでも痛々しい。髪も一部が溶け落ちて酷い有様だった。
何も知らない者が見れば恐怖に怯え「化け物……!」と悲鳴混じりに叫んだ事だろう。
アシュレイの顔立ちは元々が整っていたので、余計に落差が激しかった。
美丈夫としてのアシュレイしか知らない者が見たならば、同一人物だとは信じないだろうくらいに変貌してしまったのである。
医者が手を尽くしたが、焼け爛れた皮膚は戻らず、どうにもできなかった。
喉周辺の皮膚にも影響を及ぼしたらしく、かつては美声として令嬢たちをうっとりさせていた声はがらりと変わってしまった。
たとえ怪我をした顔を包帯で覆うだとか、仮面をつけるだとかで誤魔化したとしても、声もかつてと変り果てているし、いくら事情を知っている者たちであっても、そのままの顔を晒されれば思わず目をそらしたくなる程に酷いものだ。顔を隠したまま社交に出たとしても、どうしたって心無い噂は広まるだろう。
故にアシュレイは自ら後継者としての座を辞したのだ。
そうするしかなかった。
その際婚約していたディアンナとも解消するつもりだったが、彼女は見た目が変わったくらいで、と啖呵を切って何が何でも貴方の妻になる、と言い切ったのである。
跡取りにもなれない男の妻になったところで、何の旨味もないのだがディアンナはそれすら一蹴した。
王太子をその身を挺し庇ったという事で、アシュレイには相応の生活の保障が約束された。
アルフレートを襲った生徒は即座に捕縛され処分された。
事件の裏側で色々とあったようだが、それが大々的に知らされたわけではない。様々な思惑が絡んでいた事もあって、全てを明かすとなると国内が混乱に陥る可能性がとても高かったからだ。
故に内密に事は運ばれ、アシュレイがアングレーズ家の後継者ではなくなってしまった、という事実は知られても実際どういう姿になってしまったか、を知る者はほとんどいない。
ディアンナの実家も婚約の解消をするものだと思っていたようだが、ディアンナ本人が何が何でもアシュレイと添い遂げるのだと言い張っていたので、根負けした。
結果的に密かに国を救う形となった男だ。本人がそれでいいのなら……と事態を飲み込むしかなかった、とも言う。
リリスはセドリックとの顔合わせの後、婚約者となる事を決めた際アシュレイの惨状についても聞かされていたし、リリスの方から結婚して嫁いだとして、もしかしたら彼と遭遇する事も可能性としてゼロではないから、と先に会えるかを問うた。
何の覚悟もないままにアシュレイを見れば大抵の者は声の大小に関わらず悲鳴をあげるだろうと思われたが、しかしリリスはそうではなかった。
もしディアンナの手が回らない時は、包帯を巻いたり彼の生活の助けをする事も構わない、とまで言った事で。彼女はセドリックだけではなく、アングレーズ家全員から認められたのだ。
アシュレイの妻となるディアンナにも。
リリスは別に肝が据わっていた、とかではない。
事前に事情を説明もされたし、確かにアシュレイを見た瞬間、驚きはしたのだ。
だが、見た目も声も酷い事になっていようとも、話が通じる相手だったので。
あ、じゃあ大丈夫か、と雑に納得したのである。
繊細な令嬢であればこうはいかなかった。
自分より優秀な人間に囲まれ育った事もあって、リリスの周囲は皆高度な会話を繰り広げたりもしていたけれど、だからこそそれ以外の――同じ言語を使っていながら何故か会話がかみ合わないタイプがリリスは苦手であった。
学び舎に通う前でも、他の貴族たちと関わらないわけではなかった。その時に、ヒトの形をして同じ言葉を操っているのにどうしてか話が通じない相手というのもそれなりに相手にしてきたので。
リリスからすればそちらの方が余程人外である。
だから、見た目が酷い事になろうとも、マトモな会話ができる相手であるならば何も問題はなかったのだ。
リリスが将来的に己の身を養うために文官を目指していたのだって、嫁いだ先の婚家で、夫の親かそれ以外の身内との会話が成り立たなかったらどうしよう、というのを考えたから、というのもある。
身近な人間との会話が成り立たないというのがリリスにとっては苦痛だったので、だったら一人で生きていく方法を選んだ方がマシだと思っていたのもあった。
だが、セドリックの家はそうではなかったので。
それも、リリスが婚約の話を受けた理由の一つだ。
アングレーズ家は王太子アルフレートからあからさまというわけではないが、目をかけられている。それは事実だ。実際アルフレートはアシュレイによって救われた。
もしアシュレイがあの時アルフレートを咄嗟に庇わなければ、人前に出るには難しい見た目になっていたのはアルフレートだったし、もしアシュレイのような見た目になった後なら彼が次の王として人前に出るのは難しかっただろう。国民の前に出る時は顔を隠して――としたとしても、他国との外交の時までそうはいかない。そうなれば、やはり見た目で色々言われるのは避けられないし、それを考えればアルフレートは人目に触れない場所で密かに生きて王家の仕事を手伝える範囲で手伝うだけの生活をするか、はたまた療養という形で人目に一切触れない建物で暮らし、生涯を終えるかだっただろう。
そういう意味ではアシュレイは確かに国を救ったのだ。その身を犠牲にして。
ただ、周囲はそこらの事情を細部まで知っているわけではないから、いらぬ勘繰りや憶測が生まれてしまっているようだけど。
アルフレートは無事に卒業したけれど、アシュレイは卒業式には参加できなかった。
あの事件が起きる前までの成績に何ら問題はなかったからこそ卒業した、という事実は存在しているが、それより少し前に休学状態だったのだ。
同じ年代の生徒であれば、何か事件があった、というのは知っている。詳細を知らなくとも。なので休学した、というのも同じクラスや学年の生徒であれば一応知ってはいたけれど、別の学年の生徒は休学ではなく退学したのだと思う者もそれなりにいた。
アシュレイの姿が見えなくなって、その後でアングレーズ家の次の後継者がアシュレイではなくセドリックとなった事で。
事情を詳しく知らない者はアシュレイが何らかの失態をおかし、廃嫡されたのだと思い込んだ者さえもいたのを、アングレーズ夫妻は社交の場で知ったくらいだ。
情報収集もマトモにできない貴族というのはある意味で致命的ではあるのだが、しかしこの一件に関しては大っぴらに知られる事がないように、となってしまっているから。
知らなくても仕方がなかったし、アングレーズ夫妻やセドリックもわざわざ兄が怪我をした事が原因で後継者から外されたと言う必要性もなかったので、間違った噂に踊らされている者たちの数はそれなりにいる。
そして、そんな噂に踊らされている一部がリリスの降ってわいた婚約に僻んだり妬んだりして陰口を叩いているのだ。リリスからすれば馬鹿馬鹿しいとすら思う。
知らない事は仕方がないけれど、それに伴ってない事ない事馬鹿みたいに話を膨らませていくような連中は、リリスが何もしなくたってそのうち痛い目を見るだろう。
アングレーズ夫妻か、セドリックか、ディアンナか、アルフレートか、王太子の婚約者でもあるミレイユか……誰が原因でそうなるかまでは定かではない。
リリスが入学をした直後からそんなだったのだ。
卒業までに何としてもセドリックを射止めよう、としていたらしき令嬢の数もそれなりにいた。
そして、取るに足らないものではあったが、リリスに対する嫌がらせもそれなりに。
だがリリスは孤立無援というわけではなかったので、時に自分で、時に友人の助けを借りて、時にはセドリックや彼の友人たちから守られていた。
些細な嫌がらせ程度であればともかく、度が過ぎていると思われるものに関しては家からやんわりと抗議の手紙を出したりもした。
アルフレートがセドリックとリリスの婚約は王命であるかのように誤解を招く言い方をした後からは、そういった嫌がらせもぐっと減った。
だからこそ、と言っていいかはわからないが、三年間の学生生活はそれなりに穏やかに過ぎていったと思う。
完全に穏やかとは言えなかったけれど。
やはり出涸らし令嬢だと囁かれてはいたし、エウリディア一族のくせに地味すぎるともコソコソ言われていたけれど。
しかしその程度ならリリスにとって痛くも痒くもないものだったのだ。
だが、次期侯爵になる美男子の嫁、という立場を諦めきれない令嬢は完全にはいなくならなかった。学舎を卒業した後は、そう時間をおかずにセドリックが侯爵となる。
もう、今から侯爵夫人になる夢なんて見たところで間に合わないのに、それでも諦めきれていない者がいたらしく、卒業式、なんとリリスは友人が呼んでいる、という嘘に騙され卒業式の後に行われるパーティー会場から離れた一室に閉じ込められてしまったのである。
しかも閉じ込める前に、ご丁寧にドレスにはワインまでぶちまけられた。
淡い色合いのドレスに、渋めの赤い染みがついてそこだけ異彩を放っている。
斬新なデザイン、と言い張れればいいがどう足掻いてもその言い訳は無理が過ぎる。濡れた直後はまだ赤が強かったけれど、乾くにつれて赤茶けた色合いはどうしたって汚れでしかない。
ご丁寧に嘘までついてこうやって閉じ込めた令嬢は、きっと今頃会場でセドリックに言い寄っているのだろう。最後のチャンスだ。絶対にモノにすると決めてもしかしたら媚薬なんて持ち出すかもしれない。薬を使わなくたって、どうにか二人きりになってどこか別の個室にいけば既成事実に持ち込む事は可能かもしれない。実際にそういった行為があったかどうかはさておき、若い男女が個室に二人きりという時点で様々な憶測を生むのは確かで。
はぁ、とリリスはそこまで考えて思わずため息を吐いていた。
仮にそんな事をして既成事実を作ったところで、どう考えたって彼女がセドリックの嫁になるのは不可能だ。
責任をとれ、と言われたところで本妻になれるはずもない。
精々、周囲の権力者の力を借りて第二夫人という名目を与えられ、離れの小さな屋敷に押し込められ、愛人として囲われそのまま放置、という惨めな未来があるかどうかだ。
下手をすればアシュレイの世話係として彼と引き合わされて、逃げ出そうとしたところをこっそり始末される可能性の方が余程高いくらいだ。
確かにかつての美貌は消え失せたアシュレイだが、別に彼は人前に姿を見せる事に躊躇いはないのだ。
ただ、周囲が驚いたりするのがわかりきっているから、あえて余計な騒ぎをおこさないために引きこもっているだけで。
なのでアングレーズ侯爵家の屋敷内部で、アシュレイは案外普通に生活をしている。
使用人たちも最初はその容姿に驚きはしたものの、彼の見た目を忌避するでもなくむしろそんな目に遭わせた下手人に対して怒りを募らせる方向性だったので、本当にアシュレイは外に出る事だけができないだけなのだ。
声も確かにかつての美声からは遠のいたが、会話をするのに不自由はない。
ディアンナが時折外で情報を集めて、アシュレイはそんな妻の話を聞いて状況を把握する。
それは、リリスがかつて読んだ娯楽小説の安楽椅子探偵というものに近かった。
セドリックは兄のようになる、と努力をしているけれど、流石にあそこまでの領域に至るにはまだまだだ、と落ち込んでいたけれど。
リリスの目から見たセドリックは、それでも充分に頼もしい存在だ。
現に今だって――
「リリス! 大丈夫か!?」
会場にリリスの姿が見えない事で、何があったか瞬時に察してくれたのだろう。
閉じ込められていた扉をぶち壊す勢いで開けて、セドリックは駆けつけてくれたのだから。
「えぇ、閉じ込められただけで、何も問題ございませんわ」
だからこそリリスも微笑んで答える。
セドリックの視線が、ワインをかけられ染みになった部分に一瞬向けられたがそれだってリリスからすれば何も問題ではない。まぁ、申し訳なさはあるのだけれど。
あの令嬢も詰めが甘い。
ワインをドレスにぶちまけて、閉じ込めるだけで済ませるなんて。
どうせなら足の一本でもへし折って動けないようにすれば、セドリックのエスコートでリリスが会場に戻る事なんてなかったのに。
いや、足を折る、という事をすれば流石に言い逃れもできないと思ったのか。ワインをぶちまけたのは、周囲で見ていた者がいないのでそれについてはわざとではない、事故だったと言い張れるだろうし、閉じ込めたのだってまぁ、言い訳はいくつか浮かぶ。
この程度なら不幸な偶然だとか事故だったとか、言って言えなくもない。
その程度の妨害で、セドリックを射止める時間が捻出できたか、と言われればまぁ無駄に終わったわけだけど。
確かにドレスに染みがついて目立ちはするが、それ以上に堂々とした振る舞いのセドリックが隣にいるのでむしろ視線はほぼそちらに向いた。
同時にリリスもドレスの染み? 最初からそういう模様でしたけど何か? みたいな顔をして同じように堂々としていれば、やはり視線はセドリックに向いた。
リリスの家族やセドリックと比べると、リリスの顔立ちは地味に見えるから。
どうしたって人々はパッとしない存在よりも輝かしい存在に目が向くものだ。
「そういえば、あの方どうなさいましたの?」
会場で音楽に合わせてダンスを踊りつつ尋ねてみれば、セドリックは何を言われたのかわからない、という顔をして数秒考えこんだ。
「あぁ、彼女か。
今時子供でももっとマシな嘘を吐く。あれでよく私を騙せると思ったものだ」
言いながらセドリックの視線は一切動かずリリスに向けられている。
あら、これはきっと手酷く振られたのね、とリリスはそれだけで察した。
確かにセドリックは普段から紳士然とした振る舞いで、女性に対しても穏やかかつ優しいものではあるけれど。
逆に言えば女性であるならセドリックの態度は全部同じであるのだ。
老女であろうと幼女であろうとレディ扱い。
生憎とセドリックに想いを寄せていた令嬢たちがセドリックと会う場所は限られていたから、わからなかったのだろう。自分が老女や幼女と同じ扱いしかされていないという事実を。
なんとはなしに視線をちらりと巡らせれば、壁の方で酷い顔色をした令嬢が見えた。
自分を閉じ込めてまでセドリックをどうにかして落とそうと意気込んでいたはずなのに、今では見る影もない。果たして何を言ったのか、少しだけ気になりはしたけれどセドリックの中でこの話題はとうに終わったのだろう。
……いや、後日改めてやり返す可能性はあるけれど、だからって今、その話題はセドリックの頭の中には存在していないのだ。
あくまでも後でやる事後処理程度に記憶してはいても、今ここでそれがリリスとの話題になるなどこれっぽっちも思っていないに違いない。
ドレスの染みなど些細な事だとばかりに堂々としたまま踊り終えて、セドリックにエスコートされて会場の隅、いくつかの軽食が用意されている方へ移動する。
そうしてリリスの友人たちが「大丈夫!?」と声をかけてくれたけれど、正直何も問題はないのでやはり先程セドリックに言ったように「大丈夫よ」とさらりと答えた。
「でもそのドレス……」
「あぁ、これ? 平気よ。染みがついただけだもの」
「もしかしてそれ……」
友人の一人が、先程リリスを騙して閉じ込めた令嬢へと向けられる。
セドリックにあっさりと振られていた様子を見ていたために、リリスがいない隙に行動に移った彼女が何かをした、と考えたのだろう。正解である。
正直に答えたところで、別にリリスは困らない。
困るのは友人が呼んでいるなんて嘘までついて閉じ込めた彼女だけだ。
けれど、既にそうまでして時間を作ってセドリックに言い寄ったのに作戦は失敗。
「いいのよ。彼女だってわかってるわ。
卒業して一人前、成人したとされているのに未だにそそっかしいのがなおらないんだから苦労するのは彼女の方よ。大変ね」
リリスとしては別にトドメを刺そう、とまでは考えていなかった。
ただ、既に失敗し、目論見は砕かれてしまった彼女に今これ以上何かを言って争うような事をするつもりがリリスにはなかっただけだ。
というか、別に友人でもないただ同じ学舎に通い学んでいたという共通点しかない存在である。
いくら自分の夫になる相手を狙っていたとしても、リリスにとってそれは何の意味もなさなかった。
脅威ですらなかったのだ。
今までリリスの事を根拠もなく下に見ていた他の者たちと同様に。
ただ、他の面々はある程度のところで引き下がったけれど、彼女はそれでもそうしなかった。
諦めない、というのは時として素晴らしくはあるけれど、しかし今回はその諦めない気持ちを称賛できるようなものではなかった。それだけだ。
既にトドメはセドリックが刺したも同然なのだから、友人たちがわざわざ彼女に敵意を持ってあれこれ言うよりは、これから一緒にここで用意されたお菓子を楽しみつつ会話に興じた方がいい。
リリスとしては、そのつもりだったのであっさりと彼女の話題を終わらせようとしたに過ぎない。
けれど友人たちはそうは思ってくれなかったようだ。
くす、と笑って、
「まぁ、この年齢になってもまだ駆け回っていたの? ワイン片手に?」
「淑女とは到底言えないわね。成人祝いのワインに浮かれて駆け回るなんて」
「挙句中身を零すどころかぶちまけたのね。そういうの、幼児の頃にやらかした後はもう繰り返さないと思っていたわ」
「お転婆も大概にしないといけないわね」
「そうね……彼女の婚約者になる方がきっと苦労しそうだもの」
「まず飲み物を持ったまま走り回ってはいけない、って教えるところからだものねぇ」
リリスの友人たちは三人で、別に大人数というわけではない。
けれどもとても良く通る声でそんな風に会話をされたので。
困ったものねぇ、なんてリリスと同じように、幼子を見守るかのような態度と口調だったけれど、実際やらかしたのは幼子でもなんでもない。同年代の女性なのだ。
しかもセドリックに言い寄っていた事から、彼女には決まった相手がいるわけでもない。
幼い頃から婚約者がいる、という家も確かにあるけれどリリスのように成人間近であっても婚約者が決まっていなかった、という令息や令嬢もそれなりの数存在している。
卒業後に領地へ戻ってそちらで見つけるだとか、城勤めというように職を得た先で結婚したい相手が見つかる事もある。
なのでこうして卒業式後のパーティーでもパートナーになる異性がいない、というのはそこまでおかしな話ではない。
けれど。
こうして周囲に聞こえる形で未だに幼児と中身が変わらないのだ、と言われてしまえば。
同年代でまだ結婚相手が決まっていない令息も、流石に彼女を選ぼうとはしないだろう。
何せセドリックに言い寄っている姿を目撃している者もいたし、セドリックに断られた後でこれだ。
傍から見れば好きな男に振られ挙句馬鹿にされて笑いものにされているようで、哀れに思う部分もあるかもしれない。
けれども、他のセドリックを射止めようとしていた令嬢たちは流石にもっと早くに気付いていた。
あ、これ完全に脈ないわ、と。
だからさっさと諦めて――具体的には城で行われていたパーティーに家族で参加した際、アルフレートがセドリックとリリスの事を話題に出した時点で――身を引いたのだ。
とはいえ、それでもリリスの事が妬ましい気持ちがあった令嬢たちは時折そんな心を発散するように悪口を言っていたこともあったが。
そんな中、引き際を見誤って失態を晒した、となれば。
可哀そうな気もするけれど、しかしその場の状況を読めない女、と自ら態度で示したも同然で。
場の雰囲気も読めない女を社交の場に伴えば、夫となった相手は一体どんな苦労を背負いこむ事になることやら……
いくら天真爛漫な女性が好ましい、と言うような男性であっても、天真爛漫とただの幼児とでは大きく異なる。男性が求める天真爛漫はそういう風に見せながらも場の状況に合わせて行動できる女性であって、周囲の状況も何も理解せず振舞う事ではない。子供のような振る舞いをするにしても、それは例えば周囲に誰もいない二人きりの時だけ、だとかならまだしも、公の場でやらかされては恥をかくのは同伴者もなのだ。
故に彼女はこの場で、状況を察することもせず雰囲気を読む事もできないのだ、と周囲に思われる事となってしまった。学生だった時にそういった事も学ぶはずなのに、学んでいなかった、と知らしめてしまったも同然と周囲に思われる結果となってしまったわけだ。
流石に令嬢もその意味を理解して、カッと顔を赤くさせたが弁明はできなかった。
ここで正直にリリスに対する嫌がらせでドレスにワインをかけたのだ、と言ってしまえば、場の状況もわからず子供みたいにはしゃいだという認識は変える事ができるけれど、しかし次は卒業式の後のパーティーという、ある意味一生で一度しかない晴れの場で嫌がらせに及んだ性根の悪い女、という認識が周囲に植え付けられる。どう転んでも悪い方にしかいかない展開である。
わざとである、と言えばその場合ドレスを弁償する事にもなるだろうし、周囲の自分へ向けられる目も冷ややかなものにしかならないとわかっているので、結局彼女は顔を赤くしてぎゅっと拳を握り締め俯いて周囲の笑いから耐えるだけだった。
彼女の友人であるはずの令嬢は、リリスとその友人たちの言葉の裏に隠されたものに気付いてしまったがために、彼女と友人であるというだけで同じに見られるのはごめんだとばかりに微笑ましいものを見るような表情を取り繕って、もう一度学生生活をやり直した方がよいのではなくて? 卒業するのはちょっと早かったかもしれないわね、なんて場の状況を和ませようとしているかのように言ってのけた。
それはつまり、自分たちは彼女のように場の状況もわからずはしゃぐような女ではない、という意味が暗に込められていて、それを理解してしまったから余計に令嬢は耐えるしかなかったのだ。
チャンスを活かせなかった事も、失敗したあとどうなるかを考えてすらいなかった事も。
令嬢はリリスと同じく伯爵令嬢ではあったけれど、しかしこの違いは一体なんだというのか……と未だ完全に諦めきれない恋心と打算とが渦巻いて、つい、本当につい無意識のうちに呟いてしまっていた。
周囲の全員が彼女に意識を向けているわけではない。
一頻り笑った後、既に彼女の事などなかったかのように気にせず他の者と楽し気に会話に興じる者もいたし、少しばかりの休憩になった事だし、もう一度踊ろうと移動する者だっていた。
リリスの友人たちだって、彼女のプライドを軽くへし折った時点でそれ以上追撃するつもりはなかったらしく、とっくに意識の外だった。リリスとの会話に花を咲かせている。
人々の話し声、軽やかなワルツを踊るには丁度いい音楽、場所を移動しようとしている者たちの足音。
そういった音が混じりあって、彼女の呟きなんてもう誰も聞いちゃいなかったはずなのだ。
しかしその呟きを耳にしてしまった者はいた。
小さな声だから、誰にも聞かれないんじゃないかと思っていたのだけれど。
それでも、近くにいた者の中でしっかりと聞いてしまった者はいた。
聞こえていても、先程幼児扱いされた時に、実際は別の理由があったんだろうなぁ、と薄々察した者たちはただの負け惜しみと早々に判断した。
彼女とリリスは同じ伯爵令嬢ではあるけれど。
共通点なんてその程度だ。
あとは同じ学舎で学んだ生徒同士であるだとか、女性であるだとか、人間であるだとか。
共通点なんてそんなものでしかない。
成績は圧倒的にリリスの方が上だったし、外見でちやほやされていたのは彼女の方だ。
セドリックに選ばれた者と選ばれなかった者。
共通項目があっても結果が異なる部分が多すぎて、リリスと彼女が同じようなものだなんて誰も思わないだろう。
それでも、彼女は諦めきれずに呟いていた。
「どうしてそんな地味な娘を選んだの……?」
――と。
リリスの友人たちは彼女を助けるために行動した。
彼女の友人たちは早々に見捨てた。
その程度の関係性しか築けなかった、と言ってしまえばそれまでだ。
けれど彼女だって。
努力すればいずれは侯爵夫人になれると思っていたし、セドリックの隣に並んで立つのなら、せめてもう少し見た目だって美人の方がいいだろうと思っていた。
リリスとセドリックが並んでいる光景は、どうしたってリリスが霞む。セドリックの存在感にばかり目がいって、リリスがいるという事に気づくまでに若干の時間を要してしまうのだ。
そうして遅れてリリスの存在に気が付いて、どうしてあんなパッとしない娘を……と、どうしたって思ってしまって。
成績では確かにリリスが優れているけれど、しかし出涸らし令嬢なのだ。自分だって努力すればきっとリリスくらいにはなれる、と彼女は信じて疑ってすらいなかった。
努力してなれるのならば、今の時点でそうなっておけば同じ土俵で争えたかもしれない――とは、誰も言わなかった。だって彼女の心の内なんて知りようがなかったから。
だが、現時点で成績でリリスに勝てなかった、という事実が全てだ。
俯いていた顔を上げて彼女がまっすぐにリリスを見る。見る、というよりは睨みつけるという方が正しいかもしれない。
――セドリックは、案外往生際が悪いなこの女……と内心で毒づいていた。
確かに急遽結ばれる形となった婚約で、しかもお互いに次期侯爵とその夫人となるために急ピッチで学ばなければならなくなって、折角同じ建物の中にいても別の室内で勉強、といった状態が続いて婚約者となってから二人きりで交流を重ねる事ができた回数なんて恐ろしい事に学舎に通うようになった三年間の間で片手の指で数え切れる程度である。
婚約が決まったのは入学する直前だった。それ以前だと友人たちの集まりだとかで、スペア令息であるのなら、是非うちに婿入りなんてどう? とかそういう話は持ち掛けられたりもしていたけれど。
自虐で笑い話にしているうちは、そりゃ仲間内でスペア令息なんて言葉も口にしたけれど、そういった誘いでスペア令息と言う相手とは、きっとうまくいかないだろうからとのらりくらりと断って、いずれは自立して暮らしていくのだという風に思わせていた。
もし兄が、何事もなく跡を継ぐ形となっていたとして、そうなっていたなら仕事の斡旋くらいはしてくれたかもしれないから、自力でどうにかしなければ、と切羽詰まる程考えてはいなかった。
なんだったら、兄が領地を盛り立てていくのを、微力ながら手伝えたなら……なんて考えたりした事だってあった。
結局その考えは意味をなさなくなってしまったけれど。
そして、リリスとの婚約が調う前、セドリックがスペアとして正しく機能したという話を聞きつけて、侯爵夫人の座を狙った令嬢たちが群がった時点で、大層うんざりしていたのだ。
跡を継ぐまでに残された時間は僅かだ。卒業したならすぐさま、という状態なので三年なんてあっという間でしかない。
それを知ってか知らずか、自分を売り込んでくる令嬢たちはあくまでも己の容姿がセールスポイントで、中身――能力面でどうなのか、とセドリックが見定める以前にこちらが望むだけの才覚はない、と悟ってしまって。
それに、己の容姿を誇るのはともかく、その価値観であるならば、屋敷にいる兄、アシュレイを見たならばきっと彼女らは悲鳴を上げるだろう事が容易く予想できてしまった。
試しに一度顔を合わせてもらおうかとも思ったが、社交界でやれ兄の容姿が化け物のようになってしまっただとか、好き勝手貶される事になるのも気分が悪い。
確かに見た目は大きく変わってしまったけれど、中身は何も変わらないのだ。
恐らく兄とその妻になる――義姉とは間違いなく上手くやっていけそうにない令嬢たちの事は立ち回りに細心の注意を払って断っていった。
学生として学ぶべきものと、自宅に戻って学ぶべきもの。
正直それだけでもセドリックにとっては大変だったのに、そこに余計な人間関係の清算まで含まれるとなれば、本当に時間なんていくらあっても足りなかった。
婚約を受けてくれたリリスとだって中々話す事ができなくて、勉強の合間に適当な紙に走り書きした手紙とも言えないようなものでやりとりをする始末。
お互いの事は最低限、といった感じだったのも、周囲が二人の婚約に付け入る隙がある、と思われる原因だったのかもしれないが、リリスと二人で語らう時間を確保するためには一刻も早く覚えるべきものを覚えるしかないために。
結局三年間でリリスとの距離が縮まったか、と言われるととても微妙であった。
だが、それでも。
手紙どころかメモとしか言えない代物に、それでも伝えたいことは伝えるようにしてきたので。
愛のない結婚だなんて、政略結婚によくあるようなものにならない、とセドリックは信じていた。
卒業が近くなってきて、ようやくある程度自由時間も今までよりかは確保できるようになっても、手紙でのやりとりの方が多かったけれど、もう忙しすぎて疲れ果てたせいもあってか、余計な言葉で取り繕うような事もなく割と本音で語らえていたと思う。
リリスは一族の中で自分が落ちこぼれだと思っていたから周囲の出涸らし令嬢という言葉を否定しないままだったし、一族の中で自分の容姿が地味なものであるともわかっていたからこそ、少しばかりそれを気にもしていたのだ。
けれどセドリックは。
確かにリリスの他の家族と比べると、彼女は地味と言われる見た目をしているかもしれないが、セドリックからすれば親しみをもてる容姿であったし、卑下する必要などどこにもないとすら思っていた。
確かに、リリスの姉や兄は煌びやかな美貌である。両親だって華やかだ。セドリックはあまり見かける機会がなかったけれど。
セドリックの兄でもあるアシュレイもまた怪我を負うまでは輝かしい美貌だと言われていた。
だからまぁ、見た目がキラキラしている相手を見慣れていないわけではないのだ。
けれど、身内ならともかく他人でそこまでキラキラされてしまうと、しかも自分の近くにいられると、どうしたって落ち着かない気持ちになるので。
一応セドリック本人も美形であるとは言われているものの、正直自分がそのキラキラした側の人間である、とは思えなかったのだ。
なので、そのキラキラした一族の中で同じようにリリスまでもがキラキラされていたら。
きっと、セドリックは今よりももっとリリスと上手くやれていなかったに違いないと、そう思っている。
ふと空を見上げた直後に突き刺さる太陽の光のような威力を持つエウリディア家の中で、セドリックからすればリリスは森の中を歩いている時に上から降り注ぐような柔らかな光の持ち主であったのだ。
なのでセドリックはリリスの事を地味だなんてこれっぽっちも思っていなかった。むしろあるのは安心感や安らぎだ。
それに、急遽侯爵家の夫人になるべく彼女もまたセドリック同様学ぶ事が一気に増えたにも関わらず、彼女は泣き言一つ漏らす事もなく励んでいた。
セドリックはその様を直接見たわけではないが、リリスを教える立場であった母や、ディアンナがべた褒めだったのだ。セドリックに言い寄って見た目だけを売り込んでくるような令嬢たちなら悲鳴を上げて逃げ出してしまうかもしれない見た目になってしまったアシュレイとも一切臆する事なく会話に興じているときいて、彼女は自分の婚約者なのに! と思わず兄に文句を言ってしまった事もあったくらいだ。
お互いに忙しすぎてこっちは婚約者との交流もままならないというのに、兄や義姉は勉強の合間に和気藹々とお菓子を用意してお茶を楽しんでいるなんて聞かされればまぁそれくらいの癇癪は許されるだろう。
どうせならその時に自分も誘ってほしかった。割と切実な本音である。
大体学んで必要なことを全部覚えたとしても、後を継いだ後ゆっくり二人で仲を深められるか、と言われるとそうでもないのだ。領地経営もそうだが社交にだってある程度顔を出さなければならない。
夫婦になっても落ち着いてゆっくりできるまで、果たしてどれくらいかかるかわからないのだ。
セドリックにとってリリスは好ましい存在で、だからこそ彼女と結婚できる事については何も問題はない。むしろ出涸らし令嬢だなんて蔑まれるような事を言われていても卑屈にならず、凛とした姿でいるリリスの事を尊敬すらしている。学ぶ事が大量に増えても文句も言わず努力を重ねていくのだってそうだ。
セドリックですらあまりにも大量に覚えなければならない事が増えて、うへぇ、と声が出てしまったのにリリスはそんな事もなかったようなのだ。
兄が後継者を辞する結果となった元凶、下手人があんな事をやらかさなければ、と思う事だって何度もあった。
まぁ、今からその下手人だった相手にセドリックがどうこうできるものではないのだが。
被害にあったのは兄だが、本来襲う相手だったのは王太子だ。王族相手にそんなことをしでかしたのだから、無事で済むはずもない。家をとり潰して、だなんて大々的に周知はさせていなかったが、それでも実行犯の家族は自ら貴族であることを辞める結果となった。
無理もない。
アシュレイと同じ目に遭わされた状態で家に送り返されたのだ。
強い酸性の薬品で溶けるように焼け爛れた皮膚は、アシュレイよりも酷い有様になってしまっていた。
友人を犠牲にする形となってしまったアルフレートの怒りはあからさまに表立って出る事はなかったけれど。
その分内側でぐつぐつとマグマのように煮えたぎっていて、凄まじいものがあったのだ、とセドリックは後になってから思ったのである。
もし、実行犯の家族が、自ら貴族を辞め国を逃げるように出ていかなければ。
きっとアルフレートは彼らの悪事を大々的に知らしめて、両親もまた一人息子と同じように酸で顔を焼いた上で追い詰めたに違いない。
……国を逃げるように出ていった、と言うものの、他国にたどり着く前にアルフレートは彼らを処理したのだろうなとはセドリックでも察してしまったので、果たしてどちらがマシだったのかまではわからないが。
そうなった、という事実を知っている者は少ない。
流石に内容が内容なので、リリスには知らされていないはずだ。大体聞いていて気持ちのいい話題ではない。知らないままでいてほしかった。
リリスは賢いので、もしかしたら既に知ってしまっているかもしれないが。
さておき、交流が不十分である事実は否定できない。
そうこうしているうちに卒業式になってしまったのも事実だ。
お互いの誕生日を祝う事だって、精々が贈り物を用意してメッセージカードを添えるのが関の山だった。三年間の間でそれしかできていなかったのだ。これで交流はしていた、などとはとてもじゃないが言えるわけがない。
だが、それでも二人の中が不仲だったわけでもない。
どちらもお互い忙しい事はわかっていたし、少しの時間を見つけては相手に向ける言葉を書いてどうにか渡してやりとりをしていた。走り書きのメモ程度のやりとりだが、それでもお互いに落ち着いたら今までできなかったことを思う存分やろうと約束して、それを励みにしていた部分もある。
頑張ったご褒美があったっていいはずだ。そう思ってお互いに限られた時間の中でどうにかセドリックが侯爵に、リリスが侯爵夫人になるまでの短い期間を駆け抜けてきたのだ。
そうして卒業式の日を迎えて、せめて、この日くらいは極力一緒にいたいと思っていたのに。
どうしてかリリスの姿は見えないし、ほとんどの令嬢は諦めてくれたはずなのに一人だけしぶとく付き纏っていた令嬢が今まで以上に纏わりついてくるしで、セドリックとしては内心のイライラがとんでもない事になっていたのだ。
卒業後は王都に残る者もいれば、領地へ戻る者もいて今後は会おうとしても気軽に会えない者もいる。そういった友人との別れを惜しんでいるのだろうか、とすぐさまリリスの事を探すのは少し待つべきだろうかと思っていたが、しかし自分こそがセドリックのパートナーです、みたいな勢いで纏わりついてくる令嬢に我慢の限界はあっさりと訪れて、セドリックはリリスの友人たちへ声をかけ。
そこで、誰もリリスの姿を見ていないと気付いた時の焦燥感といったら。
何かあったのではないだろうか、という不安、心配、もし何かあったのだとしたら、という恐怖。
もし、またアルフレートの時みたいな出来事が起きてしまったら……?
今回は兄ではなくリリスがそんな目に遭ってしまったら……!?
そう思えば、暢気にそのうち見つかるだろうなんて思えるはずもない。
ただ、その時になって纏わりついていた令嬢がぽろっとこぼした言葉で彼女こそがリリスに何かしたのだと気づいたからこそ。
やんわりと、それでいて冷たく彼女の事を拒絶したのだ。
周囲にもある程度分かる形で。
そうして足早にその場を立ち去り、リリスを探して。
リリスを足止めして、時間を稼いでその間にセドリックの事をどうにかしようとしていたのであれば、そう近い場所にリリスはいないはずだ。
そう考えもし周囲に目撃されたとして、リリスと先程の令嬢がいても不自然ではない範囲で、人を一人閉じ込めてもすぐに異変に気付かれないであろう場所を探していく。
途中で何故だか使う予定のない部屋の鍵が保管されていたはずのところから移動していた事を疑問に思った給仕が確認するべく向かう途中である、という話を聞いてきっとそこだと思ったセドリックは鍵を受け取り急ぎ向かったのである。
その後の事は語るまでもない。
ただ、それでも諦めきれなかったであろう令嬢が、
「どうしてそんな地味な娘を選んだの……?」
だなんて言うものだから。
案外往生際が悪いなこの女……と内心で毒づいてしまうのも仕方のない事だった。
今までお互い忙しくて中々交流をとる事も難しかったけれど、せめて卒業式後のパーティーで着るドレスくらいは、とセドリックはリリスに似合いそうなドレスを用意したのに。
結婚式のドレスはリリスとディアンナが相談して決めたらしいと聞いて、ではせめてこの日のドレスは自分が、と無理矢理捻出した自由時間で自分の好みを押し付けるだけにならないよう、リリスの好みも調べた上で選びに選び抜いたドレスだったのに。
それをリリスを閉じ込めるだけでは飽き足らず、わざわざ手にしていたワインをぶちまけてまで台無しにしてくれた令嬢に対して、内心で毒づく程度で済ませているのはまだセドリックの紳士としての仮面が剥がれ落ちていないからである。
そうでなければ殴っていたかもしれない。
明らかにわざとであるのは確かだ。
けれど、つい先程リリスやその友人たちがわざとではなく、浮かれてはしゃいでやらかした結果、という風に話をもっていってしまったから。
わざとではない、とされているのに殴ってしまっては、流石にセドリックに非難の目が向く可能性が高い。
周囲でセドリックやリリスたちを見ている者たち全員が素直にそうなんだ、と思ってはいないだろうし、実際のところ令嬢がわざとやらかしたのだと気付いている者もいるだろうけれど、それでも表向きわざとではなかった、という風に話をもっていってしまったから。
そうなるとセドリックが暴力に訴えるのはやりすぎとされてしまう。
セドリックの外聞が悪くなるだけならまだしも、そうなればリリスの立場も悪くなりかねない。
まぁ、どんな事情があろうとて、流石に大勢の前で男性が女性を殴る、というのはやはりどうしたって暴力をふるった側が悪く見られてしまう。
セドリックが殴ろうとした相手が同じ男性であるならばそこまで問題にならなかったかもしれない。だが相手は女性なので。
セドリックに想いを寄せているらしい、リリスに嫉妬しているだけの女。
リリスをちらりと見やれば、リリスの視線はどこまでも冷めていた。
どうしてセドリックに選ばれたのが自分ではないのか、と言う令嬢に対して、この場でわざわざアングレーズ家の事情を事細かに説明する義理はどこにもないので、語る事など何もないのだろう。
事情を言わずとも、リリスにとってセドリックの婚約者という立場であるのは揺らぎのない事実であるし、今はまだ恋も愛も育てていないとしてもだ。
それでもきっと、同じ期間同じだけ大急ぎで学ばなければならなくなってしまった立場の者同士、という戦友のような気持ちは持っているものだと思っている。思ってくれているといいなぁ、というのはセドリックの願望である。
セドリックは時々うっかり泣き言のような、愚痴のような弱音を吐いてしまった事もあったけれど、リリスはそんな事はなかった。自分よりも余程できた人間である。
けれどもセドリックの事を見下しているだとか、そんな事は決してなかった。どちらが上だとか下だとか、そんなものをわざわざ決めようとリリスはしていなかった。
そういった部分で精神的にセドリックは助けられてきたのだ。
周囲でリリスの事を悪く言う者たちの方がいっそ滑稽に見える程に。
リリスを閉じ込めてまで悪足掻きをしていた令嬢は、その最たる者でもあった。
どうしてリリスが選ばれたのか。
そんなものは簡単な話だ。
折角選びに選び抜いたドレスを台無しにされた事もあって、セドリックの中では意趣返しのようなものが芽生えていたのかもしれない。
そっとリリスの両手をとって、穏やかにリリスを見つめる。
突然手をとられたリリスは何事だろうか? ときょとんとした眼差しでセドリックを見上げていた。
「……確かに周囲が言うように、リリスに華やかさというものはない。
けれどそれが何だと言うのだ。
周囲がどれだけパッとしないだとか地味だとか言ったところで、それでも。
それでも、私から見たリリスはとても可愛らしく、世界で一番素敵な女性だ。
私が望んで伴侶にと乞うたのだから、周囲にとやかく言われる筋合いなんてどこにもない」
先程まで難しい表情を浮かべていたセドリックがかすかに微笑んで言うものだから。
周囲で見ていた面々――特に令嬢たちはきゃあ、と黄色い声を上げた。
急遽次期侯爵になる事になってしまったセドリックの伴侶は、せめて彼を支えられるだけの才を持つ女性を、という事でリリスに話が持ち込まれたのだけれど。
リリスに劣るが別に他に優秀と称される令嬢がいなかったわけではない。そしてその優秀と称される令嬢たちの中で婚約者が決まっていない者はそれなりにいた。
候補としてどの家に話を持ち掛けるか、という両親の話し合いの時にセドリックが真っ先に指名したのはリリスだった。
エウリディア家の者が優秀なのは言うまでもない事で、更にその家と縁付く事ができるのであればと両親も考えたけれど。
そういった打算ともいえる考えを、本来ならば持たなければならなかった。だがあの時のセドリックは純粋に、優れた一族に囲まれていながらも、まだロクに社交の場に出る前から出涸らし令嬢として蔑まれていても意にも介さないリリスのその態度に惹かれてしまったのだ。
あと純粋にセドリックの好みのタイプでもあった。
本来ならばもっと家のためになる理由を表に出しておくべきだったのかもしれない。
でもそこまでの余裕がなかったのだ。
そしてそれは、あっさりと兄に見破られた。
急遽兄が継ぐはずだった役目を押し付けられた弟の恋を、兄もまた応援するつもりだった。
もしリリスがアシュレイの見た目に恐れを抱くようであるのなら、それこそアシュレイは別宅を用意してそちらで生活するつもりでもあったのだ。アルフレートが手配した医者が定期的に屋敷に訪れる事を考えたなら、できる事なら屋敷から出ない方が良いのだがそれでも。
果たして結果はと言えば、リリスはアシュレイに恐れを抱く事もなく、難色を示されるかもしれないと思っていたセドリックの想像をあっさりと裏切って婚約者になる事を承諾してくれたのだ。
アシュレイが屋敷にいるのも何も問題はないと言ってのけた。
きっと他の令嬢ならばアシュレイと顔を合わせる事を拒否しただろうし、そうなれば別邸を用意してそちらにアシュレイとディアンナを追いやった事だろう。
元々後継者になるはずだった兄と、その妻なんてスペア令息の妻になった女からすれば扱いに困るのも頷ける。けれどリリスはあっさりとセドリックよりも先にディアンナ経由でアシュレイと打ち解けてしまったからこそ。
軽い嫉妬を覚えつつも何が何でもリリスの事は離すものかと心に決めたのである。
万が一数年後離縁なんて言葉がリリスの口から出たら縋り付いて復縁を懇願するんだろうな、という自信しかない。
お互いが忙しすぎて学舎でも滅多に二人が一緒にいるところなど見た事がない者たちからすれば、セドリックがリリス相手にそんな風に熱烈とも言える言葉を大勢の前で言うだなんて思ってもいなかったから。
令嬢たちは黄色い声をあげているし、令息たちは囃し立てるように口笛を鳴らす者まで現れた。
まさかリリスがそこまで愛されているとは思っていなかった令嬢だけが、どうして自分ではなかったのかと訴えた彼女だけが、その様子を呆然と見ていたのである。
一方のリリスもまた、両手を取り合う形で至近距離にいるセドリックを見上げ、今しがた言われた言葉を脳内で反芻していた。
リリスとしてはセドリックにそこまで愛されている、という実感はなかった。
急遽跡取りにならなきゃいけなくなったスペア令息。
だからこそ支えになれる相手を伴侶に望んでいるのだな、とリリスは受け取っていたし、彼の婚約者に、という話に乗ったのは憧れの女性とも言えるディアンナがいて、ついでに自分の家族以外でこれまた知識が豊富で話していて打てば響くようなアシュレイがいたからだ。
姑だとか小姑と呼ばれそうな相手が結婚した家にいる、となれば普通は避けたい展開なのかもしれないが、リリスにとってはむしろ結婚したら素敵な義理の兄と姉がいて、時々弱音を吐いてくれる可愛らしい将来の旦那様がいるのだ。
弱音を吐くだけで努力をしないのであればリリスだってそんな相手を支えるのは面倒だな、と思ったに違いないけれど、セドリックはリリスの目から見てもやりすぎなくらい努力していたのだ。突然自分が後継者になったからといって、至らない点を周囲に見せて侮られないように、と。
軟弱な相手ならきっと一日に何度も血反吐を吐いていたかもしれない。
その上で、彼はゆっくり話し合える余裕がないからとリリスとの交流を放置していたわけでもない。
直接会ってお話しする事は難しかったけれど、それでも手紙のやりとりはしていたのだ。
努力を惜しまず、自分にできる限りの事を精一杯やるその姿勢をリリスは好ましく思っていた。
だって、素敵だと思ったのだ。
周囲でリリスの事を出涸らしと呼んでいる連中より余程。
自分の事を棚に上げてリリスの他の家族とリリスを比べてリリスが劣っているからと、それだけで自分よりもリリスの方が下なのだと思い込んで優越感に浸っている連中より余程。
努力してもなおリリスより能力が下だからと、そこで全てを諦めてリリスの悪口を言って現実から目をそらすような相手より、リリスを上だとも下だとも見ないで対等に同じ苦労をする事になってしまった仲間のように接してくれるセドリックが、とても素敵だと思ったから。
セドリックも他の連中とそう変わらなかったなら、婚約の話は早々に断っていた。
そうでなくとも、彼がそこまで努力をしようとしていなければ、リリスも彼を支える妻となるにしても、そこそこ程度になっていたかもしれない。
それに。
婚約が決まったばかりの頃に聞いてみたのだ。
私のような出涸らし令嬢で本当に良かったのか? と。
それに対してセドリックの返答は、君が出涸らしなら私は忘れ去られかけていた保存食だし、君を出涸らしと呼んでいる連中は噛み終わって路面に吐き捨てられたガムだろう、と。
あまりにも大真面目に言うものだから。
つい、笑ってしまって。
リリスが聞きたいのはそういう答えではなかったけれど。
それでもちょっとした態度や時々やりとりされる手紙――というかメモに走り書きした物――でセドリックがリリスに対して悪感情を持っていないのはわかっていたとはいえ。
多分、彼は私の事をそういう対象として見てはいないのだろうなぁ、と思っていたから。
まさかこんな大勢の前でそんな風に言われるだなんて、リリスですら予想していなかったので。
言われた言葉の意味を理解して、理解すると同時にカッと顔が熱くなった。
そんなリリスの様子を周囲で見ていた者たちも気付いたようで、おーっ? という令息たちの声と、まぁ、なんていう令嬢たちの声がちらほらと聞こえてきた。
今までどんな悪口を囁かれても意にも介さず平然としていたリリスが、セドリックの言葉に頬を紅潮させたのだ。
あまりにも表情を変えずにいたため、今回の言葉だってきっと当たり前のように受け取って表情一つ変えないものだと思い込んでいた周囲は、しかしそうではなかったという事実に驚き、というよりは珍しいものを見た気持ちでいっぱいだったのだ。
顔を赤くして、セドリックを見つめ続けるのも照れ臭いのかちょっと困ったように視線をうろ、と彷徨わせているその様があまりにも新鮮に見えてしまって。
政略結婚でてっきり不仲だと思っていた相手が、まさかの相思相愛だと思える態度だったことから。
周囲は一斉に盛り上がったのである。
リリスの事を悪く言っていた者たちもこれには驚きを隠せなかった。
とはいえ、今から何か言おうにも言葉が出てこず、目を丸くさせるだけだったが。
リリスの事を悪く言っていた者たちばかりではなかったので、周囲はそんな目を丸くしている者たちなんて知った事かとばかりにお幸せに! だとか、幸せになれよ! だとか、祝福し始める。
そのついでとばかりに、とある公爵家の令息と令嬢が合図をおくれば、少し前まであまり周囲の邪魔にならない程度に音を奏でていた演奏家たちもその意図を察したのだろう。
ジャン、とまず一度大きな音を鳴らしてから。
豪華な結婚式で必ずといっていいほど奏でられる事のある楽曲が始まって。
ダンスホール以外の場所だろうと知った事か、と卒業生たちは皆を巻き込み、ついでにお前らが主役だからとばかりにセドリックとリリスをダンスホールの方へと誘導し、それぞれが踊り始めた。
皆の中心に追いやられたセドリックとリリスは一瞬ぽかんとした表情を浮かべたものの、周囲が楽しそうに踊っているしこれは……場の空気を読んで踊るべきなのだろうなぁ、となってしまったので。
セドリックが差し出した手に、リリスの手が乗せられる。
そうして周囲と同じようなステップを踏み始め――
「今日だけは特別だからなー!」
なんて、吹き抜けになっていた事から二階で見ていたらしき教師がそこらの花瓶にあった花からいくつか調達したであろう花びらをバッと撒いた。
卒業して成人扱いになったとはいえ、先程までは生徒だった者たちだ。
卒業したから今すぐ大人になれたか、と言われればそうではない。
ふわりふわりと落ちてくる花びらを浴びながらも、下で踊っていた生徒たちは楽しげに声をあげた。
こんな風に馬鹿みたいに騒ぐ事なんて、きっとこの先もうないかもしれない。
皆、薄々そう思っていたのだ。
だから、今だけは特別なのだと。
先程まで若干気まずそうにしていた一部の生徒たちも、他の生徒たちに促されて誘われて、戸惑いつつもステップを踏み始める。
セドリックと踊っていたリリスもまた彼の手からするりと離れ、立ち尽くしていたままだった、リリスを閉じ込めた令嬢の方へと移動して。
「ほら」
「え?」
「周りを見なさいな。踊ってないの、貴女だけよ」
先程のセドリックのように、とはいかなかったが手を差し出してリリスは令嬢をダンスに誘った。
「え、でも、だって」
「ワインぶちまけられたりした事に関しては、さっきの言葉でやり返したもの。私ね、貴女が私より優秀だ、とか言われたなら真正面から受けて立ってたと思うの。
でも、私の家族と比べる発言ばかりだったから。言われて本当の事だったし、それについては別に気にしてないのよ。事実だもの。
今まで私の悪口言ってた他の人たちだってなんだかんだ参加してるんだから、今のうちに貴女も交じっておいた方がいいんじゃない? 今なら勢いで和解したみたいに思われるでしょ」
「いいの……?」
「ま、貴女の落ちた評判まではどうしようもないから、この後どうにか頑張って頂戴」
あまりにもあっさりと言われて、令嬢は差し出されたリリスの手の上にそっと手を乗せた。
そうしてそのまま、リリスがエスコートする形でゆっくりとステップを踏み始める。
本当にいいのかしら? という思いはあった。
けれど、リリスが全く気にした様子もなかったから。
ここで意固地になっても、余計に自分の評判が落ちるだけだと思ったのだ。
それなら、リリスに突っかかったけど最終的に許された、と見られるようにした方がいいと判断して。
正直な話、まだセドリックに未練はある。
侯爵夫人という立場に目がくらんだのもそうだけど、でもセドリックの事だってちゃんと想いをもっていた。だから、どうしても彼の妻になりたくて今まで足掻いてきたのだ。
完全に玉砕してしまったけれども。
今までの悪口も何もリリスには何のダメージも与えていないと知って、それはそれで悔しいしそんなリリスにこうして最後に助けられるような形になってしまったのだって悔しすぎるのだけれど。
今後の自分の事を考えたなら、その悔しさだって引っ込めるしかない。
悔しさをバネに難しいステップを踏んで、軽やかなターンを決める。
「わぁ、凄いじゃない」
目の前で鮮やかかつ華麗な動きを見せられて、リリスが思わず言えば、令嬢はどこか勝ち誇ったようにこうするの、ともう一度、リリスにわかりやすいようにややゆっくりめにステップを踏んでみせた。
それを見たリリスは、えっと……こうして、こう……? とお手本ステップを更に遅くした状態で、どうにか再現してみせる。
「できた?」
「ま、初めてなら上出来なんじゃない?」
令嬢からすれば、及第点もいいところだけれど。つっけんどんに言う令嬢に、それでもリリスは嬉しそうに笑ってみせた。
そのまま、少し離れたところにいたセドリックへ顔を向ければ。
仕方ない、という風に笑ったセドリックが近づいてきて。
「彼女は私のだから、そろそろ返してもらうよ」
言いつつ先程のステップをもう一度踏めるように、と補助するように動く。
いきなりもう一回さっきのステップをやれ、と行動で示されると思っていなかったリリスはちょっと焦ったようだったが、しかしセドリックの支えもあって不安定な足運びをする事もなく、先程よりもより綺麗に決めてみせた。
できた! と瞳をキラキラさせてリリスが令嬢を見れば。
こうもあっさりとモノにされると思っていなかった令嬢はゆっくりと肩をすくめてみせた。
あれ? ダメだったかしら? と言いたげな表情のリリスに、そのまま告げる。
「あぁもう、完全に私の負けよ! お幸せに!!」
令嬢がそう叫んだ事で。
密かに周囲で見守っていた令嬢や令息たちも改めて「お幸せに!!」と声をそろえたのである。
作中に出たアシッドアタックは良い子も悪い子も決して真似しちゃダメだぞ☆
まぁ普通やらんと思うけど。
次回短編予告
ある意味で悪役してる転生悪役令嬢と、彼女の思惑に気付けなかった転生ヒロインちゃんのお話。
今回の文字数と比べたら大分サクッと終わる形となります。
その他ジャンル投稿予定。