第五話:放蕩息子、盗賊と出会う
前のエピソードから日が空いてしまった…………
アーレを出て、北の街道に出ることが出来た、すると獲物を回収して逃げようとしている盗賊が見えた、どうにか間に合ったみたいだ。
「動くなマーゼン伯爵家のものだ!!、逃げたり抵抗しようとするなら斬る。」
声に気づいて、慌てて逃げ出そうとしているな、そうはさせるか
「ベルント、盗賊団の先回りをしろ、俺は隊長と一緒に暴れまわる」
「承知しました、お前ら、ついてこい」
ベルント達に退路を断たせて、俺は隊長と共に盗賊たちを切りふせる。
「おい、聞いていた話とちげぇぞ」
「なんで、騎士団がいるんだよ」
盗賊たちはパニックになり、たちまち捕縛されたり、殺された。
なんか思ったよりあっけないな
「意外とあっさりだったな、思ったより苦戦するものかと思ったが、」
そう思っていると、逃げた盗賊を追っていったベルント達が戻ってきた
「申し訳ありません、何人か逃げられました。」
「気にするな、しかし、かなり楽に倒せたぞ、なんで苦戦しているんだ?」
「人数が多いからですね、それに今回は近くの襲撃だったので、早く対応することもできました。」
確かに、10人くらいとはいえ、機動戦力としては十分だ、だからこそ捕縛も容易だったわけか
「よし、とらえたやつらを城に連れて帰ろう、いろいろと吐かせたいからな。」
俺達は捕縛した盗賊達を引き連れノイトバルク城に戻った。盗賊たちを私兵に任せて、執務室に入ろうとすると、言い争いをしている声が聞こえた。
「…………であるからして、外祖父として孫のアルフォンスを支えたい」
「当主代理をクラウスにするということで伯爵家は一致しています、お引き取りを」
叔父上と言い争っているのはキルベンガー伯爵か、おとなしく宿に籠っていればいいものを、すこし脅してやるか。そう思い俺は執務室の扉を蹴飛ばして、でかい声で自分が帰ったことを示した。
「叔父上、只今戻りました!!」
執務室にいる面子を見回してみると、叔父上とキルベンガー伯爵は当然として、母上とカミラにイルーゼ、お、エアハルトも帰ってきたのか、後でべネトの話を聞くか。
「おお、クラウス、良く戻ってきた!!」
俺の意図を察したのか叔父上もわざとらしく、ものすごくにこやかな顔で答えた。
「街道の商人たちを襲撃していた盗賊たちを撃退して、何人かとらえました、今私兵達に地下牢に入れています。」
お、伯爵の顔がこわばっているな、まぁ評判通りの俺なら、盗賊退治に出るなんて思わないだろうからな。それもあって、ゆっくりマーゼン伯爵家を取り込むつもりだったんだろうな。
戻る気は無かったこの家だが、赤の他人に乗っとられても構わない訳はない。決して思い通りにさせてたまるものか。
「叔父上、こちらの方は?」
「ああ、紹介しよう、クリスタさんのお父君のキルベンガー伯爵だ、伯爵は宮廷の職務が忙しいに関わらず、兄上とハインツの死を聞いて、来てくださったんだ。」
「そうだったんですか、お会いできて光栄ですキルベンガー伯爵、この度は我が父と兄の葬儀に来てくださり、誠にありがとうございます。まだまだ若輩ではありますが、アルフォンスが成人するまで、当主代理として私が、このマーゼン伯爵家を率いていく覚悟です、葬儀までの間退屈でしょうから、ニールベルクを観光してみてはいかがでしょうか、護衛を付けますので」
「い、いや今日はこれで失礼する」
そう言ってキルベンガー伯爵は逃げるように執務室から出ていった。
「いいタイミングで帰ってきてくれた、クラウス、お前が戻ってきて、伯爵も少し焦ったようだ、自分を当主代理にしろと、しきりに勧めてきた。」
「そんなこと言っても、ヴュンデンバッハ公爵が認めるわけないのに、何考えているんですかね?」
神聖帝国では、基本的には当主の嫡子若しくは当主が認めたものが跡継ぎになるが、主君の承認が無ければ正式には認められない、我が家の場合はヴュンデンバッハ公爵になるし、大貴族や、大貴族の配下にいない家は直接皇帝にお伺いを立てなければならない。
そして今回のようなケースの場合、嫡流であることを考えれば兄上の子供である、アルフォンスが当主になるが、さすがに幼い子供に統治なんてできない。そこで当主の代理となるものを選ばなければならないが、帝国では一族のなかで話し合って決めたものを当主代理として推薦し、主君の認証を得て、跡継ぎの代わりに領地の統治を行う。俺の場合は不本意であるが、跡継ぎだった兄上の遺言と叔父上や母上等成人したマーゼン伯爵家の人たちから賛同されているため、俺が当主代理として一番正当性がある。不本意だが。あとはヴュンデンバッハ公爵の承認だが…
「隊長、当主代理を誰にするかについて、公爵はなんか言ってたか。」
そう俺に言われると、隊長は懐から手紙を出した。
「本来であれば、屋敷についてすぐに見せるように公爵閣下より仰せつかっていたのですが、状況が状況だったので、出すのを忘れていました。」
隊長から受け取った手紙を読むと、俺を当主代理として認めることと、盗賊団の討伐を命ずる旨が書かれていた。盗賊団の討伐まではミンへに来なくてもいいとも、まぁ正式に認めてもらうためには盗賊団を討ち取れということか。上等だ、やってやろうじゃねぇか。まずは
「エアハルト、俺についてきてくれ、地下牢に入れた盗賊たちの尋問を頼む」
「承知しました。」
盗賊たちを尋問して、情報を得ることにした。
俺はエアハルトと共に城の地下牢に向かった。地下牢には捕らえられた盗賊たちが縛られていた。
俺は牢の扉を守っている衛兵に盗賊たちの様子を聞いてみた。
「様子はどうだ?」
「最初は、先頭による疲れで、ほとんどうずくまっていましたが今は持ち直しているようです、重症だった奴等は命令通り、治療させて、牢に戻しています。ただ…」
「ただ?なんだ。」
「盗賊団の戦利品の中に子供がいまして、今は詰め所で預かっているのですが?どういたしましょうか。」
「ふーむ、いったんそのまま詰め所に置いといてくれ、後でイルーゼを寄越す。それと盗賊たちの牢屋に案内してくれ」
「は」
扉を開けて、盗賊たちの牢屋の前に行くと盗賊たちの視線が一挙に俺に集まった。
「俺はクラウス・マーゼン、マーゼン伯爵の息子だ、お前たちは俺の父と兄を殺した者たちか?」
俺がそう尋ねると、盗賊たちは口々に罵倒を繰り広げた。
「なにが、マーゼン伯爵の息子だ、親父が死んで、のこのこ戻ってきたバカ息子のくせに」
「死んだ、お前の親父も泣いているだろうよ、こんな放蕩息子じゃ」
「さっさと釈放しろ、俺たちの仲間が黙っていないぞ」
「そうだ、そうだ、すぐにでもこの城を落としてやる」
「飯、食わしてくれ」
威勢のいい奴等だな、自分たちが今からどうなるかも知らずに…なんか一人だけ、腹減ってる奴いるな。
まぁ、いいや、これじゃ、話にならんから、少し立場を思い出させるか
「エアハルト、奥にいる、目つきの悪いやつをやれ、」
「承知しました。」
最初に俺のことをバカ息子といったやつを衛兵に命令して、動かさせる。
「は!!、いいとこの貴族様が拷問なんて、できるかな、俺はちょっとやそっとじゃ、口割らねぇぞ」
「安心してくれ、うちの尋問を受けたやつはどんなことでも喋りたくなっちまうんだ」
そう豪語した盗賊はエアハルトと共に別室に行って、数秒もたたないうちにクソデカい悲鳴を出す羽目になった。さすがじい様の代からの老臣だ、年季が違う、いたずらしてあいつに折檻を受けた夜は眠れなかった、しかも、あれで手を抜いていたとは…おっと、牢屋の連中、さっきの勢いは何処にいったのか、震えてやがる、これならどんなことでも喋ってくれるだろう。
「さて、お前ら何か俺に話すことは無いか」
「「全て、お話します」」
「飯、食わしてくれ」
拷問したやつを含めて、捕まえたやつらは洗いざらい話してくれた。
ただ奴等はここ最近になっては他の土地から動き出した盗賊たちで親父たちを襲った盗賊たちのことはあまり知らないみたいだ、現に奴等の装備はアーレに落ちていた物と比べて、なまくらや刃こぼれや欠けている個所も多かった。大方、今のマーゼン伯爵領の惨状を聞いてきたんだろう。ちなみに飯を食わしてくれしか、行ってないやつは、尋問の際にも繰り返し、言ってきたので紐で口を縛って、黙らせた。
「しかし、これ以上、親父たちのことを調べようとしても、どうにもならんな」
「ええ、アルブレヒト様達を襲った者たちはあれ以来、隠れているようです。足取りが追えません。」
その後、盗賊たちは洗いざらい話したが、有力な情報はほとんどなかった。
「それに、俺たちが捕らえたやつらみたいに、弱小な盗賊団にうちがねらい目だと、吹聴しているみたいだな」唯一やつらの手がかりになりそうだったのは、あいつらが親父たちを襲った盗賊団らしい連中にマーゼン伯爵領はねらい目だと言われたらしい。
「当面は、襲ってくる奴らを撃退し続けるしかないな」
そう考えていると、衛兵が走ってきた。
「失礼します、領内東部にて、盗賊たちの襲撃が」
「すぐに向かう」
そして、俺はまた私兵を率いて、盗賊たちを撃退しにいくのだった。