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放蕩息子、名宰相になる  作者: リベロ・マラパルテ
第一章:放蕩息子の里帰り
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第四話:放蕩息子、状況を確認する②

数時間たった後、騎士団と共に南部のアーレについた。

ここは北の海につながる都市国家からの交易品を乗せた馬車がヴュンデンバッハ公爵家の首都であるミンへやべネト共和国に向かうために良く通る所で、ここの関所からでる税は伯爵領の税収の3割を占める。

そのため伯爵家の他の領土と比べて、警備も固い土地だ。


「それにもかかわらず親父と兄上が殺されるとはな…」

どうも引っかかる所が多い、まず何故親父たちはミンへに向かったのか、

そもそも年末の時期は聖誕祭があるため、当主である親父やその跡継ぎである兄上は基本、マーゼン領を離れることは無い。


あるとしたら主君であるヴュンデンバッハ公爵への挨拶ぐらいだが、母上達によると、殺害される1週間前に済ませていて、そのあと遠出する予定は無かったとのことだ。にもかかわらず、殺害当日親父は急いでミンへに行くと言い出し、兄上を付き添わせた。一体、親父は何のためにミンへに行こうとしていたんだ?


そしてなぜこの警備の固いアーレで盗賊に襲われたのかも疑問だ、関所には2,30名程の兵士を配置しているし、親父たちにも同じくらいの護衛が付いていた、

盗賊という奴らは反撃される恐れがあるやつらにはまず近づかない、ましてや伯爵領の住民なら伯爵家の私兵に襲い掛かろうものなら、どんな凄腕の盗賊でも返り討ちにあうことくらいわかっている。

そもそも襲うと考えもしないだろう。そう考えると親父たちを襲ったのが、ただの盗賊とは思えない。

親父たちがなぜ殺されたのか考えているうちに関所についた。


「止まれ、所属と氏名、それと要件を言え」

関所の門番が所属を確認している、どうやら伝令がうまくいっていないみたいだな。

「マーゼン伯爵が次男、クラウス・マーゼンだ、私兵隊長ベルントに会いに来た」

「は⁈し、失礼しました。直ちに門を開けます。」

門番が急いで門を開けた。


「いや、職務を遂行してなによりだ、それとベルントは何処にいるかわかるか、」

「そろそろ、巡回から戻られるとのことです。」

「分かった、ここで待つ。それと厩に案内してくれないか、俺たちの馬を置いておきたい」

「承知しました、こちらになります」


門番に案内されたところに馬を置き、隊長室で護衛と共にベルントを待つことにした。

しかし、隊長室に行く最中や、扉越しから聞こえる声を聴くかんじ、あまり歓迎されてないみたいだな。


「…先輩、ハインツ様の弟様ってまだ15くらいだったはずじゃ…」

「あれは、三男で、今来てるのは次男の方だな」

「げ、マジかよ、あの放蕩息子かよ」

「放蕩息子?あの、めちゃくちゃ強いマーゼン家の人間でですか?」

「ああ、お前は知らないのか、実はだな」


幼いころからあまり剣を使えなかった俺は次第に、剣術を学ぶのを止め、部屋に引きこもるようになった。それを見かねたコルネリウス叔父上が俺に、一つの本を与えてくれた、それは古代の帝国の将軍が書いた伝記だった。それがきっかけで、俺は古典学を学ぶようになり、ますます家からでなくなった、成人してからはすぐにパターラに留学しに行ったんで、領民たちは俺の素性をほとんど知らない、そのせいで噂に尾ひれはひれつくようになって、俺は異国の地で伯爵家の金で遊び惚けて暮らしている放蕩息子ということになってしまった。


兄上から噂をただすためにマーゼン領に戻って領民と会ってこいと度々手紙をもらったが、マーゼン領に帰るつもりは一切なかったんで、放置していた。それが今こういう形で跳ね返ってくるとは思わなかったがな。


「貴様ら!!、クラウス様に対して何たる言い方だ!!」

そう物思いに更けてっていると、ものすごく太い声が関所内に響き渡った。

「た、隊長、すいません、しかしあの…」

「お前たちの気持ちは分かる、しかしクラウス様はハインツ様亡き今当主になられるかもしれない方だ、くれぐれも無礼な発言はするな」


このクソデカい声はベルントか、このバカでかくて、煩かったあの頃が懐かしいな…

そう思っていると、扉をたたく音がした,入れと伝えると筋肉隆々の男が入ってきた。

「失礼いたします、お久しぶりです、クラウス様」

「おう、久しぶりだな、ベルント」


留学する前の見送りにもいたが、相も変わらずムッキムキで力のみが正義だという面構えだ、こういう奴とはどうも昔から馬が合わなかった。


「この度は、当主と跡継ぎを死なせるという前代未聞の不始末をしでかして、申し訳ありませんでした。」


そういうとベルントは深く頭を下げた。

「謝罪はいい、それよりも今の領内の状況を教えてくれ。」

「……承知しました」

少し言い方がまずかったか?眉間に深くしわが寄っているな、

しかし親父たちの死を嘆く余裕はない、今は当主代理としてこのマーゼン伯爵領を守らなければならない。改めてべルントからマーゼン伯爵領の状況について報告を受けた。

どうやら親父たちと襲った盗賊をとらえるどころか、当主を打ち取ったことから増長していて、被害が拡大しているらしい。


「他の村でも、襲撃の報告が上がっていますが、向かう頃には逃げ去っていて、とらえることが出来ません、やつらの本拠地が分かればよいのですが。」

なるほどな、当主を殺して、襲撃の範囲を広げてもいいくらいには考えているが、伯爵家と戦いはしない。長期的に伯爵家の信頼を下げつつ、自分たちの勢力を広げる腹積もりか。


「分かった、当面は巡回を広げながら様子を見よう、それと親父たちが死んだ場所を確認したいんだが」

「承知しました、案内します。」

ベルントに案内されて、ついたところは、関所を出てミンへ方面に向かう道だった。

「ミンへに向かうだけあって、広いな、というか道しかないな」

「ここらへんで泊まろうとする人間はいませんからな、距離的にも無理をすれば、数日でミンへに迎えますし」

親父たちが殺されて1か月くらいたっているが、細かく見ると血の跡や折れた矢とかが見つかる。

話には聞いていたが、兄上が親父を抱えて撤収したのを追いかける盗賊と私兵とで、派手に戦ったらしい。その時に盗賊団の連中も何人かは討ち取ったり、負傷したやつが多いが、傷が癒えてきたので、活動を再開したみたいだ。

「やつらの手がかりになりそうなものは無かったか?」

「髑髏のしるしをした旗を掲げているくらいで、それ以外は…あ!!」


考え込むと、ベルントは部下に指示を飛ばして、指示を受けた部下が何かを取っていった。

「これは…剣か、なかなか鍛えられているな」

「ええ、盗賊団が使っていた剣です、幾度が戦った最中に武器を落とすことがあったので、押収してきたものの一つです。」

「これを盗賊団が使っていたのか、ただの盗賊にしては立派すぎるな。」

「背後に何かいるとは思うのですが…なかなか尻尾をつかめず」


まぁ、私兵隊長であるベルントは騎士としては優秀だが、その生真面目なところが傷だ。

あまり諜報とか兵站とかに関心を持つことがない、まぁ親父もそんなところがあったから、文句は言えないが、その点兄貴は、兵站や諜報にも目を向けれる人間だった、俺も留学する前は兄貴の相談に乗って使えそうなやり方を色んな書物から調べていた。その一つが、かつて盗賊だったあいつらを密偵部隊として抱え込むことだったが…


「おい、ベルント、あいつらはどうしたんだ、うちの密偵部隊は?」

「あいつら?、あの盗賊上がりですか?二人が亡くなられてから、解雇しましたよ。」

「は?どういうことだ、なんで解雇したんだ。」

「お言葉ですが、アルブレヒト様達は盗賊に殺されたんですよ、やつらが情報を投げ渡したに違いありません。」

「そんなことするわけないだろ、今まであいつらの情報にどれほど俺たちが救われてきたか」


「絶対、あいつらの仕業です、そうに違いありません、()()()()()()様のお言葉ですから。」

キルベンガー、クリスタ義姉さんの実家か、帝国東部の伯爵家で、皇帝からの信任も厚い家だ。

皇帝家とのつながりを持てるとの考えての結婚だったが、クリスタ義姉さんと兄上の仲は良くて、とても政略結婚とは思えないくらいだった。ただクリスタ義姉さんの父親であるキルベンガー伯爵はどうもいけ好かない印象だった。義姉さんとも後妻を迎え入れたことから仲が悪かったみたいだし。結婚してからも手紙の類もほとんどなかった。


「なんでキルベンガー伯爵がでてくるんだ、結婚してから手紙も送られなかっただろう。」

「それが、1週間ほど前に奥方様とご子息と共に参られまして、当主が無くなられた我が家を補佐したいと」

親父たちが死んだ途端にこれか、しかも妻子を連れてとは、家を乗っ取る気か、

「伯爵たちは何処に?」

「当初はノイトバルク城の滞在を希望されていましたが、コルネリウス様が城の中だと窮屈だろうと、ニールベルクの高級宿を勧められて、今はそこにいらっしゃいます。」

ナイス、叔父上、今の我が家で好き勝手されてたまるか、できる限り、城に来させないようにしないとな。


「うん、これはなんだ?」

キルベンガー伯爵のことを考えていると、何か光るものが落ちていた、

「これは…十字架か?なんで、こんなところに」

「いかがなさいました?クラウス様」


「いや、地面に十字架が落ちていてな、何か手掛かりにならないかと」

「まだ、落ちていたんですか、アルブレヒト様達が打ち取った盗賊たちが持っていものですね。」

他の盗賊も持っていた?どうも引っかかるな、十字架といい、剣といい、ただの盗賊にしてはいいものを持ちすぎている。やはり何か裏で動いているな、そう思っていると伝令が入ってきた。


「失礼します、領都北部の街道にて、盗賊団が出たと情報が。」

「何、直ぐに向かうぞ、クラウス様も公爵家の方々とすぐに来てください」

「分かった、隊長、北に戻るぞ」

「承知いたしました。」


その後、アーレをでた俺たちは、北部に向かった。







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