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放蕩息子、名宰相になる  作者: リベロ・マラパルテ
第一章:放蕩息子の里帰り
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第九話:放蕩息子、昔話を聞く

母上は初めに親父との結婚した時から始めた

「アルブレヒトと結婚した日のことは、今も鮮明に覚えているわ、といっても大内乱が終わった直後だったから、ミンへのシュバイン城も矢が打たれた跡や折れた剣が残っていたりして、戦の跡がたくさん残っていたわ」


15年続いた大内乱を終わらせた功績として父方の祖父は、伯爵に昇進し、その跡継ぎだった親父は当時のヴュンデンバッハ公爵の娘である母上との結婚が決まったという話は幼いころによく親父から自慢話としてよく聞かされていた。


「最初、顔合わせした時は、とても怖い顔だったから、この人と夫婦としてやっていけるのか、不安だったけど、細かいところまで気を配ってくれて、直ぐに心配はなくなったわ」

そりゃ、そうだろう、騎士の息子だった親父からしてみれば、高嶺の花だった公爵の娘と結婚できたんだ、

丁寧に接するだろうよ。


「逆よ、むしろアルブヒトは、高位貴族の娘なんか嫌っていたのよ。」

「親父が?なんで」

「あなたも大内乱が終わった後の皇帝側についた貴族がどんなにひどいことをしたのか、知っているでしょう。負けた貴族の領土で何があったのか」


大内乱が終わった後、皇帝側についた貴族達は、異端撲滅を唱える教会の大義名分に隠れ、反乱側を起こしたハーバード公爵の領土を奪うだけでなく、その住民たちから徹底的な略奪を行い、異端を信じた貴族の領民も異端であるとして、領民の奴隷化を主張した


無論、勝者の権利であると言えば、それまでだが、俺の2人の祖父、先々代マーゼン伯爵と先代ヴュンデンバッハ公爵は、それを許さなかった。

先々代マーゼン伯爵はハーバード公爵とは一族の命と引き換えに領民の身体の安全と財産の保全を約束し、降伏したため、自分はハーバード公爵との盟約を守ると主張し領民を守ろうとした。


当然貴族たちから、伯爵になったばかりの騎士に従えるものかと無視しようとしたが、俺のもう一人の祖父、先代ヴュンデンバッハ公爵も領民を守ろうとし、更には反乱側で生き延びたハーバード公爵家配下の貴族や領民と共に戦うと言い出した。さすがにこれには皇帝側の貴族も慌て、皇帝も、ハーバード公爵家の財宝を皇帝側の貴族に分け与えることで顔を立て、ハーバード公爵家の領土は都市には自治を与え、その他領邦は早期に降伏した、ハーバード公爵の旧臣に与えることで、双方を納得させた。


この時の先々代マーゼン伯爵の振る舞いから、マーゼン伯爵家は約束した相手が死んでもなお、盟約を守ったことから【信義のマーゼン家】と呼ばれるようになった。


「そんなこと、親父から散々聞かされてきたわ、なんでそれを今更言うんだよ」

「アルブレヒトが高位貴族を嫌いになった理由だからよ、罪のない領民を痛めつける貴族、さらにはそれを主導した高位貴族を彼は嫌っていたから、今でも覚えているわ、彼から始めて言われた言葉を」


母上が輿入れした時、親父が最初に言ったのは「大恩あるヴュンデンバッハ公爵のすすめだから、結婚したが、罪のない領民を痛めつけるような家から来たあなたを愛する気は無い」といわれたらしい。


「一瞬、彼の言葉を理解するのに時間がかかったけど、そんな風に思われていたのかと、怒りが湧いてきてね、大きな声で自己紹介してやったわ」

そういう、母上の顔は楽しそうに笑っていた。


ちなみに親父がなんでそんな誤解をしていたのかというと、伯爵になりたての家にろくな貴族の娘がくるはずがないと思い込んでいたからで、コルネリウス叔父上が母上の家について話そうとしても聞く耳をもたなかったらしい。その後自分の思い込みが誤解だと理解した親父は、母上の前で何回も土下座して、許しを請い、理不尽にもコルネリウス叔父上をぶん殴ったらしい。

八つ当たりされたコルネリウス叔父上かわいそう。


「まぁ、そんな始まりだったけど、領内の見回りや炊き出しを手伝ったりしていく内にアルブレヒトの優しい人柄に触れていって、この人と結婚出来て良かったと思ったわ。」


そしてその一年後、兄上が生まれた。


「始めて、ハインツの顔を見たときに、きれいな顔をしていたから、女の子だと思ったわ。アルブレヒトも君に似た綺麗な子だって言ってくれて、本当に喜んでくれたわ。」

そんな顔とは裏腹に体は頑丈だったらしく、城のカーテンを破いたり、飾りの鎧についてた槍を振り回したりして、世話をしていたカミラが苦労していたらしい。


「赤ん坊にしては力が強すぎるから、何かおかしい所があるんじゃないかと、医師に診てもらったけど、力が異常だけで、おかしい所は無いって言われて安心していいのか、複雑な気持ちになったわ」さすが兄上、10歳で暴れ馬を殴って大人しくさせた人間だ、生まれから違う。本当に同じ両親から生まれたのか、謎すぎる。


「それを見たアルブレヒトは、力の使い方を覚えさせるために3歳から、剣を教え始めたのよね」

なるほど、確かに兄上は剣の腕前は帝国でも1、2を競う強さだったから、親父が幼いころから、素質があると見込んで鍛えたんだなと思っていたけど、むしろ力を抑えるために鍛えていたんだな。こればっかりは親父の見る目が正しかったと思う。


「アルブレヒトやおじい様の血のせいか、剣の振り方を覚えるのは、本当に早かったわ、まさかベルントやエアハルトが本気で戦っているのを見たときは、心配だったけど」俺もよく見ていたけど、そのせいでなんで俺は、エアハルトやベルントとまともに戦えないのか悩んで、自信を無くしていた。最も成長してからは兄上が異常だったと分かって、安心したが。


「そこからアルブレヒトのすすめで、ハインツは各地の試合に出て、その度に勝っていて、マーゼン家の家名を上げてくれたわ。」

「正直言って、今までの話を聞いてみても兄上が悩む要素が見たらないんだが?一体兄上は何を悩んでいたんだ?」


母上は俺の疑問を聞いて、暗い顔になった。


「あなたが、べネトに行ってから、マーゼン伯爵領での物の行き来が増えてね、商館を立てたいとか、厩を増やしてほしいとかの陳情が増えていたのよ、今まではあなたがやっていたことだけど、アルブレヒトがいずれ当主になるには必要だと、ハインツにやらせてみたのよ。」


しかし、剣だけを学び、鍛えてきた兄上からしてみれば、やったこともない書類仕事や商人との交渉でできないことが多く、自信を無くしてしまったらしい。


「それで、ハインツはアルブレヒトに自分を廃嫡するように懇願しだしたの、自分よりクラウスの方が跡継ぎにふさわしいって。私もアルブレヒトも何も廃嫡しなくとも、他の者に任せればいいと説得したのだけど」


自分の剣の才能が何の役にも立たないと、感じた兄上には何も届かなかったらしい。そして、俺に領地に戻ってくるように手紙を何枚も書いたらしい。しかし俺は領地に帰る気は無かったので、あれこれ言い訳を付けて帰らなかった。


「あなたの返信を読んで、ハインツはあなたが領地に戻る気が無いのを察したのよ、そこからハインツは眠れななくなって、倒れてしまったの」

「あなたが剣の才能が無いことで悩んでいたように、ハインツは剣以外の才能が無いということに、悩んでいたの。」


兄上が……そんなことを。


「ねぇ、クラウス、あなたはハインツに必要とされていたの、ハインツはあなたの助けがあったから、やっていけていたの。」


そうか、イルーゼが言っていたのは、このことだったのか、兄上だって人間だったんだ、決して聖人でもなければ古代の神様でもなかった。それなのに、俺は兄上が完璧な人間だと、勝手に思い込み、べネトに出ていってしまった。兄上の苦労も知らずに。


「もしあなたとハインツが話し合っていれば、あなたもハインツも苦しむことは無かったわ、だからクラウス、もし、話しても分かり合えないと思う相手がいたとしても、話し合うの辞めないで。伝えるのを止めないで。もしかしたらその人はあなたの助けになりたい人なのかもしれないから」


そう言って、俺の手を握った母上の手は温かった。









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