第3章-犯人への糸口
第3章-犯人への糸口
そんな折、全焼した片瀬杏の家の近くで第2の火災が起きた。
宗方がパトカーで現場に到着した時には既に手の施しようもないくらいの火の手が上がっていて、数台の消防車が消火作業を行っていた。
「うっわっ!こりゃすごいな!」
と宗方は燃え盛る家を見つめながら言った。
「はい。今日は風が強いためか風にあおられ、火の勢いが速くて思いの外消火作業が難航しています」
と消火作業を行っていたやや年輩の消防士が、必死にホースを抱えつつそう説明をした。
「ふむ。そうか……」
と言いつつ宗方がふっと横に視線を向けると、火事を遠巻きに見つめている少年の姿が目に留まった。その少年は青白く無表情な顔で、大勢の野次馬の中に半ば溶け込んでいた。
宗方はその少年が気になり素早くケータイで写真を連続で数枚写した。『よし!取りあえずこれで良いだろう』と宗方は心の中で呟き、ケータイを背広の内ポケットにしまった。
「宗方先輩こりゃ酷いっすね。中に人がいなけりゃ良いんすっけど、この時間帯じゃ多分住人がいる可能性は高いっすね」
と宗方の後輩の刑事である折原嘉彦が言った。
「ああ、多分夕飯時でもあるし家族が全員揃っていたかも知れんな?おい!折原君それよりかあの青いチェック柄のシャツを着た少年をマークしておいてくれ。そして出来たらあの少年の家をつきとめて、住所と名前を調べて欲しい」
と宗方が折原にそっと耳打ちすると
「はい。先輩解りました」
と言って折原は野次馬の波をかき分けその少年に近づいた。
ちなみに放火の場合は大概犯人が再びその現場に訪れ、大勢の野次馬達に混じって、何くわぬ顔で火災の様子を見ている事も多いと言う。なので宗方にしてみれば、先ほどの不審な少年の存在は無視出来なかったのだ。
やがて強風の為に難航を余儀なくされていた消火作業は、ようやく数時間ののちにその家の全焼と言う形でもって鎮火した。そして消防士達によって次々に運び出された遺体は、どれも悲惨な状態で黒く焼け焦げており、男女の区別すら出来なかった。
火災から明けての翌日焼死体の人物の身元が解った。死んで発見されたのは、その家に住む寝たきりの老人宮下源治とその息子篤と幼い子供亜子の合計3人である。
火元は片瀬艶子の時と全く同じ火炎瓶による放火である事も断定された。なので宗方達捜査班は片瀬家と宮下家一帯に、厳重体制網を敷いた。
果たしてこの厳戒体制の中で第3の犯行が起きるのかと、宗方は半信半疑ながら、周りに気を配り、細心の注意をはらい現場に張り詰めていた。
そして翌日
「宗方先輩例の少年の身元が割れました。
彼の名前は藤堂翔で、17歳の高校生です。住所はあの火災があった場所から目と鼻の先ほども離れていない所にありまして、藤堂翔の家族構成は父親藤堂学と母親の園子と兄の拓海そして次男である翔の四人家族です。ちなみに長男は片瀬杏にメールで金銭要求をしてきた例の『藤堂拓海』です」
と折原が宗方に報告すると
「えっ!?な・なんだって?折原君それは本当か」
と宗方は慌てて聞き返した。
「はい。間違いありません!」
「ううむ。点と点が結ばれてようやく線を描き出したか……って事はだな。
第3の犯行を予測して、藤堂翔を徹底的にマークして放火の現行犯で逮捕するしかないな。まあ、これは一か八かの賭けでもあるのだが……」
と宗方が言うと
「はい。やはりそれしかないと僕も思います」
と折原刑事は言った。
「善は急げだ!折原出かけるぞ!」
と言うや否や宗方と折原の二人の刑事は警察署を後にした。