第3章-犯人への糸口
(>_<)ずっと放置したままだったので、今年こそ完結に向け頑張って書きたいと思います……。
プロローグ
ふっと見上げた青い空に真っすぐな一筋の白いひこうき雲。
そのひこうき雲にあたしは誓う。自分が歩むこの先にどんな事が待ち受けていようとも絶対に負けはしないと……。
第1章‐最愛の母の死
片瀬杏は只今、高校2年生で早生まれの16歳である。
ちなみに杏の家は昨夜全焼した。
夜、杏が居酒屋のバイトから帰ったら家が燃えていて炎があがっていたのだ。
父親が海外に単身赴任をしていて杏は今現在母親と二人暮らしだったので杏はあせった。
気づけば杏は
「お母さーん!」
と狂ったように叫び炎の中に飛び込んでいた。
だがその時杏は若い消防士に止められた。
「炎と煙がすごいから家の中に入るのは無理だ!」
「だって、だって家の中にお母さんがいるのよ。助けなきゃ!死んじゃう……」
と泣き叫けび杏はその消防士の腕を振り解こうとしたが強い力で腕を掴まれた杏は家の中に入れずに、ただその場で唖然としてその炎に包まれた我が家を見つめていた。
やがて木造モルタル作りの家は無残にも瞬く間に燃え上がる炎と共に崩れ落ちた。
「いっやあー!!!お母さーん!!!」
と杏は叫びその場で気を失った。
それからどれくらいの時が過ぎたのだろうか?気づけば杏は病室のベッドの上で目覚めた。
とその時枕元に置いてあったトートーバックからケータイの着信音が静かな病室に鳴り響いた。一瞬ビクリとして杏はトートーバックからケータイを取り出した。
見知らぬ相手からのメールにはこう書かれていた。『俺は昨夜の放火の犯人を知っている。ちなみにこの情報を200万円で買って欲しい』
そしてメールの最期の行にはお金の振込先の銀行名と口座番号が記載されていた。杏はそのメールの内容に恐怖を覚えた。
『200万円で情報を買って欲しい』ですって?!何を言っているのこの人。こんな時にあまりにも不謹慎過ぎるわ。
って今のこの16歳のあたしにそんな大金なんかある訳ないじゃないよと杏は次第に腹立ちさを覚え不愉快になった。
と、その時病室のドアをノックする音がして若い男が入って来た。
「片瀬君おはよう。お体の具合は如何ですか?」
とその男は心配そうに杏に聞いた。
「お・おはようございます。まあなんとか大丈夫です」
と杏は挨拶をしながら答えた。
「僕は県警の宗方芳樹です」
と言ってその若い男は杏に一枚の名刺を手渡した。
「はあ、県警の刑事さんですか……」
と杏は手渡された名刺をマジマジと見つめながら言った。
「昨夜の火事の件、実は放火と事件の両面から捜査中なのですが、ちなみに片瀬艶子さんはあなたの母親ですね?」
とその宗方刑事が言った。
「はい。片瀬艶子はあたしの母です。ちなみに母は無事なんでしょうか?」
と思わず杏はその刑事に詰め寄った。
「残念ながら焼け跡の中から発見された焼死体は歯型から片瀬艶子さんであると今朝確認されました」
「そ・そんな。いっやあー!お母さあーん!!!」
と言って杏は泣き崩れた。
杏のあまりの哀しみように躊躇しながらも宗方刑事は
「あなたのお父さま片瀬薫さんは今現在ベトナムに単身赴任中でしたよね?なのでこちらから一応連絡を入れておきましたので間もなく日本に帰国をされると思います。
帰国されたらあなたのお父さまは本格的な事情聴取を受ける事になります。追ってあなたにもまたお話を聞く事になると思いますので宜しく」
と言ってその刑事は病室を出て行った。
「ああ、なんて事。お母さんが死んでしまっただなんて。昨日まであんなに元気に笑っていた優しいお母さんが……」
と言って杏はこぼれ落ちる涙が止まらなかった。
「お加減はどうですか?」
とやや年輩の看護師にそう聞かれて
「はあ、別にこれと言って体に異常は感じられないのですが、ただ精神的なダメージがあまりにも強すぎて……」
と杏が力ない声で言うと
「そうですか。そう言えばあなたのお家昨夜火事で焼けてしまってお母さまが亡くなられたとか。お気の毒に。ご愁傷さまです」
とその看護師はしんみりとしながら言った。
「ちなみにあたし此処をすぐに出ていかなきゃいけないのでしょうか?って家が焼けちゃってあたし何処も帰るトコがなくなってしまったんだったわ。あたしどうしたら良いのかしら?」
と言って杏は今更ながらに今の自分の置かれた境遇に対して途方にくれた。
「あっ、それならさっき宗方刑事さんがあなたのお父さまが此処に来られるまで此処に居られるように手続きを済ませて帰られましたよ」
と看護師が言った。
「はあ、そうですか。ありがとうございます」
と杏は言って頭を下げた。
父、薫が帰国して病院に迎えに来てくれるまでの間杏はベッドから起き上がり、ベランダから見るとはなしに行き過ぎる車や人の流れをボーっと眺めていた。
そうしているうちに杏の心はこれからの自分の未来がとてつもなく不安に思えてきた。
とその時ケータイの着信音が鳴った。急いで電話に出て見ると親友の田神弥生からだった。
「うん。あたしは大丈夫。でもお・お母さんが……」
と言って杏は溢れる涙で後の言葉が続かない。なので杏は電話口から聞こえてくる弥生の話をじっと聞いていた。
話によると弥生はクラスの数人の友達と共に今現在杏が運ばれた病院に向かっているとの事だった。
「あっ!此処だわ。杏私よ。弥生」
と言うと弥生はドアをノックした。
「あっー!弥生来てくれたのー。ありがとうー」
と言って杏は弥生に抱きついた。
「杏、大変な事になってしまったわね。私達なるべく力になるから困った事があったら何でも言ってね」
と堀内円が言うと
「杏。私も同じ気持ちよ」
と金沢真紀が言った。
友達の優しい心に触れた杏は益々溢れる涙で声を詰まらせ
「皆あ・ありがとう……」
と言うのが精一杯だった。
第2章-再出発
杏の父親は杏の友達と共に夕食を食べながら杏の今後の事を素直に皆に話した。
つまり杏の父親薫は杏に一時親戚の元に身を寄せるように言ったのだが、杏は親戚の家で気を使いながら暮らすくらいなら独り暮らしをしたいと言い出したのだ。
だが薫は自分が海外赴任中に杏を独り暮らしさせるのは心配だと言う事を杏の友達に必死に訴えた。
「あっ、じゃあ私ん家不動産屋してるからメゾネット形式のマンションで私と一緒に暮らすって言うのはどうかしら?
セキュリティ面もしっかりしてるし、お家賃も親友のよしみで安くして貰えるように私父に頼み込んであげるわ」
と弥生が提案した。
「弥生ちゃんが一緒なら心強いね。じゃあ早速君のお父さんに連絡をしてくれないかな。頼むよ」
てな訳で弥生の提案によってこうして話がスムーズに決まり、杏の父親薫は短期間のうちに宗方刑事の事情聴取と妻艶子の葬儀を済ませ慌ただしく赴任先のベトナムへと再び旅立って行った。
「あーあっ、お父さん行っちゃったわ……」
と杏は弥生と父親を見送りに来た空港の空を眺めつつため息を漏らした。
「杏じゃあ今夜は外食をして帰ろうか。ちなみに明日からの共同生活のルールなんかを夕食を食べながら詳しく決めましょうよ」
と弥生が言ったので
「うん。弥生そうしょうか。ところで何食べる?」
と杏が言ったところでケータイが鳴った。
「あれ?!杏のケータイの方だね。ちなみに誰からなの?」
と弥生が何気なく聞いてきた。
杏がケータイの画面を覗くとあの火事の日に送られてきた相手からだった。
「ねえ、誰からなの?」
と弥生にそう聞かれて杏は
「うん。あのさ、あの火事の夜にもメールがきたんだけれど、今回もそいつからみたい。だってアドレスが同じだから……」
と言った。
「えっえー?!何それ。ちょっと杏私にそのメール見せて!」
と言うと弥生はやや強引に杏のケータイを奪うとそのメールに目を通した。
そのメールの内容に驚いた弥生は
「『200万円と引き換えに犯人を教える……』だなんてこれって限りなく怪しいじゃないよ。すぐに担当刑事さんに連絡をするべきだわ。警察だったらこのメールの相手の事くらい即解るはずだし。ねえ、杏そうしなよ」
と言った。
「そうね。そうするわ。この先こうして頻繁にメールを送られても私困るしね」
と言うと杏は宗方に連絡を入れた。
此処は警察署である。
杏と弥生は早速メールの件を宗方刑事に話し相談をした。
「う~ん。そうか。解った。じゃあ早速このメールの送り主を調べてみるからちょっと待ってて!」
と言って宗方は別室に消えた。
しばらくして宗方が戻って来てケータイの送信元は某男子校生徒の藤堂拓海である事が解った。
「ちなみに片瀬君の母親は某スーパーで万引きGメン(万引き捜査官)をしていたんだったよね?もしかするとあの事件は艶子さんに捕まって恨んでいる者の放火による犯行の可能性もあるな?」
と宗方刑事は忙しさで髭を剃れないのか多少伸びてきた顎の髭に手を当てながら言った。
「ちょっと待ってて。警察に届いている万引き犯の中にこの藤堂拓海の名前がないか調べてみるから」
と言って宗方は再び慌しく部屋を飛び出して行った。
やがて唸りながら
「う~ん。どうやらこの犯罪リストには載ってなさそうだな。まあ、スーパーによっちゃあ大概は初犯の場合大目に見て警察に連絡をせずに、
身元確認をした上で親御さんに連絡を入れて本人を引き取りに来て貰らう事も多いからな。おそらくはこの藤堂拓海もそのケースだったんだろう?」
と宗方刑事が言った。
「だったら多分杏のお母さんが勤めていたスーパーに行けば犯罪リストの記録があるハズだわ。そこにこの『藤堂拓海』の名前があればズバリ杏にメールを送ってきた犯人の可能性もあるんじゃないのかしらね?」
と弥生が言った。
「そうだね。じゃあ今から急いで艶子さんが勤めていたスーパーに向かおう!さあ、君達パトカーに乗り込んでくれたまえ」
とそう言って宗方は車のドアを開けた。
「わあー!かっこ良い!私パトカーに乗るのなんて初めてよ。なんかワクワクするわ!」
と弥生はノー天気に言いながらパトカーに乗り込んだ。
「あはっ、弥生ったら無邪気に喜んでるよ」
と弥生のややハイテンションなはしゃぎぶりに杏は思わず苦笑いをした。
「だってパトカーに乗る経験なんてそうそうある事じゃないもの。興奮もするわ」
と弥生が言うと
「そうだね。ちなみに君達には今後犯罪を犯してパトカーに乗るような事だけはない事を祈るよ」
と宗方は笑いながら言った。
すると杏のケータイの着信音が鳴った。
「あれ?!メールだわ。誰からだろ?」
と言って杏は上着のポケットからケータイを取り出すとメールを読んだ。
読んで見ると、今度は違うメールアドレスでお金を要求する旨の内容が書かれていた。
「杏また不審な相手からのメールな訳?」
と弥生が興味深気に杏のケータイを覗き込みながら言った。
「うん。そうみたい……」
と杏が言うと
「どれ片瀬君僕に見せてくれないか?また誰なのかを調べてみるから」
と宗方が運転をしながら右手だけを後ろに差し出した。なので杏は宗方にケータイを手渡した。
宗方は信号待ちの時にざっと杏のケータイのメールに目を通すと
「う~ん。また金銭を要求する内容か。今度は300万円だな……。
にしては以前もそう感じたんだけれどそもそも恐喝に対する金額にしては少し少な過ぎる気もするんだよな……。
まあ、取りあえず名前だけを調べる事にするか。ちなみに早速本部に問い合わせの連絡を入れておくよ」
と宗方は言った。
やがてパトカーが某スーパーに着いた。
なかなか流行っているお店なのかお客さんが大勢特売の売り場に群がっていた。
宗方が店員に事務所を聞き三人は人の波をかき分けて店の奥にある事務所へと急いで向かった。
「コン。コン」
と宗方が事務所のドアを叩くとすぐにドアが開き若い男が顔を覗かせた。
「こんばんは。僕は県警の宗方です。こちらは片瀬さんと田神さんです」
と二人を紹介して宗方はその男に自分の名刺を手渡した。
その男は宗方から名刺を受け取ると
「お待ちしておりました。さあさ。皆さんそこに座って下さい」
と言って三人にソファに座るように薦めた。なので三人は黒いレザーのソファに腰を下ろした。
三人がソファに座ると男は宗方に自分の名刺を渡した。
渡された名刺には
『店長-益田茂樹と書か
れていた。
「益田さん早速ですが、此処のスーパーでは初犯の万引きの場合警察には通報をせずに、取り敢えず名前だけを控えておくシステムでしたよね?」
と宗方は聞いた。
その問いに
「はい。そうです」
と益田は即座に答えた。
「そうですか。では『藤堂拓海』と言う人物の名前が、このスーパーの万引き犯リストの中にないかを教えて頂きたいのですが」
と宗方は言った。
そこへ事務員らしき女性がお茶を運んで来てそれぞれの席のテーブルの上に湯飲みを置いた。
「あっ、ありがとうございます」
とやや恐縮気味に杏と弥生は言ってお茶を飲んだ。
そして益田はお茶を一口飲むと素早く立ち上がり早速本棚の中から分厚いファイルを取り出しテーブルに置いて椅子に座るとインデックスの『と』のページを次々捲り調べ始めた。
だが益田は一通り『と』のインデックスを見終えて
「『藤堂拓海』ですよね?う~ん。どうやらココには名前が載ってないみたいですね……」
と言った。
「えっ?!ありませんか?」
と宗方はやや拍子抜けしたような顔をして益田に聞いた。
「ありませんね。なんなら宗方さんもご覧になって下さい」
と言って益田はその分厚いファイルを宗方に見せた。
「ありがとうございます。拝見させて頂きます」
と言って宗方は『藤堂拓海』の名前を探し始めた。
ファイルに『藤堂拓海』の名前がないと言われ杏と弥生はお互いに顔を見合わせながら不安そうに宗方が繰っているファイルのページをじっと見つめた。
しばらくして宗方は
「本当に載ってませんね。片瀬さんどうしょうか?」
と杏に聞いた。
「名前が載ってないのならば仕方がありませんね。別の線に切り替えて調べるしかないと思います」
と杏は言った。
「では今日はこの辺で失礼致します。またファイルを閲覧させて頂きに来る事があります時には連絡をさせて頂きますので宜しくです」
と言って宗方と杏と弥生の三人は丁寧にお辞儀をして事務室を後にした。
パトカーの中で宗方は
「さっきのメールの送り主の方を本部に問い合わせて名前が解ったら、また今のスーパーの益田さんトコで調べてみる事にするね。あとでその結果報告を君にするから」
と杏に言った。
「はい。では宜しくお願いします」
と言って駅前までパトカーで送って貰った杏と弥生の二人はパトカーから降りると
「さよなら!」
と言って宗方に手を振った。
パトカーが視界から消えると二人は近くの比較的空いているお店に入り、夕食を食べる事にした。
「う~ん。パトカーに乗るのも始めてだけれどこうして刑事さんと色々調べるのも初体験だわ。なんかかっこ良いね!私女刑事でも目指そうかしら?」
と弥生がウルウル目で言った。
「あっは。弥生はすぐに感化されるタイプなんだから。ちなみについこの間行った修学旅行の時も素敵なスチワーデスさんを見てスチワーデスになりたいなんて言ってなかったっけ?」
と杏は笑いながら言った。
「えっ?!私そんな事言ってたかなー?」
と弥生はとぼけている。
「あっは。弥生はすぐに感化されるタイプなんだから。ちなみについこの間行った修学旅行の時も素敵なスチワーデスさんを見てスチワーデスになりたいなんて言ってなかったっけ?」
と杏は笑いながら言った。
「えっ?!私そんな事言ってたかなー?」
と弥生はとぼけている。
「ねえ、それよりか弥生。あたしお腹ペコペコ。ねえ、早く何を食べるか決めようよ。ちなみに弥生は何を食べる?」
と杏は弥生に聞いた。
「そうねー。あっ、私ラザニアで良いや。
杏は?」
「じゃあ、あたしはキノコのパスタにするわ。
じゃキマリね」
と言って杏はテーブルの上にあるボタンを押してウェイトレスを呼ぶとキノコのパスタとラザニアをオーダーをした。
第3章-犯人への糸口
宗方が本部に問い合わせていた杏に送られてきた二人目のメールの身元は葛西樹である事が判明した。
だが宗方が再度スーパーを訪れて益田に頼みファイルを閲覧をした結果、その万引き犯リストには藤堂拓海と同じく『葛西樹』の名前は記載されてはいなかった。
まあ、一般的に言ってメールの送り主と犯人が結びつく可能性は大いにあるのだが、この場合はそうではなかった。
この事に対して宗方は少しがっかりもしたが、片瀬杏の家が燃えて片瀬艶子が死んだのは事実なのだから、引き続きこの事件を解決するための捜査を続行しなければならない。
なので宗方は杏に二人目のメールの名前が『葛西樹』である事を知らせ、この名前も藤堂拓海と同様益田が勤めているスーパーの万引き犯リストには載っていなかった事を電話で報告をした。
やがて少し捜査が進展して家が燃えたのはやはり艶子が出した火元からの火事ではない事が解った。何故なら艶子はこの日台所を使う事はなく出来合いのお弁当を買っていたからだ。
勤めていたスーパーの店員が確かに艶子が『今夜は私疲れているから、夕飯を作る気力がないの。だから出来合いのお弁当を買って帰るわ!』と言ったので閉店間際に半額セールのシールを貼った事を証言したのだ。
ちなみにテーブルの上にその二つのお弁当の焼け焦げた後がそっくりそのまま残されていた。
コンセントのプラグがショートした形跡も見られない。ただガソリンを滲み込ませ布を巻いた割り箸と共にガラスの破片が部屋の隅に散らばっていたと言う事が解った。
どうやらその状況からすると部屋に何者かが火炎瓶を投げた事による火災であると断定されたのだ。つまりは放火である。
その結果を受け間もなく『火炎瓶による放火対策本部』が設置された。なので宗方は数名の刑事仲間と共に地道な本格的捜査を開始した。
そして連日近所の目撃者の有無を聞き歩き裏取り調査を綿密に行い、日々気の遠くなるような捜査が繰り返えされた。