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第六鎚 最大限の一撃と。



 結構な距離吹き飛ばされていった巨大ゴブリンは放っておいて、私は近くで固まっていた四人組に声をかける。


「助太刀は要りますか?」

「「「「それは殴る前に聞くものじゃない?」」」」


 見事にハモった。きっとこの四人はすごく仲良しなんだろうな、と思う。

 歳のころは…私と同じくらいだろうか。高校生くらい?仲のいい友達がいるのはいいことである。


「ところで、あの巨大ゴブリンはなんなの?エリアボス?」

「…いえ、ここのエリアのボスは大蛇だそうなので違いますね。僕はお仕置きモンスターか何かの類だと思うのですが…」

「…お仕置きモンスターってなにさ?」

「短時間で特定のモンスターを狩りまくったり、あるいは長い間一つのエリアに留まり続けてると出る、スローター抑制のすごく強いモンスター、ですかね」

「ふーん、お仕置きモンスターねぇ」

「…いったい、誰が出したんでしょう」

「……………。」


 イッタイダレダロウネ。

 やばい、重戦士くんの陰からすごい疑り深い目でこっちを見てくる可愛い子がいる。絶対バレてるなこれ…っと、巨大ゴブリンが戻ってくる。しっかり入った手応えはあったんだけどなぁ。さて、そういえばあいつのステータスはまだ見てないし、どんなステータスかn…



〈ゴブリン将軍ジェネラル〉 Lv.??

?????/?????

残出現時間 00:25:22



 ほへぇ。

 レベルもHPもわっかんねえなこれ。えぇ…倒せるのかな。いや、モンスターとして出て来ている以上は理論上倒せるはずだ。もしただスローターを抑制するだけなら理不尽な攻撃で一撃死させればいいだけだし…いや、世界観を守るためにモンスターとして出しただけで実質倒せない敵の可能性も。……うん、ポジティブに考えよう。

 ダメージは通っているはずだ。現に、起き上がってきたゴブリンジェネラル…略してゴブジェネの頭部の、私がちょうど攻撃を叩き込んだあたりからは赤いポリゴンが出ているのだから。


「んじゃ、私はあれに挑むつもりだけど…あなたたちはどうする?」


 少し、挑発するように聞いてみる。

 実際私一人で挑むよりも他人の援護があると結構心強い。攻撃支援はもちろん、色々と肉盾…ゲフンゲフン、ヘイトを分散して動きやすくなったりするからね。


「…俺はやるぜ!」

「ちょっと、またそうやって勝手に…はぁ、私もやるわ」

「僕も付き合いますよ。面白そうですし」

「みんなが行くなら私も行きますけど…貴女のそれ、竜化ですか?」

「…?そうだけど」

「そうですか…それはそれとして、貴女には後でお話があります」

「…うぃ」


 うぅ、ごめんなさい…

 その後は、ゴブジェネが本格的にこちらに戻ってくる前に彼らのパーティーに入れてもらった。前衛は男衆二人——ダイキくんとテイルくん、それと私。後衛はツインテールのエルフの子——クララちゃんと、さっきからずっとジト目の魔族の子——リリィちゃん。ちなみにどうやらエルフの子が黒魔術師(魔法で攻撃する魔術師)で、魔族の子の方が白魔術師(回復とか支援担当の魔術師)らしい。魔族が回復・支援って、なんかイメージと違う…


 パーティーになるとパーティーメンバーのHP・MPがわかるんだけど、そのジト目魔族ちゃんは、私の瀕死のHPを見て、私に治癒魔法をかけてくれようとした。HPの最大値が固定されてるので無理だと言ったら、やばいやつを見る目で見られた。…まぁ、仮想現実の中とはいえオワタ式で戦い続ける奴はたいていがヤバいやつだろうからね…え?私?私は全てをSTR(パワー)で打ち砕きながら進むだけだからね。そんなヤバい奴らと一緒にしないでほしい。


 そんなどうでもいいことを考えつつ、持っていた残り少ないポーションでMPを全快にして、再びメイスを構えてゴブジェネに向き直る。


「私のスキルの《竜化》は後大体5分で切れます。その後はお荷物同然ですぐ殺されちゃうと思うから、足掻けるのはそれまでだと思っといてください。…つまり、五分間で全ての攻撃を集中運用してあいつをぶっ倒す」

「っしゃあ!…じゃあリリィ、俺も《命神覚醒》使っていいかな?」

「いいと思いますよ。私もできる限りの支援魔法をかけますので」

「ヘイトは完全にニナさんに向かっているようだから、僕も攻撃に全振りするね」

「私も魔力全部ぶっ込んで魔法撃つわ!」


 心強い返事が返ってきて、思わず笑みが溢れる。

 これまでアイク以外の人と一緒に戦ったことはなかったし、ついでに言えばプレイヤー同士だとこれが初めてだ。後ろに味方がいる状況というのは、頼もしい。

 …ほとんど死ぬ前提の突撃だけれど、雷神様は許してくれるかな…


「静謐なる水の神の名の下に、彼らの行く末を照らしたまえ…『アクア・ストレングスエンチャント』っ…来ます!」


 リリィの警告とともに、ゴブジェネが森を突き破ってきて、私に向けて棍棒を撃ち下ろしてきた。…速い!避けられない……けど!


「舐めんな!《インパクト・リフレクション》!」


 鎚術のレベルが4になったことで覚えたアーツ、《インパクト・リフレクション》。これまでずっと漢字表記のアーツしかなかったのになんでいきなりカタカナなんだっていうツッコミは置いておいて、このアーツは、完全カウンター用アーツだ。

 相手と自分の攻撃がかち合う瞬間に発動することで、強固なノックバック耐性と一瞬の無敵時間を得ることができ、自分の与えるノックバックと衝撃力を1.5倍に、さらには相手の攻撃の衝撃の2割を反射できるアーツ。ミソなのは、ダメージ補正は全くないことで、さらには普通の攻撃には転用できない所だ。

 本当にただの防御、あるいはカウンター用アーツなのだけれど、アーツの効果的に格上の攻撃を受け止められる可能性は十分あるのだ。それに、今の私は竜化+逆境、それに加えてリリィちゃんの支援魔法のMAX強化状態。フィニーちゃんのお弁当の効果も残ってるし、ゴブジェネの攻撃だろうと押し返せるかもしれない!


 どごんと鈍い音を立ててゴブジェネの巨大な棍棒と、それに比べるとほとほと貧弱に見える私のメイスがぶつかり、紫電が撒き散らされるとともに、あたりに衝撃波が飛んで風が吹き荒れる。


「ぐっ…これでやっと拮抗か…!」


 あれだけのアーツとスキルを使用しておきながら、結果は拮抗。

 しかも《インパクト・リフレクション》のスキル効果は一瞬、攻撃と攻撃が当たる瞬間だけだから、必然私はギリギリと押しつぶされていく形となる。相当なレベル差があるのか、強化されにされきった私のSTRでも押し負けているらしい。…すごく悔しい。


 ギリギリと押されて、私はついに片膝をついた。

 もし私が一人だったらこのまま押し切られて終わりだったんだろうけど、今回は、そうはならなかった。


「させないわよ!《二重詠唱(ダブルスペル)》、《豪炎火球》!!」

「足元がおろそかだね…《大回転切り》!」

「《命神覚醒》ィ!初っ端からかますぜ!《ソード・オブ・トライアル》!!」

「グ…ゴガァ!?」


 リリィの支援を受けて強化された三人の攻撃職の攻撃が、完全に私しか目に入っていなかったゴブジェネに直撃し、体制を崩させる。それとともに重圧が緩んで隙が生まれた。


「よし、抜けた!《豪脚》!」


 棍棒の下から抜け出し、ついでとばかりに脚技のレベル1のアーツを叩き込んでから離脱する。効いてるかはわからないけども。


「追加支援します…《アクア・ストレングスエンチャント》!」

「ありがと!まだまだ終わらないよー!《連撃強化》、《三連撃》、《重撃》!」


 残り時間は少ないのだ。MPの出し惜しみなんか言ってられない。闘気は全力で練り込むし、アーツもリキャストが終わった側から使っていく。

 ヘイトが分散したゴブジェネに向けて、連撃強化でダメージの底上げされたメイスの攻撃を叩き込む。

 一撃目は、普通の一撃。二、三、四撃目は《三連撃》と重複した攻撃で、最後の一撃には《重撃》を叩き込んだ。


 同時に、ばきりとメイスから嫌な音がする。…先ほど、《インパクト・リフレクション》でゴブジェネの攻撃を受けた、〈始まりのメイス〉が、半ばから折れかかっていて。チラリと武器ステータスを見れば、耐久値がなくなっていた。…くっ、なんたってこんなに早くに。


 考えてみれば当然である。例え私自身が大量のアーツで衝撃とダメージを受け流したとしても、私とゴブジェネ双方の攻撃を受け止めたメイスには甚大なダメージが蓄積されていたはずだ。…それが今、ここで壊れた。


 メイスが壊れたショックとアーツの技後硬直で動けない私に向けて、ゴブジェネが無理な体制から体を捻るようにして姿勢を崩しながら棍棒を振るった。


「グゴァァ!」

「させないよ!…ぐっ…」


 いつの間にか装備を変更したらしいテイルが、装備した大盾でコブジェネの棍棒での一撃を受け止める。ゴブジェネが無理矢理にはなった勢いの乗っていない攻撃とはいえ、受け止めるのは無理があったようで、弾き飛ばされて転がった。…しかし、私はその一瞬の間に離脱することができていた。


「テイルくん!?」

「ぐ…僕は大丈夫です!ニナさんはゴブジェネに集中して!倒すんでしょう!?」

「…うん!」


 そうだ、倒すんだ。『負け前提』なんて甘えた考えでは、求める(パワー)には、絶対に届かないから。しょげている場合じゃない。


 ……やつを、倒すための一撃を、考えろ。


「…ダイキくん!一瞬時間稼いで!」

「んなっ!?無茶いうな…やってやらぁ!!こっちだデカブツ!」

「支援は任せてください…《アクア・バイタリティエンチャント》!」

「援護するわ!《ファイアバレット》!」

「僕もくたばるにはまだ速いですからね!《ヘビースラッシュ》!」


 息ぴったりな彼らがゴブジェネの注意を惹きつけるのを視界の端にとらえつつ、MPポーションを煽る。…これが最後のMPポーションだし、竜化の残り時間ももう残っていない。MPも満タンにはできなかった。…何か、何か。


 そう強く考え込んでいると、ドクン、と心臓が大きく鼓動した。


「…これは、雷神様?」

『……』


 なんとも些細な自己アピールだ、と思う。そういえばこの雷神様は、出会った時はなんだか恥ずかしがり屋みたいな雰囲気がしていて、神様なのに可愛らしいと思ったんだった。

 …そんな神様の、自分がついているというアピール。…ならば、それに答えなくてどうする。




 私が今《神雷纏い》のスキルで纏っている紫電は、おそらく神様の眷属の雷龍由来の力なんだろう。それの出所は、神様で。そのおかげで、今私は神様とすごく近い距離にいる。


「雷神様、差し出がましいお願いですが、お力をお貸しください」

『……』


 言葉はなかったけれど、少し彼が微笑むような感じがして。


 体に纏った力が、ぐわりと増した。


「ぐっ…」


 ただでさえ少なかった竜化の残り時間が、さらに早く削れていく。…もう時間がない。

 力の増した全身の雷を、操る。感覚は、闘気を操るのと大体同じだ。だから闘気に合わせて動かせば、特に不自由はしなかった。


 全MPを使い切り、右手に持った〈ラッシュボアのメイス〉にその闘気と紫電を充填する。

 バリバリと、空間が歪みながら弾ける音とともに、わずかにメイスの軋むような音もする。…ごめん、ゴヴニュさん。買ったばかりなのに壊しちゃうかも。


「それでも、今は!」


 私と、雷神様の距離が、今は限りなく近いように思われて。

 どうしようもないほどの温かさが、私に安心感を与えてくれる。…大丈夫だ、いける、と。


 口が勝手に開いて、祝福の言霊を紡ぎ出す。


「『我は、雷神の眷属なり』」


 巨大な神格がその場に顕現したような錯覚を覚えるほどに、空気が一変する。

 ゴブジェネも、ダイキも、クララも、テイルも、リリィも動きを止めだ。


「『我は、雷神の雷なり。我は、雷神の怒りなり』」


「グ、ゴアァァァ!!!!」

「っ…!?『アクア・プロテクション』…ッキャァ!?」


 何かを察したらしいゴブジェネが、四人組を反射的にリリィが張った防御魔法ごと棍棒で薙ぎ払ってこちらに向かってくる。今までもしかして、全力じゃなかったのだろうか。…はぁ。

 …でも、遅い。もう完成する。


「『全てを叩き潰し、粉砕し、打ち砕き切り開け、雷神の鉄槌よ!』」


 ゴブジェネが、棍棒を振りかぶって。

 やけにゆっくりなそれを見やりながら、私は地面を蹴って飛び上がった。

 雷の如き速度でゴブジェネの頭上に達して、見据えるはゴブジェネの頭頂部。


「雷神奥義…『打ち砕く雷鎚(ミョルニル)』!!」


 迸る紫電を纏った一撃が、ゴブジェネの右肩に叩き込まれた。意識が遠のくほどの轟音と、大きな抵抗を受ける両の手。

 衝撃が浸透し、紫電が駆け巡る。振り切られた私のメイスは粉々に砕けて、竜化の解けた私は無様に地面に落下した。


 背後で、ゴブジェネが頽れた気配がして。

 ふとHPを確認してみれば、本当に少しだけ真っ赤なドットが残っていて、ステータスを見てみれば『1』とあった。…本当に、ギリギリの戦いで。


 木々の隙間から見える青色の空を見やりながら、つぶやく。







「はぁ…ダメだったかぁ…」



「グゥゥ……」


 四肢を地面に投げ出して、もう一歩も動く気力が湧いてこない私を、起き上がったゴブジェネが見下ろす。


 ゴブジェネにメイスを叩き込む直前、ゴブジェネが身を翻したせいで、狙っていた頭部…私が最初につけた傷の残っているところからは大きく外れた右肩に、攻撃が当たってしまった。

 ゴブジェネにメイスを叩き込んだ瞬間、わずかに足りなかったと、思った。

 MPは最大まで使えなかったし、闘気や神雷の練りも甘かった。急所も外したし、なにより叩き込んだそのインパクトの最中にメイスの耐久が切れて、同時に私の竜化も途切れたから、中途半端な一撃になってしまった。

 せっかく雷神様の力を借りたのに。不甲斐ない結果だ。


 ゴブジェネの右肩からは、雷が走った後のような黒ずんだ跡があって、全身から赤いポリゴンを撒き散らしていたけれど、彼はしっかり立ってそこに在った。


「……」

「次があるなら、絶対に負けないからね」


 最後に見たのは、少し笑ったような、まるで「誇っていい」とでも言いたげな、彼の顔だった。




  ◆  ◆  ◆






「あ!戻ってきた!」

「ここに戻ってきたってことは…」

「そう、残念ね」

「最後まで共に戦えず、すいません」


 噴水広場に死に戻ってみれば、四人組に出迎えられた。

 彼らもゴブジェネが私のところに向かおうと棍棒を振り切った時に揃って死んでいたようで。ここでずっと待ってくれていたそうだ。


「ごめん、倒しきれなかった」

「いや、謝ることねえよ!最後のあれ、俺たちは見れてねえけど、すげえ神々しい感じの雰囲気を感じたぜ!?あれで無理なら仕方ねえよ」

「…うん」


 本当に、その通りだ。


「…はぁ、パワー足らんかったなぁ…」


 そんな呟きは、四人組の笑いと共にどこかへ流れて消えていった。









《称号『ゴブリンスレイヤー』を獲得しました》

《称号『ゴブリンジェネラルの好敵手』を獲得しました》

《称号『大敵に挑みしもの』を獲得しました》

《称号『打撃ダメージチャレンジ・Ⅲ』を獲得しました》

《称号『雷撃ダメージチャレンジ・Ⅱ』を獲得しました》

《称号『奥義に到達せし者』を獲得しました》

《称号『雷神の寵児』を獲得しました》


《特別な邂逅をしたため、STP5ポイントを獲得しました》

《特別な邂逅をしたため、SKP5ポイントを獲得しました》

《レベルが上がりました》

・tips


・奥義について

 大前提として、種族の覚醒が必要。(〇〇化とか〇〇覚醒とか)

 その上で、強い意志のもとに力を行使しようとすれば最初の一つは手に入る。これに関しては、スキルレベル・プレイヤーレベルともに関係がない。奥義に関しては同じ神様を信仰していて、同じ種族で、同じ武器を使っている人がいたとしても全く違うものになる。個人の独自の必殺技みたいな感じ。

 二つ目以降の奥義は一定のスキルレベルとプレイヤーレベルが必要で、かつ特別なクエストをこなす必要がある。当然だが奥義を一つも解禁していないとこのクエストは受けられない。


 奥義自体は、取得しているプレイヤーは結構いたりする。



 誤字報告ありがとうございます!

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[良い点] ここで倒せないのは珍しいな とても好き
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