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第二十八鎚 ハローワーク

hello workって冷静に考えて頭の悪い英文ですよね。誰が考えたんでしょう。



 龍翼の腕輪。

 そう銘打たれた、私の腕に嵌められたままの、今はまだ窪みだらけでお世辞にも豪奢とは言えないそれ。


 きっちりと腕に嵌っていると言うわけではなく、少し隙間があるから力を入れれば位置をずらすことは可能だった。

 それなのに、どれほど力を入れても手首より先には動いていかないのだ。別に何かに引っ掛かっているわけでもなく、腕輪が小さすぎると言うわけでもない。


 ただ、空間に固定されているのかと疑いたくなるほどに、その腕輪は頑なにして私の手から抜けることはなかった。ええ……


「ま、うじうじ悩んでても仕方ないかな……?」


 今はそう思うことにしよう。

 何かしらの危ないアイテム…例えば呪いの効果で外れなかったり(黒いモヤのことではない)するのであればなんとしてでも対処を探さなければいけないけれど、そう言うわけでもない。


 今から街の中に戻ってリーリャさんを捕まえてみる……ってのも考えるけれど、店にいたら捕まるようなマネを彼女がするだろうか?まあ、しないだろうね。


 そんなこんなで、今は諦めるしかないか。いつかまた会う機会もあるだろう。それこそ、これから訪れるだろう小さな町々の、これまた薄暗い路地裏で、とか。


 よし、じゃあ。

 ツヴァイの街に向けて、出発進行だー!



「お、ストーンゴーレム……の、ちっちゃい方!」


 竜化で弱体化はしてるけど、お前如きには負けんぞー!




  ◆  ◆  ◆




 さて、と。


 道程は行きよりもレベルが上がったからか、意外と時間はかからずに、日が沈むと同時くらいにツヴァイの街に到着することができた。


 白亜の都市は、黒の神の時間が始まる薄暗闇の中にあっても、街の明かりと月明かりを反射して、真っ白なその異様をそびえさせていた。

 やっぱりそのすがたは幻想的で。ベルグヴェルグの街みたいなちょっと粗野でごちゃっとした感じも悪くはなかったけど、改めてここが聖都と呼ばれるだけの歴史と誇りを持っているんだなー、なんて思った。


 こうして色々な街の姿を比較してみるのも結構面白いよねー。


「こんばんは〜」

「……」


 やっぱり無言だった。ちぇー。


 さぁってと。日が暮れたとはいえ、まだまだ時間は6時を回ったばかり。リアルの方でも時間はあるし、そう言うことなら私が一番楽しみにしていたことを済ませよう。


 え?それは何かって?



 決まってるじゃないか!


 そう!二次職への転職!



「れっつらご〜」


 いつも通りの掛け声を出したけれど、それは夜の聖都の喧騒に溶けて消えていった。


 やっぱり聖都は人が多いね。






 人でごった返する大通りを抜けて、ギルドの前を通り過ぎて。

 そうして大体20分かそこらで、私はやっとこさ宗教区画の入り口たる白亜の大橋の前までたどり着いた。前に来た時と同じようにそこには純白の鎧を着込んだ聖騎士が立っており、白亜の橋から下を覗き込めば、純白の街々の光を反射する黒色の水面に僅かに私の顔が映るのが見えた。


 二次職業。

 一次職業(初期職業)から同じ一次職業への転職はいつでも誰でもできるが、この二次職への転職は別だ。

 プレイヤーレベル30がに到達することで解放される、プレイヤーの能力強化のための要素。主に教会関連施設の近くに転職所があって、レベル30に到達したプレイヤーがそこを尋ねることで転職ができるのだ。


 その転職できる職業は多岐に渡り、種族的要素や信仰する主神の種類、それまでの使用武器やそれまでの一次職業、行動履歴、発生させているフラグ、スキルや称号、ステータス、交流履歴。エトセトラ、エトセトラ。


 このゲームでは、そんな感じでとにかく多くの要素からプレイヤーが転職できる職業を絞り込んで出してくれる。

 そして時には一人のプレイヤーその人しか選んでいないという職業もあったりする。

 詰まるところ、二次職への転職とは、オンリーワンという耳障りのいい存在に手を伸ばすことができるかもしれないチャンスであり、そうでなくとも他のプレイヤーたちと大きな差をつけられる一要素なのだ!


 この転職の要素も、スキル生成やユニーククエスト等と並んでこのゲームが人気な要素のうちの一つなんだよね。

 当然私もすごく楽しみだ。


 宗教区画の、やや中心に近いが、とりわけ重要でもなさそうなあたりに転職施設は位置している。

 特徴のないその外観。いって仕舞えばプレイヤーにとっての重要な転機となる要素を管轄する場としてはいささか荘厳さと特別感にかけるその外観も相待って、プレイヤーたちは安直に、ハロワ、だなんて呼んではいるけれど、そう呼ばれても仕方がないんじゃないかな……


 何はともあれ。


 私は、その施設のやはり白塗りで、よくよく見れば上品な装飾の施されている扉を潜って中にはいる。

 ここ聖都ツヴァイでは建物が真っ白かそれに準ずる薄い水色、偶に金色といったような清純をイメージする色でほとんどが統一されている。

 だからといってはなんだが、この町ではそう言った家々に施される微細な紋様や装飾で他の家と違いを出して、更にはそれで家の良し悪しもある程度わかるらしい。これもこの街特有の性質だね。


 今潜った扉もそう言った類のものだったけど、もしかしたら意外といい建物なのかもしれない。


 中には何人かのプレイヤーがいて、そしてやはりスキルセンターと同じように、受付で料金を払ってから個室で職業を決める方式のようだ。

 プレイヤー関連のそう言った施設はほとんどこんな感じなのだろうか……


「一部屋お願いしますー」

「はい、500Gいただきます」


 個室に入ってみても、やっぱり作りはスキルセンターのそれと似たような感じ。特に中央に置かれた水晶とか。色は若干違うようだけれど。

 もしかしたら、私たちがこの世界に来るに当たって、そのためだけに作った施設だから構造が似たような感じなのだろうか……


「んじゃ、始めますか」


 そう言って、少しだけ息を吸ってから水晶に触れる。



《転職しますか?》



 YESっと。


 ボタンを押した瞬間、膨大な量の職業名が手元のウィンドウに展開された。


「おー……」


 やはりというかなんというか、多い。

 流石にアバタークリエイト時のスキルの数には及ばないまでも、相当な数がある。

 アレだね。少しでも魔法を使ってたりすると最低限の魔法系の二次職とかも解放されるらしいし。


 この二次職からは、職業によるステータス補正や行動補正、成長方向なんかも変わってきちゃうし、慎重に決めないとね。


 ……………なんか、明らかに普通じゃないのもあるし……



 まず弾くのは、二次職ですらない初期職業たち。一応例外的にアバタークリエイトの時には選べなかった一次職業もあるんだけど、まあ二次職業に比べれば断然劣っちゃうからね……。


 次に弾くのは、やっぱり使わない魔法系・支援系の職業と、生産職。あとは、重武器じゃないものを扱う二次職かな。


 いや、まあ。

 『神雷魔術師』とかかっこいいけどさ。うん。

 多分雷神の寵児の称号が影響してるんだけど……というか、この称号が影響しているであろう職業が結構あるんだよね……とはいえ、魔法はあんまり使わないので今回はお見送りですな。



 生産職に関しても多少料理はするけどね……まあそれメインじゃないし。


 あとは、重武器じゃないもんはいらん。

 帰れ帰れ!


「さて、と」


 その後も、プレイスタイルに合わなそうなものを弾いていくと、いくつかの職業が残った。


「むー……五つ、かな」


 一つ目は、『重騎士(鈍器使い)』。

 単純に筋力(パワー)に補正の入るもので、今の『戦士(鈍器使い)』の正統進化の一つ。素直に選ぶならこれなんだけど……ね。


 二つ目は、『凶暴者(バーサーカー)』。

 多分解放条件は一度でいいから暴走することかなー。重騎士のそれよりも筋力(パワー)の補正が大きいけど、その分結構なデメリットがある、ピーキーなもの。固有スキルにも確率暴走の攻撃力爆上げスキルがあったりと、色々とギャンブル要素の大きい職業だ。

 これもあり。



 だけどまあ……今回はこの二つはパスかな……なんてったって、他の選択肢が魅力的すぎる。



 後の三つは、これ。


『龍戦士(鈍器使い)』


『神雷重騎士(鈍器使い)』


『雷龍皇女』



 なーんだか、一つだけ異色だけれども。


 とりあえず、前半の二つは想像通り私が竜化ができることと、『雷神の寵児』の称号を持っていることが原因かな。

 どちらも筋力値への補正は格段に高いし、龍戦士の方は竜化状態の効果の少しだけが普段でも使えるようになるし、神雷重騎士の方は、種族覚醒に伴う主神との繋がりを強める——平たくいえば、種族覚醒が強化される。

 どっちも魅力的で、どっちも捨てがたい。





 ……。



 で、三つ目。

 『雷龍皇女』。


 最強の称号を戴くうちのひとりである雷龍の名を関し、皇女、だなんて仰々しいネーミングの。


 これに関しては、特に説明なんかもなかった。

 フレーバーテキストも、職業効果も何も書かれていない、ただ白紙の職業。一応攻略版を見てみても、当然載っていないもので。

 この世界にいる、雷神の眷属たる雷龍となんの関係があるのかもわからないし、もしかしたらその雷龍とは関係がないのかもしれない。


 もしかしたら、本当になんの効果も得られない白紙の職業で、取るだけ無駄かもしれないけれど。

 私は、この選択肢にどうしようもなく惹かれた。

 未知があって、浪漫があって。


 現実を見て何度これではない職業から選択しようかとも思ったけれど、どうしてもこれを除外することはできなかった。



 いつの間にか胸の奥の温かさも激しさも増しているようで、その熱に浮かされるように、私の視線が彷徨う。






 そして、どのくらいの時間が過ぎただろうか。


 私はついに、一つの選択肢を指でたたいた。


作者のネーミングセンスが皆無すぎる


・tips


・いつだか書いた『黒魔術師』と『白魔術師』に関して

 この白黒以外にも、例えば『雷魔術師』とかと言った一次職業もあり、これは雷魔法の威力が強化されるものです。

 リリィちゃんの職業である『白魔術師』は、その名の通り白神との繋がりがある一次職業です。とはいえ、使う魔法の大半はやはり自身の信仰する七柱の神の魔法ですが。白の方は支援職ではあるものの、少しだけ攻撃系の魔法もあり、バランス型と言ったらいいでしょうか。魔法を使う時に七柱の神以外に少しだけ白の神から力を分けてもらっている、という設定があり、一つ一つの威力は特化型の『雷魔術師』とかの職業の扱う同系統の魔法よりも弱いですが、成長性と手数に優位があります。

 クララちゃんの『黒魔術師』も似たような感じで、支援よりかは攻撃寄りですが、少しだけ支援もできます。威力よりもバランス重視の、成長性と手数型。黒の神の力を少しだけ借りる。

 この辺は変わりませんね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オンリーワン狙いなら説明書きないやつ選ぶしかないですよね。 [気になる点] この話中、おそらく職業のことを「スキル」と書いてある部分が何か所かある気がします。 「白紙のスキル」とか。
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] 人は皆、ロマンを追い求める『戦士』なのである ワクワクテカテカ
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