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第二十七鎚 変人からの押し付け依頼




 アドラさんの温もりを堪能した後は、拗ねてしまったアドラさんをなんとか宥めすかして、わたしたちは共に坑道内の散策に出かけた。

 といっても、私は竜化の反動もあったし、満足に戦えてわけではないけれど、少なくとも街で買ったツルハシで鉱石を採掘する程度のSTRは残っていたようで。


 そんなこんなで、その日はアドラさんと共に坑道内で探検をして、お昼はゴーレム系モンスターの料理の専門店へ。夕方はまたもや街の散策へと向かった。


 といっても、初日と同じような感じではないけれども。


 何やらこの街、意外と観光客を見ることが多いこともあってか、そんな人たちへと向けた施設が結構あったり、出し物(イベント)を週に何度かやっているらしい。だから午後はそこを回ったね。


 例えば鉱石ミュージアム。

 石造りで中位の大きさの建物だったけど、中に展示してあった鉱石の種類は破格の量だった。

 鉄や銅のような基本of基本のものに初め、聖銀(ミスリル)真鍮(オリハルコン)金剛(アダマンタイト)。私やアドラさんのつけている会員証のネックレス部分の金属である、黒色金剛玉石もあった。


 秋津国、多分日本モチーフの、情報さえ聴かないからまだまだ遠い所の地域のものまであるのだから、このミュージアムの品揃えの良さが如何える。

 ……あ、そうそう。この金属、ブラックアダマンタイトコーブルストーンって言うらしい小さな石から取れる微細な鉱物をかき集めて作ってるんだって。ひょえー…


 そして、夜は活気あふれる市場で遊んだりした。

 吟遊詩人の歌を聴いたり、昼はツルハシを持って汗水流しているであろう男どもが、またもや取っ組み合いの喧嘩や腕相撲なんかで汗水垂らしてるのを見たり。


 そんな賑やかな夜の最中で夜空に咲いた花火は、それは見事なかたちをしていた。


 あー……多分、エルデさんもあの花火を見てたんだろうな。そう何度もパンパン打ち上げるものでもないし、彼も毎回楽しみにしてそう。



 そして、夜は明けて。

 今日もポツポツと雲は見えるが、快晴という言葉がよく似合う晴れやかな空の下で、私はアドラさんと向き合っていた。




「んじゃ、またな。ハルバードしっかりなー」

「もちろん頑張りますとも!またね!」


 身の丈の数倍ものハルバードを担いで去っていくその小さな体へと私は大きく手を振る。


 場所はベルグヴェルグの街の西側の門。

 やっぱりゴツゴツした岩の多いそこで、私は南へと向かっていくアドラさんを見送った。


 アドラさんは、この後はフィーアの街の方へ向かうらしい。別に素材集めは急ぎの用事ではないから、久しぶりにあの錆臭い街でも見て帰るか、なんてアドラさんは言っていた。


 錆臭い街、かー。気になるなー……でも、それはまた今度だね。


 そんなふうに考えて、私はアドラさんとは反対の方向へと目をやった。

 まあ、今の私のやることは、さっさとツヴァイの街にもどって、転職でもしてから龍骸山脈へ向かうことだ。フィーアの街も気になるけど、すっごく気になるけど。でも、積み上がったままのタスクから片付けていかないと。ただでさえ色々抱え込んでる気がするし……


 今の私のレベルは32。

 アドラさんと一緒にハードなレベリングをしたことと、ついでにエルデさんに出会ったことでそれなりに上がっていた。といっても、思ったより、という感じではあるけれど。


 今はまだ竜化の反動が残ってるから、ツヴァイへの帰路は色々と苦労するかもな……いや、いいハンデか。

 どんな相手にも油断しないように。あのゴーレムに不意打ちを喰らったのは、明確に私の油断が原因だしね……全く、目も当てられないね。


 あ、そうそう。ジェイドの方に送っておいたメールには、情報提供への感謝の文言と、ついでにちょっとしたお説教のようなものが添えられていた。

 なんでも、貴重な情報をおいそれとぽんぽん渡すなー、だと。別にいいじゃないか。このゲーム、多分だけど旅人同士でバチバチに争うようなものじゃなさそうだし。


 どっちかっていうと、やっぱり協力して大きな目標に立ち向かっていきそうな感じするしねー。






 さて、と。


「そろそろ出てきたらどうです?」

「……」



 振り返ってみても、そこに何があるわけでもなし。

 近くに人が隠れられる大きさの岩はないし、アドラさんも見えなくなってしまったから、見渡す限り人の影はない。


 でも、アドラさんがいた時から、ずっとそこに気配だけがあった。

 私にその気配が察知できてアドラさんに察知できないわけがないし。だとしたらこれは、私が旅人だからか、もしくは龍人ハーフだから察することのできたものだろう。



 眩暈がするほどの、煮えたぎるような、甘ったるく、それでいて突き刺すような。矛盾していて、ひどく魅力的にも思える雰囲気だった。



 冷や汗が頬を伝うのがよくわかった。


 問いかけからしばらくして、目の前の空間が歪む。


 蜃気楼のように焦点を結ばなかった色彩が次第に形を整え、そこには一人の女性が現れた。

 一度しか出会ってないけど、私に強烈な印象を残したその人。


 纏いし風格(オーラ)は、カリスマと、魅了する美しさと、暴君たる威厳と、強者たる傲慢で構成されている。



「にゃはは〜。いやー、バレるもんだね⭐︎」


 大きなその気配を纏って現れたのは、ピンクっぽい赤髪のツインテに翡翠色の柔らかな光を宿す瞳を持った、一度だけ訪れた怪しげな魔道具店の仮店主。

 リーリャさんこと、エストリーリャさんその人だった。


「それだけ気配されたら、流石に気付きますよ。魔道具店で会ったときはそんな感じじゃなかったのに……」

「んー、そんなことはないよー⭐︎私は君と出会った時から、なーんにも変わってないさ⭐︎変わったのは君の方じゃないかにゃ?」

「え…?」


 私の体が変化した……?

 一番に思い出されるのは、エルデさんとの戦いの最後の方。記憶も曖昧な、でも胸の奥底から湧き上がり続ける無限の熱の濁流だけはきっちりと覚えている、その時のこと。


 私の体が変化した、というのなら多分そのときなんだろうけど……


 というか、以前の私はこれだけの気配を持ったリーリャさんが後ろから忍び寄ってくるのに気づかなかったのか……


「ま、抑えようと思えばいくらでも抑えられるんだけどね〜」

「…おお」


 しゅん、と渦巻く気配がリーリャさんの体に吸い込まれるようにして収まった。


「じゃあやっぱり初めて会った時もそうやって気配を閉じ込めて…?」

「んにゃ、そのときも気配はちょろっと出してたかなー。確かめたいこともあったし」

「確かめたいこと、っていうのは?」

「んー?さー、なんだろね⭐︎」


 ウィンクにピースを添えて、可愛らしくはぐらかすリーリャさん。まあ、無理には聴かないけどさ。

 大体龍族の、それも結構な強さを持ってそうな彼女がよくわからない誰かの道具屋を主人の代わりに経営してるって時点で怪しさ満点だし……


「で、今日はなんの用事です?」

「そう身構えないでくれたまえよ〜」

「……はぁ、まあ、そうですね」

「お?」


 あれだけ強大な気配を持っている人だったら、さすがの私でも緊張しちゃうよ。エルデさん並み、って感じではないけど、あれとは別のベクトルで警戒すべきオーラだと思ったし。

 でもまあ、別に害意はなさそうだし…ね?


「およよ、私の気配を前にして割と平然としてられるなんて……あそこでは大抵の人が跪いてたのに……」

「で、要件はなんですか?」

「むー、もっとゆっくりお話ししよ?せっかちな性格は嫌われるぞ♡」

「……」


 アドラさんがこの人を嫌いな理由はこれだろうな……


 まあ、ちょっと、ちょーっとだけ面倒臭いけど、いい人だ。うん。


「まあ、いいけどね。私がここに来たのは、とあるものを君に渡すためだね〜」

「とある、もの……?」

「うんうん⭐︎ささ、手を出したまえ〜」


 言われてみて手を差し出せば、私の目が追いつかないほどの速さでその手を取られる。

 ……んにゃ!ちからつよい……!

 やっぱりこの人も私よりSTR(パワー)がありやがるぜ……!


「はい、これでよーし」

「……?これは?」


 腕に通されたのは、煌びやかな腕輪。

 7つの窪みがあって、一番目立つところにはみたことない紋章がついていた。

 ……なんの紋章だろ、これ?龍が大きく翼を広げて、剣を咥えて飛翔する様を切り取ったかのような紋章だった。


「んふ、私の用事はこれでおしまい♡その窪みに、あなたが信頼できる細工師さんに地龍の角をいい感じに削って入れてもらいな?」

「えー…それはまた、どうして?」

「龍の素材って言うのは、すごく貴重なんだよね。加工が難しいから、武器防具には向かない。しかも彼らは最強だから、その素材を魔石に封じ込めようとしても無理。と言うことで、あんまり加工しないでアクセサリー、って言うのが一番なのだよ」

「は、はぁ…」


 いや、理解はしましたけれども。

 なんで私がエルデさんと戦ったことを知ってるのかとか、どうしてこんな腕輪をくれるのかとか、この紋章なんですかとか、色々と聞きたいことがあったのだけれど。


 私がそのことを口に出す前に、私は再び口を噤んだ。


 それはひとえに、私の目の前に現れたホロウィンドウのせい。



《ユニーククエスト》 弱さと強さの狭間にて、睥睨する彼女は何を思ふ?

 推奨レベル:--

 注意:このクエストは強制的に受注されます


 受注報酬:龍翼の腕輪

 達成条件:??????

 達成報酬:??????



 なんすかこれ???


「んじゃ、わたしゃここらでさよならだね〜」

「あちょ、待ってください!」

「待たないよ〜。じゃ、あとはよろぴく♡」

「あっ……」


 ふっ、とリーリャさんはまたもや蜃気楼になってこの場から消え去った。


 ちくしょうあの人!

 よくわからないアクセサリーとよくわからないクエストと謎だらけの発言だけ置いてどっかいきやがった!!!


 この怪しい腕輪どうすればいいんですか……


 とりあえず一回取り外し……外し………はず……



 《関連するユニーククエスト受注中のためこの装備品を外すことはできません》



 なんなんですかもー!!

・tips


・腕輪について


〈龍翼の腕輪〉耐久値:--/-- レア度:9

効果:STR+5%

リンク効果:装備者が《種族:龍人》またはそれに連なる種族の場合、STR+5%

特殊効果:《最強の片鱗》

 ・なし

 ・なし

 ・なし

 ・なし

 ・なし

 ・なし

 ・なし


 ????の????の紋章が刻まれた腕輪。

 7つの窪みには7体の眷属龍の角片をはめ込むことができる。はめ込んだ数、はめ込んだ角の種類によって装備者にバフ効果が付与される。

 ユニーククエスト《弱さと強さの狭間にて、睥睨する彼女は何を思ふ?》の受注報酬。また、当クエストの受注中は取り外し・破棄が無効となる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ( ・᷄ὢ・᷅)(・᷄ὢ・᷅ )< 呪いの装備ぃ…
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] あれ? 前話の感想返しでは何も考えてませんよ〜、って振る舞いながら既に伏線は用意していただとぉ!! コレクター魂を燃やせ!…
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