第二十六鎚 片鱗
短め……
全話の後書きのtipsにちょっと説明を増やしました。よければ見てやってください。(2024.4.15)
目がけるはエルデさんの頭頂部、かっこいい2本角の右側のあたり。
角は多分弱点だ。というのも、龍人の、つまり例えば私の頭に生えている二本の角なんかはモロに私の頭蓋骨と繋がっているので、私もここをぶっ叩かれると頭がぐわんぐわんしたりするから。
……まあ、頭部に攻撃を加えられてしまう状況になったら私が龍人じゃなくても危ないけど。
日常生活でも角をぶつけたりしないよう気をつけてるんだよね。
ともかく、龍にとって角は弱点だ。多分彼の体のどこかにあるであろう逆鱗よりは弱点としてのダメージ倍率は低いだろうけど、狙わないよりはマシ。
まあ、これだけ高度からの落下攻撃だと狙ったところに当てるなんて夢のまた夢だし、あまり狙いすぎずあのあたり、という目付けだけにとどめておこうか。
っていうか、これだけ高度から攻撃したら私も死なない?大丈夫かなー……
あれかな。この落下運動分のエネルギーも攻撃力に換算されると信じよう。メテオフォール、ってやつだ。
ぐんぐんと高度が下がって、エルデさんの顔がよく見えるようになってきた。やっぱり表情は厳つくて読みづらいけど、どことなく興味深そうに私のことを見ている感じがする。
……むー。その余裕そうな顔、歪ませてやる!
「『打ち砕く雷鎚』!!」
私の振り下ろした両のハンマーは、しっかりとエルデさんの右側の角の中頃を捉えた。紛れもないクリーンヒット……なんだけども。
叩き込んだ瞬間は、勢いに任せて押し込む感覚があったものの、ぐぐぐ、という効果音がつきそうな感じで私のハンマーの勢いはすぐさま消え去った。
『ふむ……なかなか効いたぞ、半龍人の少女よ』
「……いや、無傷で受け止められても…ね?」
『そう悲観するな、これも我が最強故だ……さて、今度は我から行かせてもらおうか』
「げ、やば」
すぐさまハンマーを引いて、空中に居ながらもなんとか体勢を整えようと試みる。
でも、その前に、エルデさんのその豪腕がすぐそばまで迫ってきていた。
「く…『インパクト・リフレクション』!……きゃっ!」
衝撃反射のアーツを叩き込んでは見たものの、抵抗虚しく吹き飛ばされた。
そのまま地面に叩きつけられて、視界の端でただでさえ5%固定で少ないHPが一気に削られて尽きたのがはっきりと見えた。
抵抗虚しく、あっけなく。いくら力を望もうとも、今の私にはまだまだ人間がお似合いだとでも言うように。
『ふむ、まあ、こんなものか』
視界が黒く染まって、スタンで体が動かない間でも、私の耳にはエルデさんのそのよく感情の読み取れないつぶやきが鮮明に聞こえた。
感情は読み取れないけれど、その呟きの真意を私は考える。
失望、納得……あるいは結論を導き出したか。
————最弱は、最強には決して届き得ないという腹立たしいその結論を。
それは私の夢や望みを真っ向から否定する結論だ。
どれだけ努力しても人間は弱いままで、人間は人間だと言う結論。最弱はいつまでも最弱で、愚かしさはいつまでも賢明には変化し得ない。
————ずっと、お前は変わらないままだ。
弱くて、弱くて、弱くて?
『……む』
うねり狂う胸の熱さが、私を突き動かした。
HPは確かに削れ切っていたはずだけど、よく見てみればドットひとつ分だけだろうか、きっかり残っているのが見えた。
『ほう……立ち上がるか。雷神の加護だな。いや、これは……』
ぎちぎち、ぎちぎちと体の節々が音を立てて、なんだか自分の体が自分のものじゃなくなっていくような。
『ふは、ははははは!最弱たるその身に宿したる最強の力の真髄が、花開こうとしておる!……見ているか、我が盟友よ』
意識は朦朧としていて、視界も暗くてよく見えないけど、こちらを見据える地龍エルデだけははっきりと見えた。
なんだか、とても楽しそうだった。
なんだろうか、これ。HPが1残ったのは、雷神の加護のおかげだろうけど。それとは、別に。何か、熱いモノ。
『だが、それはお前にはまだ早い。おとなしく寝ていろ』
「ま……だ、」
『いや、ダメだ。どのみち貴様はもう限界だろう』
「うぐ……」
エルデさんが私を一睨みして、そこで私の意識は途切れた。
「……はぁ、終わったか」
ニナが目を瞑って倒れ込んで、そのすぐあと。
意識のなくなった半龍人の少女を、さらに小さな赤髪の少女が抱き起こした。ペチペチと頬を叩いて、反応がないことを確かめると再びもうひとつため息をついて、肩にかついで持ち上げる。
「ぐえ……」
「おっと、すまんすまん」
地龍エルデは、抱え起こされたその、小さなまだまだか弱い少女を見やって口を開いた。
『……まあ、実際の話だが』
エルデが自身の頭部、ハンマーの直撃した一本の角の、その先端に意識を向ける。
ピシリと、その先端に小さな亀裂が入った。
ぽろりと、角の先が地面に落ちる…
「ん……?てめえ、これ…」
『ふん、その少女が起きたらくれてやれ』
「あー、そうだな。でも、いいのか?」
『構わん、どうせすぐに生える。最強たる我へその一撃をとどかせた、その少女への何か報酬のようなものだ』
「は、そうかよ」
アドラは拾い上げた角の一欠片を布に包んで懐に入れる。
「すぅ…すぅ…」
「ったく、気持ち良さそうに寝やがって」
『ふ……さて、地精の少女よ、もう山を降りるのか?』
「ああ、あたしの用事も終わったし、こいつも満足……いや、不完全燃焼かもしれねえが。ともかく、一度降りるよ」
『そうか。また気が向いたらここへ来い』
「さあ、どうかな」
地龍が見送るその山頂から、アドラさんは片手にいつものハルバードを、もう片方に私を引っ掴んで山を下りって行ったそうな。
◆ ◆ ◆
「ッハ!《打ち砕く……」
「おいやめろクソ脳筋が」
「ふぎゅ……脳筋じゃないよ!!」
朝起きたら、そこは多分ベルグヴェルグの街中の、どこかの宿屋らしき石造りの部屋の中だった。
あれ?私、山頂にいて……エルデさんと戦って……
「あれ、アドラさん……ここ、どこ?」
「おう、おはよう。わざわざ気絶したてめえをかついでここまで来てやったんだ、感謝しろ」
「気絶……ああ」
あのあと、結局倒されちゃったのか……でも、デスペナはついてないし、多分普通に倒れただけなんだろうか。
エルデさんの攻撃でHPが一気に全部削れたから、多分、雷神の加護の食いしばり効果が発動したんだろうなぁ……それで生き残って、せっかく立ち上がったのにエルデさんに眠らされちゃったんだよね……はぁ。
とはいえ、あの状況から巻き返す、ってのは難しいよねー。MP回復する暇があったとしても、奥義のリキャストは終わってなかったし、他のアーツやスキルも通用しなかったかもしれない。
はぁ…今はそれよりも。
「わっ……おい!何するんだよ」
「………」
「…ったく。……今だけな」
「うん」
アドラさんをベットに連れ込んで、抱き枕にする。
めいいっぱい抱きしめれば、小さな彼女の体からあったかいものが伝わってきて、とても安心する。
……はぁ、もう。
倒せるはずはないと分かっていたけれど、まさかあんなに差があったなんてなぁ……。
打ちのめされて、全くらしくないとは思うけれど。
うーん、一旦の目標はあのエルデさん……だね。高すぎる目標かもしれないけど、目標は高いに越したことはないしねー。
それにしても、アドラさんはあったかいなー、うーん。
「すりすり……」
「…オイ」
「んー、もうちょっとだけ」
「チッ…一旦離せ、渡すもんがある」
「んー?」
「ほれ」
アドラさんは意地でも離さなかったけど、アドラさんから何か布に包まれたものをもらう。
布を開けてみれば、出てきたのは黒く光る硬質なかけらの一つ。むー?
「なーに、これ?」
「てめえ…敬語外れてんぞ」
「あ、ダメでした?」
「はぁ、いや。別に構わん」
やったぜ。
それで話を戻して、この破片が何か聞いてみる。
「地龍のやつの角の破片だよ」
「……え?なんでそんなものがここに」
「お前が砕いたやつだろ」
「それって……」
「お前の全力が、あの地龍にはしっかり届いてた、って証だろ」
「……!」
「それに、お前のことを地龍はしっかり認めてたぞ」
地龍の、最強たるその立ち位置に、私の力は僅かだけれど届いて、その力をエルデさんはしっかりと認めてくれたんだ……!
「わぷ……お前、ちょっとは自重しやがれ」
「いやですー。今日一日は私の抱き枕でいてねー」
「……はあ?嫌だが??」
かれこれその後一時間くらい抱き枕にしたら、アドラさんにゲンコツかまされました。
痛かったです。ぴえん。
《称号『龍の角折り』を獲得しました》
《特別な邂逅をしたため、STP5ポイントを手に入れました》
《特別な邂逅をしたため、SKP5ポイントを手に入れました》
・tips
・地龍の角片
地龍『ブリュン・ダ・エルデ』の弱点部位である角に一定のダメージを蓄積させることでドロップする特別なアイテム。アクセサリーから強化素材等々、いろんなことに使える。でもいかんせん小さいから、せいぜい武器を作るときに魔石と合成して武器の角にするくらいが関の山。
全ての龍の角のかけら、集めてみたいですよねー。
ね?