第二十五鎚 人とは?
当たり前ですけど難産でした。
ちゃんと書いたつもりですがこれ全世界に晒すの公開処刑だろ……
「んー……質問が抽象的に過ぎるので、もう少し絞った質問にしてくれません?」
『む……そうか。では、質問を変えよう。なぜ人間は対立し、人同士で争う』
「それは、人間が馬鹿だからですね」
『……もう一つ質問をしよう。では、なぜ人間は共に歩み、進歩する?』
「それは、人間が賢いからです」
『ふむ?答えが矛盾しているぞ、半龍人の少女よ』
いやー、人間って何か、か。ジェイドがそんな質問をされたって聞いて、アドラさんと一緒にゼニス大山に登るってなった時から少しくらいは考えておこうと思って考えていたけど、やっぱり難しいね。
私なんかが人間を完全に理解しているなんて胸を張って言うことなんて全くありえないことだけど、かと言って考えるのをやめることはしちゃダメだ。
思考放棄は、進歩の停止。人間としてのアイデンティティの喪失に他ならない。
元々このゲームを始めたのは圧倒的な力を手に入れるため、なんて理由だったはずなのに、なんで私は今こんな禅問答みたいなことをやっているんだろうか。解せぬ……
まあ、この場で私ができるのは、あくまで謙虚に、私が考えてきたことを言葉に出すことだけだ。
「まあ、矛盾こそ人間の本質だ、と言うように断言するのはあまりしたくないですけど。人間というのは、自分の愚かさを自覚しながら、決して手に入らない賢明さを求め続けて足掻く生物だ、というのが私が考えて出した結論です」
思考時間は二日間です!ぶい!
『それは何故か』
「さっきエルデさんも言ったように。人間がどうしようもないほど弱い存在だからですよ」
『ほう』
ひとつ呼吸をして、再び言葉を続ける。
「弱くて愚かで、私たちはそれをわかってるから、賢くあろうと変化を得て、進歩を重ねる。でもやっぱり愚かだから、わかっているのに、その愚かなところが顔を出して、時に大きく退化する」
『……ふむ、実に興味深い分析だ』
「あー……なんか偉そうに言っちゃいましたけど、これは私の持論ですから。他の人に聞けば、それこそこの世界に生きる人間の数だけ答えが返ってくると思いますよ」
うみゅ。言ってて恥ずかしくなってきました。頭空っぽにして何かを殴りたい……
悶々とはするけど、あくまで顔には出さないでおく。実は龍のチート能力で内心が見透かされてる〜とかあるかもしれないけど、ガワだけは冷静に保っておこう。
そんなふうにしていたら、再び頭の中にエルデさんの声が響いた。
『では、もうひとつ。汝は、その人間のあり方をどう思うか』
「……んー?それはまたどうしてそんなことを聞くんですか?」
『いや、なに。お主の答えは、終始人間のことをあまり良く言っていないようだったのでな。興味本位だ』
……おー、さっすが龍。この世界最強の生物というだけあるなー。
んー、まあ、人間が嫌い、っていう直接的な嫌悪とはちょっと遠いけれどね。ただ、そのあり方を煩わしく思っているだけだ。
「まあ、そうやって賢くあろうと踠くのって、面倒臭いんですよ」
『………』
「弱いからそんな風に踠いて、悩むのなら。私は、誰にも、何にも悩まされないほどの力が欲しい——そうやって、自分の望む力で世界を駆けたい。それが、私がこの世界に来た理由」
『……ふむ。何にも悩まされたくない、というのならば、それこそ愚劣を極めれば解決する話ではないのか?』
要するに、バカを極めれば何も考えずに済むから人生ハッピーだよー、ってことだろうか。
「それではダメですね。楽しく生きるには変化を理解できる程度には賢くなければいけないから」
煩わしさから逃れるにはそれこそ、弱者を極めて、愚劣に何も考えずに人生を過ごすか、あるいは何者にも邪魔できない『最強』として全てを打ち砕いて進む人生を歩むしかない。
そして、何も考えずに過ごす選択肢は死んでいるのと同義だ。故に、選択肢は一つ。
私の望みは、ある程度の人間の弱さからくる賢さを維持したまま、何事にも悩まされない、それこそ『最強』の龍にも勝る大きな力を手に入れたい。
……むー、改めてこう見ると、私ったらなんて欲深くて、矛盾に満ちた人間なんでしょう。どうしようもないや。
「でもまあ、こんなに欲深いのも、人間の進歩と退化の両方の理由なんじゃないかなー、なんて思ったり」
『……ふ、そうか』
…えー、それだけ?なんかもうちょっとないの?私これでも二日は割と頑張って考えたんだけど。
あ、そうだ。
「そういえば、この前ここに来たと思う地の神の寵児の男の人…ってわかります?」
『うむ、記憶に残っている』
「その人にも同じような質問したんですよね?その人はなんて答えたんですか?」
『あやつは、そうだな……人間とは解放を目指す生き物だ、と言っていた』
「解放……?」
むむむ。
解放。何からの、という問いには割と簡単に答えが想像できるね。社会、義務、責任、人付き合い……あるいは、生その者からの解放。
『われわれのすべての災禍は、我々がひとりきりではいられないことに由来する』、なんて言葉もある通り、人間が社会を形成する限り人間が自由になることはないけれど、人間はいつも自由という言葉を夢見て生活をする。
ここにも人間の矛盾があるねー。
ま、考え方は人それぞれ。
「その答えが気に食わなかったから、神殿に入れずに追い返した、ってことですかね?」
『我から聞いたことだ。気に入るも気に入らないもない。神殿に入れなかったのは……強いて言えば、まだ時機ではないから、だな』
ふーん?時機ね……。
何かしら大きなイベントを乗り越えないと解放されないとかありそう。あの神殿、大きさ的にはそんなに大きくないし、多分地下に空間が広がっていそうだ。さてはダンジョンっぽくなってるんじゃなかろうか。
それはそれとして。
「エルデさん、お願いがあるんですけどいいですか?」
『うむ?』
「その…お恥ずかしい限りなんですが……」
そう言って、私はインベントリから徐にハンマーを取り出して言った。
「ちょっと一戦やりません??」
『どうしてそうなったのかが我には理解できんな』
「ちょっと難しい話ばっかしてたらむずむずしてきちゃいまして……サンドバックになってください!」
『我にそんなもの言いするやつ初めて見た』
「ちょっと竜化でぶっ叩くだけ!ちょっとだけ、先っぽだけ!!」
『少女よ、豹変しすぎではないか?先ほどまでの真剣な雰囲気はどこへ……どうしようもないほどの欲望と本能に塗れた気配が伝わってくるのだが……』
「さっきも言った通り、人間は愚かでよく深くて、あっという間に変化する生き物なんですよ!!」
『むむ、見事に自分の言を実践しおったか……!』
「……てめーら何やってんだ…?」
あ、アドラさんだ。今まで何やってたんですかー?
「ずっと採掘だよ。必要な量は集まったからな、あたしの用事は済んだ」
『それは重畳……さて、半龍人の少女よ。いつでも、どこからでもかかってくるが良いぞ。貴様の要望通り受けに徹する、というのは流儀に反するので許容できないが、準備が終わるまではまってやろうぞ』
「やたー!」
待ってくれるなんて優しい。
ということで、久しぶりの竜化だ!
竜化発動!てやー!
若干気の抜けた声と共に気合を入れてスキル発動を念じると、私の体の内側の温かい部分が、ドクンと音を立てて大きく鼓動した。
メリメリと音を立てて私の体が変化していくのがよくわかる。今回はエルデさんと戦うっていう明確で強固な目的があるし、暴走はしないだろう。
何気にこの変身時間もデメリットだよねー。大体10秒20秒だけど、こうして十分に準備できる状況じゃないと使えないし。
まだスキルレベルが3だから強い意志とやらがないと8割くらいで暴走するし……
そんなふうに考えていたら、体の変化が終わったようだった。
いつもは微かに胸の奥で存在を主張している主神様の雰囲気が今は、私を包み込んで、それでも有り余ってなお湧き立つように私の周りの空気を震わせていた。
「出し惜しみはなしで……初っ端からフルスロットルで行きます!」
『フン…受けてたとう』
答えが耳に入るとともに、私はMPポーションを飲み干して、立て続けにスキルを発動させた。
オート発動のものも、アクティブ発動のものも全て。
逆境、神雷纏い、闘気。MPを惜しまず使って、時にはMPポーションをまた飲んだりしながら、闘気と纏っている神雷を練り上げる。
ついでに雷魔法レベル5のエンチャント魔法とか、あと迅雷化と……あれだ。鎚術のレベル8のアーツを発動させたら、奥義の詠唱に入ってしまおうか。
スキルというは重ねがけができるし、そして、詠唱等を先にやっておいて発動状態を維持することができれば、任意のタイミングで解放することができるのだ。
「我が親愛なる雷神よ、御身の其の御技のよりて我を守り、我の行く道の助けたまえ……『ライトニング・ストロングエンチャント』!それと、《迅雷化》、《大撃鎚》!」
身体中からばちばちと雷が迸って、今か今かと其の力を発揮するところを求めるスキル達が私の体の中で暴れ回っているのを感じた。
地龍さんや、もうちょっと待っとれ。とりあえず初撃は最大限を叩き込みたいのじゃ。なんでかって?気持ちいいからだよ。
「『我は、雷神の愛し子なり』」
「『我は、雷神の怒りなり。我は、雷神の豪鎚なり』」
「…おお」
視界の端でアドラさんが呆けているのが見える。ふふーん、かっこいいでしょ?
「『全てを叩き潰し、粉砕し、打ち砕き切り開け、雷神の鉄槌よ!』」
同時に、先ほどあらかじめ待機状態にしておいたスキルとアーツを全て待機状態から解放して、高く高く、それほど山頂の遺跡群が結構すっぽり視界内に収まるくらいだから、相当飛んでるね…
よし…これで……!
地龍が、私を見上げる。私も、地龍を見下ろす。
改めて其の巨体と、堂々だる『最強』としての其の立ち姿に、ひとつ身震いした。
「《打ち砕く雷鎚》!!」
どがん、という音と共に、ゼニス大山の上に雷が落ちた。
その日の空は快晴で、すごく見晴らしが良かったから、快晴で雲ひとつない空から雷が迸るその光景はとても不思議だったと、私は後になってとあるプレイヤーから聞いた。
作者「電車の中でこれ書いてるって思うとめっちゃ変な気分になりますね。セルフ禅問答ですよ。電車の中で悟り開いてました(?)。文章の中でも言った通り、これは作者としての考えの一つです。というか、どっかで見たことある気がするのをそもまま書いてきました。それはねえだろ!!って思ったら是非是非厳しくお申し付けください」
・tips
・神殿について
これ、別に質問の答えを地龍が気に入ったら解放されるとかそういうものではない。
まだ時期じゃないだけで、そろそろ来るとあるイベントをプレイヤー全員で乗り越えて、その上でもう一度ここに来れば解放されるかも?
中はダンジョンみたいになってます。
神殿内部から地下に行ける作りになっていて、そこにはこの世界を攻略していく上で重要なファクターとなるものが眠っている……予定です。他の神様の管理している神殿もあって、そこにもそれぞれその神の眷属である龍がいますね。例えば雷神の管理するとこには雷龍。命神の管理するとこには命龍って感じです。
それら7つの施設は世界についての重要な要素に触れる機会を得られると同時に、神様達との対話の場も兼ねていて、旅人がそこを訪れると色々いいことがあるとかないとか。
・聖女が作ってた遺跡(?)みたいなのについて
上の神殿に倣って聖女の作った7つの施設。
これまた世界のどこかにたくさんあって、『メインとなるアイテム』の補助をするものが眠っている……予定。