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第二十四鎚 邂逅、地龍




「知ってますか?女の子って、砂糖とスパイス、それと素敵なもの全てでできてるんですよ」

「朝っぱらからなんの話だ」


 無性に甘いものが食べたくなっただけです。昨日は結局濃厚な雑炊鍋みたいなのだったし。……あ、昨日のストーンゴーレムの素材はどうなったんだろ。リトルストーンゴーレムからは甘いお肉が取れたし、その大人版みたいなストーンゴーレムからも同じようなのが取れそうだけど。

 そんなことをアドラさんに聞いてみれば、とっくに捨てた、とのことだった。何やら例の黒モヤに汚染でもされていたらしく、嫌な感じがしたかららしい。それなら仕方ないね…


 そうそう。昨日の夜に私がアドラさんに質問したことについては、とりあえず保留しておくことにする。ただでさえいろんなやることを抱えているのに、これ以上抱え込むのもあれだしね。とりあえず、要約した内容をジェイドの方に送っておいた。あとは勝手に、共有して広めるなりなんなりしてくれるだろう。


 とりあえず、住人たちを生み出したのはどうやら白の神ではないらしい、ということだけ送っておけばいいかな。

 私たちをこの世界に呼んだのは多分白の神、引いては聖女だし、つまり私たちの生みの親は白の神と捉えることもできる。そういう点でも、住人と旅人の間には明確な違いがありそうだ。


「ちなみにさっきの話、男の方は何でできてるんだ?」

「男の子はですね……えっと、確か。カエルとカタツムリ…あと、子犬の尻尾?」

「ハ!なんだそりゃ」


 なんとも可愛らしくて無邪気な、そして好奇心旺盛な様子がよく現れていて良いでしょう?

 私は好きだよ、この詩。



 ゼニス大山での二日目。

 アドラさんによると、今日はどうやら山頂まで到達する心づもりらしい。それと同時に、ここから先はモンスターも随分強くなるから心しろ、とも言われた。


「あ、そうだ。これ持ってけ」

「……?ハルバード…?どこから持ってきたんですかこれ」

「祠の奥に予備のためにしまって置いたんだよ。私には今使ってるこのハルバードがあるからな。こいつ以外を使う気は毛頭ないから、それはお前にやるよ。旅人はなんでも仕舞い込める便利な懐を持ってるって話だろ?」

「そうですけど…本当にくれるんですか?」

「やるって言ってんだろ。人の好意は素直に受け取れー」

「そう言うことなら貰います!」


 やったぜ!


 もらったハルバードは、アドラさんのものよりも少し小ぶりのものだった。


 それでも、先端には鋭い穂先がついていて、その少し下にはやはり切れ味のありそうな戦斧がついていた。……やっぱり、ハルバードって造形がかっこいいよね…キラキラしてて、重武器の中でも斬撃と刺突の両方を扱える武器。世間一般では使い勝手が悪いと思われてるようだけど、アドラさんの指導を受けた私なら使いこなすのは余裕!…と、思いたい。


 ……むむ、この大きさと重さならもしかしたら……


「お、いけた!」

「おー?……片手持ちか」

「はい。あーでもこれ……うーん、武器が長いから両手の方が扱いやすいかな……」

「そうか。…や、でも、ハルバードを両手に一本ずつか…面白そうだな」


 道中そんな会話をしていれば、周囲の岩の一つが動き出して、その身を持ち上げる。現れたのはストーンゴーレム。レベルは41で、昨日のようにモヤを纏っているわけでもない、普通のゴーレムだった。


 今日初戦闘かー。せっかくだし、このハルバードでやってみようかな。


 では、大槍斧コンビ、参ります!





  ◆  ◆  ◆





「つ、着いた……?」

「おう、到着だ」


 息を切らししながらやっと辿り着いたのは、山頂……の、ちょっと手前のあたり。目の前には、おそらく龍の棲家の入り口を示す大きく開け放たれた岩製の素朴な門。

 ちらりと背後を振り返ってみれば、今まで歩いてきた岩肌が点々としていて。今日は晴れだから、遥か遠くに地肌とおづかして分かりづらい岩色の、多分ベルグヴェルグの街らしきものも見える。えー、こんなに登ってきたのか…この山、富士山くらいある?


 あ、あの辺に見えるのが大渓谷かなー。ということは、あの中にフィーアの街があるんだろうか。ここからじゃよく見えないや……


 アドラさんの後に続いて門を潜る。もっと色々と心構えとかあると思ってたのに、アドラさんはそんな私のドキドキしている内心には全く気付かずに、転々とある石造りの遺跡のようなものの間を縫ってどんどんと神殿の方へと近づいていく。

 …え、大丈夫だよね、急に地龍が襲いかかってきたりはしないよね…?


「大丈夫だ。あいつはこちらから仕掛けない限り大人しい」

「へー、そうなんですか…というか、来たことあるんですか?」

「あー、んー……まあ、昔ちょっとな。若気の至りってやつだ」


 若気……そういえばこの人50歳だったや。人間換算25歳だけど。

 そうしてやっとこさ辿り着いたのは、神殿入り口の前の大きな広場。円状になっていて、石のタイルの敷き詰められた底だけが周囲と違ってなんの遺跡もなく残されているようだった。

 ……なんだろ?コロシアム……って雰囲気じゃないか。目の前に古ぼけた神殿があることだし、どっちかと言うと重要な建物の前にある広間って感じだね。あー、そうだ。ヴァイス大聖堂の前の広場に似てる。


 ……そーいやこの山、大地の神が生まれた時に同時に盛り上がったんだっけか。うーん、ここが山頂だとしたら、この広場を、ひいてはあの神殿を中心に盛り上がったんだろう。やっぱり、神々も気にするような何かがあの中にはあるんだろうかね。

 あの神殿、風化の具合からして周りにある遺跡と同年代に作られたように見えるし、大地の神が設置したもの…なのかな?



 ……で、まあ、私の視界の中で、いっっちばん存在を主張しているものが一つ。いや、一体か。

 広場のど真ん中で、その巨体を横たえて寝息を立てているもの。


「あれが……地龍……」

「そう言うこった。んじゃま、あたしは適当にそこらで素材集めでもしてるから、好きにしてて良いぞー」

「え、ちょ」

「あー?あたしは別にそんな離れたところにまでいくわけじゃねえよ。ほら、あの広場の外にある小さな岩山から素材を頂戴するだけだ」


 引き止めるのも虚しく、アドラさんは行ってしまった。と言うか、素材を集めるのってこの辺なのか。まあ、大地の神が地面を隆起させた、その中心の場所だから他の場所よりも良い鉱石が眠ってるのかもしれないね。


 どんな風に取るのかなーなんて思ってたら、採掘?の仕方はめちゃくちゃ個性的だった。


「よっこらせ、っと」

「……えー…」


 アドラさんは、ツルハシなんかを取り出すわけでもなく、ましてやハルバードを岩山に叩きつけるようなことをするわけでもなかった。

 徐に岩山の下の方に手を触れると、そのまま力に任せてそれを持ち上げたのだ。STR(パワー)ありすぎでは??


 ほい、と言う感じでアドラさんがその岩山を放り投げれば、その岩山の下からは何やらキラキラと光るようなものが現れた。あれがアドラさんの言ってたここでしか採れない素材ってやつかー……採掘方法が特殊すぎて、旅人の誰も真似できないだろうね。私も無理じゃねーかな……竜化使えばなんとかなるかしら?


 っていうか、今の衝撃で地龍起きたんだけど。え、まじで?


 ほんでもって、起き上がった地龍の頭の上には普段通りにモンスターとしての詳細が……



〈地龍 ブリュン・ダ・エルデ〉 Lv.???

 100000000/100000000



 いち、じゅう、ひゃく……えっと、一億かな。小学生が考えた最強のHP値みたいだね。っはー。



『………』

「……………あ、おはざーす。じゃ、私はこれで……」

『待て』

「ハイ」


 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!?

 こいつ…直接脳内に!?


 とまあ、そんな冗談は置いておいて。いや、そんな軽々その辺においておける物じゃないけどさ。

 とりあえず、おそらく地龍のものらしき声が頭に響いて、その言葉通り私はその場にとどまってしまった。あーだめだ。もうこれで完全に逃げられない……


「ナニカゴヨウデショウカ……」

『…ほう、血の力を解放した来訪者か。それに、雷神めのお気に入り……良い人材が出てきたものだな』

「んえ?あ、はい。恐縮です」

『だが、それに驕れ、飲まれて道を逸れるのが人の常、と聞いたことがある。これからも精進していけよ』

「あ、はい……」


 初対面でいきなり褒められたあとなんか説教された。よくわからん人……人?だなー。

 こうして普通に会話してくれて、追い返したりもしてこない、ってことは、ある程度は認められたってことなのかしら?


『ところで……』


 まだなんかあんのか。


『汝はなぜここにいる?』


 それはもっと先に聞くことじゃないですかねー?

 まあ良いけど。


「あの人せいです」


 そう言って、私はまだ遠くで岩を引っこ抜き続けてるアドラさんを差した。というか、あんなふうに棲家?を荒らされて、怒ったりしないのだろうか。


『む、久しいな……地精の少女よ』

「あー?なんだ、覚えてたのか」

『当然だ。あの頃のお主は随分と荒れていたようだったからな……ふむ、良い男でも見つかったか?』

「うるせえな…ま、そんなところだ」

『そうかそうか。やはり、人は変化が早いな、こんなにも穏やかになるとは……火龍の奴めにも見習って欲しいところだ』


 体はゴツゴツしていて、今も私たちのことを見下ろしながらテレパシーみたいなので話していて、口調も尊大だけれど、なんだか結構良い人?そうな感じがする。もっと気性が荒いのかと思ったけど、そんなこともなく。


 失礼かとも思ったけど、ちょっと聞いてみようかな。


「えーっと……なんて呼べば良いのかわかんないですけど……エルデさん?」

『む?……ああ、そうだな。我はエルデだ』

「…?えっと、聞きたいことがあるんですけど良いですか?」

『構わん』


 ちょっと言い方に引っ掛かりを覚えたけど、質問を続ける。


「なんというか、私のイメージでは龍ってもっとこう、ぐわーっとしてて、私たちみたいな小さな人間たちのことは気にしてないのかなー、なんて思ってたんですけど……エルデさんは話してみた感じ、穏やかというか、イメージと違うというか」

『ふむ。まあ、それに我がここにいる理由と関係しているな』

「?どう言うことですか?」

『そうだな……原初から、龍とは、竜とは、この世界の支配者たる存在だ。故に本来ならば矮小な人間とその亜種に気を配ることなどあり得ない』


 なんかいきなり始まった。

 竜と龍が支配者……まあ、竜化のフレーバーテキストにも書いてあったしそうだろうけども。というか、やっぱり龍と竜は違うんだね…


『しかし、我が生きてきた中で、その矮小な人間が力を合わせ、仮にも支配者たる竜を討ち倒す瞬間を幾度か見かけてきた。流石に龍が討たれたことはないがな』


 ふむふむ。竜よりも龍の方が強くて、竜の方なら人間でも倒すことができることがある、と。


『竜とは、龍とは、それぞれが圧倒的な個としての『最強』だ。新しく生まれるものも、古くからいるものも、皆変わらず生まれた瞬間に最強となる。故に不変で、進歩なく、また退化もない』


 何体もいたら最強って言わなくない……?あれかな、概念的な最強ってやつかな。

 エルデさんはそこで一度言葉を区切って続けた。


『だが、人間はどうだ?あれらは圧倒的な弱者である。しかし、最強のそれには遠く及ばないその力を結集させて、最強を打ち倒した。人間は、弱者だ。故に常に変化し、進歩し、時に退化する。我は、その人間のあり方を知りたいが故にここにいる』


 ふむふむ、なるほどねー……

 動機はよくわかった。エルデさんは人間を知りたいからこそ、こんなところで神殿を守ったりしてるんだね。そういう考えだからこそ、ジェイドさんに対して、エルデさんはあんな質問をしたんだろうね。


 と言うことは、この先の展開は……



『さて、我は汝の質問に答えた……次は、我の質問に答えてもらおうか』


 ……きた。



『人間とは、なんだ?』




 見下ろす瞳は無機質な金色に輝いていて、その瞳から心のうちは読み取ることができなかった。



・tips



・冒頭の詩

 女の子は砂糖とスパイスそして素敵なものすべてでできてる

 男の子はカエルとカタツムリそして子犬の尻尾でできてる


 ”What are little boys made of ?《男の子は何でできてるの?》” 。マザー・グースと言う人の詩ですね。女の子に比べて男の子の扱いが酷いので、おそらく女の子目線の詩なんでしょう。女の子から見た男の子ってこんなもの。男の子の子供っぽいところと、女子には理解しづらい奇妙なところ……冒険的で恐れ知らずな部分を、的確で、味のある方法で表現しているところが素晴らしいとと思います。


・地龍『ブリュン・ダ・エルデ』

 年齢……何歳だろ。1000歳くらい?知らね。超強い。基本倒せないと思った方がいいでしょう。

 人間大好き…というか、他の龍よりも人間に対して興味を持っている。でも感性は龍のそれだから、完全に理解し切るのはおそらく無理だろう…


 っていうか、いきなり人間って何って聞かれてスラスラ出てくる人なんていないよね。私が聞かれたら……適当に深いことでも答えようとして、それで勢い余って黒歴史を作る未来がありありと見えますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] ボケに走ったほうが良い気がしてきたぞ
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