第十九鎚 夜空の下の野外レストラン
第八鎚にこの話で出てくる『レシピ本』の譲渡描写を追加しました。(2024.3.31)
レシピ本についてのアイテム説明は後書き欄に。
まず作るのは竈。キャンプとかで適当な大きさの石を積み上げて作るあれだ。私はキャンプなんて行ったことないけど、誰しも一度はこう言ったことをやってみたいんじゃなかろうか。私もそのうちの一人です。
岩場で、かつ遺跡の中とあって、手頃な大きさの石が結構落ちていた。
積み上げて……コの字型でいいのかな。焚き火を灯すための薪は街で買ってきておいたから、それを敷き詰めて、同じく街で買っておいた火打石で真綿に着火して、薪の中に放り込む……おお、なんだか良さげだ。
あとは竈の上に金網を置いて、その上に鍋を置く。これである程度の準備はいいかな。料理に使う水は街で買ってきておいたし……うん。大丈夫そう。
さて、今回この満天の星空の下で作っていく料理はこれ!
ズバリ、魔岩石肉の焼肉と爆弾岩肉のポトフ!!
……いや、なんか知らないんだけど、あいつら肉落としたんだよ。肉。……謎よね。
百歩譲ってロック・ボマーはわからないこともないよ?攻撃してる時は見た目ほとんど球状の岩が転がってくるようにしか見えないけど、起き上がった状態はゴツゴツしたアルマジロみたいな感じだし。
《破城槌》は通ったけど。いや、あれは装甲が岩石判定だっただけかな。
ちなみに肉の見た目は、黒々とした球体である。……まんま漫画とかで見かけるコミカルな感じの爆弾です。本当にありがとうございました。
狼とかは普通に赤みの強い感じの厚切りのステーキにちょうど良さそうな感じの肉を落としてたのに、なんでこいつは急にまんまるの肉を落としたのか。爆弾でしょどう見てもこれ。普通の肉落とせないの?
っていうかこの世界の住人は普通にモンスターを自分の手で解体して素材をとってるらしいけど、そうやって適切な処理をしてもこの爆弾型の肉落とすのかなこいつ…
でさ、ゴーレムは違うじゃん。
きみあれじゃん。岩の塊が魔術的なアレで動いてるとかいう設定のはずじゃん、普通。え、なんで肉???
ちなみにインベントリから肉を取り出してみれば、まんまるの灰色のゴツゴツした感じの見た目です。叩いてみてもコンコンって音がする。……え、岩じゃん。食えんのこれ??
ちなみに結構リトルストーンゴーレムは倒したけど2個しか落ちなかった。……こんな見た目で高級食材ってこと?アホなの?
ちなみに肉どものテキストはこんな感じだった。
〈ロック・ボマーの爆弾岩肉〉 レア度:2
ロック・ボマーの体の体積の約2割ほどしかない可食部。頭部も岩石が大半を占めるため、その頭部を除いた可食部となると硬い岩石装甲の中のほとんど球体に近い本体部分しかない。
見た目は悪いが、きちんと料理すれば外側の硬く黒い部分を破ることができ、爆発的な旨みを持つ内部の肉を食すことができる。
調理に失敗すると爆発する。
煮込み料理がおすすめ。
〈リトルストーンゴーレムの魔岩石肉〉 レア度:3
本来ならばただの岩の塊であるリトルストーンゴーレムの一部が、魔力の影響を受け、有機物として変質したもの。肉となった部分を持つゴーレムは少なく、あまりお目にかかれる食材ではない、高級デザート。
通常のストーンゴーレムの魔岩石肉に比べて内部は柔らかく、濃縮された甘みの強いロックな味わいが特徴。外部の岩石部分も通常のストーンゴーレムの魔岩石肉よりも柔らかいため、調理は比較的容易。
焼肉がおすすめ。
爆弾と岩かよぉ。
そもそもこいつらを鍋に入れて料理するとか食への冒涜ではなかろうか。
てか焼肉?デザート??その見た目で焼肉とかデザートって言われてもピンときませんて。
まあやるけど。
というか、そもそも調理方法がわかんないんだけど……あぁ、そういえば、あれがあった。
そう思い当たって、インベントリを開く。スクロールしていって結構下の方の……あ、あったあった。
取り出したのは、一冊の分厚い本。題名はなく、使い古されて年季の入っているそれ。一見古臭いだけの本……いや、めちゃくちゃ失礼な言い方になってしまった。でも、この本に内包されている価値は計り知れないだろう。
本の題名はないけど、アイテム名ならば存在する。アイテム名は、『夕焼けの残り香亭のレシピ本』。名前の示す通り、レイバンさんとフィニーちゃんのお店のレシピや、それ以外にもレイバンさんが若い頃に世界を旅しながら開発したレシピ群の載った貴重な一冊である。
これを渡す時、レイバンさんは、彼自身は本の内容を全て覚えてしまったから、自分にはもう不要なものだとか言っていたけど、おいそれとポンと渡していいものじゃないよね……まぁ、貰ったものは有効活用しないと損だ。
というわけで、とりあえずペラペラとページをめくってみる。…ふんふんなるほど、フィールドごとの出てくるモンスターで分けられてて、さらに挿絵までついててすごくわかりやすい。多分世界の片っ端から旅しながら作ったからだろうな……すごいな、あの人。
えーっと、ソリッドロック、ソリッドロック岩石地帯……あ、あったね。
このページの…うん、これとこれか。
どうやらアイテムのフレーバーテキストにあるように、爆弾岩肉の方は煮込み料理がいいらしかった。
それにどちらも丸ごと鍋に突っ込んでいる挿絵がついているので、残念ながらどちらも見た目のインパクトが強い料理になりそうだった。
……とりあえず、爆弾の方は煮込むか。赤ワインなんて洒落たものはないので、調味料は塩胡椒。それと、レイバンさんに貰った特製の調味料類。……なんとかなると思います。
魔岩石肉の方は焼肉……と言っても、焚き火の上に敷いた網の上にポン置きするだけでいいらしい…えぇ……
ごちゃごちゃ言っていても仕方ない。作り始めてしまおう。
まずは、鍋の半分ほどを水で満たして煮えさせる。次に、賢者の森で採ってそのまま残っていた野草や木の実なんかをぶち込む。どうやらレシピ本によるとこのタイミングで塩胡椒なんかは入れちゃうらしい。特製調味料はもう少し後とのことだ。それで大体7,8分煮込む。
本当は入ってる野菜の種類によって煮る時間は変わるんだけどね。たとえば、ジャガイモとかの根菜類が入ってたら煮込む時間はだいぶ長くなるんだけど、今回は野草と木の実だけだし。短めだね。
コトコト、コトコト。
周りの明かりは、地平線に半分ほど体をうずめている大きな月を除けば、私の焚き火ただそれだけだから、今日も星がよく見える。
思えば、あの月は黒神様の象徴なんだよね。あんなに綺麗な月から見下ろされていると思うと、やっぱり神様は人智なんかとっくのとうに超越した存在なんだと、しみじみ思う。
……野菜の煮込みはこのくらいかな。そしたら、爆弾岩肉をゆっくりと投入……わっ!?
入れた途端、ぼふんという音と共に水中から気泡が登ってきて、危うく鍋の中身が溢れそうになる。……え、失敗した?
と思ったけど、どうやら爆弾岩肉を入れた時は大体こんな感じの反応になるらしい。よかったぁ。
で、ここからが本番だそうな。爆弾岩肉は調理を間違えると爆発する。だから、最新の注意を払って料理をする必要があるんだとか。
えーっと、まず、入れてから5分たったら上下を反転させて、火の通りを調節する。
次にそれで3分たったら、そこに沈んでいる爆弾岩肉を網おたまで水面付近まで持ち上げて、直に火が当たらないようにして3分キープ……で、このタイミングで特製調味料を入れる。
そのあとは適度に回しながら7,8分煮込んでいく。なんだか映画とかで見る爆弾の配線を順々に切っていくような感覚だ……お、お、来たかな?
底に沈んでいた黒い塊が、先ほどまですっかり止まって水底から動かなかったのが嘘のように浮き上がってくる。
ぽこりと上半分ほどを水面から出して、いつの間にか美味しそうな色に変わっていたスープの液面に波紋を作った。
そして……
「あ、開いた……わぁ!」
ぱかり、なんて言う気の抜けた効果音はつかなかったけど、見ている感じはそれに近かった。
黒々とした外側とは違って、内側は赤々とした鮮やかな色のお肉だった。ことことと湧き上がってくる気泡に押されるように、湯気の立つスープの上でくるくると踊っていた。
…あ、火を弱めないと。……焚き火の火の弱め方ってどうすればいいんだろ?薪同士の距離を開ければいいのかな…こうやって散らしてみて……あ、弱くなった。
とりあえず、野晒しの夜は寒いので火は消さないでおこう。この後に魔岩石肉の方も焼くしね。
さて、今はこのポトフ?だ。真ん中にでかい丸い肉が浮いてるけど、これはポトフ。
《爆弾岩肉の特製ポトフ》 レア度:4
〈プレイヤー名:ニナ〉の作った爆弾岩肉を使った特製ポトフ。
適切な調理方法で爆弾岩肉を調理しており、また、特殊な調味料が使用されているためとても美味しそうに見える。
特殊効果:完食後から一時間の間に放った最初の3回の攻撃に爆発属性の追加ダメージを与える
アイテムのフレーバにも変なところはないし、見た目も美味しそう。…ということで、お皿によそって……いただきます!
まずはスープから…おぉ、すごい濃厚だ。
最初に舌を刺激するのは、濃縮された旨味。お肉の旨みとちょっとした辛味。これが一番にきて、ちょっとびっくりしちゃった。
その後にじんわりと広がるのは、普通の塩胡椒に、このちょっぴり特徴的でクセになりそうな旨味は…特製調味料かな?
間違いなく美味しいと断言できるね。……次は、お待ちかねのお肉。どうやって食べようか。今現在お皿の中心でぷかぷかと半球状のお肉が浮いているだけだし。
試しにスプーンで突いてみて……あれ、結構柔らかいというか、脆いな?
これなら、スプーンでも食べられそうだった。
試しにほぐしてみて、一口サイズほど、半球の4分の一ほどを取ってみる。よく冷まして…いただきます!!
瞬間、口の中を先ほどのスープのそれよりも幾分か強い、濃縮され切ったような暴力的な旨みが蹂躙した。……お、美味しい!
パクパクと食べ進んでいって、あっという間にお皿によそった分を完食してしまった。すぐさま残りの分をさらによそって、スープを啜りながら肉に齧り付く。旨みが濃縮されすぎて、若干濃すぎるかな、なんて思うけど、美味しいのだから止められない。
我に帰ったのは、私があっという間に鍋と皿の中身を空にした後だった。
……ふぅ、美味しかった。
でも、今日はこれで終わりじゃないんだよね…むふふ。
焚き火の薪を中心部に集めるようにして、火の勢いを強めにした。
そして再び手に取るのは、リトルストーンゴーレムの魔岩石肉。これに関しては調理は単純。強火で大体10分から15分焼く。そうすれば爆弾岩肉と同じようにパッカリと開いて甘くて美味しいお肉が顔を出すそうなのだ。
というわけで、焚き火、金網、岩……じゃなくて、肉。
これに関しては別に調理失敗で大爆発とかないだろうけど、念の為目は離さないでおこうか。いやはや、それにしても夜の岩石地帯はめっぽう静かだ。
ここが遺跡と岩場の影ということもあって、モンスターたちからうまく隠れられている。
……なんて思いながらチラリと外を覗けば、外を彷徨いていたロック・ボマーと目があった。
あ、こんばんはー。
え?今から一狩り行かれるんですか?だいぶ暗いですけど、頑張ってくださいねー。え?狩られるは私?やだなーもう、そんな冗談よしてくださいな。
あ、今料理中なんでこっち来ないでくださいってもう。
……仕方ないから相手するか。っていうか君、夜だとレベル20超えるんやな…くらえ!
やば、空ぶった!
ちょ、そっちは料理中!待って待って!!
なんとかロック・ボマーを撃退して、インベントリ内の爆弾岩肉の個数が1個増えた頃。
腰を焚き火の前に落ち着けて視線をそれに向けてみれば、ちょうどそれと同時に肉がまたもや真っ二つに割れる。
「……わ…」
出てきた肉は、とても赤々としていて、ところどころに紫色の石みたいなものが散りばめられていた。
…これ、火は通ってるのかな?別にあんまり通さなくてもいいのかもしれないけど……。
〈魔岩石肉の焼き肉〉 レア度:5
〈プレイヤー名:ニナ〉の作った魔岩石肉の焼き肉。
適切な調理方法で作られており、甘みが強く引き立てられていて、とても美味しそうに見える。
特殊効果:完食後一時間VITが7%アップする
適切に作られてる、ってことはこの赤さでいいのかな。変な石みたいのも入ってるし……。
デザートだとかなんだとか言ってるようなやつだし、そもそもゴーレムの体の一部が変質してできたとかいう話だ。普通の肉と一緒にしないほうがいいだろう。
というわけで……いただきます。
適当にスプーンでも突っ込んでみれば、赤い部分はそもままとろりと掬い上げることができた。
やっぱお肉だけどお肉じゃない……
「…んん……お?」
甘い!甘いです!
果実のような爽やかさではないけど、酸味の含まれない純粋な甘さだ!……でもちょっと甘みがしつこいかもしれない。
あったかいしなんだかとぅるんとした焼き林檎みたいな感じ。あぁ、冷やしてみたら美味しそうだな、これ。甘味のしつこさも無くなりそうだし。また今度焼いた後に冷やしてみよう。
食感はさっきも言った通り、とぅるんとしてる。とぅるんだよ、とぅるん。なんだかゼリー……いや、ちょっと違うかな?やっぱお肉じゃないね。
似ている食感は……うーんと……
猿の脳味噌?
……………。
変な例えしかできなくてごめんね。というかそもそも私猿の脳みそなんて食べたことないし。昔読んだ漫画で蛮族みたいな人たちが猿の脳みそ食べてる描写を見ただけだ。でも、当たらずといえども遠からずって感じだと思う。
じゃあ、次はこの変な紫色の石みたいなやつ、行ってみようか。
食べられるところなのかわかんないけど、食べてみればわかるでしょ!
というわけで、一粒だけ掬ってみて、まずは指で突いてみる。……あれ、ぷにぷにしてる。食べられんのかな。
なら、いただきます……うにゃ!?
「すっっっっぱ!!」
ロックな味わいだ!!!!!
失礼しました。えっとね、甘いっちゃ甘いんだけど、すごく酸っぱい。食感は…イクラみたいな感じ?プチプチしてる。
…あぁ、もしやこの赤い肉と一緒に食べるのがいいのかな。赤いとこも結構甘みが強いし、いい感じになりそうだ。
……うん、やっぱり美味しいや。甘味と酸味が口の中で暴れ回っているけど、なんだか不思議と調和が保たれているように感じるね。この紫の石?と赤い肉部分を一緒に食べていくのが正解だったみたいだ。
でも確かに、この不思議な食感と美味しさは高級珍味って言われても納得できるね。
そんなこんなで全て完食し切った私は、満腹になったお腹をさすりながら、インベントリからテントを取り出した。
このテント、ツヴァイの街で買ったものなんだけど、モンスター相手に強力な隠蔽効果を発揮する設置式拠点みたいなものなのだ。
インベントリから出してポンっと置けば、寝床はすぐさま完成する。…一人用だけど、結構お高いんですのよこれ。
忘れずに空になった鍋や食器を簡単に洗って、インベントリにしまう。この辺はゲーム補正で、簡単に水洗いしてインベントリに入れておけば、勝手にピカピカになってるらしい。耐久は使った分だけ減るけどね。
焚き火を消して仕舞えば、純粋な月明かりのみが落ちる夜の真っ暗な闇が訪れた。
……本当に暗いけど、見上げてみれば星が綺麗だ。ちょっと外に出てみようか。
暗闇を彩る星々は、やっぱりリアルのものとは全然配置が違うね。知ってる星座……夏なら大三角とか、冬ならオリオン座とかあるけど、見当たらない。
でも、綺麗なものは綺麗だ。巨大な月がそれを横切る周りに、星々がキラキラと輝いて自己主張をしながら地平線まで延々とともしびが連なっていた。
リアルでも見れるかどうかわかんないよ、こんな景色。……うん?
南東の方角に、わずかだが灯りが見えた。
星の色ではないね……あ、もしかして、あれがベルグヴェルグの街かな。地平線に見えるってことは……大体四キロほどかな。この星が地球と同じ大きさなら、だけど。あれなら明日には着けそうだし、明日は一日あそこで過ごそう。
ということで、今日はもう早めに寝ようかな。
テントに入って、寝袋に潜り込む。もこもことした生地が暖かくて、眠気は自然とやってきた。
「……おやすみなさい」
なんで急にこんな話を書き出したかっていうとまぁ、ダンジョン飯を見たからですね。
・tips
・レシピ本
8話に譲渡描写は記載しましたが、詳しい説明はしてませんでした。
《レイバンのレシピ本》 レア度:7
流浪の料理人、レイバンの記した料理研究本。彼が妻と結ばれて彼自身の店を構える前までに彼が彼の旅路で出会った様々な食材の調理方法がまとめられている。写しは取られていないため、この世界に二つとして同じ内容の書籍は存在しない。
ユニーククエスト:《陽だまりの月華》のクエスト受注報酬。
???「今日はこのジオー……岩石肉を開けていくよ!」