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第十八鎚 堅牢なる岩石地帯



 聖都ツヴァイは、南東から北西にかけて流れる大きな川の上に立っていて、その川に遮られるようにして東側に『ブラムダスト砂漠』、南に『ソリッドロック岩石地帯』と呼ばれるフィールドが広がっている。


 そして、ツヴァイから南東にまっすぐ、川に沿って進んでゆけばゼニス大山があって……とまあ、東は砂、南は岩、その中間の南東には山って感じに地形が形成されていて、そのどれもがモンスターの出現するフィールドだ。


 私がこれから行くのは南側のソリッドロック岩石地帯。

 理由は単純。出てくる敵がとても硬そうだから、その一つに尽きる。


 岩石地帯に出てくるモンスターはほとんどが岩石系のモンスターで、例えばストーンゴーレムとかロックスコーピオン、ガーゴイルが出てくるんだそうだ。ツヴァイの街周辺でも出てくるロック・ボマーそのものや、その親玉みたいなやつとかも。

 ソリッドロック岩石地帯は、地肌は岩、出てくるモンスターも岩、途中途中にある集落もほとんど岩とか鉱石なんかでできている、岩尽くしの地帯だ。


 あ、そうそう。

 あそこの岩石地帯には私が今かけている『真・重武器愛好会会員証』の素材を落とすギガントフォートレスタートルはいないんだって。悲しい……。一度でいいからぶっ叩いてみたいなー……

 とはいえ、出てくるモンスターは大体東の砂漠に出てくるモンスターたちよりも強いらしい。砂漠では色々と暑さ対策をしなくちゃいけないから、その分南の岩石地帯よりもモンスターのレベルが低いのだそうだ。


 今日私が目指すのは、ソリッドロック岩石地帯を超えて、とある大渓谷の中にある四つ目の街フィーア……ではなくて、フィーアまでの行程の大体5分の1くらいのところにあるらしい『ベルグヴェルグの街』というところだ。

 ベルグヴェルグ、直訳して鉱山。その名前の通り、ゼニス大山の麓にある鉱脈で産業を発展させている街なんだそうな。


 そこまで行くのにかかる時間は掲示板とか攻略サイトによると、大体半日から一日。

 私の足だと、早朝に出て頑張って歩いてもつく頃にはとっくに日が暮れてるか、最悪辿り着けないかもしれないけど、なんせ一番近い街がそこなのだから仕方ない。


 一応、辿り着けなかった時用にテントと野営道具を買ってきておいた。フィールドの中でも比較的安全なところ……例えば遺跡なんかでは、モンスターもあまり出なかったり、他のパーティーがいたら共に夜を過ごせるらしいので、まあ大丈夫だろうと信じたい。


 あ、言い忘れてたけど、今日はメイクレアさんから貰った髪結いで、髪型をツーサイドアップにしてます。

 これだけでも結構印象が変わるもんだね。可愛いと思います。



「おはようございまーす」

「……」


 ツヴァイの街の衛兵は、おそらく聖騎士の端くれなだけあって、声をかけても無言ではあった。だけどちらりとこちらを見てコクリと頷いてくれたので、どうやら宗教区画の前の白の大橋を守っている聖騎士よりも幾分か親しみやすいようだった。


 南側の白亜の大門を抜けてみれば、一面のサバンナと、左手には聳え立つような大山が、遠く目を凝らしてみればゴツゴツとした岩場が見える。まずはこのサバンナ地帯を抜けて岩石地帯に入ることからだね。

 ということで、れっつらごー!



 ……この掛け声って古いのかな?



 あ、ロックボマーだ!殴らせろー!!




  ◆  ◆  ◆




 サバンナの草原に所々岩肌が現れ初めて、すっかり草の色も見えなくなったタイミングで、私はマップを開いてみる。

 …うん、ちゃんと今いるフィールドの名前が変わってるね。


 ここから積極的にモンスターを狩りつつ、南南西を目指して邁進していきましょうか……っと。


「……来たね」


 かたかたと、少し足元の小石が振動に揺れて、辺りを見渡せば振動の発生源はすぐに分かった。

 一際大きな岩の塊が、岩同士の擦れるようなゴトゴトという音を立てながら、歪な形の足で立ち上がって、これまた歪な形の二本の岩の腕を構えながら、二つの目らしき窪みが申し訳程度についた顔をこちらへ向けて、その空虚な瞳に赤色の光を灯した。


 ……3m強はあろうかという巨体に反して顔は結構間抜け面で、ちょっと可愛いかもしれない。



〈リトルストーンゴーレム〉 Lv.17

1200/1200



 おお…お前その大きさでリトルなんかい。通常サイズはどれだけ大きいのやら。

 そんでもって、レベルは私よりも低いけど、結構なタフネスだね。一体でそれだけあるってことは、つまり、殴りがいがあるってことです。


「いざ勝負!《縮地》……《重撃》!!」


 地面を蹴って、脚技スキルの彼我の距離を一瞬で縮めるアーツを使って腕を構えたゴーレムに肉薄してから、両のハンマーを振り下ろす。

 防御するようにゴーレムの構えた腕にぶつかって、ドゴンという重い音と共に、ゴーレムが少しよろめいた。しかし……


「倒れない……!」

「ギ、ギガガ!」


 私のSTR値はめっぽう高いはずだけど、それで少しもノックバックしないというのは、流石はアインやツヴァイの街周辺とかよりも高レベル帯のフィールドモンスターってところかな。

 傾いだ岩の体を起こして、ゴーレムがその剛腕を振りかぶった。

 ……攻撃に来るのか、それなら好都合。下手に距離を空けられたり小技に回られるよりもよっぽどいい。

 私も相手もゴリゴリの近接型だからね。その点でもこのフィールドはやりやすい……っと!


「《インパクト・リフレクション》!」

「ガッ…!?」


 振り下ろされた岩の腕を右のハンマーでかちあげるようにして衝撃反射のアーツを叩き込む。最近気づいたことなんだけど、このアーツ、闘気を相手に送り込む感じで通すと威力が結構上がるのだ。そのおかげで、今回も大きな隙ができた。

 ……これなら、十分に溜め時間はあるかな。使い所のあまりない例のアーツ君に出張ってもらおうか!


「《大回転》!」


 遠心力で加速されたハンマーが連続でゴーレムにヒットして、わずかに弾き飛んだゴーレムはそのHPを空にした。

 ハンマーを下ろして、ポリゴンが宙に舞って消えたタイミングでゴーレムがいたあたりの地面を見れば、いくつかのアイテムが転がっていた。


「むぅ…タフネスがあったから結構アーツを使わされたなぁ……MPの消費がバカにならないや」


 これは色々と工夫して戦う必要があるかもしれないな、なんて考えつつ、転がるアイテムを拾うために身をかがめた。


「えと、岩、鉄鉱石、ゴーレムの核、岩……え、肉?」


 肉?????








 あの後何回かリトルストーンゴーレムとかロックボマーとかの相手をして、プレイヤーレベルが2、スキルのレベルもいくつか上がった。

 鎚術のレベルも上がったんだけど、そこで結構いい感じのアーツが手に入ったのだ。それがこれ。



 鎚術 Lv.8

 アーツ《破城槌》

 効果:非生物オブジェクトへの与ダメージ2.5倍



 この破城槌っていうアーツの効果は、対物攻撃力上昇。例えば建物とかを壊したり、例えばカギがないと開かない扉とかを無理矢理ぶち破るためのアーツだ。

 本来ならばモンスター等生物相手には発動したところで通常攻撃とダメージは変わらないんだけど、ここの岩場のモンスター相手だと別だった。


「《破城槌》……《大回転》!!」


 破城槌のアーツを発動する時に出る赤色のオーラのエフェクトを纏ったハンマーが、大回転のスキルで私を中心に大きく振り回される。

 そうすると、運悪く範囲内にいたリトルゴーレムとロック・ボマーの頑強な岩の体にヒビが入って、大きく吹き飛ばされた。


 そう、この破城槌のアーツ、なんと岩系モンスター相手に効果があったのだ。

 このアーツさえあれば、MPの消費を極端に抑えられる。ありがたいったらありゃしないね。岩に効くってことは、多分木型のモンスターとかにも効いたりするのかな……?


 とまぁ、そんなこんなで私は結構順調にフィールドを踏破して行っていた。



 行ってたんだけどね……





 結局、私は日が暮れる前にベルグヴェルグの街にたどり着くことはできなかった。

 理由は明白も明白。私のそもそもの足が遅い、モンスターに足止めを食らった、などなど。


 あと、ちょっと道に迷ったかもしれない。

 一応ずっと左手にゼニス大山が見える感じで歩いてきたんだけど、詳しい位置とかはリアルでもう一回調べ直して照らし合わせなきゃ辿り着くのは難しいかもしれない。見えてるゼニス山脈の山頂がちょっと遠いしね。

 できればリアルの情報はあまり使わず自分の足で街まで行きたかったけど、仕方がない。


 というわけで、今日は野宿です。


 適当な場所がないかなと日が暮れる前に探しておいたんだよね。

 ……というわけで、目星をつけておいたのが、ここの遺跡です。

 歪んだ直方体の柱らしきものが崩れ落ちたりしているけど、元は何かの建物だったらしいことはわかる。いい感じに大きな岩の影になっていて、雨風も凌そうだし、モンスターからの死角にもなりそうだ。


 このソリッドロック岩石地帯には、こう言った小さな遺跡が点々と存在しているらしい。

 いつの時代の、誰のものか、なんてのは分かってないんだけど、風化具合からしてもしかしたら初代聖女の時代とかよりも前……?

 そんなよくわからないこの遺跡たちは、この世界の住人含めた冒険者たちの仮の宿として結構重宝されるらしい。とはいえ、大体の人間がちゃんと計画的に街から街まで移動するから、そんなに多く利用されることはないらしいんだけど。……計画性がなくて悪かったですねぇ…はい……


 そんでもって、この遺跡。たまにお宝があるらしい。

 聖遺物(アーティファクト)、なんて呼ばれるカテゴリのアイテムが転がってたり、宝箱に入ってたりして、時たま冒険者たちの手にわたる。

 これらのアイテムたちは今のこの世界からしたらオーバーテクノロジーじゃないか?って感じの破格の性能を誇るものらしいんだけど、まあそんなものが誰の目にも止まらず放置、なんてことはあるはずがなくて、すでにこの世界のトレジャーハンターの人々の手によってほとんど回収されし尽くした後なんだって。


 プレイヤーの間でも見つけた!なんてことは本当に片手の指の数ほどもないらしく、見つけたプレイヤーたちは羨望の的だそうだ。


 ちなみに、ここの遺跡には聖遺物はありませんでした。ちくせう。


 でも、聖遺物じゃなくても手に入るものはある。

 そんなふうに気を取り直した私は、身をかがめてその辺りの石ころに順々に手を触れていく。


 これ…はただの石。これ…もただの石。……あ、ちょっとクリーム色っぽいこれかな。…うん、正解。


 聖遺物じゃないけど手に入るのが、このアイテム。…アイテムというか、記念品っぽい感じだけども。



〈ソリッドロック古代遺跡の石片〉 レア度:2

 遥か遙か昔の、栄華を極めたいにしえの街の、その残滓のひとかけら。

 誰がために作られ、誰がために亡んだのか。



 うん、意味深なフレーバーテキスト。

 それにしても、この遺跡やそこでとれるらしい聖遺物もこの世界の謎の一つやね。

 遥か昔の遺跡と、そこから出土するハイテクアイテム。ここら一体全部が遺跡の元となった街だというのなら、結構興味深い。……でも初代聖女の時代よりも前、ってことは、この世界のストーリーの大筋にはあんまり関係なかったりするのだろうか。


 まあいい。



 今はそんなことよりも……料理の時間だ!!


 意識を切り替えるとともに、頭の中で軽快な3分クッキングの音楽が流れ出した。


ちょっときりが悪いですが長くなりそうなのでここまで。

次回は料理回。

ゴーレムくんが落としたよくわかんねえ肉(?)の出番です。


・tips


聖遺物(アーティファクト)について

 愛好会会員証のフレーバーテキストに書いてあった遺物級のアクセサリーの遺物ってのはこれのこと。つまり、聖遺物の中にはあんだけの効果を得られるような武器装備アイテムがゴロゴロしてるってこと。総数は少ないし、破損してるものも結構あるけど。

 ちなみに作られたのは遺跡がまだ現役の街だった頃で、初代聖女が生まれるよりもはるかはるか昔。

 ……神々よりも?


・ツヴァイの街以南の地形

 まずサバンナ地帯、次にソリッドロック岩石地帯、その南、岩石地帯の果てにはリスマークン大渓谷ってのがあって、その内部に第四の街『フィーア』があるらしい。どんな街かはお楽しみに。


 あ、一応言っておきますが、EILでは、絶対にこの順序で街を進んでいってね!ってのは一切ありません。だから普通にツヴァイの街の次は南のフィーアでもいいし、東のドライでもいい。なんなら南東を突っ切って、過酷な山登りの後に待ち受ける第五の街フュンフに直接向かってもいい、って感じです。一応それぞれの街に行く前のフィールドにはボスモンスターがいますが。

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