第十七鎚 猫の手に引かれて
せっかくの休み期間ということで、Fate/stay night UBW を一気見しました。筆者は Fate 系列の作品を見るのは初めてだったのですが、なかなか面白かったです。ufotable の作画にはいつも驚かされますね。ストーリーの展開も面白かったです。動きはカッコよくて、心情描写は丁寧で、ヒロインは可愛くて……。
………。
昨日更新できなくてすいませんでした……
これからたまーに作者が忙しかった日の翌日とかは更新がないことがあるかもしれません。
できればこの休み期間中にかけるとこまでちゃっちゃと書いてしまいたい。
あれからジェイドと別れて、私はこれからしばらくあまり来ないことになるであろう宗教区画を少しだけ回っていた。
来ないことになる、っていうのはまあ、この街から離れてレベリングをしに行くし、それが終わったら龍骸山脈に行くわけだからだ。
ジェイドが言っていた龍王国。
さて、これについてだけど、今は気にしないでおくことにしよう。
すごく気になるんだけど、行くためには山越えをするか、回り道をするしかない。それができるようになるのはまだ先のことだし、今の目的を履き違えるわけにはいかない。
さて、ちょっと遅れてしまったけど、今日の午後はメイクレアさんのところに装備品でも取りに行こうか。
といっても、装備を受け取ったからといってすぐさま龍骸山脈に行くわけじゃないけどね。色々と足りないものがありすぎる。一番にはレベルだろう。
今回のユニーククエストは言ってしまえば「遺品を回収してくれば良い」のだ。極論道中は一切戦わずにスニークしながら通り抜けてもいいわけである。レーティアさんの仇を取らないのなら、という前提があるけれど。
それなのに推奨レベルが50、ということは、出てくるモンスターはそれ以上のレベルか、あるいは大量に出てくるのかの2択になる。
いや、環境的な問題もあるか。なんにせよ、今のレベルじゃあどうにもならないし、だから南の方や東の方でレベルを上げておきたい。
第二は、防寒のアイテムだね。
メイクレアさんには防寒着の依頼もしたけれど、たとえば体温を保つアクセサリーや、体を温める料理とかも作っていかないと。あ、そうそう。体温を温めるバフ効果をもつ料理を作るための材料は、東の方の砂漠で採れるらしい。
なんでも真っ赤な果実のような食べ物らしい。…めっちゃ辛そう。辛いの好きだけど、辛さにも色々あるよね。舌先がピリピリするやつとか、喉の奥がヒリヒリするやつとか、飲み込んだらお腹が痛くなるやつとか……
後用意するものは…雪山登山用アイテム?
テントとか寝巻きとかロープとか……うん、これは後で調べてから揃えよっと。
誰かと一緒に挑む、ってのも考えたけど、これに関しては私一人で挑みたいなー。なんてったって弔いだからね。あまり知らない人の介入は好ましくないだろう。レイバンさんもフィニーちゃんも、そして私も。
宗教区画と外部を繋げる白亜の大橋を渡って、南西の方へとことこ歩けば、大体10分から15分くらいでメイクレアさんのお店へと着く。露店のたくさん出ている大通りからは一本外れた、小さな個人店や上品な装備品を売っているお店がいくつかある調子の通りだ。
ここも街に合わせているから、外壁は真っ白だけれど、外に出ている看板で誰の店かはわかるようになっている。
メイクレアさんのお店の名前は、『小猫の服屋』。多分モチーフは小人の靴屋かなー、有名なグリム童話だ。
靴屋の老夫婦のもとに小人が現れて、寝ている間に靴屋にあった革を使って靴を作ってくれたというお話だ。お返しに老夫婦が小さな服を作ってあげたら、小人たちがとても喜んでくれた、っていうのが大体の話の流れだったと思う。子供の頃読んで、とても微笑ましいと思ったことがある。
小猫ってのはメイクレアさんのことなんだろうか。だとしたらやっぱりあのハイテンションスタイルのメイクレアさんとは合わないよね。正気のメイクレアさんってどんな感じなんだろ。
「しっつれいしまーす。メイクレアさんいますかー?」
……およ、反応がない。おかしいな、フレンド欄にはログインしてるって出てるんだけど。
いるとしたら、奥の部屋かなー。いろんなタイプの服が飾られているお店スペースを通り抜けて、奥の扉をノックしてみる。
「こんこーん、メイクレアさん、いますかー?」
ノックを声に出すのが癖になってきたかもしれない。
というか、奥からなんの返事もなかった。……うーむ、入っていいものか。
街の中で不測の事態……ってのはまぁ、昨日のことがあったから一概にないとは言い切れないけど、個人の家の中だし。まぁ、入ってみればいいか。
「お邪魔しまーす……あらら、寝ちゃってるね」
メイクレアさんは、茶髪から生えた猫耳をぺたりと伏せて、腕を枕にしてすやすやと寝息を立てていた。
まさしく『小人の靴屋』の展開に似ているかもしれない。別にその辺に小人がうろついていたり、針を抱えてチクチク布を縫っていたりするわけではないけどね。
うーん、正気の人格がおねんねしている間に、例の人格が彼女の秘めたる望みを叶える、とか。いや、結びつけるにはいささか強引にすぎるけど。
いい加減起こすか。寝ている間に他人が自分の家でゴソゴソしてちゃメイクレアさんもたまらないだろう。
ほっぺでも突いてみようか。
「メイクレアさーん、おきてー」
「う、んん…」
ぱちぱちと瞬きをして、ムニュムニュと口を動かしながら起き上がった。
猫耳が彼女自身の覚醒に呼応するようにたちあがって、なんとも言えない可愛らしさというか、戦場的な感じというか……
「……んん、おはようございます…」
「はい、おはようございます」
「…どなた、ですか」
「あ、そういえば初めましてなのかな?どうも、旅人のニナと申します」
「……?」
回っていない頭で、私の言葉を理解しようとして、だんだんと彼女の意識がはっきりとしてきたらしい。
一度ぎゅっと閉じた瞼を再び開ければ、彼女の瞳の奥に私の姿が映っていた。
「ニナ、さん……」
はい、ニナですけども。
「………」
「あーー!!!!!」
こっちもうるさいね。
◆ ◆ ◆
「うう、ごめんなさいぃ…すっかり眠りこけちゃってぇ……」
「いえいえ、装備を作ってもらったんですから攻めるつもりなんてこれっぽっちも」
「うぅ…それに、最初に会った時も変なことしちゃったみたいでぇ……」
「いや、それは別にいいんだけど……」
目を覚ましたメイクレアさんは、まず私に向かって謝り倒してきた。そんな恐縮されても困るんだけれども。
出会った時はそりゃ少しは引いたけど、いい人だし。実際私の装備を作ってくれたんだから、感謝の気持ちしかないものだ。もし私の装備を作ってくれたことで疲れて寝てしまっていたのなら、謝るのは私だ。
色々して落ち着いた後、メイクレアさんは奥から一組の衣服と、厚手の上着、それとブーツを一組持ってきた。
…靴も作ってくれるんだ…
「えと、これ、です」
渡されたのは、ベージュ色の服だった。デザートリザードもベージュ色だったから、これはその色を受け継いでいるんだろう。上着ではない服の方も生地からして厚めで、この服自体が防寒の性能を持っていそうだった。
上の服はヒラヒラとしたものがいくつかついている、前のきっちりと閉じられるタイプの服で、下は薄手の長い靴下と厚手のスカートになっている。スカート自体も結構ヒラヒラとしているのは、私の動きやすさを考慮してくれたんだろうか。
上の方のやつは首元まで防寒用の生地が伸びていて、内側はもこもこしている。
実際に着てみれば、上の衣服はもちろん、下半身も防寒に関しては問題がなさそうだった。
着る前はわからなかったけど、スカートの中にハーフパンツが組み込まれているようで、動きやすさと暖かさが両立している。
……?革なのに、伸びるというか。厚手で見た目固そうな癖に可動域が驚くほど広い。なんでだろ。
「それは、裁縫師のスキルです…。えと、裁縫師は、使う素材の材質を色々と変化させることができるんです。と言っても、幅はとても狭いんですが……」
例えば、そこらにある麻の布を鋼鉄の板に、岩石の板をシルクの滑らかさにする、なんてメチャクチャなことはできないけれど、伸びづらい革素材を化学繊維ばり……とは言わないけど、伸びやすくすることはできたりするらしい。ファンタジーやね。
上着の方は、今は着るには暑すぎるものだから着なかったけど、ところどころにもこもことした装飾のついたコートのようなものだった。厚手のベージュ色で、暖かそうだ。
注目すべきは、フードの部分。なんと、猫耳がついている。おー、かわいい……。メイクレアさんとお揃いだ。
角にぶつからないかと思ったけど、私のツノはおでこの少し上あたりから斜め上に生えてるから、干渉することはなさそうだった。
メイクレアさんに聞けば、どうやら彼女の有り余る創作意欲の賜物だそう。
ハイテンションモードの彼女が作ったわけではなく、正気のメイクレアさんが作ったものらしい。やっぱり彼女は彼女だ。
ちなみに『EIL』には、頭、胴、腰、両腕、脚の六つの部位と五つのアクセサリー欄といった装備欄があるけれど、当たり前だがそれらには一つにつき一つしか装備できない。
それなら、コートと上半身の装備はどうやって着るのかって話だけど、それに関しては問題ないらしい。
『EIL』では、フード付きの装備は頭装備として作ることもできるんだってさ。インチキじゃないかと思うけど、実際その通りだからなんとも言えない。そのために装備としての効果が通常の胴装備や腰装備よりも低くなるらしいが、防寒や体温上昇の効果をつける程度なら問題ないのだそうだ。
装備一式着込むことで、きっちりとそれ以上の防寒効果がつくらしい。それ以外のステータス補正もすごいし、
これ全部で一万Gは安すぎないかね…ふむ。
「メイクレアさん、ありがとうございました。これ、お代です」
「あ、はい。いただきます……あれ、なんか多い…」
「いや、この装備にこれだけしか払わないのは私が納得できないからね」
「いえ、でも、装備を作りたいと言って無理やり連れてきたのは私の、その……あれですし。むしろこれだけ迷惑をかけてしまったから」
「それは違うね」
「でも…」
確かに、始まりはアレだったけどさ。
「お代ってのはもらったものの価値を証明するためのものだよ。私がいいと思ったんだから、その分のお代を払うのは当然。それを否定するなら、あなたは自分の作ったものの価値を否定することになるけど、そんなことはしないでしょ?」
「…はい、そういうことならいただきましょう」
ちょっとキザっぽい言い方になっちゃったけど、受け取ってもらえたなら何よりだ。
お金を受け取ってもらった後は、色々とおしゃべりをした。
メイクレアさんはやっぱりリアルでも服飾系の仕事、特にデザイナーなんかをやっているらしい。そういう人でもゲームをやるんだな、とは思うけど、誰がゲームをやるかは関係ないか。というか、ゲーム内でもリアルでも服を作るとは、筋金入りだね。
その最中で、思い出したようにメイクレアさんが口をひらく。
「あ、忘れてました。余った素材とでお詫びの印にと作った、髪留めです」
渡されたのは、金色とうすい青色の二対のそれ。
……ツインテールにでもしろと?いや、案外いいかもしれない。多分かわいいだろうし。あ、でもツーサイドアップの方がいいかもしれない。
リアルでもこっちでも髪型はずっとストレートだったし。たまには変えてみたりしてね。
ちなみに明らかに革製じゃなかったから何で作ったのか聞いたけど、ニコってされて終わった。うーん、意外と肝が据わっているというかなんというか……
色々話し込んで、今日はそれまで。私も彼女もリアルがあるからね、そんなに長い間話すことはできなかった。聖女ちゃん関連の話が午後まで食い込んじゃったからだけど、どっちも重要な用事だったからなー、仕方ない。
「じゃ、またね!」
「ええ、今日は楽しかったです。……例の、あなたの宿敵の素材が手に入ったら、またぜひいらしてください。そちらの装備も改修はできないですが、もしあなたがその装備でとても濃い経験をしたら、魔石に定着させて作り直すこともできますから」
「……うん、何から何までありがとう!」
最後まで創作意欲に満ちた人だった。
……さて、これで用事は無くなったね。
いざ、レベル上げに。南の方目指してがんばろー!
まあ夜だから寝るんですけども。
・tips
・装備s
・頭:《砂漠蜥蜴の猫耳フード付きコート》 レア度:5
装備効果:INT+1,STR+2,VIT+2,防寒Ⅱ
リンク:他の〈プレイヤー名:メイクレア〉作の砂漠蜥蜴シリーズを装備することで、防寒Ⅲ,体温上昇Ⅱ の効果を得る
・胴:《砂漠蜥蜴のレザーアーマー》 レア度:5
装備効果:STR+4,VIT+4,防寒Ⅰ
リンク:他の〈プレイヤー名:メイクレア〉作の砂漠蜥蜴シリーズを装備することで、防寒Ⅲ,体温上昇Ⅱ の効果を得る
・腰:《砂漠蜥蜴のレザースカート》 レア度:5
装備効果:DEX+3,VIT+4,防寒Ⅱ
リンク:他の〈プレイヤー名:メイクレア〉作の砂漠蜥蜴シリーズを装備することで、防寒Ⅲ,体温上昇Ⅱ の効果を得る
・脚:《砂漠蜥蜴のロングブーツ》 レア度:5
装備効果:AGI+3,VIT+3,防寒Ⅱ
リンク:他の〈プレイヤー名:メイクレア〉作の砂漠蜥蜴シリーズを装備することで、防寒Ⅲ,体温上昇Ⅱ の効果を得る
・アクセサリー:《蒼金の髪結》 レア度:7
装備効果:STR+2,AGI+1
特殊効果:幻日のひとかけら
作者「装備ず。メイクレアさんが作ったけど、別に彼女にしか作れないというわけではない。でも彼女の技術と彼女のレベル故にちょっとだけ同じ素材で作った他の装備よりも性能はいいらしい。え?アクセサリーの特殊効果?猫耳にでも聞いてくださいな。また今度出します」
・『改修』と『作り直し』等の装備品生産方法について
・改修
武器、あるいは装備品への後からの強化のこと。後々に手に入った素材を合成・強化することができる。改修の余地ができるように武器を作成すると、武器の性能を設定するためのリソースに空きを作ることになるために、初期の武器の性能が低くなるが、合成する素材の質次第でめっちゃ化ける。長く使うならコレ☆って感じ。
になちゃんのハンマーずはこの製法と後に紹介する『作り直し』の複合。になちゃんがこれからどんどん強くなることを見越してゴヴニュさんが改修できるように作った。というか、リソースに空きを作って武器の初期性能を低めにしないとになちゃんが扱えなかったってのもある。
・普通に作成
装備の補正効果は改修可能装備よりも強い。ただ、改修もなんもできないからちゃっちゃとレベルの上がっちゃう人だとすぐ合わなくなったりしちゃう。悪いとは言わないけど、こうして作るなら予備武器とか予備装備とかが多いかなって話。
・作り直し
耐久値がゼロになった装備品を魔石と合成して、それを核に元となった装備より強力な装備を作る。それなら、使い捨ての装備も再利用可能!?ってことを考える輩もいるけれど、そうはいかない。魔石に定着させるには、定着されるものがより強い魂の力、つまりは装備者の愛着や共に闘った敵の数、強さ、因縁と言ったもの、言い換えれば、白紙だった武器たちに装備者によって記された膨大な情報量が必要となってくる。この情報量が足りないと、魔石に定着させるときに変質して粗悪な装備ができたり、そもそも定着時に魔石に飲み込まれて掻き消えたりする。
要するに、ずっと使ってた武器がぶっ壊れたら再利用できるよーってこと。
になちゃんの装備はこれに加えて前述の『改修』機能付き。つよつよ。