第十鎚 白亜の水上聖都
プロローグを公開してから約一週間が経ちました。
予想以上に多くの方が見てくださっているようで、私としても込み上げる嬉しさがあります。
これからも、駄作ではございますが末長くお付き合いしていただけるとありがたいです。
「おじさん!串焼き2本くださいな!」
「おうよ!そら、80Gだ」
ツヴァイの街、またの名を『聖都ツヴァイ』は、大きな川の中腹に浮かぶように存在する都市である。
周囲は草原…というかサバンナ?が広がっていて、北に5日ほど進めば極寒の龍骸山脈の麓が、東に進めば広がる砂漠地帯とオアシスの街『ドライ』が、南に進めば大峡谷と岩石地帯の広がる谷間の街『フィーア』が…って感じらしい。この世界の地理はどうなっているんだろうか。結構バラバラだし…ファンタジー世界だからかな?
周囲の草原で出てくるモンスターは昨日ちょびっと戦った感じ、アインの街周辺のモンスターの強化版がよく出てきた。
グラスウルフだと群れになって出てきたり、アルミラージは体が一回り大きくなって角が凶悪そうな見た目になってた。…そうそう、金色のアルミラージがいたんだよ!隠れられちゃったから倒せなかったんだけど…今度会ったらぜひ倒したい。
それ以外だとあとは、ロック・ボマーっていう岩石系のモンスターとか、デザートリザードっていうトカゲっぽいモンスターもちょくちょく出てきたかな。
ちなみにロック・ボマーさんは叩きがいがあってすごく楽しかったです。…攻撃空振ると突進してきて自爆するんだけども。
リザードの方は…まぁ、可もなく不可もなくというか。二足歩行のトカゲって感じで、ある程度素早くてある程度攻撃力があってある程度防御力がある。魔法は使わない、って感じ。…普通に強かった。勝ったけど。
ツヴァイの街は、街全体が白色を基調としていて、それ以外には水色だとかの薄い色が多い。街中には川から引いてきたであろう水路が多く流れていて、別名『水の都』とも呼ばれることがあるそうな。
しかしツヴァイの街が半ば宗教都市だからと言って、街全体がバカみたいに隅々まで整然としているわけではなく、こんな風にアインの街にもあったような露店がたくさん出ている大衆向けの通りなんかは普通にある。
特殊なことといえば、おそらく住人だろうと思われる人々の胸に、太陽と天秤をモチーフにした首飾りをつけているくらいだろうか。言わずもがな、『白神教』の信者である証である。ちなみに先ほどの露天のおっちゃんも首にかけていたから、それほど堅苦しいものというわけでもなく、結構メジャーなものなんだろう。
ところで、プレイヤーこと旅人諸君がこの街の到達すると、まずやることがあるらしい。
ゲームを始めた時、メールボックスに『チュートリアルを受けよう!』との通知が来ていたように、この街の巨大な白亜の門を潜ると同時に、新しく通知が来る。
それがこれ。
『初代白の聖女の墓参りをしよう!』
墓参りをしよう!ってなんか不謹慎ではなかろうか。
墓参りなんてそんなハイテンションでやることでもないと思うんだけど。
それはそれとして、攻略サイトを見た限りでも指示に従った方がいいらしいのは明白だったので、色々と思うことはありつつも向かう予定だ。
実はツヴァイの街自体には現実世界での昨日に既についていたのだが、あまりにも遅い時間での到着だったためにさっさと宿屋でログアウトしてしまったから、私がツヴァイの街を回るのは今日が実質初めてなのだ。
ファストトラベル機能の解禁と転移門の開通、それとリスポーンポイントの更新はすでに済ませてあるが、他の大部分は見て回ってはいない。そんなこんなでアインの街よりも大きなこのツヴァイの街を色々と見てまわりつつ、露天で買った串焼きを頬張りながら向かうは街の中心部。
そこには、白神教の総本山たる大聖堂と、初代『白の聖女』さんとやらの大墳墓があるそうな。同時にそこの区画は宗教区画となっていて、白神教関連の諸々の施設とか色々あるらしい。…転職施設とか。ちなみにそこには私が楽しみにしてた施設はないらしい。
ともかく、そんな区画がきっちり整備されて街の中心にデンと位置しているのだから、やっぱり宗教都市という表現は正しいんだろう。なんてったって『聖都』ですし。響きからして凄そう。
ちなみにちなみに、これだけ話しておいてなんだけど、『白神教』は別にべステラング王国の国教というわけではない。というのも、『白神教』はその対となる『黒神教』ととても仲が悪いらしいからだそうだ。白神教の開宗当時はそんなことはなかったらしいんだけど、時代を経るとともに変遷してきたらしい。リアルでもあるよね、そういうこと。
そういう理由で、多民族国家…多種族国家?であるべステラング王国では国教という概念はなく、そのおかげで『黒神教』の信者が多い、この世界のどこかにあるらしい『ケイオス魔帝国』とは仲が悪くはないらしいそうな。
そんな感じでこの世界の設定を頭の中で垂れ流しにしていたら、ようやっと街の中心、大きな水路を隔てて存在する宗教区画の前へと辿り着いた。
宗教区画に入るには、宗教区画とそれ以外の街々を繋ぐように存在している7つの大きな白亜の橋を渡らなければいけない。そしてその橋の前には純白の鎧に身を包んだ、いわゆる聖騎士というような見た目の衛兵が立っていて、道ゆくものたちを監視している。
ぺこりと挨拶しながら通って見れば、なんの反応も返ってこないことに少し残念に思いながら、私はその白色の橋を渡り始めた。
「おぉー!」
橋を渡れば、そこは真っ白な世界でした。
街の地面すらも真っ白なタイルが貼られていて、まさしく純白の街。…うわー、掃除大変そうだな…かえって汚くなったりしないのかな。
なんて思っていたのだが、いざ街に踏み込んでみると、やっぱり私の通った後には少し足跡みたいな汚れが残って…すぐさまスゥッと消え去った。何やら魔法的なあれこれがされているらしく、街の地面や建物の壁面に汚れがつくと、すぐさま綺麗になるような効果がかけられているみたいだった。…え、超便利なんだけど欲しい。
近くの気の良さそうなおっちゃんに聞いたら、なんでも白神教の魔法なんだとか。やっぱり、剣と魔法世界の一大宗教だけあって相当な力を持っていると見える。
そしてメインはやっぱり、この区画に入った時から、なんならツヴァイの街に来た時からも少し見えていた、大きな白い塔を持つ建物。…白神教の、総本山、ヴァイス大聖堂。
形としては…こう、ドイツのケルン大聖堂みたいな感じだろうか。行ったことないけども、写真で見たことあるあれと形は似ている。
全身真っ白で、ところどころに金色や水色で装飾が入っている巨大なその建物は、やっぱりこの世界でも教会の権威は大きいんだな、ということを改めて感じさせた。
そして私たちプレイヤーが用があるのは、その大聖堂の横にあるこれまた真っ白な建物で、大聖堂に比べてみると小さく見えてはしまうけれど、その分金色の装飾が多く輝いている。
「ここが、大墳墓…」
「旅人の方ですか?」
「うひゃっ!?…へ?あ、はい。そうですけど」
「ようこそ聖都ツヴァイへ、そして、ようこそヴァイス大聖堂へ。申し遅れました、わたくし、シスターのシルヴィエと申します。以後、お見知り置きを」
「あ、ご丁寧にどうも。ニナと言います」
「我々は、旅人の方々がこちらにおいでになった際の案内役を仰せつかっておりますれば、貴女さまにこの聖なる領域を隅々までご案内致しましょう。では早速、こちらへ」
「わわっ!?」
ニコニコと笑みを浮かべている、シルヴィエと名乗った彼女。
胸元には太陽と天秤を象った紋章の首飾りがかかっていて、髪型は金髪のショートカット。瞳孔は翡翠色で、これまた白色を基調とした修道服に身を包んだ彼女は、なんというか、とても押しが強かった。全体的に結構清楚な印象なのに。
…まぁ、悪意はこれっぽっちも感じないし、せっかく案内してくれるというならまぁ、ご好意に甘えよう。
というわけで、聖職者にあるまじき強引さのシルヴィエさんに手を引かれて向かったのは大墳墓…ではなく、大きな大聖堂の内部であった。リアルでもなかなか見られるわけではない大きな建物に入る興奮とともに、すわ宗教勧誘か!?と身構えたところで、案内されて着いたのは一つの像の前だった。
「あ、これもしかして…」
「はい、初代『白の聖女』、アーシェラ様でございます」
「あれ?でも白神教って『白と秩序の神』を祀っているんじゃなかったんですか?」
白神教と銘打っておきながら聖女の形代を祀っている理由を聞けば、淀みのない答えが返ってきた。
「その通りでございます。しかし、白神様の詳しい姿形は聖女様ですらご存じなく、また、実際に白の神と対話ができるのは代々の聖女様ただそれのみでありまして、我々も聖女様方から力を分けていただいているのです。故に、我らは聖女様の形代をこうして祀っている次第でございます。…ああもちろん、白神様はいつでも、我らが胸に、我らと共にございますれば」
なんだかとても仰々しい喋り方をする人である。ずっと顔には笑みを貼り付けたままだし、心のうちが全く読めそうにない。ニコニコ、ニコニコ…ふーむ。
「私たちは比較的この世界に住む方々よりも主神様と近い位置にいるらしいと、友人に聞いたことがあるのですが」
少し聞きたいことがあったのだと思って、口を開いた。
「はい」
「私たち旅人は、白の神と黒の神のどちらともについて、あまりよく知らないんですよね。せいぜいが白の神が太陽と秩序を、黒の神が月と混沌を司っているらしいということだけで…」
「黒の神の名前は大聖堂内ではあまり出さないでください」
「うひっ!?…はい。えと、それで……そういうふうに、住人の方達も聖女様以外は大神様達と直接的な繋がりがないんですよね?他の主神様たちの方が影響力が強いように感じるんですけど…それに、自分達との直接の繋がりが少ないものを、どうしてそこまで熱心に信じられるんですか?」
黒の神の名前を出したらニコニコ笑顔で睨まれた。いや、目は笑ってたんだよ。でもうっすら見えた瞳孔の中にめちゃくちゃ怖い光が宿ってた。気をつけまっする。
それはそれとして、少し気になっていたことを彼女に問いかけてみる。
私たちがアバタークリエイトで選べたのは、白の神と黒の神の二柱の大神を除く七柱だった。白の神と黒の神はこの世界の住人たちの領分、ということなら納得はできるけど、今現在白の神と対話可能なのは聖女だけだと言うし、なんともおかしな話であった。
「…大神様達の影響力が弱まってしまっているのは、仕方のないことなんです。今、彼らは大いなる災いに立ち向かっていますから。それに、私たちが彼らを信じる理由は簡単です。……顔を上げてみれば、聖女様がいるから。胸に手を当ててみれば、確かに答えてくれる彼らがいるから。ただ、それだけでございます」
確かに、胸に手を当ててみれば主神様達の鼓動を感じると言うのは共感できる。彼らは、とても温かいのだ。安心するし、力強く思えるし、親しく思える。
それはそれとして、彼女の言葉の中に幾つか気になる単語があった。
「大いなる災い?ってなんですか」
「…では、次は大墳墓へと向かいましょうか」
くるりと身を翻した彼女は、私の質問には答えることはなかった。
大墳墓は、やはり白を基調とした建物で。生前の白の聖女の権威を、あるいは白神教の権威を象徴するためだろうか、建物内の至る所にステンドグラスや金、宝石での装飾があった。やはり建物自体は大聖堂と比べると小さいとはいえ、資金だと同じくらいかかっているのではないだろうか…
「こちらが大墳墓、その入り口にございます。初代聖女様は、あちらの階段を下った場所で、我らのことを未来永劫見守ってくださっているのです。…最も、我々はお目見えすることは叶わないのですが」
あ、玄関だったんですかここ…
地下に聖女様が安置されていると言うことはすなわち、そこが最も装飾が多いのだろう。…えー、大聖堂と同じくらいって思ったけどひょっとしたらこっちの方がお金かかってたりするかな?いやでも、でかい建物はそれだけ人件費が必要だろうしどうだろ…
大墳墓の地上の建物の内部の中心には、台座のようなものと、たくさんの花々が置かれていて、おそらくそれが初代聖女にお参りするためのものなのだろう。
折角なので、私も一度挨拶しておこうかな。
「何か、決まった挨拶のやり方なんかはありますか?」
「いえ、特には。生誕祭の際の儀式などに用いる正式な礼はございますが、お教えいたしましょうか?…だいぶ長いですけれど」
「…じゃあ、また今度で」
しかし、決まったやり方がないのはそれはそれで困ったりするものだな…適当に手を合わせて祈ってみようか。
そうして、台座の前で足をそろえて、改めて台座を見てみれば、綺麗に磨かれた綺麗な台座だった。
初代『白の聖女』アーシェラ、そう簡単に刻まれていてるだけだけれど、建物の中の光の加減も相まって、とても神々しくて静謐な雰囲気を感じる。
瞑目して手を合わせてみても、特に何か特別なことが起きるわけではなかったけれど。
私の征く道を、できれば暖かく見守ってくださいと、そう祈った。
…あ、雷神様?
えと、これはその、浮気とかそういうのじゃないですからね!!
◆ ◆ ◆
そのあとは、シルヴィエとともに宗教区画の色々なところを見て回った。
結構面白かったのは、聖水を取り扱っていた特別なお店だね。宗教関連の祭具や法具、お札やスクロールなんかも色々扱っていたから、今度またじっくり見て回る機会があったら見てみたい。
今回はとりあえず聖水を一本だけ買ってみるにとどめておいた。
あとは他には、さっき言った転職施設。私はまだまだ先だけど、確かレベルが30になったら一回目の転職が可能になるはずだ。今の私の職業は『戦士(鈍器使い)』で、鈍器の扱いに補正が入るだけだけど、ゆくゆくは色んな補正の入る面白い職業に転職できるらしい。楽しみだ。
ほとんど半日近く彼女と共に宗教区画を回って、お昼ご飯もご一緒させてもらった。宗教区画の中の料理屋さんは高級店が多くて、その分ご飯もとてもおいしかったです。まる。
だんだん打ち解けてきたら彼女の可愛い面も色々とみられて、最終的にはとても親しみやすい人という印象になった。これからもまた会う機会があれば楽しくおしゃべりがしたいものである。
彼女とは、宗教区画から出るためにある大橋の前で別れた。
小さく手を振って見送ってくれた彼女は、最初はとても強引だったのに最後の方は普通にお淑やかなシスターさんだった。…なんというか、ちょっと最初の方は雰囲気が違ったし、なんだったんだろ?
それはそれとして、こうして旅人一人一人に付き添って案内してくれるほど私たちプレイヤーがこの世界に受け入れられているというのは、なんというかこう、ゲームだとはわかっていても安心感を感じるね。うん。
さて、メインの用事は済ませたし…今日の夜はこの町で寝る必要があるらしいから、アインの街に帰るわけにもいかない。かといって街の外に繰り出してモンスターと戦う気にもなれないし…よし、今日1日は観光に当てるか!
「おじさーん!ケバブ一つくださいな!」
「おー、旅人さんかねー。元気な子は見てると楽しいねぇ。ほうら、一つ60Gだよ」
というわけで買ったケバブを頬張りつつ、露店を冷やかしながた大通りを歩いてゆく。
アインの街の大通りには、大抵が先ほどのような飲食メインの屋台が多くて、装備品を売っているようなところは少なかったのだけど、この街にはそういった装備品を売っている店が結構ある。
当然その中にはプレイヤーメイドの製品を売っている店もあるわけで…見ていると結構楽しい。だってよく見たら現実世界の戦隊モノや仮面ヒーロー達の武器なんかがあるんだもの。見ているだけで飽きない。
ちなみにアインの街にはこういった装備品の扱うプレイヤーの店は少なかった。ポーションや丸薬とかのアイテム類を扱っていた店は結構あったけど、装備品類を扱う店が少なかったのは、多分ほとんどのプレイヤーが最初のボスを倒すまでは初期装備で戦うからだろう。
まあ私はよくわかんないゴブジェネとかいう馬鹿みたいな強敵と戦って派手に初期武器をぶっ壊したので武器だけはアインの街で新調したんだけども。
しかし、そういうことなら私のこの初期装備ズも変えてもいいかもしれない。
戦闘スタイルからして私は被弾が少ないけど、それでも結構耐久値的にガタが来始めてる。ちょっと汚れっぽいのもなくはないし…
そういうことなら、私の美貌(自惚れ)と愛しのハンマーに似合うかっこよくて可愛い装備がいいなー。
そんなことを考えていたからだろう。私が変な人に捕まったのは。
生産職ですって感じのファンタジーっぽい服装に身を包んだ、癖っ毛に猫耳の茶髪の女性。おそらく、プレイヤーの。
「そこの龍人の旅人さん!!!ぜひ!!!私に!!!あなたの装備を!!!作らせてください!!!」
私、戦部仁菜15歳。
生まれて初めてプロポーズされちゃいました!
なんでさ。
説明回っぽくなったな…?
・tips
・初代『白の聖女』アーシェラについて
白神教の教祖…というわけではない。彼女はたまに夢に出てくる白神様と楽しくおしゃべりしながら世界を旅して色々な人を救っただけで、白神教に関しては彼女の取り巻きが勝手に作った。若い頃はあんまり好ましく感じていなかったそうだが、『ある未来』を見たことで、積極的に活動させるようになった。
ちなみに人物像としては典型的天然天使ドジっ娘。
・当代聖女(まだ出てない)
可愛い。かわいい。キュート。
典型的人見知り系美幼女…の予定。
・聖都ツヴァイ
イメージは無○転生のミリス教国の首都ミリシオンです。
・ドイツのケルン大聖堂
なんか良さげなイメージないかなって調べてたら見つけた。
デカァァァイ!説明不要!な感じ。いつか行ってみたいですねぇ…
誤字報告ありがとうございます!!
いやー……多い。すごく感謝してますので、これからも見つけたらどしどし送っていただけるとありがたいです。
あ、そうそう。
掲示板回とかって需要ありますかね?あるなら書き方勉強して書くんですが…