第099話 やべー人
協会の駐車場で会った加賀美さんが俺達の前にいる。
どうでもいいけど、ここ男子トイレだぞ。
「えーっと、加賀美さんでしたよね? どうしたんですか?」
「もちろん、仕事ですよ」
加賀美さんが笑顔で倒れているヤンキーを指差した。
「あなたがやったんです?」
「横取りでしたかね? まあ、そういうこともあります」
誰がやるとは決まってないし、そういうこともあるとは思うが……
「白々しい。タツヤさんをつけたな?」
キョウカが刀を向けながら言う。
「キョウカちゃんはそっちの方が好きだなー。本当に可愛い」
加賀美さんが笑うと、キョウカの目が据わった。
「キョウカ、やめなって」
キョウカの腕を取る。
多分、マジでやる気だ。
「あの、どちら様?」
置いてけぼりのユウセイ君が俺達の顔を見比べる。
「これは失礼。一ノ瀬の家の子ですね? 私は協会に所属する退魔師の加賀美です。キョウカさんとは熱い夜を過ごした仲ですね」
「キョウカ、落ち着いて!」
キョウカが飛びかかろうとしたので羽交い絞めにして止める。
「へー……どうでもいいけど、これをやったのはあんた?」
さすがユウセイ君。
動じない。
こっちは大変だというのに……
こら、刀を持って暴れるな!
「そうですね。すみませんが、私も生活があるんでねー。褒賞金はもらいます」
「まあ、あんたがやったならいいけどさ……」
ユウセイ君、大人だな……
「ありがとうございます。それとすみませんね。久しぶりにキョウカちゃんに会ったんで張り切り過ぎました。私はこれで失礼します」
加賀美さんの姿が消えた。
いや、俺達の下にいた。
羽交い絞めにしているキョウカの足元で暴れているキョウカのスカートをじーっと見ている。
「死ねっ!」
キョウカが足元にいる加賀美さんを蹴る。
しかし、簡単に足を掴まれてしまった。
「ふふっ、キョウカちゃんは本当に弱いなー……剣術も魔力もすごいんだけど、それ以外はダメダメ。やっぱり私と組んだ方がいいんじゃない? 色々と教えてあげるよ?」
色々……
「あ、あのー……もしかして、そっちの人です?」
「そっち? 何を言っているかよくわかりませんねー……ふむ……」
加賀美さんが立ち上がり、俺をじーっと見てくる。
そして、キョウカと俺を見比べ始めた。
「何です?」
「なるほど、なるほど……良くない道に進みますか。つまりあなたは敵ですね?」
はい?
「あのー……何を言っているんです?」
「真実の愛はもっと綺麗なんですよ」
話が通じねー……
「死ねっ! タツヤさん、放して! 斬る! 斬り殺すっ!」
「落ち着いてって!」
「おや? 修羅場? お邪魔のようなので帰ります。またどこかでお会いしましょう。それでは……」
加賀美さんはそう言うと、姿が消える。
周囲を見渡してもおらず、本当にいなくなったようだ。
「キョウカ、落ち着いて。ね?」
「ハァハァ……あのクソレズ女めー!」
あ、やっぱりそうなんだ……
「ほら、車に行こう?」
俺はキョウカを連れて、車に戻ることにする。
そして、キョウカを助手席に乗せると、癒しの上級悪魔を膝に乗せてあげた。
キョウカはミリアムを撫でながらミリアムをじーっと見る。
「あれ、何だったん?」
後部座席のユウセイ君が聞いてくる。
「協会で車を借りた時に駐車場で会った退魔師さん。5級だってさ」
「へー……5級はすごいな」
月収300万だしね。
「他の退魔師さんに初めて会ったけど、ちょっと変わった人だったね」
「ちょっとか? 話が通じない変態だろ」
まあ……
「他の退魔師さんが変わっているっていうのは本当だったね」
「さっきのは特殊すぎるけどな。キョウカ、知り合いなん?」
さすがはユウセイ君。
とても聞きづらいことを平気で聞く。
「知り合いって程じゃない。私が協会に出向した際に最初に組むことになりかけた人」
「なりかけた? どういうこと?」
「協会の人は女性は女性と組んだ方が良いだろうってあれを押しつけてきたけど、あんなのと組めるわけない」
確かに……
「あー……それでどうなったん?」
「いきなりセクハラしてきたから斬りかかった。躱されたけどね……そしたら問題になって、最初は桐ヶ谷さんと組むことになった。それで最初の研修に行き、山田さんと出会った」
なるほど……
だから仲が微妙な桐ヶ谷さんと一緒だったのか。
「お前、変なのに目をつけられたな」
「マジで死ね! 今度会ったら殺してやる!」
やめてー……
「会わないようにしようよ。ミリアム、あの人が近づいてきたら教えて」
「わかったにゃ。でも、さっきの女、やたら魔力や気配を消すのが上手いんだよにゃー……」
確かに俺は魔力を感知できなかった。
「そういう退魔師。忍者みたいな人って聞いてる」
へー……退魔に……
いや、なんでもない。
「しかし、キョウカはセクハラというか痴漢されるわ、仕事を奪われるわでロクな目に遭わなかったな。どうする? まだやる?」
とてもそんな気分じゃないし、雰囲気でもない。
「今日はもう切り上げてご飯でも食べに行こうか。奢ってあげるよ。どこに行きたい?」
「焼肉」
「私もそれでいい」
「じゃあ行こっか」
俺達はその後、焼肉に行き、被害者であるキョウカを慰めながら夕食を食べた。
なお、キョウカが肉をじーっと見ていたのがちょっと怖かったのとユウセイ君の食べる量にマジでビビった。
別にいいけど、5万円以上もかかった……
若さってすごいね。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!