第096話 勢い
俺とルリが家に帰るために村の中を歩いていると、前の方にいた少女が俺達に気付き、走ってくる。
「ん?」
「フィオナさんですね。元気になられたようです」
確かにフィオナだ。
「村長さん、ルリさん、こんにちは」
フィオナは俺達の前に来ると、元気に挨拶をしてきた。
「こんにちは」
挨拶を返すと、ルリもぺこりと頭を下げる。
「村長さん、ありがとうございました。おかげで体調が戻りました」
フィオナが笑顔でお礼を言ってきた。
その笑顔を見る限り、本当に元気になったようだ。
「たいしたことはしてないよ」
「そんなことないです。やっぱり村長さんは素晴らしい魔法使いで大魔導士様だと思います」
フィオナがそう言うと、ルリが嬉しそうにうんうんと頷く。
かわいい。
「ありがとうね。体調が戻ったかもしれないけど、病み上がりなんだから無理しないように」
「はい! 本当にありがとうございました! 村長さんが村長を継いでくれて本当に良かったです。村長さんのために頑張りますのでこれからもよろしくお願いします」
フィオナが目をキラキラさせて見上げてくる。
すると、ルリが俺の服を掴んだ。
「うん。皆で頑張ろうね」
「はい! 頑張ります!」
できた子だなー……
ルリほどじゃないけど、キョウカやユウセイ君よりも年下だろうに。
「フィオナー」
声がしたと思って見てみると、遠くからダリルさんが呼んでいた。
「あ、ダリルさんだ」
「本当ですね。ダリルさんに呼ばれているんで失礼します」
フィオナはそう言って、ダリルさんの方に向かって走っていった。
「本当に元気になられたみたいですね」
「だね。良かったよ……ルリさ、俺って村長をやれてる?」
この際だからルリに聞いてみる。
「もちろんですよ。なんでですか?」
「あんまり村にいないし、なんか自分のことだけを考えている気がしてさ」
目的はスローライフだ。
「そんなことありませんよ。タツヤさんは十分に村の人達に寄り添っています。それに自分のことだけを考えても良いと思いますよ。それが結果的に村の人達のためにもなっているんですから」
「そっかー……じゃあいいや。皆で頑張っていこう」
自分のために……村の人達のために……
「はい。頑張りましょう」
俺達は決意を改めると。家に戻ることにした。
そして、家に戻ると、ルリが掃除をし始めたので俺はインターネットで車の情報を見ることにする。
すると、チャイムが鳴ったので玄関まで行くと、キョウカが一人で立っていた。
「どうしたの?」
「会いに来ました」
昨日も来たのに?
そして、明日の放課後にも会うのに?
「そうなんだ……まあ、入りなよ」
「お邪魔しまーす」
この子、居着く気かな?
俺はキョウカをコタツの前に座らせると、パソコンの前に戻る。
「あれ? ミリアムちゃんは?」
キョウカの方を見ると、コタツの中を覗いていた。
「あー、ちょっとモニカと出かけている。異世界の王都に向かっているんだよ。まあ、夕方には帰ってくる」
「へー……王都ですかー。どんなところですかね?」
どうだろう?
「やっぱり人が多いのかな? 前に近くの町に行ったことあるけど、ファンタジーだったよ」
「おー! ファンタジー!」
「転移で行けるようになったらまた連れていってあげるよ」
「やった! ところで、タツヤさんは何をしているんです? 調べ物?」
キョウカがこちらにやってきてパソコンの画面を覗き込んでくる。
「ちょっとねー。車を見ているんだよ」
「へー……車を買うんですかー?」
「うん。纏まったお金も入ったし、いつまでも協会から借りるのもどうかと思ってね。それに俺は釣りが趣味なんだけど、車があると、便利だなって思って」
それにせっかく駐車場があるなら欲しくなる。
都内で車を所有するのに一番の問題となる車を置く場所がウチにはあるのだ。
「へー……私も行きたいなー」
「釣り? 好きなの?」
「釣りは好きじゃないですけど、海を見るのが好きなんですよ」
そうなんだ。
この子、スローライフにも興味を示したし、意外と自然派だな。
「まあ、機会があったら連れていってあげるよ」
「お願いします。タツヤさんの誘いなら学校を休んでも行きますんで」
いや、学校には行け。
「誘うとしても土日にするよ」
「はーい。それでどれを買うんですか?」
「それなんだけど、そこまで車に詳しいわけじゃないからわからないんだよね」
「私も全然、わからないです」
キョウカはそうだろうな。
あまり車が好きな女子高生はいないだろうし、協会の高そうな車を見た時も反応が薄かった。
「どうしようかねー?」
「利便性とかでいいんじゃないですか? もしくは、乗り慣れている協会の車っぽいもの」
「まあ、そうかもね、見に行こうかなー?」
「良いと思いますよ。今から行きます?」
今から……
ついてくる気かな?
あー、でも、他人の意見も欲しいかもしれない。
今は11時だし、昼食がてらに出かけるか……
「ルリー、車を見に行かない? ついでに昼を外で食べようよ」
隣接する俺の部屋を掃除しているルリに声をかける。
すると、ルリが掃除を止め、嬉しそうな笑顔でこちらにやってきた。
「行きます。準備してきます」
ルリはそう言うと、小走りで自分の部屋に行く。
「えーっと、キョウカも来る? ちょっと意見が欲しいんだけど」
「行きます」
この子は即答だ。
「じゃあ、行こうか。俺もちょっと準備するから待ってて」
キョウカをリビングに残すと俺も自分の部屋に行き、外行きの服に着替えた。
そして、準備を終えたのでルリとキョウカと共に家を出る。
「寒いねー。こうなるとやはり車がいるって思っちゃうよ」
もう11月の中旬だ。
「そうですね。駐車場があるんでしたらあった方が良いと思いますよ。ルリちゃん、お姉ちゃんと手を繋ごっか」
キョウカはルリにそう聞くが、ルリが答える前に手を取る。
「え? あ、はい」
満面の笑みのキョウカとルリと共に駅に行き、電車に乗った。
目的地の駅に着くと、ルリが電車の中で行きたいと希望を出したファミレスで昼食を食べる。
そして、車の販売店に行き、車を見たり、説明を聞き、夕方には家に戻った。
うん……買っちゃった……
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!