第093話 村の少女
家に帰ろうと思い、皆で歩いていると、とある家の前の扉が開き、ダリルさんが出てきた。
「あ、こんにちは」
「おー! タツヤ殿、モニカ! ちょうどいいところに!」
ん?
「どうしたんです?」
「すみません。ちょっと診てほしい者がおり……おや? どなたですかな?」
ダリルさんがキョウカとユウセイ君を見て、首を傾げた。
「えーっと、妻と弟子です」
やっぱり恥ずかしいな……
「ほう! 村を見に来られたのですかな?」
「ええ。そんな感じです」
「ふむふむ……」
ダリルさんがキョウカとユウセイ君をまじまじと見る。
「あの、私とモニカに用事があったのでは?」
「おー、そうでした。実はこの家の娘が体調を崩しましてな。診てほしいのです」
「それは大変だ。すぐに診ましょう」
この村には医者がおらず、回復魔法を使えるモニカがその役目を担っているのだ。
「ええ。どうぞ」
ダリルさんに促されて家に入ると、ベッドに横たわる少女が目に入ってきた。
「あれ? ご両親は?」
少女はベッドで寝ているが、かなり若く見える。
それなのに家にはその少女しかいない。
「……後で説明します」
ダリルさんが小声でそう言ってきたので何となく察する。
そして、俺達はベッドに近づいていった。
すると、少女が目を覚まし、起き上がろうとする。
「フィオナ、起きたらダメじゃ」
ダリルさんが慌てて少女を止める。
「でも、村長さんがいらして……」
フィオナと呼ばれた少女が俺を見る。
確かに見たことある少女だ。
物静かな子であまりしゃべっているところを見たことがない。
「大丈夫だよ。いいから寝てて」
そう言うと、フィオナは素直にベッドに横になった。
「すみません……」
「いいんだよ」
笑顔、笑顔。
こういう時は笑顔だ。
「フィオナさん、ちょっと失礼しますね」
モニカは前に出ると、腰を下ろし、フィオナの額に触れながらもう片方の手で腕を取り、脈を測る。
「モニカさん、忙しいのにごめんなさい」
フィオナがまたしても謝った。
「いえいえ。これが仕事ですし、いつでも頼ってください……熱がありますね。吐き気とかはありますか?」
「いえ、体が熱っぽくてだるい感じです」
「なるほど……」
モニカが頷くと立ち上がった。
「タツヤ様、おそらくは風邪ですね」
「大丈夫?」
「問題ありません。ですが、体力が落ちているようですし、回復魔法をお願いします」
モニカもできるじゃんって言おうかと思ったけど、俺がやった方が良いか……
モニカはあれだし……
「わかった」
腰を下ろすと、フィオナに手を掲げ、回復魔法を使う。
「温かいです……」
「うん。フィオナの体力が戻っている証拠だよ」
「ありがとうございます……なんだか眠くなってきました」
「寝ていいよ。起きたら良くなっていると思うから」
そう言いながら頭を撫でると、フィオナが目を閉じた。
「もう大丈夫でしょう」
そう言って立ち上がる。
「ありがとうございます。私の方で様子を見に来ますので」
ダリルさんが感謝の言葉を言いながら頷いた。
「はい。出ましょうか」
俺達は家を出る。
そして、家の前で顔を合わせた。
「ダリルさん、フィオナの親は?」
「いません……」
やはりか。
前に村を回って村人と話した時にフィオナとも話したが、あの時も1人だった。
「孤児ですか?」
「そのことを話しましょう。我々は全員、出身地が違います。理由はそれぞれですが、国の事業である開拓村に参加し、ここで出会いました」
「ええ。わかります」
なお、開拓村事業に参加した理由は聞いてはいけない空気になっている。
だから村人達も俺のことを深く聞いてこないと思っている。
「ですが、フィオナだけは違います。あの子は1年前に森で倒れていた子なのです」
え?
「森でですか? 何故?」
「わかりません。フィオナは記憶喪失だったのです」
記憶喪失……
「それは……」
「覚えているのは名前だけで自分がどこから来たのかもわからない状況でした」
「それでこの村に?」
「はい。余裕があるわけでないですが、子供一人くらいなら何とかなります。それにフィオナは真面目で積極的に村の仕事に関わってくれましたから皆も受け入れ、今では大事な家族ですよ」
この村は皆で苦労してきたから一体感がすごい。
皆で家族といった感じなのだ。
「そうですか……」
「タツヤ殿、ありがとうございます。後は私の方で様子を見ますので」
「わかりました。何かあればモニカに言ってください」
モニカに言えば、すぐに家に来てくれるだろう。
「わかりました。では、これで……」
ダリルさんは頭を下げると、自分の家の方向に歩いていったので俺達も家に帰ることにする。
「開拓村も大変なんですね」
「だな」
キョウカとユウセイ君が神妙な顔で村を見渡す。
「まあね。でも、もうちょっと頑張って良い村にするよ」
「山田さん、仏か聖人みたいだな」
「さすがタツヤさんです」
2人が褒めてくれるのは嬉しいが、微妙に気恥ずかしい。
「そんなもんじゃないけど、村の人達は良い人ばかりだからね。自分のスローライフが目的だけど、幸せになってほしいよ」
これは本当にそう思うし、村長になったからにはそうするのが俺の仕事だ。
「ご立派だと思います。このモニカもお手伝いしましょう」
モニカが恭しく頭を下げる。
「私も手伝います!」
「あ、まあ、俺もできることなら……」
良い子達だわ。
本当に高校生かね?
俺の高校時代とは全然違うわ。
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