第091話 婆さんの旧姓は鈴木
俺達は昼食で豪華な特上寿司を食べ終えると、異世界の村に行くことにした。
「あ、悪いけど、2人は俺の弟子っていう設定でもいい?」
いきなり知らない人が2人も来たら村の人達がびっくりするかもしれない。
「別にいいぞ」
「えー……弟子ですかー? 奥様でいいじゃないですか」
キョウカは何を言っているんだ?
「なんで?」
「昨日、モニカさんがそういう設定でもいいって言ってましたよ。そっちの方が悪い虫が付かないからってことで」
なるほど……
昨日の電話でそういう話をしていたわけか。
それだけじゃないだろうけど。
「そうなると、キョウカがルリのお母さんになっちゃうんだけど、無理ない?」
そう言うと、キョウカがルリを見る。
「お、お母さん……あ、あの、やっぱり無理があるような」
ルリが何とか合わそうとするが、厳しいようだ。
「えーっと、ルリちゃんが10歳だとすると…………えーっと、私、25歳です!」
いやー……どうだろう?
「別に養子とか何でもいいんじゃね? というか、そう言い切れば、誰も深く突っ込んでこないだろ。デリケートなところだし」
まあ、そうかも?
「じゃあ、そういうことで! 行きましょう!」
キョウカが俺の腕を取る。
「あ、靴を持っていってね。外だから」
「それもそうですね」
「取ってくるか」
2人がリビングを出たので俺達も出る。
そして、靴を持った2人と共に廊下の奥の部屋に向かった。
「ここか……そういえば、いつぞやにキョウカがガン見してたな」
ユウセイ君も覚えていたらしい。
「キョウカ、なんでこの扉を見ていたの?」
「変な感じがしたんです。こう……歪んでいる? すみません、言葉にするのが難しいですが、違和感があったんですよ」
やっぱりそういう勘が鋭い子だな。
「そっかー。俺は最初、まったく何も感じなかったよ」
そう言いながら扉を開ける。
すると、そこはいつもの研究室だった。
「ん? 倉庫じゃん」
「倉庫だね」
あれ?
「あ、山田、2人に許可を出すにゃ。じゃないと、結界に阻まれるにゃ」
あ、そういえば、そうだった。
「2人共、この部屋に入っていいからね」
「いや、だから部屋じゃなく倉庫じゃん…………あれ? 部屋だ」
「広っ! 何ですか、ここ?」
2人は呆然と部屋の中を見る。
「ここはもう異世界の家だね。研究室って呼んでいる」
説明しながらミリアムを抱えているルリと部屋に入ると、2人も部屋に入ってきた。
「へー……すごいなー」
「この部屋だけで異世界って感じですね」
「まあね。じゃあ、村に行こうか」
そう言って、玄関まで行くと、扉を開けた。
すると、部屋に森の香りが広がっていく。
「森だ!」
「絶対に東京じゃないですね。というか、日本でもないです」
日本の森はほぼ山だもんね。
平地の森ってあまりない。
俺達は靴を履くと、外に出る。
「あ、リンゴだ」
ユウセイ君が家の前に植えたリンゴの木を見つけた。
「本当だ! ん? リンゴ村ってリンゴが採れるからです?」
昨日、モニカがリンゴ村って言ってたし、村の名前は知ってるわな。
「この世界にはリンゴがなくてね、だから売れるだろうと思って、俺がリンゴの木を持ち込んだんだよ。今はリンゴを売って、村の生計を立てている」
「それでリンゴ村。安直だな」
ユウセイ君が笑う。
「わかりやすさ重視だよ」
まずは覚えてもらわないと。
「これって食べられるんですか?」
キョウカが聞いてきた。
「もちろんだよ。しかも、スーパーで売ってるリンゴよりも美味しい」
そう説明しながら一つもぐと、ルリが手を伸ばしてきたので渡す。
すると、ルリがナイフを取り出し、リンゴを切り分けていった。
「はい」
ルリが2人に一口サイズに切ったリンゴを渡す。
2人はそのリンゴを口に入れた。
「美味っ!」
「甘いし、すごく瑞々しいです!」
2人は絶賛しながら食べていく。
「ね? すごいでしょ」
「確かにリンゴの味なんだけど、普段食べているやつとは全然違うな」
「うん。すごい。これで儲けているんですか?」
キョウカがもぐもぐしながら聞いてきた。
「そうだね。リンゴ一つで金貨2枚」
「金貨って言われても……でも、金なら高いのかな? ぼったくりでは?」
ぼったくり言うな。
「この世界にはリンゴがないって言ったじゃん。世界でここでしか採れない幻の果実なんだよ」
「へー……お金持ちになれそうですね」
「そうなんだけど、この世界でお金を得ても向こうで使えないんだから意味ないよ」
まあ、退魔師で儲けているからいいんだけど。
「確かにそれもそうですね」
「じゃあ、村に行こうか。こっち」
俺達はリンゴを食べ終えると、一本道を歩いていき、村を目指す。
すると、キョウカが隣に来て、腕を組んできた。
「え? 本当にその設定でいくの?」
「モニカさんがハニトラが怖いって言ってましたよ。リンゴ村にはバレてはいけない秘密が多いからって」
いやまあ、そうだけどさ。
俺は後ろを振り向き、ユウセイ君を見る。
「パパ活に見える?」
「制服じゃないからセーフかな? 山田さん、別にそこまでおっさん感ないし」
ほっ……ならいいか。
いや、よくないんだけど。
「山田キョウカでーす…………やっぱり微妙」
キョウカがボソッとつぶやいたが、俺もそう思う。
苗字の格差がなー……
母方も田中だし、ド庶民の家系ですわ。
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