第090話 違うにゃー
出前の寿司を頼み、寿司を届けてもらうと、皆で食べだす。
そして、寿司を食べながら桐ヶ谷さんの話を2人に伝えた。
「へー……そんな組織が本当にあるんだな」
「でも、そういう噂はあったよね」
2人はそこまで驚いていない。
「噂って?」
「協会の敵対組織があるって噂ですよ。適当な嘘かと思ってましたけど、本当だったんですね。しかも、悪魔教団とかいうヤバいの」
「親御さんから直接は聞いてないの? ほら、協会に出向する時とかにさ」
多分、親御さんは把握していたと思うんだが。
「聞いてませんね? ユウセイ君は?」
「もちろん、聞いてない。帰ったら聞いてみようかな?」
「それもそうだね。私もちょっと聞いてみる」
何かわかるかもしれないしな。
「お願い。それで今後はその教団に注意しながら仕事をする感じでいいかな?」
「そうだな。悪魔はともかく、敵に退魔師がいるかもしれない」
「確かに。対人は怖いしねー」
キョウカがユウセイ君に同意した瞬間、全員がキョウカを見た。
「え? 何?」
キョウカが皆を見渡す。
「いや……」
「別に……」
「お寿司、美味しいですね」
「ホントにゃー」
多分、皆の心が一つになっていると思う。
「皆、私のことを人斬りって思ってません? 何度も言いますけど、あの刀は人を斬れませんって」
いや、刀の性能はどうでもいいんだけど、人を斬るのが好きっていう言葉を否定しないからじゃん。
「まあまあ。とにかく、気を付けようね。それでさー、大事なことがもう1つあるんだよ」
そう言うと、笑顔だったキョウカが真顔になり、黙って、寿司を食べだす。
「……大事なことって?」
ユウセイ君が眉をひそめた。
「ん? どうしたの?」
「いや……続けて」
どうした?
「うん。実は俺、異世界の村の村長なんだよね」
「へー……」
へーって……
「え? 自分でもすごいことを言っている自覚があるんだけど?」
「あー……うん。それは悪い。俺はてっきりキョウカと付き合い始めた的なことを聞かされるのかと思ったから上手くリアクションが取れなかった」
なんでだよ。
「おかしくない?」
「いや、今は2人のリアクションが悪いと思うわ。山田さんが大事なことを話すって言ったらキョウカが真顔になったんだもん。誰だって、そう思う? な?」
ユウセイ君がルリに同意を求めると、ルリも頷いた。
「あー、それはごめん」
これ、俺のせいなんだろうか?
「いや、それはいいんだけど、キョウカのリアクションは何? キョウカは知っているの?」
「えーっと、説明が非常に難しいんだけど、昨日、キョウカがウチに遊びに来たんだよ。その時に俺に仕えてくれる秘書の人と遭遇して、詳しいことは明日話すってことにしてあるんだ」
「あ、うん。もういいわ。その辺のことに俺を巻き込まないで」
俺も巻き込んでほしくない……いや、一番の当事者だけど。
「まあ、それでこれからそれを説明しようかと思っているんだよ」
「うん。それで異世界の村長って何? スルーしたけど、山田さん、何を言ってんだ?」
これだよ、これ。
最初からこのリアクションが欲しかった。
「えーっとね、リビングを出て、廊下の奥にある扉があるんだけど、そこをくぐると、異世界の家に着くんだよ」
「ワープ的な?」
「そんな感じ。転移魔法っていうのがあるんだよ。俺も使える。多分、それの応用だと思う」
「転移魔法って……」
ユウセイ君が引いている。
「ちなみにですけど、その転移魔法って私達も覚えたら使えるようになるんです?」
黙っていたキョウカが聞いてきた。
「うーん……技術的にはできると思うけど……ミリアム、どうかな?」
「無理にゃ。キョウカもユウセイも魔力が足りないにゃ。前も言ったけど、転移魔法は伝説の魔法で普通の人間の魔力ではほぼ使えないにゃ」
モニカはともかく、キョウカとユウセイ君でもダメか。
「だってさ」
「そっかー……使えたらいつでもここに来れるし、学校に行くのも遅くまで寝られると思ったんだけどなー……」
まあ、皆、朝は辛いからね。
「そんな魔法がなくてもその扉をくぐると、異世界に行けるのか? 俺らでも?」
ユウセイ君が寿司をもぐもぐと食べながら聞いてくる。
「行けるね」
「へー……異世界なんてあるんだ。もはや何でもありだな、山田さん」
「俺じゃなくて、爺さんだよ」
何でもありな爺さん。
「あの人か……まあ、わかったわ。でも、なんで村長なんてしてんの? タダシさんが村長だったわけ?」
「いや、爺さんはそこで魔法の研究をしてただけで俺が継いだのはそっちだね。村長になったのは前の村長さんが高齢で後釜を頼まれたからなんだ」
「なるほど。山田さん、色々やってんだな」
確かにやってるな。
とはいえ、そんなに苦労もしてない。
前の会社勤めの方がずっときつかった。
「実際はほぼやってないよ。秘書のモニカがやってくれているし、前村長のダリルさんも手伝ってくれて運営できている感じだね。俺一人だと無理だよ。当たり前だけど、村長なんてしたことないし」
「モニカ……なるほど。やはり秘書は女性か。それで……」
ユウセイ君がキョウカをじーっと見る。
「何?」
「いや、なんでもない。でも、山田さん、結構な秘密案件だと思うんだけど、俺達に話してもいいの?」
「いいよ。君達を信用しているし」
あと、キョウカに隠し通せない気がするし。
「ふーん……どうも」
「秘密を守る仲間ですね」
キョウカが笑みを浮かべて、見てきた。
「まあね。良かったら村を見てみる? 自分の村をこう言うのもなんだけど、開拓村で目途が立ったばかりだからショボいけど」
これを立派とは言わないけど、まともにするのが俺の役目だ。
「いいのか?」
「見てみたいです!」
2人は見てみたいようだ。
「じゃあ。お寿司を食べ終わったら行ってみようか」
「わかった」
「はーい。ルリちゃん、イクラいる?」
キョウカがルリに聞く。
すると、ルリが嬉しそうに首を縦に振った。
どうやらルリはイクラが好きみたいだ。
「はい」
キョウカがルリの小皿にイクラを置く。
「ありがとうございます」
「お姉ちゃんのこと好き?」
「え? あ、はい」
この子、本格的にウチの子を盗ろうとしてない?
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