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第009話 私も思っていません


 俺は人生初の任意同行を要請された。

 しかも、トイレで。


「今からですか?」

「はい。時間は取らせませんので」


 そう言われても……


「すみません。電話をしても良いですか? 家に小さい子を待たせているんです」

「構いませんよ」


 遠回しに断ったんだが……


 仕方がないのでスマホを取り出すと、爺さんの家に電話する。

 すると、何コール目かで呼び出し音が止まった。


『もしもし、山田ですが?』


 女の子の声だ。

 教えてないけど、ちゃんと電話に出られるらしい。


「俺、俺。俺だよ」

『タツヤさんですか?』

「そうそう」


 帰ったら怪しい電話の対処を教えないとな……


『どうしたんです? あ、今日は煮魚ですよ』


 おー、嬉しい!


「ありがとうね。ただちょっと用事ができたから少し遅れると思う。先に食べてていいからね」

『そうですか? タツヤさんも大変ですね。頑張ってください』


 いい子だわ。

 この子とミリアムが俺の癒し。


「うん、なるべく早く帰るから。じゃあ」

『はい。待ってます』


 俺はスマホを切った。


「すみません。お待たせしました」

「いえいえ。こちらこそ申し訳ない。橘君、あとは任せるから応援を呼んでくれ」

「え? 私ですか?」


 橘さんが驚いたように自分の顔を指差すと、桐ヶ谷さんが倒れている女性を指差す。


「君がここにいた方が良い。わかるね?」


 確かに被害者が女性なら同性がいた方が良いだろう。

 でも、制服は着替えなよ。


「あ、はい。わかりました」

「よろしく。では……えーっとすみません。まだ、お名前を聞いていませんでしたね」

「あ、私は山田と申します」


 何となく名刺を渡した。


「どうも。私は桐ヶ谷です。では、どうぞ」


 桐ヶ谷さんは名刺を眺めると、すぐに胸ポケットにしまい、トイレから出ていった。

 俺もあとに続いて、トイレから出ると、公園の出入口に高そうな黒塗りの車が停まっており、桐ヶ谷さんはその車に向かって歩いていた。


「……山田、先に言っておく。さっきの娘もだが、あの男も魔法使いだ。気を付けろ」


 え?


「どうしましたか?」


 ハッとすると、桐ヶ谷さんが立ち止まり、笑顔でこちらを見ていた。


「あ、いえ。高そうな車だなーと思いまして」


 そう言いながら早歩きで近づく。


「はは。たいしたことありませんよ」


 車に詳しくない俺から見てもたいしたことあるようにしか見えないんだけどなー……


 そう思いながらも車まで行くと、桐ヶ谷さんが後部座席の扉を開けてくれたので乗り込んだ。

 そして、桐ヶ谷さんが運転席に乗り込むと、出発する。


 そのまま外を眺めながら待っていると、30分ほどでビジネス街に戻ってきてしまった。


「山田さんはこの辺りにお勤めでしたね」


 車に乗り込んでからは一言も発していなかった桐ヶ谷さんが声をかけてくる。


「そうですね。もう10年以上になります」

「大変ですね。不満とかはないんですか?」

「そりゃありますよ。給料が安いですし」


 不満なんか多かれ少なかれ誰にでもあるだろう。


「お子さんがいるんですっけ?」


 さっきの電話か……


「親戚の子を預かってましてね。まあ、その子もいますし、やはりもう少し給料を上げてほしいです。係長の役職手当が1万はないですよねー」


 もう1、2万くれ。


「はは。わかります」


 本当か?

 警察ってもらってるだろ。

 まあ、その分、危険も多いんだろうけど。


 そのまま進んでいくと、とあるビルの地下駐車場に入っていき、車が止まった。


「どうぞ」


 またもや桐ヶ谷さんが扉を開けてくれたので車から降りる。

 そして、2人(と1匹)でエレベーターに乗り込むと、すぐに指定の階に到着したのでエレベーターから降りた。


「荷物を預かりましょう」


 桐ヶ谷さんにそう言われたので持っていたビジネスバッグを渡す。


「ありがとうございます。では、そこの部屋でお待ちください」


 桐ヶ谷さんが笑顔でそう勧めてきたので部屋に入った。


 部屋に入ってすぐに脳裏に浮かんだのは取調室だ。

 狭い部屋に無骨なデスクが置いてある。

 そして、壁には何故か鏡が張ってあった。


 俺は部屋に入ると、鏡に触れる。


「こういうのがマジックミラーだったりするんだよなー」


 そう言いながら髪の毛をちょこっとだけ弄ると、椅子に座った。


「……絶対に反応をするなよ? 本当にマジックミラーにゃ。向こうに2人の男女がいる。さらに今、桐ヶ谷が部屋に入ってこちらを見ているにゃ。ちなみに、さっき髪を弄っていたお前のすぐ正面に女がいて、笑ってたぞ」


 マジか……


 俺は反応しないようにしながらその場で待っていると、桐ヶ谷さんが部屋に入ってくる。


「お待たせしてすみません」


 桐ヶ谷さんはそう言いながら対面に座った。


「いえいえ。取調室みたいですね」

「こんな時間だと、ここくらいしか空いてないんですよ。すみません」


 否定してよ……

 本当に取調室かい。


「いえ、貴重な経験ですよ」

「そう言ってもらえると助かります」


 桐ヶ谷さんがニコッと笑う。


 冗談だったんだけど……

 この人、笑顔だけど、目が笑ってなくて怖いんだよなー……


「では、トイレであったことを説明してもらえますか。ちょっとしたことでもいいので丁寧にお願いします」


 そう言われたので時系列を追って、順に説明していく。

 もちろん、魔力のことや悪魔のことは説明しない。

 単純にトイレに寄ったら襲われて反撃したという感じだ。


「なるほど……何というかツイてないですね」

「ええ。家に帰ってからトイレをすれば良かったです」

「何故、家に帰らなかったんです?」


 え?

 我慢できなかった……はマズい気がする。

 だって、あれから1時間近く経っているけど、トイレに行ってないもん。


「えーっと、小さい子がいるって言いましたよね? それが女の子でして……ほら、臭いって思われたくないじゃないですか。それで外でしてから帰ろうかと」


 ちなみに、本当に心配だからトイレの消臭スプレーと芳香剤を買った。


「あはは。山田さんはおいくつです?」

「35歳になりましたね」

「気になってくる年ですね。私も40歳前ですから気持ちはわかります」


 は?

 この人、俺より年上?

 20代にしか見えんぞ。


「ええ……それでちょっと」

「わかります、わかります……ん?」


 桐ヶ谷さんが笑っていると、部屋にノックの音が響く。


「失礼」


 桐ヶ谷さんは立ち上がると、部屋から出ていってしまった。


「……ちなみに、私は臭いと思っていないにゃ」


 いい子。

 帰ったらチュールをあげよう。


お読み頂き、ありがとうございます。

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[一言] kさつに似たようなものw どっかのkさつの方から来ました並の胡散臭さw アタオカロリババアに殺されそうになった件 ってかアタオカ若見えババアかw
[気になる点] 任意同行に応じたんだから、終わったら家まで当然送ってくれるんだろうな。
[気になる点] 魔物もチュールが好きなのか!? (*´ω`*) [一言] 転職かなぁ (*´∀`*)
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