第089話 お祝い
用件が済んだ桐ヶ谷さんが帰ると、ルリがスマホを手に持ってリビングに戻ってきた。
「タツヤさん、お姉ちゃんがもう行ってもいいかって言ってます」
ルリにそう言われて、時計を見ると、10時を過ぎた辺りだった。
「別にいいけど、ユウセイ君は?」
「ユウセイさんも来るそうです」
暇なのかな?
「まあ、いいんじゃない?」
「じゃあ、連絡しておきます」
ルリはそう言うと、コタツに入り、スマホを操作しだす。
「楽しい?」
「はい。お姉ちゃんがかなり……いえ、ちょっとだけうるさいですけど」
キョウカ……
なんか昨日はメッセージが少ないなと思っていたが、ルリに送っていたわけだ。
「欲しいものがあったら遠慮なく言いなよ? 俺は正式に月収80万円になったから」
「おー! おめでとうございます。今日はお祝いですね」
いい子だ。
「出前でお寿司でも取ろうよ」
「わかりました……お姉ちゃん達は?」
「2人のおかげでもあるから昼食にしようか」
前にキョウカが寿司が良いって言ってたし。
焼肉は今度、ユウセイ君を誘っていこう。
俺達は昼食を決めると、そのままコタツに入って待つ。
そのまましばらく待っていると、廊下を歩く音が聞こえてきた。
すると、リビングの扉が開き、私服姿のキョウカとユウセイ君が入ってくる。
「こんにちはー」
「えー……チャイムぐらい鳴らせよ」
キョウカが軽快に挨拶をし、ユウセイ君がちょっと引いていた。
「タツヤさんが鳴らさなくていいってさ。すぐに会いたいって言うから……」
人間ってここまで曲解できるんだな。
「制服姿で外で待ってもらうのが嫌だっただけだよ。まあ、気にしなくていいからコタツにでも入りなよ。寒かったでしょ」
そう勧めると、2人がコタツに入る。
もちろん、いつものようにユウセイ君が対面でキョウカが隣だ。
斜め横が空いているのに……
「もうかなり寒いわー」
「ホントだよねー。コタツが暖かい」
キョウカはユウセイ君に同意しながらコタツの中に手を突っ込む。
そして、ミリアムを引っ張り出すと、膝の上に乗せて、撫で始めた。
「2人共、テストの結果はどうだったの?」
もう返却された頃だろうと思い、聞いてみる。
「いつも通りだった。特段言うことない」
平均80点だっけ?
ユウセイ君はバイトもしているのに優秀だな。
「私はいつもよりも良かったです。タツヤさんの誘惑にも負けずに頑張りました」
何回かミリアムの自慢メッセージを送ったことだろう。
「お疲れ様。実は今朝、桐ヶ谷さんがウチに来たんだよ」
「そうなのか?」
「あー、ルリちゃんが言ってましたね」
キョウカはルリとメッセージのやり取りをしていたようだ。
「そうそう。それで俺、8級になった。2人のおかげだよ。ありがとう」
「おめ。ガンガン稼いでくれ」
「そうですよ。いっぱい稼いでください」
2人は素直に喜んでくれている。
「前から思ってたけど、思うことないの? 2人は無給だよね?」
「まあ、しゃーないことだし、高校卒業までの研修みたいなものだと思っている。それに山田さんが奢ってくれるし……あ、焼肉に連れていってくれよ」
「うん。今度行こうか。今日の昼は出前の寿司」
「マジか……さっき朝食を食べたばっかりだわ」
君、それでも普通に食べるじゃん。
「焼肉の時は調整しなよ」
「そうするか……」
この子、将来、太るかもな……
いや、まあ、若い時だけか。
「キョウカは? お小遣いだよね?」
「私も特に気にしませんよ。私の成果は全部、タツヤさんが持っていってください」
「いいの? 桐ヶ谷さんも狼男を倒したのを俺ってことにすれば良かったのにって言ってたけど」
「えー……素直に報告しちゃったんですか? まあ、正直なのは良いことですけど、タツヤさんが倒したことにしておいてくださいよ。どうせ私達には入らないんですし、タツヤさんがもらってください」
本当にいいんだろうか?
「いや、ちょっと気が引けてさ」
「気にしなくてもいいですよ。こうやってお世話になってますし、御馳走してくれるじゃないですか。それに空間魔法や回復魔法なんかも教えてくれたじゃないですか」
まあねー。
「いや、2人が気にしないならいいんだよ」
「気にしないって」
「そうですよ。あ、でも、そんなに気になるんだったら私、行きたいところがあるんで連れていってくださいよ」
キョウカは何か要望があるみたいだ。
「どこ?」
「ケーキバイキングです。来月末に一緒に行きましょうよー」
何故、時期を指定するんだろ?
来月にケーキバイキングのイベントでもあるんだろうか?
「いいよ。でも、俺、ケーキバイキングに行ったことないなー」
「大丈夫ですよー。昼に行ってー、買い物してー、夜にパーティーしましょう」
パーティー……
来月は12月……
あ、そういうことか……
あれ? 俺、ルリのためにサンタさんをするべき?
うーん、後でキョウカに相談してみよう。
「そうだね。そうしよっか」
「やった」
キョウカは喜ぶと、俺の腕に自分の腕を回した。
「近くない?」
微妙に当たっているし……
「そんなことないですよー……ねー? ミリアムちゃん?」
「にゃー」
ミリアムって、すぐに猫のフリをするよなー。
まあ、猫なんだけど。
「どうでもいいけど、腹減ったなー……もう頼まない?」
ユウセイ君、マイペースだなー……
というか、さっき朝食を食べたって言ってなかった?
「じゃあ、頼もうか……せっかくだし、特上でも頼もう」
特上なんて食べたこと…………あ、いや、爺さんの葬式で食べたわ。
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