第086話 うん……まあ
キョウカが夕方の6時過ぎくらいになったら帰ると言ったので駅まで送っていく。
その間に近所のおばさんと遭遇したが、やはりキョウカが明るく挨拶をすると、普通の反応で怪しまれる事はなかった。
俺はキョウカを駅まで送ると、家に戻る。
家に戻ると、ちょうど夕食ができていたので3人と食べた。
そして、夕食を食べ終えると、モニカがお風呂に入りにいく。
「怖かったにゃー……」
「びっくりしましたね」
「ホントねー」
俺達3人はコタツに入りながらほっとする。
「お前、さっさと2人を取りなすにゃ」
「わかってるよ。明日、キョウカがユウセイ君と一緒に来るから異世界のことを説明する」
仕方がないだろう。
キョウカは例の扉にも気付いていたし、あの2人は漏らすようなことはしないと断言できる。
大事な仲間なのだ。
「それが良いでしょうね。あの2人がギスギスしているのはタツヤさんに女性の影が見えるからでしょうし。まあ、主にお姉ちゃんが嫉妬しているんでしょうけど」
嫉妬ねー……
「いっそ聞いてくればいいのにね」
「お姉ちゃんは奥ゆかしさを重視してるって言ってました」
奥ゆかしさ……?
おかしいな。
俺は奥ゆかしさの意味を間違えて覚えていたらしい。
「キョウカってさー、俺のことが好きなのかなー?」
やっぱり言葉に出すと恥ずかしいな。
「本人に聞くにゃ」
「ご自分で確認された方が良いと思います」
えー……
女子高生に俺のことが好きって聞くおじさんの絵面になっちゃうんだけど……
痛いよ。
「ハァ……」
俺達がその後も話をしていると、モニカがお風呂から上がってきた。
「お先でした」
モニカはそう言うと、定位置であるパソコンの前に腰かける。
「じゃあ、私も入ってきます」
「にゃー?」
ルリはお風呂嫌いのミリアムを抱えて立ち上がった。
「お風呂は嫌にゃー! にゃー!」
ミリアムが暴れるが、ルリはお構いなしにリビングから出ていく。
リビングに俺とモニカだけになると、モニカが立ち上がり、俺のところに来た。
そして、正座で座る。
「どうしたの?」
「確認したいことがあります。以前、奥様のことを話したことを覚えておいででしょうか?」
あー……政略結婚云々か。
「俺は既婚者でルリが娘ってやつ?」
「そうです。奥様は家から出たがらないという設定にしました」
「そうだったね。それがどうかしたの?」
「キョウカさんを奥様に迎えるおつもりですか?」
えー……突飛すぎる。
「あの子、まだ16歳で子供だよ? この国では未成年」
「存じております。ですが、数年後には大人でしょう」
いや、そうなんだけどさ。
「ないんじゃない? 年齢差もすごいし」
ダブルスコアだよ?
「そこは関係ないと思います。私も色々とこの世界のことを学んでおりますが、そこまで珍しいことではないでしょう」
まあ、すごいなと思う程度でそこまで驚きはしないけど。
芸能人なんかだと年の差婚も珍しくない。
「うーん、どうだろう? やっぱりないんじゃない?」
「少なくとも…………いや、私の口から言うことじゃないですね……」
何だろう?
モニカとキョウカの会話の内容を知らないからすごく気になる。
「そのことを確認したかったの?」
「はい。もし、キョウカさんとは言わず、タツヤ様が誰かとご結婚されたとしても私をそばに置いていただきたいと……」
ん?
「どういうこと?」
「私はあまり同性には好かれません」
うーん……
わからないでもないが……
「そうなの?」
「学生時代もよく男に媚びていると言われました。そんなつもりはないんですが……」
胸か……
モニカ、大きいもんな。
それでいて美人。
今は自信満々だが、以前はおどおどしていたし、そういう風に見えるかもしれない。
「今は大丈夫じゃない?」
「どうでしょうか? キョウカさんにものすごく睨まれましたよ」
あー……
いや、キョウカだって普通にあると思うんだが……
けっしていつも見てるわけではないが、近いし、いつも助手席だから自然と目に入るだけ。
「うーん、キョウカはちょっと過激だからねー……でも、俺が誰と結婚しようが、モニカをクビにするとか遠ざけるってことはしないよ。モニカは俺の秘書で村の運営を任せているわけだし」
俺が勧誘したし、優秀なモニカを手放すようなことはしない。
ダリルさんは歳だし、俺一人になったら村の運営なんてとてもではないができない。
「さようですか……少し安心しました。もし、不要と言われたら途方にくれますので」
「いや、モニカは優秀じゃん。魔法使いとしてじゃなくてもどこでも働けるよ」
頭が良すぎるんじゃないかって思うくらいだ。
「いえ、私はタツヤ様以外にお仕えする気はありません」
「なんで? 別に他でも出世できるでしょ。それこそクロード様にも誘われたんでしょ?」
そう言うと、正座で座っているモニカがそのままの体勢で近づいてくる。
「タツヤ様、私は子供の頃から愚図でのろまでした。魔法使いの資質があったものの落ちこぼれで、こう言っては何ですが、辺境の開拓村の監査官という魔法使いとしては底辺の仕事に就きました」
やっぱり底辺か……
最初はひどかったもんな。
「でも、村もできたし、モニカのおかげで上手くいきそうだよ」
「はい。それもこれもすべてはタツヤ様のおかげです。私のような者を誘っていただき、それに加え、大役を任せていただき、感謝の言葉もありません。必ずや、ご期待に沿えるよう尽力いたします」
「うん。そこまで肩肘を張らなくてもいいけど、頼むよ。給料も好きにしていいから」
あっちの世界のお金のことはわからないし、好きに使ってくれ。
「タツヤ様、私は多くを望みません。ただそばに置いておいてくださればそれで十分です」
モニカが頭を下げた。
モニカはゆったりとした寝間着を着ているため、頭を下げると胸の谷間が見える。
わざとやっているんだろうか?
そりゃ同性には好かれんわ。
「そりゃ、もちろんそうしてもらいたいけど……」
「ありがとうございます。それこそが私の望みです」
えー……
「モニカさ……もしかしなくても俺の事好きなの?」
やっぱり恥ずかしいなー……
「もちろんでございます。ですが、大魔導士であるタツヤ様の妻になろうなんて大それたことは望みません。ただただ、そばにいさせてください。必ずや報いてみせますし、タツヤ様の目的を果たしてみせます」
大それたことか?
俺、35歳のおっさんだよ?
というか、逆じゃない?
「うん、まあ……そばにいてよ。モニカには助けられることが多いと思うけど」
「もちろんお支えします。村は始まったばかりですのでタツヤ様が望むスローライフができるような村を目指していきましょう」
モニカがようやく顔を上げた。
「村人達のためにも頑張ろうね」
「はい……タツヤ様、申し訳ありませんが、スマホとお部屋をお貸し願いませんか?」
ん?
「いいけど、何?」
「少し、やらないといけないことがありまして……」
「えーっと、じゃあ、はい。部屋はそこだから」
俺はスマホをモニカに渡し、自室を指差す。
「それでは……」
モニカはスマホを受け取ると、立ち上がり、俺の部屋に行ってしまった。
そのまま待っていると、くぐもってよくわからないが、モニカの話し声が聞こえてくる。
「上がりましたー。あれ? モニカさんは?」
不機嫌そうなミリアムを抱えたルリがリビングに戻ってきた。
「なんか電話で誰かと話しているっぽい」
そう言いながら自室を指差す。
「そ、そうですか……まあ、相手は一人しかいないでしょうけども……」
まあ、知り合い自体が一人だろうからね。
「大丈夫かな?」
「モニカさんに任せておけば大丈夫だと思います。お姉ちゃんはバ……いえ、単……いや、モニカさんに丸め込まれるでしょう」
モニカとキョウカではなー……
何がとは言わないが、両極端だもん。
「俺、地雷原をひた走ってない?」
「大丈夫です! 何かあってもこのルリがお助けしましょう」
ルリが自信満々に頷く。
非常にかわいい。
「ハァ……お風呂に入ってくるわ」
そう言って立ち上がった。
「はい。あ、あの、お風呂から上がったらストゼロを飲まれます?」
「うん」
飲む。
それに今日もルリと一緒に寝ようと思う。
今の俺には癒しが必要だわ。
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