第082話 またもや上級悪魔
ロザリーが消えると、魔法陣が光り出した。
「何か来るよ」
「わかってる」
俺から離れた人斬りキョウカちゃんが刀を抜く。
「山田さん、周囲!」
ユウセイ君に言われて周囲を見ると、他にも左右に魔法陣があることに気付いた。
「ッ! キョウカは右、ユウセイ君は左!」
「了解!」
「ふふっ……」
2人はそれぞれ左右の魔法陣の方を向く。
俺は目の前の魔法陣に集中し、手を掲げた。
「狼? 人? なんだあれ?」
ユウセイ君がそうつぶやいたので見てみると、左の魔法陣から人サイズの狼が現れていた。
だが、狼とは違い、両足だけで立っている。
「人狼かな? 楽しいね」
キョウカが右の魔法陣から現れた同様の狼を見て、つぶやいた。
すごく頼もしい。
「あれはウェアウルフという悪魔にゃ」
「あれ、悪魔なの?」
狼じゃん。
いや、ミリアムも猫か……
「まあ、魔物でもいいけど、そこそこ強いにゃ」
「勝てる?」
「さあ? 2人共、頑張るにゃ。魔力はお前らの方が上だが、狼だから身体能力が人間とはダンチにゃ」
大丈夫かな?
「援護するべきか……」
「山田は目の前に集中するにゃ。来るにゃ」
ミリアムがそう注意してきたので前を向くと、1人の男が現れた。
「こんにちは。いや、こんばんはかな? 私はアマドと言います。私を呼んだのはあなたかな?」
男は恭しく、頭を下げる。
名前があるということは上級悪魔だ。
「いいや」
「おや? 違う? ということはそちらの少年か少女? いや、それも違うか。どう見てもウェアウルフと敵対している。ということはあなた方は私の敵という認識でよろしいですか?」
こいつもフィルマンと同様に丁寧な悪魔だな……
でも、なんとなく、こいつが悪い悪魔ということがわかった。
だって、笑顔が完全にビジネススマイルなんだもん。
「敵ではないと思いたいですね」
「いやー、それは無理ですね。あなたが私を喚んだ存在なら代償に命をもらいます」
「素直に誰であろうと殺すって言ったらどうです?」
「では……獲物が3人なのは残念ですが、死んでください。私は弱い者を殺すのが趣味なんです」
ほらね。
ロクなのじゃないと思ったわ。
「それは無理」
「わがままはいけませんよ」
何を言っているんだ、こいつは……
「山田、会話ができる悪魔でも会話しても意味のない悪魔がいるにゃ。こいつはその典型にゃ」
「おや、同胞? かわいらしくていいですね。私、小さいものを踏みつぶすのも好きなんです」
確かに意味ないわ。
俺はアマドに向けて手を掲げる。
すると、むわっとむせ返るような血の臭いがした。
「すごいですねー……」
アマドがそう言って、右の方を見たので俺も見てみる。
すると、そこにはウェアウルフの首を刎ね、刀を無表情でじーっと見つめているキョウカがいた。
怖っ……
「ユウセイも倒したようにゃ。さっさとこいつを倒すにゃ」
どうやら2人は本当に問題がないらしい。
「生意気な猫ですねー」
「うるさいにゃ。雑魚はさっさと退場するにゃ」
「ふっ……死になさいっ!」
アマドは笑顔を消すと、とんでもないスピードで向かってきた。
そして、剣を取り出すと、俺の首を刎ねようと振ってくる。
俺は避けようと思ったのだが、肩にいるミリアムのせいで剣筋が見えない。
次の瞬間、ミリアムがジャンプしたことで剣筋が見えた。
だが、避けるには遅すぎたため、躱すことができずに俺の首に衝撃が走る。
「なっ!?」
アマドが驚いた顔をした。
「キョウカに斬られないようにするための防刃魔法のおかげにゃ」
俺はそういう魔法を使っているので斬れないのだ。
「いや、死んだかと思った。1人で逃げないでよ」
「悪いにゃ」
ミリアムはぷかぷかと宙に浮かびながら謝る。
「面倒な! 炎よ!」
「えい」
アマドが火魔法を使ってきたのでこちらも火魔法を使う。
すると、俺の炎がアマドの炎を飲み込んでいった。
「くっ!」
俺が出した炎はアマドの炎を飲み込み、アマドに向かっていったのだが、アマドの目の前で霧散した。
「消えた?」
「そういう魔法にゃ。こいつ、そこそこやるにゃ」
魔法で炎を消したのか……
「そちらもなかなかやりますね。これほどの火力の魔法を人間が使えるとは……」
なんかこいつ、そんなに強くない気がしてきた。
俺はもう一度、手を掲げ、火魔法を放つ。
「何度やっても同じですよ!」
アマドに向かっていった炎はまた同じように霧散した。
だが、俺は別に火魔法でどうにかしようとは思っていない。
「なっ!?」
アマドが驚愕する。
何故なら俺は火魔法を放ったと同時にアマドに向かって駆けており、すでにアマドの目の前にいるからだ。
「食らえ!」
拳を握ると、アマドに殴りかかった。
「人間風情が何を――ぶっ!」
俺に殴られたアマドが吹き飛んでいく。
そして、そのまま仰向けに倒れたのだが、ゆっくりと立ち上がった。
「魔力を込めた拳だぞ」
「に、人間風情がぁ!」
アマドは立ち上がると、またもや剣を取り出し、突っ込んできた。
「山田! あの剣はエンチャントしてあるぞ!」
エンチャントって何?
そう思っていると、アマドが剣を振り被った。
直後、斜め後ろから刀が飛んできて、アマドの手に刺さる。
すると、アマドが剣を落とし、手を押さえた。
「ぐっ! このアマーッ!」
アマドはキョウカに向かって怒鳴ると、手を掲げる。
あ、キョウカは刀がないと何もできないんだった。
「くっ!」
とっさにアマドとキョウカの間に入ると、アマドに向けて手を掲げた。
「「炎よ!」」
俺とアマドが同時に火魔法を放つ。
それと同時に俺は空いている手をさらにアマドに向けた。
「エアカッター!」
火魔法を放った後にエアカッターを放つ。
すると、さっきと同じように俺の炎がアマドの炎を飲み込み、アマドに向かっていくが、アマドの目の前で霧散した。
アマドはそこでニヤリと笑ったが、すぐに真顔になった。
直後、エアカッターがアマドに当たり、身体を両断する。
「同時魔法ですか……」
身体が二つに分かれ、倒れたアマドがつぶやいた。
「急に冷静にならないでよ」
「冷静にもなりますよ。まさか人間風情が同時魔法とは……しかも、無詠唱……強いなら強いと先に言ってください。私は弱い者を殺すのは好きですけど、強い者と戦うのは好きじゃないんです」
ここまで来ると、逆に清々しいな。
「悪いが、お前を外に出すわけにはいかないんだ」
「そうでしょうねー。外には弱そうな気配がいっぱいいます。楽しい狩りをする予定でしたのに……私を喚んだ者を殺したいですね」
本当にどうしようもない悪魔だな。
ミリアムが言うように会話をする意味がないわ。
俺はアマドに手を向ける。
「甘いな……実に甘い。あなたも一緒に死んでください!」
アマドは上半身だけが浮かび上がり、俺に向かってきた。
直後、左から影が見えると、ユウセイ君が掌底でアマドを床に叩きつける。
「そういえば、もう1人いましたか……無念ですねー……」
アマドはまったく無念そうには聞こえない口ぶりでそう言うと、灰になって消えていった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




