第080話 教会
車を走らせていると、住宅街にやってくる。
まだ10時になっていないため、大半の家には灯りがついていた。
そんな住宅街をスマホで地図アプリを見ているキョウカの案内で車を走らせていく。
「キョウカ、もうちょっと北にゃ」
「北……えーっと、ここかな? タツヤさん、そこの交差点を左に曲がってください」
いつの間にか元に戻っているキョウカの指示通りに左に曲がった。
「次は?」
「今度は右です。そこからちょっと行ったところですね」
指示通りに右に曲がると、そのまままっすぐ車を走らせる。
「えーっと、この辺りですね」
キョウカにそう言われたので車を停めた。
「ミリアム、ここ?」
「そうにゃ」
ミリアムが頷いたので車から降りて、周囲を見渡してみる。
すると、十字架のマークがついている建物が見えた。
「教会だ」
「あそこにゃ」
え? マジ?
「教会だよ?」
「知らないにゃ。でも、あそこから魔力を感じるにゃ」
そうなのか……
「入っていいもんかね? 教会に行ったことないんだけど」
同僚や友人の結婚式には行ったことあるけど、あそこは式場であって教会ではない。
「こんな時間ですしね……」
さすがに失礼だ。
「でも、魔法陣と何か繋がりがあるのは確かなんだろ? 日を改めたらいなくなる可能性もあるぞ」
まあ、ユウセイ君の言うことも一理ある。
「行ってみようか。何が起きるかわからないから注意してね」
そう言うと、2人が頷いたので教会に近づく。
「灯りがついてますね……」
キョウカが言うようにわずかに灯りが漏れていた。
「俺が行くよ」
制服姿の2人を見て、前に出る。
そして、チャイムが見当たらなかったので扉をノックした。
しかし、しばらく待っても返事もないし、扉も開かない。
「大声を出すわけにはいかないしなー」
仕方がないので扉を開けてみる。
すると、鍵はかかっておらず、普通に開いた。
「すみませーん……」
恐る恐る声をかけながら中を覗いてみる。
すると、教会の中には奥にある十字架に向かって跪きながら祈りを捧げている黒髪の女性がいた。
「あのー……」
「少しお待ちくださいませ」
女性は祈りの体勢のまま、窘めてくる。
「あ、すみません」
俺は謝ると、待つことにし、2人と1匹も教会に入れ、寒いので扉を閉じた。
そのまましばらく待っていると、女性が立ち上がり、振り向く。
女の人は紺色の修道服を着ており、整った顔立ちをしているが、どことなく憂いを帯びている。
「こんな時間にどうしましたか?」
女の人が微笑みながら聞いてきた。
「……山田」
肩にいるミリアムが小声で耳打ちしてくる。
しかし、何を言いたいかはわかっている。
この人から魔力を感じるのだ。
「申し訳ありません。少しお話を伺えないかと思いまして……」
「お話ですか? それは構いませんが、こんな時間に学生さんを連れまわすのは感心しませんね」
ほらー……
だから着替えてって言ってるのに。
「2人のことは気にしないでください。それよりもあなたはこの教会の人ですか?」
「ふふふ、おかしなことを聞きますね。シスターに見えませんか?」
見える……見えるんだが……
「すみません。修道服を着ているだけでシスターには見えませんね。あなたは魅力的すぎる」
そう言うと、キョウカが俺の腕を取った。
「ありがとうございます、と言えばよろしいのでしょうか? でも、そちらの子がむくれていますよ?」
「ええ……でも、あなたが美しすぎるのが悪いんですよ。正直、押し倒したい」
すごい惹きつけられる。
でも、腕が痛い……
「別に良いんですよ?」
シスターが妖艶に笑う。
「悪魔か……」
「はい。サキュバスみたいなものと思ってください」
やはりか……
しかし、簡単に肯定したな。
「私達は退魔師です」
「知ってます。学校からわずかに残った残滓を手繰ってきたんですね。素晴らしいメイジです」
学校から来たこともわかっている……
「名前を聞いても良いですか?」
「あなたが先に名乗るのならば」
「山田と言います」
「山田さんですね……ふふっ……」
シスターの目が怪しく光った。
「……ディスペル」
シスターから魔力を感じると、ミリアムが解除の魔法を使う。
「おや? 素晴らしい。私の魅了を防ぎますか……いや、あなたからそこまでの魔力を感じない……何かいますね」
シスターはミリアムに気付いたようだが、目線を左右に振っており、ミリアムがどこにいるかはわかっていないようだ。
「猫を飼っているんですよ。それで名前は?」
「猫? ……まあいいか。私はロザリーと言います。うーん……おかしいな。あなたはもちろんですが、そこの坊やにも魅了魔法が効かない……そのくらいの歳の男子はイチコロなんですけどね」
そう言われて、ユウセイ君をちらりと見ると、いつも通りの顔で頷いた。
自分で防いだか、ミリアムが守ったかだろう。
「退魔師ですから」
「そういう者こそ効くんですけどね。偉そうなことを言う男ほど、中身は欲に満ちている。今のあなたは腕に抱き着いているそちらのお嬢さんに夢中のようですけど……」
いや、痛いのよ……
キョウカ、めっちゃ力を入れてる……
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