第008話 何故に!?
コンビニでミリアムの昼食を買ってやると、会社に戻って仕事を再開する。
そして、19時くらいになると、ミリアムがあくびをし始めたので帰ることにした。
帰りも電車に乗り、最寄りの駅に着くと、歩いていく。
「山田、ちょっと待つにゃ」
歩いていると、ミリアムが止めてきたので立ち止まった。
「どうしたの?」
「悪魔の匂いがするにゃ」
え?
「どこかに猫がいるの?」
「……違うにゃ。やっぱりお前、ズレてないか?」
「ないね」
「断言……いや、まあいいにゃ。一言に悪魔って言っても様々な種がいるにゃ。だから猫とは限らないにゃ」
まあ、猫に悪魔のイメージはないしね。
「こっちの世界にもいるの? もしくは、向こうから来た?」
「わからないにゃ。でも、悪魔は人に悪さをする。危険にゃ」
悪さ……
「寝ている人の顔に尻尾を叩きつけるとか?」
今朝やられた。
「それはお前が起きてこないからにゃ。ご主人様が遅刻しないようにする飼い猫の優しさにゃ。忘れたかもしれないが、私は悪魔は悪魔でもお前の使い魔にゃ。そういう悪さはしない。せいぜいつまみ食い程度にゃ」
わる猫だ。
「ふーん……その悪魔って強い?」
「いや、そこまで魔力が高くないし、雑魚だと思うにゃ」
その辺の基準がわからないんだよなー。
「行ってみた方が良い?」
「うん。確認がしたいにゃ」
「わかった。どっち?」
「あっちにゃ」
ミリアムが尻尾で指示してきたので指示された通りに歩いていく。
すると、住宅街にある公園に着いた。
「ここ?」
「ああ……あそこにゃ」
ミリアムが尻尾で差した方向は公衆トイレだった。
「行ってみるけど、守ってね。俺はまだ新米の魔法使いなんだから」
「わかってるにゃ。この程度なら余裕にゃ。でも、お前がやってみるにゃ。慣れておいた方が良い」
慣れ、か……
俺はいつでも魔力を集中できるように心構えし、トイレに向かって歩いていく。
そして、男子トイレの方に入ると、びっくりした。
何故なら若い女性に抱き着く男の姿が見えてからだ。
あ、マズい……
男の方はやんちゃっぽいし、絡まれるわ。
そう思って、踵を返そうとすると、男の方が俺を見て、睨んできた。
「あん?」
「あ、すみません」
何故か、とっさに謝ってしまう。
「チッ! 見られたか」
男はそう言うと、女性を離した。
すると、女性がそのまま倒れ込んでしまう。
「え?」
女性は力がまったく込もっていないし、目を閉じていることから気絶しているように見える。
「見られたからには仕方がない!」
男はそう言うと、飛びかかってきた。
「くっ!」
男は俺の肩を掴むと、口を大きく開けた。
それを見て、とっさに膝に魔力を込めると、膝を男の腹に当てる。
「ぐおっ! ……ぐっ!」
男は身体がくの字に折れると、両手で腹を押さえ、数歩、後ずさった。
正直、場所が場所なため、お腹を壊した人にしか見えない。
そう思うと、ちょっとおかしくなり、恐怖が一気に薄れていった。
「まだにゃ」
「え?」
声がしたと思ったらミリアムが近くで浮いていた。
え!? 浮けるの!?
「クソがっ!」
男の声がしたのでハッとなり、男を見ると、男が殴りかかってきていた。
だが、その動きは随分と遅く見える。
それが男にダメージがあったからなのか、俺が冷静になったからなのかはわからない。
俺は手に魔力を込めると、冷静に男の腹部を殴った。
「ぐふっ……」
男はそのまま崩れ落ちるように倒れ、ピクリとも動かなくなる。
「ふう……」
動かなくなった男を見て、一息つくと、ミリアムが肩にとまった。
「初心者としては悪くなかったが、詰めが甘いにゃ。ちゃんととどめを刺すまでは視線を切ったらダメにゃ」
いや、君が飛んでいたせいだよ。
「声をかけてくるからでしょ……というか、飛べるなら飛んでてよ。なんで肩にとまるの?」
「こっちの方がお前の癒しになるかと思ったにゃ」
そう言われたので肩にいるミリアムを撫でる。
「確かに……」
アニマルセラピー……
「それより、また何か来たにゃ」
「え?」
どういう……
「動かないでください!」
女性の声がしたので振り返ると、長い黒髪をポニーテールにしている女子高生が立っていた。
何故、女子高生かとわかるというと、制服を着ているからだ。
「えーっと……」
俺は何を言うか悩んでしまった。
何故なら女子高生は刀を持っており、それを俺に向けている。
「動かないで!」
いや、その……
「ここ、男子トイレだよ?」
大丈夫?
「え? あっ……くっ!」
指摘された女子高生はトイレを見渡し、小便器を見て、顔を赤くしたが、すぐに俺を睨んできた。
あ、マズい……
事案だ。
これは非常にマズい。
ん?
「あれ? どっかで会ったことない?」
見覚えがあるんだが……
「え? あっ……コンビニの……」
あ、そうだ。
コンビニで水を奢ってあげた女子高生だ。
「橘君、どうかしたのかね?」
今度はスーツを着た若い男がトイレに入ってきた。
「あ、桐ヶ谷さん」
本当に誰だろう?
「…………橘君、刀をしまいなさい」
桐ヶ谷さんとやらは俺を見て、倒れている男と女性を見ると、橘とかいう女子高生を諫める。
「え? でも……」
「いいから……」
「は、はい……」
女子高生はトイレの出入り口まで行くと、半身だけを出し、お尻をこちらに向けたまま上半身を屈めた。
ちょっと見えそうになったが、すぐに視線を逸らすと、女子高生は鞘と刀袋を取り、刀を納める。
「すみません。一体何があったんです?」
桐ヶ谷さんが聞いてるが、こっちのセリフである。
でも、なんか怖いから言わない。
「会社帰りなんですけど、トイレに寄ったらこの男に襲われましてね。そちらの女性も倒れているしで何が何やら……そうしていると、そちらの子に刀を向けられて……」
そう言うと、女子高生がものすごくバツの悪そうな顔をした。
「それは申し訳ない。実はその男は手配中の男でして……」
手配中?
何かしたのか?
いや、それよりもこの人、警察官か?
「あ、あの、警察の方ですか?」
「正確には違いますが、似たようなものと思ってください」
え?
じゃあ、そっちの女子高生は?
あ、もしかして、潜入捜査官……
でも、何故に刀?
「あのー、いまいちわからないんですけど……」
「そうだと思います」
桐ヶ谷さんは腰を下ろすと、気絶している男に触れ、状態を見る。
「か、過剰防衛ですか?」
「いえいえ……ですが、ちょっとお話を聞いてもいいですか? ここではなんですのでご同行願いたい」
うわー……
35年間、真面目に生きてきたのに任意同行だー……
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