第077話 言っておくけど、このために空間魔法を教えたんじゃない
「今日はどうします?」
ミリアムを撫でているキョウカが聞いてきた。
「それなんだけど、昼に桐ヶ谷さんから電話があって、君らの学校で魔法陣を探してくれっていう依頼があった」
2人に昼間の電話のことを説明する。
「魔法陣……召喚の魔法陣ですね」
「可能性としてはあるわな。あのネームドの悪魔がいたわけだし」
2人もうんうんと頷いた。
「君らの学校のことだし、この前の悪魔のことだから俺達に依頼が回ってきた感じだね。夜8時以降だって」
「8時か……時間があるな」
「それまでは待機ですね」
まだ4時だから結構ある。
「ユウセイ君、お腹空いてない?」
「あー、8時までは持たないかも」
そんな気がしてた。
「コンビニでいい?」
「あざっす」
「ドライブしましょうよー」
時間もあるし、それでいいか。
俺は車を発進させると、コンビニに寄り、食料と飲み物を買うと、適当に車を走らせていく。
そして、2人に爺さんのことを説明していった。
「へー……じゃあ、山田さんはタダシさんの跡を継いだんだ」
「そうだね。だから仕事がない日は勉強中」
「なんか便利な魔法ある?」
「便利……やっぱり回復魔法かな? 疲労が取れるし、怪我しても安心。あとは空間魔法。亜空間に物を収納できる」
他にも色々とあるけど、重宝しているのはこの辺りだろう。
「へー……じゃあ、これを収納してみて」
ユウセイ君がまだ手を付けてない菓子パンを渡してくる。
「これがこう」
そう言って、空間魔法を使い、収納した。
「おー……手品みたいだ」
「すごいですね」
「引っ越しの時は重宝したよ」
やってくれたのはルリだけど。
「回復魔法は……うーん、元気だな」
「斬ろうか?」
キョウカがユウセイ君を見る。
「やめろ」
「冗談じゃん」
「お前が言うと、冗談に聞こえないんだよ」
俺もユウセイ君に一票。
「ひどいなー……でも、これって私達には使えないんですかね?」
キョウカが首を傾げながら聞いてきた。
「使えるんじゃないの。そんなに難しい魔法じゃないし」
「そうなんです?」
「うん。教えようか? 特にキョウカは刀を持っているじゃん」
危ない人だ。
「じゃあ、教えてもらいますか? 正直、嵩張りますし」
でしょうね。
「俺も、俺も」
ユウセイ君も学びたいようだ。
気持ちはわかる。
俺は適当なところに車を停めると、2人に空間魔法と回復魔法を教えていく。
すると、2人は空間魔法を1時間くらいで覚えた。
「すごいな、これ……」
「確かにそんなに難しくないですね……」
2人はそう言いながら手帳や刀を収納したり、取り出したりする。
「収納スペースは魔力に依存するらしいよ」
「へー……」
「回復魔法は試しようがないからできるのかわかんないなー……」
試すために傷つけるのもねー。
「疲労も取れるけど、疲れてる?」
「全然」
「そんなに疲れてはいませんね」
木曜日だというのに疲れていないらしい。
これが若さか……
「寝る前にでも使ってみなよ。さすがに多少は疲れているでしょ」
「やってみるかー……いや、待てよ。筋トレするか」
「なるほど……走るか」
若いわー。
「まあ、頑張って」
「……あのさ、教えてもらっておいてなんだけど、この魔法ってちょっとマズくないか?」
「私もそんな気が……」
2人が顔を見合わせた。
「マズいにゃ?」
ミリアムが2人に聞く。
「だって、怪我も治せる魔法ってことは医者がいらないじゃん。というか、物を収納できるってヤバいだろ」
「うん。しかも、魔法使い、私達は退魔師だけど、ある程度の素質があればこんなに簡単に覚えられるのはちょっと……」
確かにね。
悪いことにも使えそう。
あまりこの業界の人間って良くないらしいし。
「ふーん……じゃあ、隠すにゃ」
「そうする」
「うん……」
俺も大っぴらには使わない方がいいな。
元々、そうしてたけど。
「まあ、2人はしっかりしているから大丈夫だと思うけど、気を付けてね。あと、悪いけど、協会はもちろんだけど、親御さんとかにも言わないでね」
もう教えないぞ。
「言わない、言わない」
「絶対に言いませんね」
まあ、大丈夫か。
「お願いね。じゃあ、そろそろ学校に行こうか……キョウカ、大丈夫?」
「大丈夫です!」
この自信はどこから来るんだろうか?
俺は車を発進させ、2人の学校に向かう。
そして、学校に着くと、駐車場に車を停め、車から降りた。
辺りは暗く、学校にも灯りはついていない。
時刻はすでに8時を回っており、学校には誰もいないとも思われる。
「キョウカ、大丈夫?」
ぼーっと、学校を見上げているキョウカに確認する。
すると、キョウカがこちらにやってきて、ミリアムを渡してきた。
俺がミリアムを受け取ると、キョウカが空間魔法で刀を取り出し、抜く。
そして、刃を見始めた。
「怖くない、怖くない、怖くない……」
やっぱり怖いんじゃん。
「よし、これで大丈夫だね」
キョウカは人斬りキョウカちゃんになったようだが、無理なことは知っている。
しかも、車に残ったら? って言っても1人は嫌だと駄々をこねる。
「じゃあ、行こうか。ミリアム、キョウカについてあげなよ」
「んー? じゃあ、まあ……」
ミリアムが同意したのでミリアムをキョウカに渡す。
すると、キョウカが腕の中のミリアムをじーっと見続けた。
「………………」
「わ、私、歩きたい気分にゃ! だって、猫だもん!」
ミリアムがそう言うと、ぴょんと飛び、地面に着地する。
「行こうか」
キョウカはそう言うと、俺の腕を取り、引っ張るように正面玄関に向かって、歩き出した。
刀がないから痛くはないが、逆にこれはこれでよろしくないと思う。
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