第073話 人斬りキョウカちゃんじゃない方が怖い
俺達はファミレスで食事を食べ、食後にドリンクバーを飲みながら一息つくと、帰宅した。
家に戻った時はすでに9時だったため、モニカに風呂に入ってもらう。
その間に俺はミリアムの写真を撮り、キョウカに送っていた。
キョウカ:かわいい!
キョウカ:あざとい子だよ!
キョウカ:きゃわわ! あ、それとちょっと話があるんですけど、明日、会えません?
ん?
急にどうしたんだろ?
山 田 :いいけど、どこで会う? いつものファミレス?
キョウカ:お邪魔でなければ伺ってもよろしいでしょうか?
ウチに?
山 田 :それはいいけど、1人? ユウセイ君はバイトだよね?
キョウカ:私だけですね
キョウカが一人で来るのか……
山 田 :放課後だよね? すまないけど、私服で来てくれる? ご近所さんの目が……
ちょっとね……
制服姿の女子高生を連れ込んでいるところを見られたら近所のおばちゃん達に通報されるかもしれない。
キョウカ:気にしますねー
山 田 :そりゃね
キョウカ:問題ないですよ
山 田 :いや、あるでしょ。捕まる
アウトだよ。
本来なら未成年を家に上げるだけでもアウトだ。
ユウセイ君がいればまだセーフ……な気がする。
キョウカ:大丈夫です
山 田 :えー……
キョウカ:ウチの親は何も言いませんし、例の手帳があるじゃないですか
まあ、そうだけど……
山 田 :じゃあ、いいけど、勝手に入っていいから人に見られないようにしてね
キョウカ:そっちの方が怪しいw
確かに……
山 田 :なるべくね……夕方に来る?
キョウカ:学校終わりに行きますからそのくらいです
山 田 :わかった。お菓子を用意しておく
そう返すと、怒った顔文字が返ってきた。
「明日、キョウカが来るんだってさ」
「お姉ちゃんですか?」
ルリが首を傾げる。
「いや、お姉ちゃんって何?」
「そう呼べって言われました」
キョウカ、ウチの子を本当に盗る気じゃないだろうな?
まあ大丈夫か。
「ユウセイ君はバイトだからキョウカが夕方に一人で来るってさ」
「わかりました……コーヒーあったかな?」
ルリが立ち上がり、キッチンに向かった。
「話があるって言ってたけど、何だろうね?」
膝の上のミリアムを撫でながら聞いてみる。
「お前に背筋がぞっとする話をしてやろうか?」
ミリアムが見上げてきた。
「何? 怪談の時期は終わったよ」
もう11月だし、コタツも出しているんだよ?
「キョウカにゃ……あのファミレスにいたぞ」
「え?」
…………ぞっとした。
背中が寒い。
「いた?」
「端の方に友達らしき女と一緒にいたぞ。途中で帰ったけど」
帰った……
「気付いていない?」
「さあ? どうかにゃー? でも、モニカがトイレに行った時に追うようにキョウカもトイレに行ったにゃ」
えー……
俺がもう一回スマホの画面を見ていると、風呂から上がったモニカがリビングに戻ってきた。
「お先にいただきました。温かくて良いですねー」
モニカはそう言いながらパソコンの前に座る。
「あ、あの、モニカさ……」
「はい? 何でしょう?」
モニカが笑顔で振り向いた。
「あ、いや、何でもない……ルリー、お風呂に入りなよー」
「は、はーい……」
キッチンからまったく戻ってこなかったルリは返事をすると、早足でリビングから出ていく。
その後、ルリがお風呂から上がったので俺もお風呂に入ると、ルリが何も言わずにストゼロを持ってきてくれたので飲んで寝た。
翌日、この日は夕方にキョウカが来るため、ルリと一緒に大掃除をする。
掃除機を入念にかけ、部屋の隅々まで掃除をし、誰かの忘れ物がないかもチェックしていった。
そして、掃除も終え、夕方になるとチャイムが鳴ると同時に扉が開く音が聞こえてくる。
そのままコタツに入りながら待っていると、リビングにやっぱり制服姿のキョウカがやってきた。
「近所の人に見られないようにこっそり来ましたよー」
キョウカはそう言いながら刀袋を床に置くと、コタツに手を突っ込み、中にいるミリアムを引っ張り出す。
そして、ミリアムを抱えると、俺の隣に座り、コタツに入った。
「こっそりって……本当に怪しいね」
「だから言ったじゃないですか。こういうのは堂々とすればいいですよ。そうしたら勝手に親戚かなって思います」
あー、確かに。
「俺が気にしすぎなのかなー?」
「だと思いますよ。もっとおおらかになるべきです」
そうか……
4面あるコタツで俺が座っている場所以外はどこも空いているのに何故か隣に座ってきたことも気にしないようにするべきか?
「かなー? まあいいや。それで話って?」
昨日のことじゃありませんように……
「昨日、協会から連絡が来ましてねー……タツヤさん、一昨日、私達と別れた後に一人で行動したらしいですね」
あ、そっちか。
昨日って言葉が聞こえた瞬間、ビクッとしちゃった。
「あー、それね。実はその話を今度、しようと思ってたんだよ」
「何があったんです?」
「あのビルで浮浪者を見た時に何かの残滓を感じたんだよ」
ミリアムが。
「へー……」
「それで追ってみたわけ」
「ふーん……」
キョウカは目を細めると、手を伸ばし、俺の頬に触れてきた。
すると、キョウカがニコッと笑う。
次の瞬間、俺の視界がぐるりと回転した。
「――え!?」
背中を軽く打つと、天井が見える。
キョウカが俺の首根っこを掴み、引き倒したのだ。
「ミリアムちゃんはお姉ちゃんの味方だよねー?」
キョウカはミリアムの両脇を持って掲げると、首を傾げながら聞いた。
「にゃ、にゃー」
「にゃ?」
「味方にゃ!」
あ、ミリアムさん……
「そう……じゃあ、コタツに入ってようか」
キョウカがそう言って、手を離すと、ミリアムがすぐにコタツに入っていく。
「ルリちゃんも自分の部屋に帰ろうか……お姉ちゃんとタツヤさんは大事な話があるから」
『は、はーい……』
キョウカがボソッとつぶやくと、廊下の方から扉越しにルリの返事が聞こえ、バタバタと駆けていく音が聞こえた。
ミリアムとルリがいなくなると、キョウカが俺を見下ろしてくる。
すると、キョウカが腰を上げ、馬乗りになってきた。
「事案?」
「事案にしてもいいですよ」
キョウカはまったく笑ってない。
「いやね、言い訳のチャンスをくれない?」
というか、まだ話をしている途中だったのに……
「どうぞ」
「どいてくれない?」
「重いですか?」
「全然」
本当に重くない。
「では、どうぞ。今度は最後まで聞きます」
キョウカはそう言いながら刀袋を手に取った。
あれ? 今日が俺の命日かな?
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