第067話 風呂も布団も暖かい季節になってきた
俺達は車を降りると、アパートに向かう。
そして、2階に上がると、扉を開けた。
「鍵は?」
桐ヶ谷さんが聞いてくる。
「かかってたんですけどね……」
「山田さーん。あなた、結構危ないですよ」
やっぱり?
「いや、悪魔から人々を守ろうという正義感で……」
「それは良いことですけどね。せめて私を待つか、一ノ瀬君と橘さんを連れてやってくださいよ」
ごもっとも。
「は、入りますよ」
「はいはい」
桐ヶ谷さんは呆れつつ、俺に続いて部屋に入っていく。
「電気、つけますよ」
そう言いながら電気をつけた。
「山田さん、大物ですねー」
「まあまあ……これです」
部屋の真ん中に描かれた魔法陣を指差す。
「ほう? 確かにどう見ても魔法陣ですね。それに魔力も感じます。ちなみにですが、山田さんはこれが何の魔法かわかりますか?」
「自信はないですが、召喚の魔法かと……」
「召喚……例のネームドは誰かに呼ばれたとか言っていたと報告を聞いてますが?」
やはり桐ヶ谷さんもそこに結び付けたか……
「ええ。私も偶然ではないだろうなと思っています」
「わかりました。すぐに調査部隊を呼びましょう。それにこのアパートを借りているのが誰なのかも警察に相談して調査ですね」
すぐに……
こんな時間に見つけてしまってごめん。
「桐ヶ谷さん、一ノ瀬君と橘さんの学校も調査した方がいいのでは? もしかしたらこれと同様の魔法陣があるかもしれません」
フィルマンは学校から動いている感じではなかった。
「なるほど。そこも調べてもらいましょう。山田さんも引き続き、悪魔の調査の方をお願いします。何かわかれば連絡しますので」
「わかりました。じゃあ、私は帰りますね」
「ええ。お疲れ様です」
俺は桐ヶ谷さんを残して部屋を出ると、車に乗り込んだ。
「あんなもんでいいかな?」
「いいにゃ。隠すようなことじゃないし、調査員がいるんだったら任せるべきにゃ」
「それもそうだね。帰るか……お腹空いたし」
「家に飯はあるかにゃ?」
いらないって言ったし、ないかもしれない。
「コンビニでも寄って、買って帰るか」
「食べに行くにゃ。ファミレスのハンバーグが食べたいにゃ」
ミリアムはいつも食べずに見ているだけだしな。
「じゃあ、ファミレスに行こう」
「れっつごーにゃー」
俺達はファミレスに行き、遅めの夕食を食べると、協会に車を返しにいく。
そして、電車で家に帰り、リビングに向かうと、モニカが一人でパソコンとにらめっこしていた。
「ただいま」
モニカに声をかけると、モニカがこちらを見て、立ち上がる。
「おかえりなさいませ。お邪魔しております」
モニカが恭しく、頭を下げた。
「いいよ、いいよ。ルリは?」
「お風呂に入っておられます」
そんな時間か……
モニカも入ったんだろうな。
「まあ、ゆっくりしなよ」
そう言うと、自室に行き、スーツを脱いで部屋着に着替える。
そして、リビングに戻ると、コタツに入り、ルリを待つことにした。
「あー、疲れた」
「お疲れ様です。明日はエリク様が来られますが、大丈夫ですか?」
リンゴを取引するオベール商会の商会長さんか……ん?
「商会長さんが直々に来るの?」
「はい。そう聞いております。このような商機を他の者には任せないでしょう」
マジかよ。
要は社長さんだろ。
すごいな。
「何時に来られるんだっけ?」
「昼過ぎですね」
なら寝れるか……
「わかった。疲れは見せないよ」
こういう時の回復魔法だ。
「それでお願いします。最初ですべてが決まるとお考え下さい」
まあ、大事なのは第一印象だわな。
ここで悪かったら最後まで悪いだろう。
特に商人はそう。
「了解。モニカも同席するんだよね?」
「もちろんです。夕食時にルリさんと話をしましたが、ルリさんはお留守番をしているそうです」
それがいいかもな。
子供だもん。
「じゃあ、お願いね」
「はい」
そのまま明日の打ち合わせをしていると、パジャマ姿のルリが髪をタオルで拭きながらやってきた。
「あ、おかえりなさい。夕食は食べられましたか?」
「うん、食べたよ」
「そうですか。でしたらお風呂に入って、ゆっくりしてください」
「ん」
返事をすると、立ち上がり、風呂に行く。
そして、ゆっくり湯に浸かり、身体を癒すと風呂から上がり、リビングに戻った。
「タツヤさん、何か飲まれますか?」
「あー、じゃあ、ビールかなー」
そう言うと、ルリが立ち上がり、キッチンに向かい、ビールとコップを持ってきてくれる。
「ありがとう」
そう言って頭を撫でると、ルリが嬉しそうな顔をした。
「モニカ、こっちの世界で使えそうなものはあった?」
コップにビールを入れ、一口飲むと、パソコンに張り付いているモニカに聞く。
「ええ。たくさんあります。その中で向こうでも騒ぎにならない程度に使えそうな物なんかを探しております。まずですが、やはりタツヤ様達が選んだように農作物は良いと思います。種や苗木を持ち込んでも生えていたで通せますし、旅の商人から買ったで十分に誤魔化せますから」
「どんなのが良いかな?」
「芋とかが良いかもしれませんね」
芋か……
じゃがいも、さつまいも、里芋……他にあったっけ?
「売る感じ?」
「いえ、当分の売買はリンゴに集中するべきですね。芋類は村民の方の食料です。我らは小麦を輸入に頼っています。何かあっても最悪は小麦粉を買って配ればいいのですが、やはり自分達でどうにかできるようにしておいた方が良いでしょう」
確かにね。
「わかった。芋を選んでおいて。芋が種なのかは知らないけど、それを買うお金は十分にあるから」
「わかりました。では、そのように。引き続き、調べてみます」
「お願い」
「はい……さて、私はもうこの辺で帰ります」
モニカはパソコンの電源を切ると、立ち上がった。
「送ろうか?」
「大丈夫ですよ。すぐそこですから。明日は昼に門の近くの応接用の家に来てください」
「応接用の家? 作ったの?」
「はい。あまり村の中を見られたくありませんから入口近くに作りました。商人は本当に目ざといですし」
農具を見られたくないし、畑も見せない方がいいか。
「わかった。じゃあ、昼に行くよ」
「よろしくお願いします。では、私はこれで……おやすみなさいませ」
モニカはそう言いながら廊下に出る。
「うん。おやすみー」
「おやすみなさい」
「おやすみにゃ」
俺達がそう言うと、モニカはぺこりと頭を下げ、扉を閉じた。
「俺も飲んだら寝ようかな」
「そうですね」
「私は寝るにゃ」
ミリアムは寝床の段ボールに向かうと、ぴょんと跳ねて中に入る。
「ルリも先に寝ていいよ」
「いえ、お付き合いします」
いい子だなー。
嫁も彼女もいないけど、こんな娘が欲しいわ。
「一緒に寝ようか」
「はい」
ルリが口角を緩めて頷いた。
かわいい子。
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