第066話 いや、アウトにゃ
ミリアムの案内で車を走らせていくと、とあるアパートの前に着いた。
「ここ?」
「そうにゃ。あそこの部屋にゃ」
ミリアムが尻尾で指した部屋は2階で唯一、電気がついていない部屋だ。
「留守かな?」
「どうかにゃ? 少なくとも魔力を感じるが、誰かがいる感じではないにゃ」
「行ってみようか」
ミリアムと共に車を降りると、アパートに行き、階段を昇る。
そして、ミリアムが指した部屋の前にやってきた。
「……誰か潜んでるかな?」
小声でミリアムに聞く。
「……いや、そんな匂いはないにゃ。誰もいないにゃ」
ミリアムにそう言われたのでドアノブに手を伸ばし、ひねってみる。
すると、当たり前だが、鍵がかかっており、開かなかった。
「当然か……」
「私が開けてやるにゃ」
ミリアムはそう言うと、尻尾をドアノブに向ける。
すると、ミリアムから魔力を感じた。
「鍵を開ける魔法?」
「そうにゃ」
ミリアムの同意の言葉を聞いて、ドアノブを再度、ひねると、何も引っかかりもなく回り、扉が開く。
「すごい魔法だね」
「たいした魔法じゃないにゃ。向こうからは力を加えて、鍵を開けるだけにゃ」
あー、それもそうか。
それなら俺にもできそうだわ。
俺は納得しつつ、部屋に入り、扉を閉める。
すると、外では感じなかった魔力を感じた。
「何だろう? 暗くてわからないな……」
「電気でもつけるにゃ」
まあ、別にいいか。
俺はライトの魔法を使い、周囲を照らすと、電気のスイッチを見つけたので押す。
すると、部屋が明るくなった。
部屋は1Kの1人暮らし用の部屋のようだが、まるで空き家のように家具は一切、見当たらなかった。
だが、部屋の真ん中には赤い線で描かれた魔法陣みたいなものがある。
「何これ?」
「これは……」
ミリアムが口をつむぐ。
「魔法陣みたいだね」
「魔法陣にゃ。しかも、召喚の術式にゃ」
召喚?
「まさか悪魔を呼び出す魔法陣じゃないだろうね?」
「その通りにゃ」
マジかよ……
「フィルマンも誰かに呼び出されたって言ってなかった?」
学校にいたネームドの悪魔がそんなことを言っていた。
「言ってたにゃー……偶然で片付けるか?」
「無理……」
絶対に偶然ではないだろう。
「私も無理にゃ」
「桐ヶ谷さんに電話するか……」
「するのか? 後でユウセイとキョウカが文句を言いそうにゃ」
なんで自分達が帰った後に……って言われそうだ。
何しろ、同じようなことをしようとした2人に苦言を呈し、もうするなって言ったのが俺だし。
「あの2人は裏切らない?」
「多分にゃ。人の心は変わりやすいから断言はできないけど」
そりゃそうだ。
「わかった。今度、話してみるよ」
「私は別に構わないにゃ。今日も何度もキョウカと目が合ったし」
そうなのか……
「ユウセイ君は気付いていないんだろうけど、キョウカはなんで何も言ってこないのかな?」
「お前が言うのを待ってるに決まっているにゃ。あれはあんな性格をしているが、受け身の人間にゃ。特に大事なことはにゃ……」
悪魔さんの方が人の心に詳しいんだなー……
「ミリアムって女の子?」
「そうにゃ」
そうか、そうか。
だからか、と思おう。
「わかった。今度、話してみるよ。じゃあ、桐ヶ谷さんに電話するよ」
そう言うと、一度、部屋から出て、車に戻る。
そして、桐ヶ谷さんに電話をし、来てほしいと頼んだ。
そのまま車内で待っていると、コンコンと窓を叩かれたのでドアロックを解除する。
すると、桐ヶ谷さんが助手席に乗り込んできた。
「すみませんね。橘君専用でしょうに」
確かにいつも助手席に座っているのはキョウカだが……
「面白くない冗談ですよ。そもそもこの車は協会の借り物ですから」
「はは、そうですね。車は買わないんです?」
うーん、家に車を一台置けるスペースはあるんだよなー。
爺さんも10年以上前に免許を返納するまでは車を持っていたし。
「まあ、もうちょっと給料が入ったらですね」
「そうですか。一ノ瀬君と橘さんがいないのでいい機会でしょうから伝えます。以前のネームドの褒賞金は200万円だそうです」
200万……
「そんなにですか……」
「ランクは不明ですが、ネームドということですしね。それに山田さんは上からの心証も良いんですよ。なので虚偽報告ではないだろうということです」
「良くなることはしてませんがね」
普通にしているだけだ。
「厄介というか、扱いに困る2人の面倒を見てくれているじゃないですか。それと他の退魔士さんが微妙なんで相対的にというのもあります」
ユウセイ君が言ってたとおりだな。
「まあ、かわいい子達ですよ」
「そうかもしれませんね。それで? そのかわいい子達を帰らせてからここに私を呼んだ理由は?」
呼んだ理由は話していない。
ちょっと来てほしいと言っただけだ。
「あの場では何も言いませんでしたが、魔力の残滓のようなものを感じたんですよ」
「残滓? なんで言わなかったんです?」
「すみません。わずかすぎて自信がなかったんですよ。それで解散したんですが、やはり気になったので残滓を追ってきたんです」
実際、わかんなかったし、わずかなんだろう。
「自信がなくても言ってくださいよ」
「すみません。いかんせん、私は経験が浅いですから気のせいかなと思ってしまって……」
「まあいいでしょう。それで? その残滓やらは?」
「あそこのアパートの2階の部屋……あの電気がついていない部屋です。あそこに繋がっています」
指を差しながら説明する。
「あそこですか?」
「ええ。中に謎の魔法陣がありました」
「もう入ったんです?」
「はい。誰もいなかったので」
あれ? 不法侵入では?
「いいですけど、無茶をしないでくださいよ」
セーフ。
まあ、警察みたいなものって言ってたしな。
捜査権くらいあるだろ。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!