第064話 暗い、怖い
俺達が車の中で話をしながら待っていると、小学生達は帰っていき、周囲も暗くなった。
「山田さん、魔力は感じるか?」
ユウセイ君が聞いてくる。
「感じないね」
肩にいるミリアムも何も言ってこないし、悪魔はいないだろう。
「どうします? 別のところに移動しますか?」
今度はキョウカが聞いてきた。
「どうしようかねー? ここで張るのも動くのも変わらない気もするし……」
別のところに行こうが、ここで張ろうが、手がかりがないのだから変わらない。
「じゃあ、今日はここで張ってみますか」
「そうだね」
その後も俺達は車内で待ち続ける。
その間、やはりキョウカが話をしてくれるので楽しかったが、一向に悪魔が出てくる気配はない。
「全然、出ないのな。これなら別の悪魔退治の方が良かった気もしてくる」
さすがに9時を回ると、ユウセイ君も愚痴ってきた。
「まあ、まだ初日だからね。いきなりは遭遇しないでしょ」
とはいえ、9時か……
さすがに2人は明日も学校があるわけだし、もう帰らせた方がいいかもしれない。
「どうする? 今日はもう帰る……ん?」
帰る提案をしようと思ったらスマホの着信音が鳴る。
「私じゃないですね」
「俺のでもない」
2人が否定し、俺を見てくる。
「俺だね。えーっと……あ、桐ヶ谷さんだ」
スマホの画面には桐ヶ谷さんの名前が表示されていた。
「桐ヶ谷さん……」
「………………」
2人がまたしても微妙な顔をする。
「出てもいい?」
「どうぞ」
「仕事の話だろうしな」
確かにこのタイミングは仕事の話だろう。
「スピーカーモードにするからね」
そう言いながら通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ、山田さん、今、大丈夫ですか?』
スピーカーモードにしたので車内に桐ヶ谷さんの声が響く。
「ええ。今、車内でとある公園を張っているところですよ。ただ、何も出てこないですし、帰ろうかなーと思っていたところです」
『なるほど……実はこちらも張っていたんですが、悪魔が出ましてね』
桐ヶ谷さんがそう言うと、ユウセイ君とキョウカが身を乗り出した。
「悪魔が出たんですか? 被害は?」
『事前に食い止めることができましたよ。それでちょっとこっちに来れませんか?』
「行きます」
『では、ここの地図を送りますんでお願いします』
桐ヶ谷さんがそう言って、電話を切ると、すぐに地図が送られてきた。
「えーっと……」
どこだ、ここ?
「タツヤさん、スマホを貸してください。私が案内します」
キョウカがそう言ってきたのでスマホを渡す。
「お願い」
「はい」
俺はキョウカに頼むと、車を発進させた。
そして、キョウカに指示されながら運転すると、住宅街ではなく、繁華街の方にやってくる。
「合ってる?」
「合ってます。そこを右に曲がったところですね」
そう言われたので右に曲がると、見覚えのある高級車と共に黒い車が2台ほど停まっているのが見えた。
「あそこ?」
「はい。あそこです」
キョウカがそう言うので2台の車の後ろに停める。
そして、車から降りると、ビルを見上げた。
「廃ビルですかね?」
「多分……」
さすがにボロボロというわけではないが、何のテナントも入っていないのは見てわかる。
「どうする? 君らも行く」
「一応、行くかなー……」
「そ、そうだね! 行こうか!」
俺の問いにユウセイ君が頷くと、キョウカが声を上ずらせて同意する。
そんなキョウカを見て、ビルを見てみると、暗くて怖そうだった。
「いや、無理しなくてもいいよ。キョウカは待ってなよ」
「前に言ったじゃないですか! 1人で残ると最初の犠牲者になるんですよ!」
まーた、言ってらー。
この子は漫画とかを読みすぎな気がする。
「じゃあ、行こうか」
俺達は車から降りると、ビルを見上げる。
すると、キョウカが俺の腕に抱きついてきた。
正直、嬉しいと思わないでもないが、周囲の視線が気になるのと、微妙にキョウカが持っている刀が当たって痛い。
なお、ミリアムはキョウカが抱き着いた際に空中に逃げ、すぐそばで浮いている。
「やっぱり人斬りキョウカちゃんになってもダメ?」
「怖いものは怖いんだよ……ふっ」
もうなってたか……
「山田さん、3階」
我関せずなユウセイ君が指差した3階から光が漏れているのが見えていた。
「あそこだろうね。行こうか」
俺達はビルの外にある階段を昇っていく。
そして、3階に着いたので中に入った。
「桐ヶ谷さーん?」
建物の中に入ると、奥に懐中電灯らしき灯りが複数見えたので声をかける。
「こっちでーす」
奥から声が聞こえるが、暗すぎるな……
キョウカがまた気絶しそうだ。
俺は空いている手のひらを上に向けると、魔法を使った。
すると、光球が浮かび上がり、建物の中を照らす。
「おー、明るっ!」
「タツヤさん、すごい!」
初めて使ったが、上手くいったな……
俺は着実に魔法を習得していているのだ。
俺達はそのまま奥にいる桐ヶ谷さんのところに向かった。
すると、倒れている浮浪者みたいな男とそれを腰を下ろして調べている2人の男性がおり、そのそばで立っている桐ヶ谷さんと目が合う。
「便利な魔法を持ってますねー。おかげさまで明るい」
桐ヶ谷さんが光球をじーっと見る。
「山田さん、すみませんが、少し、そうしておいてもらえますか? 暗いと厳しくて……」
倒れている男を調べている調査員の若い男がお願いしてきた。
「ええ。終わるまで出してますよ」
「ありがとうございます。すぐに終わりますんで」
調査員は礼を言うと、すぐに倒れている男を調べ始める。
「いやー、わざわざすみませんね。ところで、橘君は何をしているんですか?」
桐ヶ谷さんが俺の腕にしがみついているキョウカを見ながら聞いてきた。
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