第062話 違うと思うにゃ
ファミレスの駐車場で2人を待っていると、キョウカからメッセージが届く。
キョウカ:今から向かいます!
今、授業が終わったのかなと思い、顔を上げると、ユウセイ君がこちらに向かっているのが見えた。
「ん?」
ユウセイ君はそのままこちらにやってくると、後部座席に乗り込んできた。
「うーっす。遅れて悪い」
後部座席のユウセイ君が身を乗り出して謝ってくる。
「いや、遅れてないし、問題ないよ。というか、早いね。今、キョウカから今から行くってメッセージが届いたんだけど」
「あー……女子は色々あるんだろ」
なるほど。
お年頃だもんな。
「あとさー、ずっと気になっていたことを聞いていい?」
「何?」
「なんでユウセイ君は後ろに乗るの?」
いつもユウセイ君が後部座席でキョウカが助手席だ。
別にいいんだけど、キョウカが隣にいると、目のやりどころに困る時がある。
あと、警察が怖い。
「あー……ほら、俺デカいし」
確かにキョウカよりは背が高い。
でも、ユウセイ君は別にごつくないし、むしろ若者らしくやせ型だ。
「そう?」
「あー……あと、キョウカは酔いやすいから前なんだと思う」
思う?
「そうなんだ……」
じゃあ、まあ、仕方がないのかな?
「そうそうー。あー、腹減った」
「若いねー……ファミレスで何か食べてからにする?」
「いや、大丈夫」
ホントかな?
俺は懐から財布を取り出すと、千円札を取り出し、ユウセイ君に渡す。
「コンビニで好きなもんを買ってきていいよ。あ、俺のコーヒーとキョウカの水もお願い」
キョウカはどうせ水だろう。
「あざっす」
ユウセイ君は千円札を受け取ると、車を降りて、近くのコンビニに向かった。
そのまま待っていると、駐車場にキョウカがやってきて、車に近づいてくる。
そして、当然のように助手席に乗り込んできた。
「遅れてすみません……あれ? ユウセイ君は? 先に学校を出たはずなんですけど」
キョウカ後部座席を覗きながら聞いてくる。
「お腹が空いてたようだからコンビニ。キョウカは水でいい?」
「ありがとうございます。最近はタツヤさんが太らせようとするので水ダイエットです」
水ダイエットかー。
健康に悪そうだが、女の子にそういうことを言わない方が良いのはわかっている。
「ダイエットなんていらないと思うけどなー」
「タツヤさんは太ってる子が好みなんです?」
「いや、そんなことないよ」
気にしたことがないし。
「へー……じゃあ、細い子?」
「そういうのはバランスじゃない?」
「私はどうです?」
そう言われたのでキョウカを見たが、すぐに視線を前に向けた。
「良いと思うよ」
「ふーん……」
これ、事案にならない?
話題を変えるか……
「あ、これ」
俺はポケットからシュシュを取り出すと、キョウカに渡す。
「あ、タツヤさんの家に忘れていったやつだ。すみません。家に帰って気付いたんです」
そう……
だったらメッセージの一つでも欲しかったよ。
何故かあの日だけメッセージが来なかった。
「いいよ。そういうこともあるしね」
「どこにあったんです?」
「コタツの中」
「あー、ピザを食べる時に床に置いちゃったんだった……誰が見つけました?」
キョウカが笑いながら聞いてくる。
「ルリ」
「へー……」
キョウカの笑みが消えた……
ホラーかな?
「どうしたの?」
「タツヤさんって独身でしたよね?」
「そうだね。ウチにはかわいい子が1人と1匹いるだけ」
もちろん、ルリとミリアムね。
「彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」
彼女かー。
都市伝説だと思っているわ。
「いない、いない。もういいかなーとすら思っているよ。ユウセイ君とかはいないのかな? モテそうだけど」
「モテますけど、いないみたいですねー」
へー……意外だ。
かっこいいのに。
「キョウカは?」
「いると思うか?」
どこにスイッチがあったのかはわからないが、キョウカは人斬りキョウカちゃんになった。
「いてもおかしくないでしょ」
「本当にそう思うか?」
「いないの? 絶対にモテると思うのに」
美人だし、かわいいし。
「ふーん……私はいませんよー。いたこともないですしー。でも、将来は結婚して子供が欲しいとは思ってますよ。私、子供が好きですもん」
女の子だねー。
しかし、なんで俺は手に汗をかいているんだろう?
「保母さんとかになるとか?」
「悪くないですねー。でも、刀を持った保母さんはマズいでしょ」
俺はこの子に教えるべきなんだろうか?
どの職業でも刀を持ったらヤバいということを……
「いつも刀を持ってるの?」
この子、一昨日、ウチに来た時以外はずっと持ってる気がする。
「念のためですよ。私はタツヤさんやユウセイ君みたいに生身では戦えませんからね。刀がないと本当に雑魚です」
そうだったらますます囮はやめてほしいわ。
「剣道部だったりする?」
「いえ、仕事がありますし、帰宅部ですよ。あと、成績が……」
おーっと、触れてはいけない話題だった。
「それ、皆にツッコまれない?」
キョウカが持っている刀袋を指差す。
「もう誰もツッコみませんね」
前はツッコんでいたのか……
「まあ、警察に言われても例の手帳を見せればいいのか」
「そうですね。さすがに銃刀法違反で補導は勘弁願いたいです」
キョウカが笑う。
笑ってるとかわいいんだけどなー。
これが急に無表情になるのが怖い。
「便利な手帳だねー」
「そうですよ。だからタツヤさんもそんなに気にする必要はないと思います」
「そうかもね」
でもねー……
昨今のニュースなんかを見ていると怖いわ。
「あ、あの、また遊びに行ってもいいですか?」
「んー? それは良いよ。多分、ルリもミリアムも喜んでいると思うし」
「そうですか……じゃあ、また行きます!」
本当に猫が好きなんだなー。
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