第060話 FIGHT
ピザを食べ終えると、ルリが片付けをして、自室に戻っていったので仕事の話をすることになった。
「それで仕事はどうしよっか? 良いのある? 君らの都合に合わせるけど」
ルリが淹れてくれたコーヒーを飲みながら聞く。
「それなんだけど、ちょっと気になるのがあるんだよ」
「気になる?」
「ああ。キョウカ、話してくれ」
ユウセイ君がキョウカに振った。
「キョウカ? 何かあったの?」
隣に座っているキョウカを見る。
「以前のトイレの事件を覚えてます? 私と会った時です」
「覚えてるよ」
刀を突き付けられたうえに協会に連行されたことを忘れるわけがない。
「あの時の加害者なんですけど、事件のことを覚えてないって言っているんですよ」
「覚えてない? 酔っていたの? それともそういう言い訳?」
黙秘権的な。
「いえ、アルコールも薬物の反応もなかったそうです。悪魔の仕業なのは間違いないんですが、同様の事件が多発しているみたいなんですよ。しかも、皆、口を揃えて覚えていないそうなんです」
「それは……なんか黒幕の悪魔がいそうだね」
「そうなんですよ。それの調査の仕事があります。どうでしょうか?」
なるほどねー。
「良いとは思うけど、どうやって調査するの?」
「1つはパトロールですね。犯行は人気のないところですのでその辺りを足で地道に調査します。もう1つは囮捜査ですね」
「囮捜査?」
誰がやるんだろう?
「狙われるのは主に女性なんで私が囮になります」
「却下、却下」
ないって。
「私なら大丈夫ですよ」
「危ないって。何かあったらどうするのさ」
親御さんから未成年を預かっているのにその未成年に危険なことはさせられない。
「私、強いですよ?」
「知ってるけど、危ないよ。ダメ、ダメ」
「ですかー……」
キョウカが口をとがらせる。
「うん。ダメ。俺の決定に従うんでしょ?」
「えへへ。じゃあ、心配性なリーダーさんに従います」
キョウカが嬉しそうに笑った。
何がそんなに嬉しいんだろうか?
「山田さん的には地道に調査する感じがいいか?」
ユウセイ君が聞いてくる。
「普通に悪魔を退治しながら調査していく感じでしょ? そっちがいいよ」
あの時と同じなら10万円、もらえるし。
「じゃあ、そうするか……いつからやる?」
「月曜の放課後からで良いんじゃない? そういう暴行犯って暗くなってからでしょ」
実際、この前も7時過ぎてたし。
「それもそうだな」
「俺が放課後に協会で車を借りて迎えにいくよ」
昼間は暇だし。
「悪いな」
「ありがとうございます」
2人が礼を言う。
「あ、でも、ファミレスの駐車場まで来てね。俺が学校の前にいたら捕まるから」
「山田さん、本当に心配性だよな……」
「大丈夫ですってー」
俺もこの子達の年齢の時にはそう思ってたよ……
俺達は仕事の予定を決めると、3人で話をした。
主に明るいキョウカがしゃべっており、俺とユウセイ君がそれを聞く形だったが、やはりキョウカの話は楽しい。
そして、夕方になると、2人が帰ることになったので玄関まで見送ることにした。
「今日はありがとうございました」
「ごちそうさんです」
2人は靴を履くと、礼を言ってくる。
「いいよ。またおいで」
「はい!」
「じゃあ、また月曜日に」
2人はそう言うと、扉を開け、帰っていった。
俺は2人を見送ると、リビングに戻る。
「帰られました?」
コタツに入ると、ルリもリビングに戻って、コタツに入った。
「うん、帰った」
「そうですか。仕事はどうなりました?」
「月曜から放課後に調査をすることになったよ。だから晩御飯はモニカと食べてくれる? 水曜と金曜はユウセイ君がバイトだからやらないと思うけど」
キョウカと2人で夜の街は怖い。
もちろん、怖いのは警察。
「わかりました。お気をつけて」
「うん。それとだけど、キョウカが来る時は掃除しようか」
「はい。コロコロで掃除しておきます。それと研究室への扉の前に落ちていた長い黒髪も掃除しておきましたので」
例の扉の前に黒髪?
「キョウカ?」
「はい。これ見よがしに置いてありました。多分、トイレに行った時かと……」
なんか怖いな……
「ルリの髪だと思うだけだと思うけどね」
「それはどうでしょうかね?」
わからない。
「まあいいや。晩御飯の食材でも買いに行こうか」
「はい」
俺とルリはスーパーに行き、買い物をした。
なお、ミリアムはコタツの中だ。
俺達が家に戻り、ルリが夕食の準備をしていると、すぐにモニカがやってくる。
「こんばんは」
「やあ、モニカ。いらっしゃい」
「はい。タツヤ様、本日、クロード様の使者がいらっしゃいました」
また来たの?
「なんて?」
「リンゴを扱う商家が決まったそうでその報告です」
え?
「早くない? 時間がかかるって言ってたじゃん」
「相当、揉めてたようですが、それに業を煮やしたクロード様が圧力をかけ、最終的にはオベール商会ということになったそうです」
オベール商会?
当たり前だけど、知らないな。
「モニカは知ってる?」
「もちろんです。商人ギルドのギルド長であるエリク・オベール様の商会です。この一帯で最大の商会です」
マジ?
「そんなのが出てくるのか……」
「はい。そういうわけで2日後に挨拶に来られるそうです。火曜日に村に来ていただけますか?」
明後日か。
「わかった。さすがにそこまでの大手なら俺が対応するべきだろう」
「お願いします」
まあ、仕方はないだろう。
俺達はその後、夕食を食べると、いつものように魔法の勉強をして過ごす。
そして、皆が風呂に入り、最後に俺が風呂から上がってリビングに戻ってくると、モニカとルリがコタツに入っていた。
「タツヤさん、何か飲まれますか? ストゼロ?」
なんでルリはストゼロを推すんだろう?
もしかして、自分も飲みたいのかな?
ダメだよ。
「じゃあ、それで」
「はーい」
ルリがキッチンに行く。
「お酒ですか?」
「モニカも飲む?」
「いえ、私は…………ん?」
モニカが何かに気付き、コタツの中に手を入れた。
そして、ピンクの何かを取り出す。
「タツヤさーん、レモンのやつで……あ」
ルリがレモンと味のないストゼロを1缶ずつ持ってきたのだが、モニカが持っているピンク色の何かを見て、固まった。
「これ、何です?」
モニカは目を細めて、それをじーっと見ると、聞いてくる。
「えーっと、シュシュっていう髪留めみたいなものかな?」
そういえば、キョウカは帰る時、髪を纏めずに下ろしたままだった。
いつのまにコタツの中に……
「そうですね。えーっと……」
ルリはストゼロを机に置くと、モニカからシュシュを取り、自分の髪をまとめた。
「こんな感じです」
髪をまとめたルリもかわいい。
「かわいいですね。似合ってますよ」
モニカが笑う。
「ありがとうございます。あ、タツヤさん、どちらを飲まれ、ま、す…………か?」
ルリが俺に聞いていると、モニカがレモンのストゼロを取り、プルタブを開けた。
そして、一気にごくごくと飲んでいく。
「それ、度数が……」
「炭酸もきついですよ……」
俺とルリが心配していると、モニカはついに飲み干した。
「ふう……お酒も素晴らしいですね。では、私はこれで帰ります」
モニカはまったく表情を変えずに立ち上がる。
「お、お疲れ……」
「お、おやすみなさい……」
「はい。それではまた。良い夜をお過ごしくださいませ」
モニカは微笑みながらそう言うと、帰っていってしまった。
「………………」
「………………」
俺とルリが無言で顔を見合わせると、コタツの中にいたミリアムはそそくさと寝床の段ボールに逃げていく。
「ルリ、何か怖いから今日は一緒に寝ようか」
「そうですね。何か怖いです」
俺達は残っているストゼロを冷蔵庫に戻すと、就寝することにした。
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